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糸目の衛士隊長はお人好し  作者: 新巻へもん


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第37話 捜査活動

 ブランドはその足でダブレオの屋敷の敷地を見て回る。

 建物内を強制捜査する権限までは有していないが、建物の外であれば許可はいらない。

 さらに1度敷地の外に出て、第8隊長からどのように曲者を目撃したのかを聞き取った。


 その間、第8隊長は不満そうに文句を言っている。

「ブランド隊長。あの言い草はどう思います? 我ら全員が見間違いをしたなんて」

「金持ちですからな。自分の思い通りにならない状況に慣れていない。夜更けに訪問を受けて気分を害したのでしょう。それで、曲者はどんな様子をしていました?」

「顔をすっぽりと覆っていたので全く分からないのです」

「背格好は? ああ、ちょうどノートンが出てきました」


 高い塀の上にノートンが立っていた。

 先ほどブランドが指示していたとおりにしている。

 心持ち体を屈めて外を窺うような姿勢をとっていた。

 第8隊長はああと嘆声を漏らす。

「こうやって比較すると明らかです。賊はもっと小柄でした」


 満足したブランドは敷地内をくまなく歩き回り、外にいる雇人の全員から聞き取りを行った。

 内側から塀に登るのはそれほど難しくないことも分かる。

 塀のすぐ近くに物置小屋があり、それに梯子が立てかけてあった。

 

 そのまま交代で不寝番をした後に、ブランドは1度詰め所に戻る。

 それからベアトリスに同行してもらって館の中もくまなく見て回った。

 衛士団長には家主の許可がなくとも私有建物の中を調査する権限がある。

 ダブレオは衛士団長まで引っ張り出す覚悟に諦めたのか、執事を寄越して協力する旨を伝えてきた。


「団長。ご足労をおかけして申し訳ありませんでした。これからは私たちにお任せください」

「いや、折角現場に出たんだ。少しは協力しよう」

 ベアトリスはぶつぶつと呪文を唱える。

 それから屋敷の窓という窓、すべての戸口を見て回った。

「うん。外から魔法をぶつけた痕跡は残っていないようだ」

「魔力検知の魔法ですか?」

「ああ。そうだ」


 通常は魔法を使う場合には呪文を唱えると同時に魔力を帯びさせた体の一部で対応する文様を描く必要がある。

 しかし、偉大な魔法使いが呪文だけで魔法を行使する方法を編み出していた。

 ベアトリスの使った魔力検知は、その一般魔法と呼ばれるものの1つであり、ケブス村の小屋の捜索のときに使った照明の魔法も同様である。

 高額な教授料を払うことができればという条件はつくが、通常の魔法よりは比較的身につけやすかった。


「団長。魔法を使って確認いただきありがとうございます」

 ブランドが礼を言うとベアトリスは肩をすくめる。

「魔法でその不審者を捜し出すことができればいいのだが。まあ、そんな便利な魔法があれば苦労はしないな。で、これからどうする?」

「ダブレオ殿が協力して頂けるとのことなので、徹底的に調べてみようと思います」

「長年の衛士としてのカンが怪しいと感じているわけだな」

「いえ、確実に犯罪が行われたと確信しているわけではないのですが……。他にも一味がいて、まだ諦めていないのかもしれません」

「まあ、気のすむまで調べるがいい。見間違いと言われたままでは衛士団の名誉にも関わるからな」


 ベアトリスが詰め所に戻った後にオーギュストからブランドへの縁談が持ち込まれた。

 捜査に集中しているのを邪魔してはいけないというもっともな理由を盾にベアトリスは話を自分のところに留めている。

 縁談は所詮は私事であり理屈としてはそのとおりであった。

 ただ、ベアトリスもこれが単なる時間稼ぎでしかないことは理解している。


 団長室でドラマタと遊んでやりながら独り言を漏らした。

「ブランドもやはり貴族の称号には心を動かされるかな?」

 ドラマタはブランドの名が出たことに、ニャと反応する。

 ここ2日間ほどは大好きなブランドの顔を見ることもできずドラマタは不満だった。

 イライザやベアトリスが相手をしてやると一応は落ち着きを取り戻している。


 ベアトリスも頭の中ではブランドと恋愛関係になるというのは障害が多いということは十分に理解していた。

 父親は具体的な名前は口にしていないが、ベアトリスをどこかの有力な貴族に嫁がせるつもりだろう。

 そうして、コロンナ家の勢力を強めるつもりなのだった。

 今まではそういう運命にあることに不満はなかったつもりである。


 しかし、このところ心の方がその未来を疎ましく思うようになっていた。

 とはいえ、ではどのように行動すべきかという答えはない。

 ブランドにその気があれば結婚の誓いをしてしまうということは可能である。

 ただ、そんなことをすれば激怒した父親が何をするかが読めなかった。

 やはり事前に許しを得ておかないと幸せな結婚生活は望めない。

 その許しを得るための説得材料の持ち合わせがないというのが問題である。


 ブランドが詰め所に顔を出したときに縁談のことを伝えようと思っていたが、なかなか顔をみせない。

 他の団員に尋ねるとダブレオの屋敷にずっといるとのことだった。

 一報ぐらいは入れておくかとベアトリスは激励を兼ねて出かけることにする。

 副団長ホーソンに声をかけた。

「ブランド隊長の様子を見にいってくる」

 一度フランセーヌを連れて溜まり場へと顔を出す。


 ドラマタを他の団員に預けようとするが、珍しく離れようとしなかった。

 いつもなら渋々ながらも言いつけには従うのに、手を伸ばしたベアトリスの手にパンチを繰り出す。

「なんだ。ブランドに会いたいのか?」

 ニャーン。

 ドラマタはベアトリスの問いに甘えた声を出した。


 門のところで立ち話をするぐらいならいいだろうとベアトリスは腕に抱える。

 詰め所を出て道を歩いていると町ゆく人が笑みをを浮かべて衛士団長に挨拶をした。

 子供たちは駆けよってきて口々に言葉をかける。

「団長さん、こんにちは」

「ああ、こんにちは。みんな、元気そうだな」

「ドラマタちゃん、カワイイ~」

 愛想を振りまく子猫に黄色い声があがった。


 毛糸を借りたままのローザが一生懸命という感じで話しかける。

「あ、あの。団長さん。ブランド隊長はどうしてますか?」

 トマスがそれに同調した。

「そうそう。全然ブランドのおっちゃ、ブランド隊長見ないんだけど」

「仕事が忙しいんだ。みんなが心配していたと伝えておこう」

「団長さん、よろしくお願いします」

「頼んだぜ」

 子供たちは広場へと走り去る。


 ベアトリスが苦笑をした。

「あのトマスというのは変わらんな。他の子は少しは行儀よくなったが」

「注意しますか?」

「構わん。郷に入りては郷に従えだ。ここでは衛士団長は親しくもある存在なのだろう」

 飾りものとして遠巻きにされるよりはずっといい。


 ベアトリスはドラマタを撫でてやりながらダブレオの屋敷へと向かう。

 通りに面したところで第1隊の者が警戒をしていた。

 表の門のところにいる団員がベアトリスを気付いて姿勢をただす。

「ブランド隊長に御用ですか? すぐお呼びします」

 踵を返して館の扉を開けた瞬間にドラマタがベアトリスの腕から飛び出し、スルリと扉の隙間から中へと潜り込んだ。

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