第43話 忠実な部下
孤児院からの帰り道、ブランドは第5隊の団員3人組と行き会う。
「あ、ブランド隊長」
「見回りか?」
「ええ。お祭りで人がいつもより多いでしょ。昨夜みたいな不埒者もいるかもしれないというので団長が巡回を強化するようにって」
「なんだ。その不埒者というのは?」
「あれ? ご存じありませんか。まあ、今日は非番ですからね。昨夜、2人づれがイライザ隊長にしつこく絡んだ挙げ句に警告を無視して襲いかかったんです。もちろん、叩きのめされたんですけど。ボッコボコに」
「まあ、イライザ隊長だから無事だったわけで、一般女性なら困ったことになったでしょう。で、団長が見回りを強化すると言い出しまして」
「そんなことがあったのか。イライザは何も言っていなかったが。水くさい奴だな」
団員3人は顔を見合わせる。
「あー、それでイライザ隊長、あの現行犯を自分で連行せずに立ち去ったんですね」「何か用がある感じでしたがそういうことですか」
「それって、余計な心配をかけたくなかったんじゃないですか」
「そうだな。イライザなら、その辺の有象無象に後れを取ることはないだろうな。ところで、話を戻すが巡回強化なら俺も手伝おう」
「ブランド隊長。ずっと捜査でお疲れでしょう。しっかり休んでください」
「手伝ってもらったら、うちの隊長にどやされます」
「それじゃ、失礼します」
第5隊の団員はそそくさと立ち去った。
肩透かしをくらった形のブランドはその後ろ姿を見送る。
ブランドは少し考えた。
まあ、日の高いうちは大丈夫だろう。夜に備えて仮眠でもとるか。
ブランドは信頼されている割には個人的な友人がほとんどいない。
そのため、実は休日は割と暇であった。
というのも、治安維持を司る衛士という仕事をしているとあまり深い友人付き合いをすることが難しい。
個人的に親しいからといって特定の相手に対して手心を加えるようなことは厳に慎むべきことである。
ブランドは家に帰る前に軽く食事をしていくかとルイジの店に足を向けた。
部下を連れた制服姿のイライザと通りの角でばったりと出会う。
「ハーイ、ブランド」
「やあ、イライザ。さっき聞いたぞ。昨夜2人組を捕まえたんだってな」
「ああ、あれね。大したことはなかったわ。せっかくの食事を前にする話でもなかったから言わなかったの」
内心で先に言っておいた方が良かったかなと反省した。
「驚かすつもりはなかったの。それじゃ巡回中だから」
本当はもっと話をしていたいが部下の手前もある。
イライザは笑顔を作って別れようとした。
「隊長。そろそろ昼を食べましょうよ。腹が減りました」
持つべきものは気が利く部下である。
もっとも、こういう発言が出るのはイライザが上司として信頼を得ているからであった。
「うん? ああ、もうそんな時間か。腹が減っては戦はできないわね。食事にしましょうか」
「予定がなければブランド隊長もご一緒に」
別の部下が袖を引く。
「ああ、邪魔でなければ」
ルイジの店に入るとちょうど昼食時で混雑していた。
「別々の席になりますけどいいですか?」
部下たちはテキパキと2人掛けの席に隊長を座らせ、自分たちは4人用テーブルに座る。
この部下たちはブランド争奪戦における賭け事でイライザに賭けていた。
まあ、直属の上司と他所からきた大貴族の御令嬢なら上司を応援するという程度の義理は感じている。
そして、賭けのことを別にしても、午後も一緒に巡回する隊長の機嫌が良い方が好ましい。
イライザは部下に対しての当たりがキツいということはないのだが、普段は冷たい顔をしていた。
ブランドとメニューを見ている顔は明らかに表情が柔らかい。
午後、そのお零れの笑顔の欠片でも向けてもらえれば、仕事の張り合いも出ようというものだった。
団員たちは注文を終えるとヒソヒソ話を始める。
「うちの隊長、もう少し笑顔を見せてくれればなあ」
「そうそう。折角の美人なんだしな」
「まあ、でも下手に親しみやすいと勘違いするのが多くて鬱陶しいんだろうな」
「昨夜のバカみたいな奴か?」
「そーそー」
「ということは、いつもは冷たい感じでいるというのも、あれはあれで正しいのかもしれないな」
1人の団員が溜息をついた。
「やっぱ俺は全く目がないかあ」
「そりゃあるわけないだろ」
「オッズもつかねえな」
「ひどくね?」
「だけどさ、お前、イライザ隊長に見合う要素ないじゃん」
「この際だからついでに言うと、ブランド隊長を超える点もあるか?」
「若い」
「それだけじゃなあ。それに知っているか? 噂だとイライザ隊長に良家から縁談が殺到しているらしいぜ」
「本当か?」
「まあ、全部断ったらしいけどな」
昼飯時のネタにされている当人は楽しく食事をしている。
交代制勤務で外回りも多いため、普段はなかなか食事を一緒にとる機会も少ない。
それが、昨夜に引き続き今日の昼食までブランドと同席していた。
本当は朝食も2人で食べたいと思っているが、なかなかにハードルが高く現実的ではない。
お付き合いする前の状況としては実質的に2食連続で食事を共にしていると言ってもいいのではないか。
そんな幸せなことを考えていた。
頭の一部ではそんなことを考えながらも、ブランドとの会話はきちんとこなしている。
「午前中は孤児院に行ってきたんだがエーラは元気に勉強していたよ。イライザにもよろしく伝えてくれるように頼まれた」
「そう。それは良かったわ」
「イライザみたいな衛士になるんだって言っていた。やっぱりイライザは凄いな」
あなたに憧れて衛士になった女の子もいるんですけど。
口に出せたらと思うが、現実にはそんなことはできなかった。
「それは光栄ね。もっと頑張らなくっちゃ」
「そうだ。イライザの発案した宝箱。あれはいいアイデアだな。大切なものがあるというのは子供の情操にとても大事だと思う。女の子に宝物って小石を見せてもらったよ」
「え? 誰から?」
ブランドがミリーの名前を告げる。
「そっか。ブランドも相当信頼されているわよね」
「そうだといいな」
穏やかな笑顔を浮かべるブランドを見ながら、イライザは頭が痛かった。
自分自身がそうだったから分かるが、これは淡い恋心の発露という可能性が高い。
さすがに若すぎる相手ではあるが、これ以上、恋のライバルが増えるのは歓迎できないのだった。




