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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第一章 師弟
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6話 サランの村

「やっと着いた……」


 サランの村に向かった二人だが思った以上に遠く、なんとか日暮れ前にはつく事が出来た。だがその距離はユーフィにはきつく、途中で要も自分の足で歩く事にしたのだが、それでもかなりの疲労がたまっていた。

ユーフィが呼吸を整えた後、村の入り口へと向かう。そこには門番らしき人が立っており、今夜泊まれる所がないかを聞きに行く事に。


「こんにちは」

「こんにちは、ってこんな時間にどうしたんだい? この村の子ではないようだけど……」


 ユーフィが質問する前に聞かれてしまったので、森を抜けてきた事、ウォーレインの街に向かっている事を話した。


「あの森から……! でもそれならもしかすると……」


 森を抜けてきた事を言うと驚かれ、そのあと何かを考えるように呟く門番。その事を聞いてみると慌てて何でもないと誤摩化された。あまり突っ込んでもしょうがないので取り敢えず泊まる所はないかと訪ねる。


「それなら村長の所に泊まると良いよ。ここは小さな村だから宿屋はないからね。その代わり冒険者や商人が立ち寄ったときは村長の所で泊まってもらうようにしてるんだ。案内するよ」


 子供相手にもかかわらず丁寧に説明ししてくれ、案内までかって出てくれた門番の後をついていく二人。

 要は歩きながらこの村の観察をする。家はどれも木造、だがどれも本格的な日本家屋、とまでは行かないものの作りはしっかりしていた。要が前にいた世界だと、こういう小さな村の建物は家というより小屋に近く、柵などの整備もまったくなされていなかった。だがこの村は家だけでなく魔物対策用と思われる柵もあり、家も畑も綺麗に並んでいる。これだけでもこの世界のレベルが何となく見えてくるだろう。要は村でこれなら街なら、とまだ見ぬウォーレインの街への期待を膨らませた。

 色々考えているうちに目的地に着いた三人。案内された先には木造の家が建っていたいて、さすが村長の家だけあって他の家よりも大きいものだった。


「村長! 旅の方が来られたので案内してきました」


 門番がその家に向かって声を掛けると、暫くして扉が開かれ杖をついたおじいさんが出てきた。


「おや、これはこれは小さなお客人。私がこの村の村長です。さ、どうぞ中へ」


 少し二人を観察した村長は中へ入るように促した。ここまで案内してくれた門番は二人が中に入るのを見るとまた村の入り口へと戻っていった。

 家の中に入り部屋の方へと案内された二人は、部屋の中央にある机に村長と向かい合わせになるように座った。そして自己紹介と門番にしたものと同じ説明をして今晩泊めてくれないかとお願いをした。もちろん自己紹介はユーフィだけで、要が喋ると面倒な事になりそうなので黙っておいた。


「それなら問題ありませんよ。どうぞ泊まっていって下され。それで一つ気になるのですが……その肩に乗っている猫は?」


 このまま黙ってやり過ごそうと思っていたが、やはり猫の事を聞かれてしまった。すぐに聞かれず、安心していたところで聞かれてしまったユーフィは焦ってしまう。


「あの、これは…………そう、ペット!」

「ペット!?」


 暫く迷った後、これだ! と自信満々に答えたユーフィだったが、ペット扱いされた要は思わず突っ込んでしまった。もちろんこの場での言い訳としてはペットが一番無難だっただろうから、ユーフィの対応は問題ない。ここは突っ込みを我慢しきれなかった要の失態だろう。


「猫が喋っておる? なるほど、これが使い魔というやつですな」


 一瞬の驚いた村長だったが、勝手に納得してくれた。というよりも使い魔、という存在があることが分かり、要にとってはこれほどいい情報は無い。自分のことをどう説明するかが目下の課題だったが、今後は使い魔だと名乗れば問題なさそうだと安心した。


「急に喋ると驚かせると黙っていたんだが、それが逆に驚かせてしまったみたいだ。すまない」


息を吐くように嘘を付く要。


「いえ、お気になさらずに。それに旅の方という者は色々秘密がつき物です。一先ず村の者には私から説明しておきましょう。使い魔のことを知らない者は驚くでしょうからな」

「そうしてもらえると助かる」


 要の説明に納得してくれた村長は、笑って村の人への説明まで買って出てくれ、その事に感謝する要。


 一通り話し終えた後村長がしばらく考え込み、そして迷った末に口を開いた。


「お二人はあの森を抜けてきたと行っておりましたが、魔物とは戦えるのですか?」

「何度か魔物に襲われたが問題なく倒したが……それが?」


 急に聞かれた事に疑問を持ちながらも答えた要。そしてその後の村長の言葉を待つ。


「なら一つお願いがあるのです。じつはウォーレインの街へと行くには一つ森を抜けないと行けないのですが、その森にベアチャイルドが出現したのです」

「ベアチャイルド?」


 そしてさらに詳しく二人は話を聞いた。

 村長の話によればその森にはちゃんと道があり普段は問題はない。だがつい先日、いつもの様にウォーレインへと物を売りにいった成年がベアチャイルドに襲われ、命からがら村に戻ってきたそうだ。

 そのベアチャイルドは子供ではあるのだが、それでも人間の大人と同じ大きさがある。とてもじゃないが一般人が相手にできるものではなく、冒険者でもないと太刀打ち出来ない強さがある。普段なら、ここに立ち寄る冒険者や護衛付きの商人にウォーレインで討伐依頼を出してもらうようお願いするのだが、今回は運悪く全然人が来なかった。そしてどうしようかと途方に暮れていた所に二人がやってきたのだ。


 その話を聞いてやっとあの門番の呟きの意味が分かった二人。


「それでウォーレインの街に向かうのであれば、代わりに討伐依頼を出してきてほしいのです」


 そう頼まれた二人は特に問題がなかったので今日泊めてくれたお礼に受けようと思っていた。がそこで要に止められた。ベアチャイルドの特徴を聞いた要は一つ思い出す。以前あの森で狩った熊と全く同じだったのだ。それなら依頼を出しにいく間に村を襲う可能性を考えると、自分たちで倒した方が早いのではないかと考える。それにあの熊は美味しかったと少しよだれが出る要。多分本音は後者だろう。


「その熊なら抜けてきた森でも倒した事がある。だから俺たちで倒しに行こうと思う。ユーフィもそれで良いか?」


 自分たちで倒せるなら問題ないと思ったユーフィは要の問いに頷いた。それを聞いた村長はさっきまでの不安そうな顔を一変させ喜ぶ。


「倒してくださるのなら助かります。もちろん命優先で危険であればすぐ逃げても構いません」


 ちゃんとこちらの身を案じてくれる村長に好感を覚えた要。勇者であった頃には、要が勇者なのだから、冒険者なのだから魔物から守るのは当然だと言う横暴な人も少なからずいた。もちろん要からすれば助けるのは当たり前なのだが、やはりそういう言い方をされると寂しい部分がある。


「それじゃあ今日はもう遅いから明日の朝出発だな」

「それでは夕食を用意してきますので、ごゆっくり」


 さすがにもう日も暮れていて、この時間帯に森にいくのは自殺行為だ。なので明日の朝出発することにする。ユーフィは歩き疲れたのか夕食が来る間、椅子に座ったまま船を漕ぐ。そんな今にも寝てしまいそうなユーフィの顔を要は肉球でぽふぽふと叩きながら声をかけ、寝てしまわないようにする。


 なんとか食事まで眠気を耐えたユーフィは、村長さんが持ってきた夕食を食べる。パンとスープという簡単な食事だったが、スープには野菜や小さなお肉が入っておりボリューム的には十分。要にはちゃんとミルクが用意されていたが、物足りなかったようでユーフィにスープに入っていたお肉を分けてもらい、喜んでいた。これまた端から見れば餌付けである。


 お腹が膨れた二人は、明日に備えてもう寝ることにした。村長に寝室へと案内されたユーフィ。もう限界と着いた途端に布団に寝転んだことを見届けた要は、床で丸まって寝る体勢に入る。と、そこで急にユーフィに持ち上げられる要。


「寒いから一緒に入ろう」

「いやいやいや、こんな姿でも一応俺は男だぞ!?」


 いきなり一緒に寝ようと提案してきたユーフィに、要はさすがにまずいだろうと想い男だと主張して断る。


「問題ない」

「問題あるだろうっておい、掴むな、引きずり込むな、抱きつくなぁ!」


 しかしその主張もむなしく、為す術無く布団へと引きずり込まれてしまった。


「要うるさい。もう寝る」

「ほんっとにマイペースだなおい! ってもう寝てるよ。はぁ」


 ユーフィは湯田んぼ代わりに要をぎゅっと抱きしめて、そのまま眠りに落ちる。色々と諦めた要はそのまま大人しくユーフィに抱かれ、寝るのであった。





 次の朝、ユーフィよりも先に起きた要はなんとか腕から脱出し、窓際で日の光を浴びながら毛繕いをし始める。ぺろぺろと前足をなめた後、くしくしと器用に顔を綺麗にしていく。だんだんと猫としての行動に磨きがかかり、抵抗も薄れていた。

 身繕いが終わっても、まだユーフィが起きてこなかったかので窓際から布団に戻り、横を向いて寝ているユーフィの頬を前足でぽんぽん、と叩いて起こす。


「……ん…………んぅ」

「ほら、ユーフィ、朝だぞ」

「ん〜…………かなめぇ…………?」


 暫くしてやっとユーフィが目を開ける。それを見てやっと起きたか、と安心しているといきなり手が伸びてきてぎゅっと抱きしめられる。


「ん〜…………もうちょっと……」

「もうちょっとじゃない! というか力強いぞ! いや、ちょ、ほんとマジで、ギブ……」


 そして薄れゆく意識の中で、もう絶対寝起きのユーフィには近づかないと心に決めた要でだった。







 ようやくユーフィを起こした要は村長の所へと行く事にする。が、当の本人は朝の一軒でユーフィの肩の上でぐったりとしていた。


「朝から大変な目にあった……」

「ごめん……」


 さすがに反省するユーフィ。朝が苦手なのは自覚しているらしいのだが、なかなか直らないのだそうだ。


「「おはよう」」

「おやこれはお二人とも、おはようございます。朝食は出来ていますよ」


 村長に出会った二人は挨拶して、用意されていた朝食を食べる。そして食べながら村長にチャイルドベアが出た場所を詳しく聞く事にした。


「出会った者の話に寄れば、村側から少し歩いた所で道の端の茂みから飛び出てきたようです。それから数日経っているのでもう移動しているかもしれませんが……」

「なるほど……取り敢えず村側を重点的に探しながら行こうか」

「了解」


 一言、返事をしたユーフィはまた朝食を食べ始める。そして朝食を食べ終わり、この後の予定が決まった二人は早速探しに行こうと村長の村を出る事にした。


「それでは気をつけて下され」

「うん、行ってきます」


 村長に見送られながら村の入り口へと向かう。とそこで外にいた村人達が二人へと群がっていく。


「あんたたちがあの熊を対峙してくれる旅人か――――」「話には聞いていたけどちっちゃいねぇ――――」「これが使い魔――――」「まだ子供なのに強いんだねぇ――――」「ねこちゃんだー――――」


「ちょ、まっ!」

「あうっ!」


 おじさんおばさん、そして子供まで色んな人が二人を囲み次々を話しかけてきた。そして要は物珍しさからか子供達に抱き上げられ撫でられと揉みくちゃにされてしまう。ユーフィは代わりにおばさんたちから可愛い可愛いと可愛がられていた。そしてそれに気がついた村長が止めに入るまでそれは続いたのだった。


 村の人から解放された二人は、ぐったりしながらようやく村の入り口についた。


「大変な目にあった」

「うん。でもみんな良い人たちだった」


 最初こそ物珍しさから揉みくちゃにされていた二人だったが、その後は怪我をしないようにと心配され、最後は村人揃って頭を下げて二人へとお願いしてきたのだ。


「あの笑顔を守る為にも頑張るぞ!」

「うん」


 なんだかんだんで村の人にやる気をもらった二人は、村を出てベアチャイルドが出る森へと向かっていった。

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