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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第39話 真相

 夜になるとダブレオの屋敷から衛士団は引き上げる。

 その際にシャロンには制服を貸し与え衛士のフリをさせた。

 急遽呼び寄せられたイライザがシャロンに同行して家まで送り、制服を回収すると衛士団の詰め所に戻ってくる。

 たまり場でドラマタのご機嫌を取っているブランドを誘うと団長室へと向かった。


「ご命令通りに家まで送ってきましたが、一体何事だったんですか?」

 イライザが質問をする。

 ダブレオの屋敷に出た不審者の件にブランドがかかりきりというのは知っていたが、その場に団長のベアトリスが居たことが気になっている。

 団長が直接指揮を取るほどの大事件という可能性もあったが、呼ばれたときの雰囲気からしてそうではなさそうだった。


 フランセーヌを後ろに従えたベアトリスはブランドに視線を向ける。

「その説明はブランド隊長にしてもらった方がいいだろう。隊長とドラマタが解決したようなものだからな」

 その発言内容にイライザは訝し気な表情をした。

「ますますよく分からないわ。ブランド。早く事件の説明をして頂戴」


「ああ。事件というか微妙なところなんだがな。イライザも事の発端は知っているな。第8隊がダブレオ氏の屋敷から忍び出ようとした人影を目撃したのが始まりだ。庭には隠れるようなところがほとんどないし、屋敷には戸締りがしてあった。で、ダブリオ氏は見間違いだと主張したわけだ」

「だけど変よね。普通だったら泥棒が入ったんじゃないかと気になるはずよ。特に金持ちならね」


「その通りだ。トールハイムは治安が良い方だが、年に1度の感謝祭も控えていて他所からくる者も増えている。中には素性のよろしくない者も混じっているだろうことは常識だ。物盗りを疑うのが普通の反応だろう」

「でも、空を飛んで消えたのか、不審者は見つからなかった」

「だけど、第8隊が見たのは間違いない。目撃者は1人や2人じゃないんだ。そして、すぐに対応したから表に回る前に逃げ出したとも思えない。そうなるとね、敷地内に入ったのに出ていく人を見ていないということの答えは、敷地内にまだ残っているしかありえないんだよ」


「まあ、そうなるわね。鞄に入れたはずのものが見つからないとあちこち探して出てこず、しばらくしたら他のものに紛れて鞄の中にあったなんてことはよくあるものね」

 その場にいる他の3人から、え、という表情をされてイライザは手を振る。

「ごめん。話を逸らしちゃったわ。それで、庭に居ないなら建物の中。単純な引き算ね。じゃあ、あのシャロンって娘が不審者だった、ってことでいいのかしら? どこに隠れていたの? そんな凄腕の泥棒には見えなかったけど」


「ああ、シャロンさんほプロの泥棒ってわけじゃない。それで、隠れていた場所だが、ダブレオ氏の私室さ」

「は? どういうこと?」

「シャロンさんはダブレオ氏にとって具合の悪い書類を持ち出していたんだ。その点では窃盗の罪に問われることをしているな。で、屋敷内にとって返したシャロンさんはダブレオ氏を脅したのさ。匿わないと証拠品として書類が衛士団の手に渡るってな」


「こう言ったらなんだけど、手っ取り早く口を封じるという選択肢はなかったのかしら?」

「誰かに頼むならともかく、普段は荒事をすることのない金持ちには荷が重いだろうな。よほど憎んでもいない限り咄嗟に人は殺せないだろう。そもそもダブレオ氏がシャロンさんをというのが無理があるだろうな」

 薬草が採れる山裾の森にはそこそこ強いモンスターが出没した。

 そんな場所で薬草を採ってくるシャロンはやはり腕も度胸もある。

 ダブレオが力づくでどうこうしようというのは難しかった。


「で、あの女性は何を取ったの?」

「借金の証文だな。よく字が分からないことをいいことにトイチという暴利で金を貸していたんだ。テッドという男の子にね」

「え? あの女が借りていたわけじゃないの?」

「シャロンさんは腕のいい薬草採集人だぜ。薬を商うダブレオ氏にとっても大切な取引相手だ。店でなく私邸に招待するぐらいな。金を借りるにしても他からもっといい条件で借りられるよ」


「で、そのテッドって何者なの?」

「シャロンさんの想い人らしい」

 そこでブランドは言葉を切る。

 長年の付き合いで何か言いよどんでいることにイライザは気がついた。

「それで?」

「あー、ついでにいうとダブレオ氏が懸想する相手でもある」


 イライザの表情が変わる。

 この時代、同性愛は悪徳とされていた。

 大商人のダブレオにとってそのことが露見するのはかなりのスキャンダルである。

 ましてや、借金を返せないことを理由に強引に関係を迫るというものであった。

「えげつな」

 イライザが吐き捨てる。


「それじゃ、シャロンさんは好きな相手のために危険を冒してまで借用書を取りにいったってこと?」

 呼び方があの女からさん付けに戻っていた。

 これはイライザの中での心証が回復しているという現れである。

「まあ、盗みは盗みね。それで、無罪放免になったのはどうして?」

「それは私から説明しよう」

 ベアトリスが話を引き取った。


「借用書ほかの書類はダブレオ氏が手ずから燃やして最初からないことになった。贓物ぞうぶつが存在しないとなれば盗みは成立しない。住居への侵入も罪に問わないということだ。であれば、我らの出る幕ではないだろう?」

「その代わり、高利の借金でいたいけな男の子を自由にしようとした件は見逃すと。こういう男はまたやらかしますよ、孤児を養子にするとかね」

「そうだな。だが、その金の貸し借り自体は合法だ。テッドに実際に手を出す前だから、その点も罪には問えない。ことを公にして罰せられるのはシャロンさんになるだろう」


 イライザはふうと大きく息を吐く。

「ダブレオとテッド君の間のことも噂になって傷つくのはテッド君の方か……」

「悔しい気持ちは分かる。もちろん、ダブレオに何も罰を与えず終わらせるつもりはない。ことを公にした場合の損害と同程度の金銭的負担はしてもらう。孤児院にはダブレオ氏への養子縁組は不適との連絡を行ったよ」

「それに別件の書類の中身については不問にはしない。納入品について不正を指示していたことへの返信という証拠が挙がったからな。今後は公的な発注から排除されることになるし、既に納品されたものの追加検査も行われる。今後の商売は厳しくなるだろう」

 ブランドが言い添えるとイライザは肩をすくめた。


「そう。それはそれでいいとして、不審者はどうするの? このままだと衛士団の見間違いってことになるんじゃないですか?」

「その点については仕方ない。シャロンさんの罪を問わないかぎりはな。衛士団としては、不審者を確保できなかったのは残念だが被害を防いだものと考えるとコメントするしかないだろう」

 ベアトリスは残念そうな表情をする。


「今すぐというわけにはいかないですが、名誉を回復するアイデアがありますよ」

「どうするの?」

「小悪党のギークに、王室直属の特別調査員がトールハイムに入ったらしいという話を聞かせるんです。ダブレオ氏が官需案件から外されたことと合わされば、衛士団が見とがめたのは超凄腕とされている特別調査員だったんじゃないかという話になりますよ。そうなれば、1度は発見できた衛士団は凄いっていうふうにもね」

 イライザは笑みを浮かべた。


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