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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第三章 水の精霊
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28話 水の精霊

「わわっ!」


 要の魔法により辺り一面が氷付け。もちろんジャンプしたユーフィの足元も凍ってしまっている。そんな事になるとは思っていなかったユーフィは普通に着地してしまい足を滑らせる。そしてストンとお尻から尻餅をついてしまった。


「一言、言ってほしかった」

「わ、悪い。スライムだけのつもりだったんだが…………」


 この状況は要にも予想外だった。本来ならスライムだけの予定だったのだが、実際は見渡す限りが氷付けになっている。


「それのせい?」

「それ? ってああ、これか」


 ユーフィが言っているそれとは、今の要の状態だ。未だ全身の毛が逆立ち元に戻っていない。ユーフィを助ける為に使った猫気にゃきや魔法もいつも以上の威力が出ているので可能性はある。


「ま、その辺りは後で時間がある時にゆっくりとだな。今はこのスライムだ。また動き出す可能性もあるから早めに倒さないと」


 氷付けになっているスライムへゆっくりと歩いていく要。一歩進むたびに、足元の氷が音を鳴らす。スライムの目の前まで来た要は、また復活出来ないよう粉々に砕こうと力を込める。万が一また復活した場合の時の警戒も忘れない。そしてさぁ砕こうとした瞬間――――


「だめなのです〜!」


 ――――ちょっと気の抜ける声が二人の耳に届いた。





「なんだ?」


 スライムを砕くのを一旦止め、聞こえてきた声の主を捜すように辺りを見回す。遺跡の影からふよふよと飛んでくる小さな物体が現れた。よく見ると、それは羽の生えた手のひらサイズの小さな女の子。白と青で彩られた羽衣のような服をヒラヒラさせながら、要とスライムの間にやってくる。まるでそのスライムを庇うかのように。


「倒しちゃ駄目なのです。この子は魔物じゃないのです。精霊なのです!」

「このスライムが精霊?」


 今朝話を聞いたばかりの精霊。二人で合えたら良いなと話していた精霊。それがこのスライムだというのだ。


「それじゃあ君も精霊なのか?」

「え? …………っは! そ、そうなのです! クーもスーちゃんと同じ水の精霊なのです! クーちゃんと呼ぶが良いのです!」


 明らかに精霊と聞かれて首をかしげたクーちゃん。その後しまった! という顔をし慌てて誤摩化そうとする。

 さっきまでの表情から一変させ、ドヤ顔で腰に当て威張る水の精霊ことクーちゃん。だが手のひらサイズでは迫力も何もあったものではない。

 なんとも怪しい反応をする自称水の精霊を訝しみながらも、害はなさそうなので話を聞く事にする。


「とりあえずクー……「クーちゃんなのです!」……クーちゃんとそのスライム……「スーちゃんなのです!」…………スーちゃんが水の精霊だとしよう。ならなぜその水の精霊であるスーちゃんが人を襲ったんだ?」


 一回一回訂正を入れてくるクーちゃんに、ちょっとイラッとしつつも話を進める要。なぜ襲ったのか、と聞かれたクーちゃんは明らかに表情を暗くし、肩を落とす。さっきから喜怒哀楽を体全体で表現しているクーちゃん。ユーフィとは正反対だ。


「スーちゃんが人を襲ったのはあの黒い水のせいなのです……」

「黒い水?」


「そうなのです。あの黒い水はとても悪い物なのです。それが湖の奥にある神殿から突如あふれてきたのです。その黒い水がスーちゃんの中に入り込んだと思ったら急に暴れ始めたのです。クーは慌てて結界を張って広がるのを防いだのですが、それに手が一杯で移動するスーちゃんを追いかけられなかったのです……」


 スーちゃんを止められなかった事を悔いるように、しょんぼりとしながら説明するクーちゃん。


「それで人に襲いかかっていたのか」

「普段なら絶対にしないのです。むしろ守る立場なのです」

「それでその黒い水はどうにか出来るのか?」

「このぐらいならクーが浄化出来るのです。少し待つのです」


 クーちゃんは氷付けになったスーちゃんの前にやってきて目をつぶる。そして手を前にかざし、何かを唱え始めた。その言葉は要の猫訳にゃんやくをもってしても理解出来ない言葉だった。唱え終わるとスーちゃんから黒いもやが出てくる。


「これで消えるのです!」


 そう言ってクーちゃんはその黒いもやを水で包み込み、その中で黒いもやを消し去った。


「消えた……」

「凄いな」

「もう氷を解除して大丈夫なのです」


 暴れないのであればもうこり付けにしておく必要はない。要はたしっと前足で氷の張った地面を叩く。すると凍っていた辺りがパリンと一気に砕け、元の姿に戻っていった。

 氷の中から解放されたスーちゃんは、浄化された事に寄って青く透き通った体になっていた。サイズも殺気までの大きさではなく、ギリギリ要を乗せられるか、というぐらいまで縮んでいる。


「スーちゃん、よかったのですー!」


 無事元に戻ったスーちゃんに泣きながら抱きつくクーちゃん。抱きつかれたスーちゃんは体をのばし、よしよしとクーちゃんの頭を撫でていた。

 暫く撫で続けクーちゃんが落ち着いた所で、スーちゃんは要達の方へやってきた。


「どうした……?」


 二人の前まで来たスーちゃんはぷるぷると体を震わせたかと思うと、いきなりべちゃっと平べったくなる。そして元に戻ったかと思うとまたぷるぷる体を震わせ、べちゃっと平べったくなる。


「「!?」」


 二人からしたら理解不能なその行動に、目を白黒させる。


「スーちゃんが襲って申し訳ないと謝っているのです。平べったくなるのは、人でいう頭を下げる事なのです」


 二人の為にこの行動の意味を説明するクーちゃん。どうやらこれがスーちゃんなりの謝り方のようだ。


「こういうことか。って、もう十分だ! スーちゃんのせいじゃないんだからそこまで謝らなくていい。気にするな」

「うん、お互い被害者。誰も悪くない」


 二人のお許しを聞き、ようやく謝るのを止めたスーちゃん。二人が止めなかったら永遠としていた勢いだ。

 そして今度はクーちゃんに向かってぷるぷると震え、何かを伝えようとするスーちゃん。端から見ている二人からすれば、何を伝えたいのか全く分からなかったが、当の本人はそうなのですか! と言っている事が分かっているようだった。


「クーちゃんはスーちゃんの言いたい事が分かるのか?」


 そんな光景を見た要は、堪らず訪ねてみる。どれだけ頑張ってもただぷるぷる震えているようにしか見えないからだ。


「クーとスーちゃんは目と目で通じ合っているのです!」

「「目?」」


 二人はじっとスーちゃんを観察してみる。が、目などどこにも見当たらず、だぷるんとした体しかない。じっと見つめられたスーちゃんは、ほんのり体を赤くする。目は見つけられなかったが、スライムも照れるという事が分かった。


「違ったのです! 心と心で通じ合っているのです!」

「そうか。それでこれからどうするんだ?」

「軽く流されたのですよ!? うぅ、やっぱり言い間違ったのが痛かったのです…………」


 これ以上クーちゃんのペースに合わせると疲れそうだったので、要は強引に話を戻す事に。しかし話を続けようとした要は突然、全身の力が抜けるような虚脱感に襲われその場にへたり込んでしまった。


「カナメ?」

「なんか、体に力が入らないんだが…………」

「毛が元に戻ってるから、そのせい?」


 ユーフィの言うとおり、いつの間にか要の逆立っていた毛は元に戻って何時も通りの毛並みを取り戻していた。


「かもしれないな。その辺りはまた時間があるときにでも調べてみるしかないか……」


 もう一度立ち上がろうとしたが、やはり力が入らず立てない。そんな要を見かねたユーフィが何時ものように持ち上げようとする。しかしそれよりも早くスーちゃんが要のそばにより、そっと自分の体の上に要を乗せた。


「乗せてくれるのか?」


 ぷるん!

 と要の問いに答えるように力強く震えるスーちゃん。要は感謝の気持ちを伝えるように優しくスーちゃんの体を撫でた。


「お楽しみ中のところ申し訳ないのですが、話すを進めて良いです?」

「誰がお楽しみ中だ!」

「ナイス突っ込みなのです! ってこんな漫才してる場合じゃないのです! 早く大本を浄化しないと大変な事になるのですよ!」

「それが分かっているならなぜ話を脱線させるんだ…………」


 本当に焦っているのかと疑いたくなるクーちゃんに、要は頭が痛くなる。


「とりあえず話を戻そう。クーちゃんの話を聞く限り、黒い水の大本は湖の先にある神殿にあり、それを浄化すれば問題ないということでいいか?」

「そうなのです。カナメはまとめるのが上手なのですよ~」


 さっきまでの焦りが消え去り嬉しそうに揺れるクーちゃん。あまりのマイペースさに、ユーフィですら大丈夫なのかと不安になっていた。


「それじゃあ早速向かうか。あんまり時間をかけたらどうなるか分からないからな」

「手伝ってくれるのです?」

「ああ、乗りかかった船だしな。それに二人だけだときついんだろう?」

「その通りなのです……。なので手伝ってくれるのはとっても助かるのですよ」

「カナメ、体は大丈夫なの?」

「ああ、大分動かせるようになってきている。神殿に付く頃には何とか動けるだろう。それにしても…………スーちゃんの体は居心地が良いな。体が包み込まれるようだ」


 褒められたスーちゃんはまたほんのり赤くなり、体を震わせて喜ぶ。その振動が要には丁度良いマッサージになって気持ちよさそうにする。


 神殿に向かう一行は、道中他におかしくなった精霊がいないかを確認しつつ慎重に進んでいく。さすがにこの間はクーちゃんも真剣に辺りの気配を探っていた。

 そして大きな湖を抜け、ようやく目的地である神殿の前に着いた四人。


「これは……」

「入りたくない……」

「うわーなのです」


 ぷるるん…………


 変わり果てたその神殿の姿に四人は心底かかわりたくない、といった様子になった。その神殿はうねうねと動く黒い水に浸食され、真っ黒になっていたのだ。


「こんな事になっているとは思わなかったのです。えらいことなのですよ~」

「と言いつつ後ろに下がるな」

「抜け駆け、ダメ」

「放してください、後生なのです!」


 一目見てこれはダメなやつだと察知したクーちゃん。そっとその場を立ち去ろうとしたがユーフィに捕まってしまった。


「このままじゃあ入る事すらできないな。よし、それじゃあクーちゃん、浄化よろしく」

「これを全部浄化しろというのです!? カナメは鬼ですか!」


 クーちゃんが結界を張ったときはこんな事になっていなかったので軽く考えていたが、この量を浄化するのは骨が折れる。しかし残りの三人からがんばれ! と目でうったえられたので、泣く泣く浄化にかかるクーちゃんであった。

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