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猫と少女の師弟関係  作者: 猫野 甚五郎
第三章 水の精霊
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25話 もう一つの名所

 猫耳フード帽をかぶったまま服屋を後にするユーフィ。要は周りの視線が集まらないか気になったが、よく考えればここは異世界。獣人もいるので猫耳などさほど珍しくないだろう。


「新しい、お洋服。カナメと、お揃い」

「もの凄い気に入ってるな」

「うん、良い買い物だった」


 当の本人はというと、よっぽど気に入ったのか今にも鼻歌を歌い出しそうな勢いだ。時折くるっと一回転して服の着心地を確かめている。その度にふわっとスカートが浮き上がり、フード帽から覗かせている銀色の髪もさらさらと流れていく。そして要の正面で止まり微笑むとまた歩き始める。

 ここまで喜ぶのだったらもっと早く来れば良かったと要は少し後悔し、次の街ではまず最初にお店巡りをしようと心に決めた。


 上機嫌になった所で、次に見えてきたのは少し高そうなお店。中を覗いてみるとそこには指輪やネックレスなどが並んでいた。どうやらアクセサリー屋のようだ。

 値段は高い物から安い物まであり、安い物でもちょっと着飾るのには丁度いいだろう。

 ここでも例によって店員が話しかけてきたので詳しく話を聞いてることに。ここにある物は装飾用だけでなく、防具屋でも聞いた加護をつけた物も置いてあるそうだ。なので意外と冒険者のお客が多いようなのだ。加護の内容もちょっとした物が多いのだが、そのちょっとが命運を分ける事もあるので冒険者、特に女性は何かしらつけているのだという。


「うちで取り扱っているのは人用だけではないですよ」


 そう言って店員が取り出してきた物は、猫用の首輪だった。どうやら使い魔用のアクセサリーも需要があるようだ。なんとなく首輪を付けるのに抵抗がある要は、笑顔で迫ってくる店員から後ずさりする。

 そうやって店員と要が格闘している間、ユーフィはじっくりと商品を眺めていた。すると一つ目を引く物があった。それは少し古ぼけてはいるが、猫の形をかたどった物をつけたネックレス。ユーフィが猫好きというのもあるが、それを置いておいたとしても何か引かれるものがあり、思わず手に取る。そして光にかざしながらじっくりと観察する。


「ユーフィ、助けてくれ! ってどうした?」


 助けを求めてユーフィの足にすがりついてきた要だったが、少し様子がおかしいユーフィに気がつく。要を追いかけてきた店員もユーフィが持っている物を見て首を傾げる。


「あんな商品あったでしょうか……?」


 二人に聞こえない声でぼそりと呟く店員。そしてユーフィはすがりついていた要を無視して、店員にこれを買うと言って手渡した。首を傾げながらも店員は少し磨いてきますと言って、手に持っていた首輪をユーフィに手渡し店の奥へと向かう。


「迷い無く買ったな」

「なんとなく、買わないといけない気がした」


 ユーフィ自身もなぜ買ったんだろう、と思ったが見た目は可愛かったので深く考えるのを止めた。それよりも今ユーフィの頭にあるのは手に持っている首輪の事だ。こちらもじっくり眺めた後、何かを決めた顔をする。要はさっきから嫌な予感が止まらない。


「お待たせしました、それで……そちらの首輪はどうされますか?」

「買う」

「ユーフィ!?」


 即決だった。要の嫌な予感は当たり、抵抗空しくネックレスと一緒にご購入となった。


「カナメ、可愛い」

「そ、そうか……」


 そして早速その首輪をユーフィの手でつけられた要。見ただけだと猫に首輪を付ける少女で微笑ましい光景になっているのだが、中身を見ると年上の男性に首輪を付ける少女だ。色々とヤバい。

 こうして要に首輪をつけてご機嫌になったユーフィの代わりに、色々と精神的ダメージを負う要なのであった。





「次はどうする?」

「大体回ったからなぁ。っとそういえば薬関係はまだだったな」

「うん、まだ見てない」


 この際必要な物を買っておくかと、薬屋を探す二人。そして見つけたのは見るからに怪しそうなお店だった。


「……ここ?」

「そのはずだが……怪しいな」

「不気味」


 ちゃんと薬屋と看板は出ている。が、なぜか入るのをためらってしまう雰囲気を醸し出していた。このまま店の前にいてもしょうがないので、勇気を出して扉を開ける。そして入った瞬間、とっさに要は前足で鼻を押さえる。


「なんだ、この匂いは……」

「匂い?」


 あまりの強烈な匂いに少し涙声になってしまっている。しかしユーフィは何も感じていないようなのでどうやら要だけみたいだ。猫は人間よりも嗅覚が鋭いのでそのせいかもしれない。

 鼻を押さえているせいで歩けない要は、ユーフィに持ってもらい商品を見ていく。傷薬などはもちろんの事、解毒などの状態異常用の物も一通り揃っていた。そんなに高い物でもなかったので一式買い、さっさと済ませて店を出る。

 ようやくあの匂いからおさらば出来た要は外の美味しい空気を味わうかのように大きく深呼吸。


「大丈夫?」

「あ、ああ。酷い目にあった」


 まさか薬屋でダメージを負うとは思ってなかったので、アクセサリー屋の事と合わせて辟易した様子だ。


「そろそろ戻る?」

「あー、そうだな。大体回ったし、今日はこのぐらいか」


 疲れていたため、気を使ってくれたユーフィに感謝しつつ宿屋へと戻る事に。だがその道中、ひとつ気になる店を発見した要。その店の看板には魔素屋と描いてあった。


「魔素屋……ってなんだ? ユーフィは知ってるか?」

「初めて見た。魔素が商品?」


 そのまま捉えるとユーフィが言うように魔素が商品のお店になる。気になった二人はまだ時間もあるので中に入ってみる事にした。


「おや、これは可愛らしいお客さんだねぇ」


 出迎えてくれたのはゆっくりとした口調で話す年配の女性。そして周りにある棚には色とりどりの透き通った結晶が置いてある。赤、青、黄色と様々な色の結晶が光に照らされて輝いており、幻想的な空間を作り出していた。


「魔素屋ってあったがここは何を売っているんだ?」


 結晶を見ても何かが分からなかったので素直に聞いてみる。


「ここは魔素を結晶化した物を売っているのさ」

「魔素を結晶化?」

「そう、ここにある結晶は特別な物でね。魔素を蓄える性質があるんだよ。これを使えば魔素が少ない人でも一ランク上の魔法が使えるって訳さ。使い捨てだがね」


 さらに詳しく聞いてみると、元々は透明な結晶でそれが時間をかけて、周りにある魔素を蓄えていくそうなのだ。十分に蓄えられるとこの店にあるような色の付いた結晶となる。

 またそう言う自然で出来た結晶とは別に、人工的にも作る事が出来る。作り方は簡単で透明な結晶を持って魔法を使う要領で、魔素を結晶に注ぎ込めば良いだけ。

 だがこの結晶、もの凄く燃費が悪い。百使ったとしても蓄えられるのは一、というぐらいだ。なので魔素数が六以上の人が倒れるまで使ってやっと魔素数一分かな、という所らしい。そういうこともあり人工的に作る人はまずいない。


「じゃあ今ここにあるのはどれも自然に出来た物なのか」

「そうだねぇ。だけど自然物も出来上がるのに時間がかかるからどれも高価なのさ。だからさっぱり売れないねぇ」


 ふぇっふぇっふぇ、と笑いながら言っているが店として大丈夫なのだろうか。値段が安いならユーフィ用に買おうと思っていたが、ちょっと手が出せないお値段となっている。その代わり、魔素を蓄えていない透明な結晶は安くなっていた。


「じゃあ、その透明な物を買おう」

「おや、人工的に作るつもりかい?」

「ああ、ちょっと試してみたくてな」

「そうかい、倒れないようにだけ注意しな」


 要は未だ魔素数を計った事も無く、限界も試していなかった。ならいっそこれで試してみるのもありだろう。これで倒れずに作れたら少なくとも魔素数六以上だという事だ。


「良い物を手に入れた」

「大丈夫なの?」

「まあ、そんなに高い物でもなかったから出来なかったら出来なかったで良いだろう。取り敢えず倒れない程度にやってみるさ」


 出来なかったらとは言っているが、この色々とハイスペックな体なら出来ると要は思っている。ユーフィも最初はちょっと心配したものの、色々と思い出して大丈夫か、と結論付けた。

 ちょっと魔素屋で長居しすぎたせいで当たりは暗くなり始め、家の明かりが目立ち始めた。水鏡亭に戻ると丁度夕食時ということもあり、一階の食堂は賑わっていた。一度部屋に戻るのもあれなので、二人はそのまま空いた席へ座り、夕食を頼むことに。


「おや、これまた可愛い格好になったねぇ」

「ん、お気に入り」

「うんうん、やっぱり女の子ならおめかししないとねぇ」


 注文を聞きに来た女将さんに褒められたユーフィは上機嫌だ。思いつきのショッピングだったがこれだけ喜ぶのなら、こういう日ももっと作らないと、と今日を振り返った要はユーフィの笑顔とともに心に刻む。ついつい忘れがちだが、ユーフィはまだ子供なのだ。修行ばかりでなく、今日のような日も大事だろう。


「明日は、どうする?」

「ん? ああ、明日かぁ……」


 夕食が来るまで暇なユーフィは、明日の予定を考えていた。が、結局思いつかず要に聞いてみたのだ。だが、要も特に考えていなかったのでちょっと困っていた。今日は思いつきでショッピングして大成功だったが、そうそういいアイデアも思いつかない。いっそまた噴水を見ながら日向ぼっこでもするか、とも思ってしまう。


「はい、お待ちどうさま。ってどうしたんだい?」


 二人でうんうん唸っていると女将さんが夕食を持ってやってきた。


「ああ、明日の予定をな。この街の周辺は大体見て回ったからどうしようかと思って……」

「そういうことかい……。それなら、ちょっと遠くはなるけど水没遺跡が観光地として有名だよ」

「水没遺跡?」

「古びた遺跡なんだけどね、地面にうっすらと水が張っているんだよ。それが綺麗な風景を作り出していて人気になったのさ。ここからなら、歩きは無理だけど馬車が出ているからそれに乗ればいけるよ。朝から行けば夕方には十分戻ってこれるだろうしさ」

「おお、それはいいな。よし、それじゃあ早速明日行ってみるか」

「うん、楽しみ」


 ここに来てから遠出などしていなかったので、いつもよりわくわくするユーフィ。また行き先も有名な観光地となれば期待も上がる。


「役に立てたみたいで良かったよ」

「大助かりだ」


 思わぬところから良い情報を得た二人は、明日の予定も決まりすっきりとした気分で夕食を楽しむのだった。

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