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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第38話 ドラマタの活躍

 それからが大変である。

 ベアトリスは慌ててドラマタの後を追った。

 ドラマタは音をさせずに館の廊下を駆ける。

 雇人の足下をすり抜けて驚かし、階段を物凄い勢いで上がっていった。

 その後をフランセーヌを従えたベアトリスが足音を殺しながら急いで追いかける。

 2階を通り過ぎ、3階も抜けてドラマタはさらに階段を軽快に走った。

 廊下を進むとブランドにぱっと飛びかかる。


「ドラマタ、どうした? どうやってここまで来た?」

 ブランドが驚いた声を出した。

 ゴロニャン。

 ドラマタはご機嫌でブランドの耳元に頭をこすりつける。

 そこに息を弾ませてベアトリスがやってきた。

「ブランド隊長。ドラマタが建物の中に入ってしまったんだ。本当は外に来てもらって話をするつもりだったのだが」


 事情の説明をしていると奥の扉が開いてダブレオが顔を出す。

 ブランドの肩にいる白猫を見つけると皮肉な笑みを浮かべた。

「そちらも仕事だと思って協力していたが、猫まで屋敷内に入れていいと許可した覚えはないぞ。これは一体どういうことだ?」

 ベアトリスは弁解を試みる。

「あ、いや、これは事故なのだ。お騒がせして申し訳ない。今すぐ出ていくので」


 ベアトリスはブランドを促して階段へと向かおうとした。

 それが気に入らなかったのか、ドラマタはパッと飛び降りるとダブレオの足下をすり抜けて私室へと侵入する。

「こら、待て」

「待つんだ。ドラマタ」

 戸口のところに頑張っているダブレオが邪魔でブランドとベアトリスは部屋の中に入ることができなかった。

 押しのければ突入できなくはないが、そうするだけの理由がない。


 ダブレオは苛立ちをみせながらも妙にソワソワしている。

「おい、部屋の中を荒らすんじゃない。このバカ猫め」

 部屋の中を振り返るとドラマタを罵倒した。

 ブランドは隙間からドラマタに呼びかける。

「ほら、いい子だ。こっちに出ておいで」

 しかし、中でドラマタはニャーニャーと鳴き続けるばかりだった。


「いい加減にしてください。これ以上迷惑をかけるならさすがに苦情を申し立てますよ」

 顔をしかめたダブレオが言ったときである。

 クシュン。

 部屋の中からクシャミをする音がした。

 ハクション、クシュン、クシュン!

 続けざまにクシャミが響きひどく苦しそうである。


「失礼」

 ブランドがダブレオを押しのけて中に入った。

 それにベアトリスとフランセーヌが続く。

 何か文句を言っていたがダブレオは抵抗はしなかった。

 ドラマタは壁際のところでクローゼットの扉をカリカリとさせている。

 ブランドはさっと近づくとドラマタを抱え上げて部屋の入口まで下がった。

 ベアトリスはクローゼットの扉を引き開け、吊してある衣装をずらす。


「苦しそうだが大丈夫か?」

 少し落ちついてきたのか、クシャミの合間に切れ切れの声がした。

「だ……いじょぶです。猫、ダメ」

「あなたは何者だ?」

 問いかけに返事がなくなる。

 ベアトリスはダブレオを振り返った。


「この奥の部屋に通ずる仕掛けを解除しなさい。こうなったら大人しくした方が身のためだぞ」

 ダブレオはベアトリスとブランドの顔を交互に見る。

 もはや逃げ場はないと観念したのか、大人しくベッドわきの壁に近づくと何かに触れた。

 クローゼットの奥の壁からカチリと音がする。


 ベアトリスが壁を押すと一部がくるりと回転し、大人が1人横たわれることができるぐらいの空間が現れた。

 呪文を唱えて明かりを灯してみると片手に短刀を握った若い女性が顔をくしゅくしゅにさせて座り込んでいる。

 フランセーヌが中に入って女性を助け起こした。


「それで、あなたは何者で、ここで何をしている?」

 ベアトリスの質問に逡巡するような様子で部屋の外に出てくると女性はクシュンとまたくしゃみをする。

「あの……、猫を遠ざけてもらえませんか? 私、猫が近くにいると風邪をひいたみたいになるんです」

 涙で酷い顔になっている顔を眺めていたブランドが声を上げた。

「ああ。薬草売りのシャロンさんじゃないか。ちょっと分からなかった」


 シャロンは驚いた表情を浮かべる。

 とりあえず、ダブレオの私室にいつまでも居るというのも具合が悪かろうと、全員で同階の広い部屋に移動した。

 シャロンに向かってニャーニャーと鳴いていたがドラマタは第1隊の隊員にしっかりと捕まえられて屋敷の外へと連れ出される。

 

「さて、どういうことか説明してもらおうか」

 ベアトリスが口火を切った。

 ダブレオもシャロンも口を開こうとしないでいると、ブランドが手を挙げて注目を集める。

「それじゃあ、私の想像を話して聞かせよう。違っていたらそう言えばいい。それで、シャロンさん。衛士団に目撃された不審者というのはあなただね」


 シャロンは唇を噛んだ。

 その様子を見ながらブランドが話を続ける。

「うちの団員が目撃した不審者の背格好と一致しているからね。衛士団に見つかった君は敷地内に引き返すしかなかった。しかし、すぐに衛士団は中に踏み込んでくるだろう。そこで、大胆にも屋敷内にとって返すと匿うようにダブリオ氏を脅した。ほとぼりが冷めたら逃がしてもらう約束でね」


 話題にされた2人は貝のように黙ったままだった。

 ベアトリスが代わりに質問する。

「なぜ、ダブリオさんはシャロンさんの要求に応じたんだ? 不審者としてさっさと衛士に引き渡せば済んだことだろうに。脅しに屈しなければならない理由があるのか?」


「あ、分かりました。シャロンさんのことを奥さんに知られたくなかったとかそういう話ではないですか?」

 フランセーヌが目を輝かせながら言った。

「何を馬鹿なことを」

 シャロンは吐き捨てる。


「たぶんそういうことではないと思う。その中身が何かまでは分からないが、たぶん、シャロンさんが大事そうに押さえているお腹のところに抱えているものが関係しているんじゃないですかね」

 ブランドの発言にダブリオの顔色が変わった。

「ちょっと待て。その女は私の屋敷への不法侵入者だぞ」


「と言われてもねえ」

 私室に匿っていては説得力がないだろうというようにベアトリスは首を横に振る。

 ブランドは真面目な顔でダブリオを見つめた。

「そろそろ正直に話して団長の穏便な処置を願ってはどうです? この場ならまだ内々に納めることもできるかもしれませんよ。シャロンさんを詰め所に連れていって所持しているものを改めてからではそうはいきませんからな」

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