第49話 小さな英雄
広場に行きトマスから事情聴取をする。
「お前のしたことは立派なことだ。偉いぞ」
ミリーも改めて礼を述べた。
当然のことながらトマスは鼻高々である。
ブランドはこれは注意が必要だなと考えた。
「ただな。トマス。無謀と勇敢は違うぞ。お前を殴ったのは危険な奴だ。ノートンに斬りつけるような男だからな。お前が斬られなくて本当に良かったよ」
「オレ、怖くねえもん。あ、ノートンさんの怪我の具合は?」
「大丈夫だ。すぐ止血してもらった。話を戻すが、トマス、そんな態度じゃあ、あの犯人と一緒だぞ。世の中を舐めて怖いものがないと誤解している。だから、あんなことができてしまうんだ。衛士になりたいなら冷静に力を比較できないとな」
「自分より強い相手だったら? ブランドならどうする?」
「仲間を呼ぶ」
「なあんだ。あんま格好良くねえな」
「でも、大事なことだぞ」
「ふーん」
将来思いだしてくれたらいいと、ブランドはお小言はこれぐらいにする。
「まあ、でも、良くやった。名誉の負傷だな」
トマスの頬を指差した。
「これぐらい全然大したことねえよ」
フフンと胸を張るが青黒く変色した頬は痛々しい。
「本当に大丈夫?」
ミリーが憂い顔でしげしげと眺めた。
「大丈夫さ」
そう言いながら鼻の下を擦った。
途端に顔をしかめる。
「イテッ」
「大丈夫?」
問われてトマスはちょっとばつが悪そうな顔をした。
「それでな。他にも聞きたいことがあるんだ。昨日トマスたち以外に金を取られた子の話を聞いてないか?」
「うーん。広場に遊びに来ている中にはいねえと思う」
「そうか、話を聞いたら私に教えてくれ。本人が直接衛士の詰め所に来てもいいけどな」
「分かった。任せておけよ。だけど、やっぱりブランドは凄いよな。あの悪者をぱっと捕まえちゃったんだろ」
「騎士団の人が助けてくれたからな。私1人の力じゃない」
「へえ、ブランドって騎士も手助けしてくれるんだ。やっぱ凄え」
目をキラキラさせて昨夜の活躍の話をせがむ。
今日は事情聴取であるし協力への礼代わりに付き合ってやるかと、ブランドはベンチに座り手短に話してやった。
膝の上にはもちろんドラマタが鎮座している。
話を聞く子供たちは固唾を飲んで話を聞いていた。
「これで終わりだ。それじゃあ、他の被害者がいないか探す話、頼んだぞ」
ブランドは話を切り上げ立ちあがる。
トマスはミリーに声をかけた。
「なあ、一緒に遊んでいこうぜ」
「でも私戻らないと」
残念そうにしているミリーにブランドが笑顔を向ける。
「ミリー。ここでトマスと一緒にいて聞き込みをしているんだ。何かのタイミングで誰かが何かを思い出すかもしれないからな。日暮れ前には迎えにくる」
ミリーはぱっと顔を輝かせた。
許可が出たものとしてトマスが手を引き、他の子供たちと一緒に駆け出す。
もちろん、ブランドにはミリーの淡い恋心の橋渡しをするなどという粋なことをしたつもりはない。
単にせっかく仲良くなった相手とまた遊びたいだろうなと思っただけである。
広場を離れたブランドは医者のところに向かった。
ノートンの見舞いというのもあるが、診察をした医師に診断書を書いてもらう必要がある。
出迎えたノートンはすっかり元気になっていた。
「隊長。暇で死にそうです。歩くだけなら問題ないと思うんで、仕事に復帰できないですかね」
「そりゃ、先生の見立て次第だな」
「隊長から言ってくださいよ。俺がいないと衛士団の仕事に支障が出るって。あ、いや、実際は違うってことは分かってますからね。嘘も方便てやつです」
「私としてはゆっくり静養してほしいがな。後遺症が残っても困るだろ?」
「シャーリーさんの咄嗟の手当てが良かったみたいです。だから、もうなんともないですよ」
「昨日は忙しかったから少し休め」
「そうは言ってもですね。誰も見舞いに来てくれないんですよ」
「私も来ているし、隊の連中も来ているはずだが」
「そうなんですけど、そうじゃなくて。若い女性が来てくれると病室も華やかになるんでしょうけど、誰も来てくれないんですよね。まあ、仕方ないですけど」
「そうか。まあ、これから先生と話すからいつ退院できるかは聞いてやろう」
ブランドは病室を離れて医者と面談する。
「それで、どうでしょうか?」
「うん。雑な斬り方だし、負傷箇所は腕だからな。殺すつもりだったか、との問いには否定的だな」
「そうですか」
「まあ、診断書に書くのは傷の深さや方向だけの方が良ければそうするぞ」
「いえ。医師としての所見、そのまま書いてくだされば結構です」
「そうかの。では今書いてしまうから待っててくれ」
医師はインク壺の蓋を開けてペン先を突っ込んだ。
引き出しから取り出した紙にサラサラとペンを走らせる。
ブランドは書き終わるのを待った。
「それで、ノートンはいつ退院できますか? 本人は至って元気なようですが」
「そうだね。それなりに傷が深い。再度開いて出血していいのでなければ、1週間は退院しない方がいいなあ」
「そうですか。分かりました。では、この診断書を頂いていきます」
病室にちょっと顔を出しノートンに医師の言葉を告げてから1度詰め所に戻る。
診断書を副団長に提出し、ノートンの復帰が早くて1週間後だと報告した。
団長を始めとする関係者と意見交換をしてからミリーを迎えに向かう。
広場で遊んでいるミリーはとても楽しそうだった。
トマスや他の子供に手を振って別れを告げたミリーを連れてブランドは孤児院へと歩みを進める。
「隊長さん。今日はありがとうございました。特に新しい話は聞けなかったです。すいません」
「まあ、いいさ。こういう地道な交流が情報提供に繋がることもあるから」
「あの、それで、隊長さんに貸して頂いたお金、返すのは待ってもらえますか?」
「もちろん構わないよ。お金を取った人たちが弁償してからでいいから、心配することはない」
「すいません」
「いや、ミリーが謝ることじゃない。それよりも感謝祭は楽しめたかい?」
「はい。隊長さんとトマスくんのお陰で楽しめました」
「それなら良かった。何が1番楽しかった?」
それからはミリーがどのようにして楽しんだかの話を聞いた。
思い出は繰り返すことで記憶に強く残る。
ブランドとしては怖い思いをしたことを楽しい記憶で上書きさせたかった。
孤児院に着くと院長で礼を述べてミリーに別れを述べる。
そして、院長に頼んでおいた書類を受け取った。
日暮れの道を詰め所に戻り、それから帰宅する。
翌日、ノートンの病室をベアトリスやイライザが見舞った。
ブランドから思ったよりも重傷だったという報告があったのと、事件の取り調べが一段落ついたことによるものである。
希望通り病室は華やかになることはなったが、同時にノートンは非常に恐縮し、いくら若い女性でもな、と密かにぼやくのだった。




