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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第48話 取調べ

 感謝祭の翌日、衛士団では朝から若者3人の取調が行われる。

 まだ自分たちがしでかしたことの重大さが分かっておらず若者たちは非常に態度が悪い。

 牢に留め置かれたことやパレードを見ることができなかったことについて不満を抱いていた。

 この日、取調べに当たったのは第2隊である。

 フンボルトは淡々と剣を抜いた若者、ダグラスに尋問を行った。


「さて、あなたは職務遂行中の衛士に刃物を向けて傷つけた。これは押収した剣だがあなたのもので間違いないかね?」

「だからなんだってんだよ。こんなことをしてただで済むと思うなよ」

「否定しないということでいいかな。まあ、この点については目撃者が多数いるからね。否定しても無駄ではあるな」

「じゃあ、なんでこんなくだらないことをしているんだよ。全くやってられないぜ」

「そういう規則だからね。まあ、死刑もありえる事件だ。慎重にならざるをえないな」


「なんだよ死刑って?」

「もちろん、あなたの行った犯罪に対する刑に決まってるだろう」

「ふざけんなよ。そんな酷い話が許されるわけないだろ」

「国王陛下が定めた法だからね。実際、この間も衛士に向けて剣を抜いて斬りつけただけでその男は18年の強制労働刑になっている。あなたは血を流しているからな。余罪もあるし、死刑は十分にありえる」

 どんなに怒鳴ろうが叫ぼうが態度が変わらないフンボルトに若者はだんだん不安になってくる。


「おい、ちょっと待てよ。本気で言っているんじゃないよな」

「私は仕事をしているんだよ。遊びじゃない。では、次の質問だ。斬りつけた衛士を殺すつもりだった? そうだね?」

 ようやく事態が深刻なことに気がついたダグラスは少し考えた。

「いや、殺すつもりはねえよ。立場を思い知らせてやろうとしただけだ」

「でも、あれだけ切れ味の鋭いものだ。剣を抜けば衛士を斬ってしまう可能性はある。場合によっては死ぬだろう。でも、そうなってもいいとは思っていたんだな? さすがにそんなことも分からないほど知恵が足りないということはないはずだが?」


「まあ、刃が当たれば傷つけることは分かっていたけどよ。あれは腕を振り払おうとしたから当たっただけだ」

「でも、剣を抜いたということは、傷つける可能性があることは意識していた。その傷が深いものであれば死ぬかもしれないな。そうだね?」

「それはそうかもしれない」

 それから質問内容は子供たちから金を奪ったことに変わる。

 ダグラスはこちらについてはペラペラとしゃべった。


「小汚いガキがぶつかりやがったんだ。その詫び料を徴収しただけだよ」

「男の子を殴っただろう?」

「詫び料を取るのに文句を言う生意気なのは居たな。だが、そいつを殴ったのは俺じゃない。殴られて当然とは思うがな」

「他にも数人子供から奪ってるな」

「それがどうした? 仲間がやったのもあるぜ。それにちゃんと色をつけて返すと言っているだろ」

「確かにあなたたちの付き人からその申し出があった」

「じゃ、問題ないだろ」

「そうか。では、しばらく待っていなさい」


 別室に下がったフンボルトは2人の部下の速記録を下地に供述調書を書き上げる。

 取調べの部屋に戻るとダグラスに署名するように要求した。

 中味を見てみれば会話した内容を要約したものである。

 衛士に斬りつけたという点には触れていない。

 剣を抜くことが人を傷つけることを認識していたかということと、子供から金を詫び料として取ったこと、他にも子供1名から金を奪ったことを認めるというものであった。

 重罪と言われた衛士に斬りつけた点が書いていないことから、ダグラスはあまり深く考えず署名する。

 その後、釈放されるかと思っていたら牢に戻された。

 喚き散らすが相手にされない。


 次に狼藉をはたらいた3人のうちの別の若者が取調べを受けた。

 こちらは剣を抜いていないので気楽なものである。

 トマスを殴ったことと子供2名から金を奪ったことを認めた。

 残る女も第6隊の尋問に対し仲間と一緒に金を奪ったと供述する。

 この2人は付き人が保証金を払って釈放された。

 しかし、同時にトールハイムの町から出ることは禁止するといい渡されてしまう。

 付き人が抗議をするが取り合ってもらえなかった。


 第2隊が取調べをしている間、ベアトリスはシャーリーらから証言を得ている。

 非常に協力的だった。

 ブランドは金を取られた子供と被害額の確認をしている。

 孤児院を訪れると被害者の女の子ミリーがブランドに寄ってきた。

「隊長さん、ありがとうございました」

「いや、びっくりしただろう?」

「でも、隊長さんが立て替えてくださったので。それにトマス君が庇ってくれたから」

 ミリーは笑顔を見せる。


「そうか。あいつは騒がしいがイイ奴だからな」

「トマス君、怪我は大丈夫かな?」

「これぐらいの高さから落ちたときも平気だった奴だ。たぶん元気に走り回っているだろう。気になるなら一緒にいくか? これから一応様子を見にいくんだ」

 ミリーはもじもじした。

 院長にダメと言われるのを案じているのだろうと解釈したブランドはミリーの頭を撫でる。

「大丈夫だ。おじさんが院長に許可をもらってあげるよ」

 

 孤児たちは孤児院から離れるには許可を得なければならなかった。

 実際には目の届く範囲であれば外に出ることはできる。

 ずっと昔にイライザが馬車に泥水をかけられたのもそうした時のことだった。

 しかし、遠くまで行くとなれば院長の許しを得なければならない。

 これは孤児の安全確保という意味合いと不要なトラブルの防止という意味合いがあった。


 本当はミリーがもじもじしていたのは院長にダメ出しされるのを心配していたわけではない。

 トマス君に会いたいけど、ちょっと恥ずかしいという乙女心なのだった。

 ブランドが口添えしたこともあり、事情が事情だったので院長も外出の許可をすぐに出す。


 ブランドはミリーを連れてトマスの家に行った。

 道中はドラマタが話題の中心になる。

 誉め言葉にまんざらでもないらしく、喉をゴロゴロと鳴らした。

 トマスの家は鍛冶屋をやっている。

 工房の横の家を訪問するとトマスの母親が顔を出した。

「これはこれは。先日はうちの腕白を助けて頂いてありがとうございました。それでブランド隊長、今日はどのような御用ですか?」

「ああ。トマスと話がしたくてね」

 後ろにいるミリーのことをトマスの母は怪訝そうに見る。


「今日も広場に遊びに行っていますよ。昨日も顔を腫らして帰ってきたっていうのに」

 頬に手を添えてため息をついた。

 ミリーはぴょこんと頭を下げる。

「トマス君のお母さん。その怪我は私を助けようとした時のものなんです」

 まったく事情を知らない母親にブランドが昨夜のことを説明した。


「大したものですよ」

「え? そうなんですか? また、何か暴れて怪我したものとばかり思ってました。あの子は何も言わないもんだから」

 母親は目を丸くする。

「自分の功を誇る真似をしたくなかったんでしょう。まあ、家に帰ったら褒めてあげてください。ちょっと無鉄砲ではありますが心意気は素晴らしいですよ。それでは私も広場に行ってみます」

 飲み物でもと勧めるのを断ってブランドはその場を辞去した。

 

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