24話 ショッピング
サラサが復活してから一週間。要とユーフィは毎日修行していた。といっても一日中ではなく、午前中が修行、午後からは観光もかねて街の近場を探索といったところだ。
目下の課題だったお金の方も水魔の森での素材が約金貨20枚となり、ブラッドベアの時の残りと会わせれば二、三年は暮らしていける金額になっていた。
さすがにこれだけの金額になるとは思っていなかった二人は、渡された金貨を見て目が点になる。これにプラス、ゼルからのお礼もあるのだ。
「お礼の方もあっというものを考えますので、楽しみにしていて下さい」
「い、いや、程々で良いんだぞ?」
「そういう訳にはいきません! ノーブル商会の名に恥じないものをお届けします!」
「あ、ああ。そうか、楽しみにしておくよ」
ぐっと握りこぶしを作り力説するゼルに若干口を引きつらせる。要の中では期待半分不安半分といったところだ。
そして今日も午前の修行を終え、一旦街に戻って来た二人。
「今日も、探索?」
「どうするかな。この街の周辺は大体行ったし……今日は街でお店巡りでもしてみるか?」
「うん、行く」
なんだかんだんでこの街のお店をゆっくり見た事が無かった二人は、休憩がてらお店巡りをする事にした。どんなお店があるか知らないので、一先ず大通りの端から順番に見て回る事にする。
まず最初に目についたのは沢山の食べ物が置いてある食材屋。野菜からお肉、果物や魚などそれぞれの専門のお店が建ち並んでいる。
ぱっと見は普通のものばかりだが、たまに毒々しい色の野菜や奇声を上げる魚などがあり、その辺りは異世界と行ったところか。初めて見る要は何とも言えない表情で見ていたか、ユーフィや周りのお客さんは特に不思議に思っていなかった。むしろ要が、えって思うものの方が人気がある。ユーフィ曰く、見た目が悪いものほど美味しい傾向にあるそうだ。だがたまにハズレがあり、見た目通り不味いものもあるので見極めは大事との事。
「見た目が悪いって認識はあるんだな。ちなみにユーフィは…………いや、なんでもない」
ハズレに当たった事はあるのか? と聞こうとしたが、ユーフィが何かを思い出して壮絶な表情となっていた。その表情がすべてを物語っていたので、触れないでおこうと要は思う。
気を取り直して、今後の事を考えて何か買おうと商品を見て回る。お肉や果物は在庫がまだ沢山あるので買ってもしょうがない。なので手持ちに無い野菜や魚を中心に買っていく。
「これだけあれば色々料理が出来そうだな」
「出来るの?」
「ああ、それなりに作れるぞ」
「その体で?」
「…………!」
ユーフィの指摘にあっとなる要。そして下を見下ろして肉球をにぎにぎとする。これでは包丁など持てないだろう。せっかく色々食材を買ったのにこれではそのまま食べるしかない。そう思っていたらユーフィがひょいっと要を持ち上げる。
「なら私が作る。だから教えて?」
そう、要が作れないのならユーフィが作れば問題は解決する。しかし妙にやる気になっているユーフィ。最近食いしん坊さんになっているのでそれの影響かと思ったが…………
「お母さんが良い女は相手の胃袋を掴むものよ、って言ってた。だから頑張る」
「……ユーフィ、それの意味分かってるか?」
「料理が上手だと良い女になれる?」
どうやら本当の意味は分かっていないようだった。ほっとした要はユーフィが料理を覚えてくれる事を素直に喜ぶ。これで自炊も捗るだろう。
一通り食材を買った二人は次のお店へ足を運ぶ。今度は入り口に鎧が飾ってあり、一目で何の店かが分かる。中に入ると重厚な鎧や皮で作られた軽装、魔法使い用のローブなど多種多様の品が取り揃えられていた。
「色々あるなぁ」
「こんなにあるんだ」
要は前の世界でよくお世話になっていたので、こういう店には慣れていた。逆に無縁なユーフィは物珍しそうに見ている。
そういえば、とあらためてユーフィの服装を見てみる要。綺麗な銀髪を強調するかのように、全体的に黒く装飾の少ない軽装だ。下は短パンで特徴的なのが腰に巻いてある少し大きめのベルトとそれにつけられたポーチ。動きやすい服装なのだが、女の子が着るにはちょっと寂しいと思ってしまう要。
「どうかした?」
何か良いアイデアがないかと悩んでいたら、いつの間にか持ち上げられ目の前にはユーフィの顔があった。
「い、いや、なんでもない」
ユーフィの服装の事を悩んでいたなど、気恥ずかしくて言えない要は慌てて誤摩化す。そうこうしていると、カウンターにいた女性店員が二人の方へ近づいてきた。
「何かお探しですか? 見た所冒険者ではないようですが……」
ここは冒険者用の防具屋。そこに十五歳には見えないユーフィと猫の要がやってきたら誰でもおかしいと思うだろう。
「あー、冒険者じゃないが魔物と戦う事があってな。それでどんなものがあるのか一度覗いてみたんだ」
「そうでしたか。では、何か良いものがあればまた声をかけて下さい」
「そう言えばサイズとかはどうなるんだ?」
ふと疑問に思った事を訪ねてみる。ここに並んでいるのは一般的な大人のサイズで、ユーフィのように小さい場合や、巨体の持ち主などはどうなるのか、と。
「そうですね、ここに並べてある物はあくまで見本用で、これをそのまま売る訳ではないのですよ。これを見てある程度の形を決めて、あとは個人個人のサイズを計って一から調整しつつ作っていくのです。なので出来上がるまで少し時間がかかるのですが、その分体に合った物になります」
要の疑問に懇切丁寧に説明してくれた店員。そして失礼しますと言ってユーフィの服に触れる。
「これは……なるほど」
「どうかしたのか?」
「いえ、もしかして、とは思ったのですが、お嬢さんの今着ている物はC……いえ、Bランク相当の魔物の素材から作られていますね。それになにか……加護も付いているようです」
「加護?」
「ええ、熟練の職人が良い素材を使うと特定の属性に強くなったり、反応速くなったりなどの加護をつけられるんですよ。それがお嬢さんの服にも見られます。ただ、何かまでは分かりませんが」
「そうなのか?」
今度はユーフィに聞いてみる要。が、ユーフィも首を傾げている。
「お母さんから貰った。詳しい事は分からない」
「なるほど、でしたらお母様がお嬢さんの為に何かつけたのかもしれませんね」
それを聞いてユーフィは胸に手を当てて母の事を思い出す。空気を呼んだ店員は、また何かあればお呼び下さいといってカウンターの方へ戻っていった。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
ユーフィが落ち着いた後も暫く見ていたが、お目にかなう物が無かったようだ。そもそも店員の話が本当ならば当分買い替える必要がなさそうなのだが。
「いっそこれなんかどうだ?」
冗談で要が全身を覆う鎧を指差す。
「…………無理。動けない」
頭の中でそれを着て動こうとして転ける。そして起き上がれなくなる。という一連の流れを想像して即座に諦めるユーフィ。防御力はありそうだが、相当体力に自信がある人でなければまともに戦う事すら出来ないだろう。
一通り見て満足した二人は、女性店員に見送られながら店を後にする。そして次のお店へと向かった。防具屋とくれば次は武器屋だろう。
表にも大きな剣が飾ってあり、こちらも防具屋と同様で分かりやすい。中に入ると、防具屋よりも沢山の品が並べられており、その光景は壮観だ。防具屋とは違い、武器はそこまで個人差がないのでそのまま売れるのも一つの理由だろう。
「ユーフォが使えるのは剣だけか?」
「うん、それ以外は触った事もない」
槍や斧、大剣と行った物もあるが先にユーフィが扱える剣を見てみることにする。剣の長さや太さ、素材と行った様々な種類が置いてあり、いくつか良さそうな物を手に取ってみてみるユーフィ。何度か振ってみるがしっくり来ないようで首を傾げる。
「やっぱりこれが一番」
そういって普段使っている剣を取り出すユーフィ。
「その剣は……どちらで?」
するとこれまた防具屋の時と同じように男性店員がやってきて、ユーフィが取り出した剣を物珍しそうに見ている。
「これはお父さんから貰った」
「そうでしたか……。しかしこれは中々お目にかかれない代物ですよ。自分で言うのもあれですが、ここにある物とは比べ物になりません」
「そうなのか?」
「ええ、素材はC……いえ、Bランク相当でしょうか。この剣なら切れ味が落ちる事無く、一生使う事も可能でしょう」
それを聞きさっきも同じやり取りをしたよな、と思ってしまう要。
「そうだったのか……じゃあなんかひやかしみたいになってしまったな」
「いえいえ、こちらも良い物を見させてもらいました」
そう笑顔で答えた店員は、手入れなどがあればいつでも来て下さいといって二人を見送った。
防具屋に続き、武器屋でも思わぬ事が発見された。二人が気付いていなかっただけで、ユーフィの装備は一級品だったりするのだ。そしてそんな装備を娘にあげる両親は娘を冒険に出したかったのだろうか?
「なぁ、ユーフィの親御さんって何者だったんだ?」
「ただの商人……?」
そう答えるもユーフィは自信がなくなってきた。実は冒険者でしたと言われても今なら信じてしまうだろう。取り敢えず当分ユーフィの装備は新調しなくても良い事だけは分かった。
今度向かったのは服屋。なので買い物があるはずだ、と意気込んで入る。直前に入った二つの店のように重々しさは無く、華やかな空間が広がっていた。ユーフィの女の子なので、目をキラキラさせて店内を見渡す。
要もユーフィは今着ている服と寝間着しか無いので、普段着用の物があればと思っていた。
せっかくなのでそれぞれ分かれて見ることに。
今は短パンという事もあり、要は真っ先にスカートを探してみる。色々見て回っていると幾つか気になる服を見つけた。一つは黒を基調として白で装飾の施したゴシック風の服だ。下はスカートでフリルも付いている。装飾は付いている物のは出過ぎないので、ユーフィにも合うだろう。
もう一つは、シンプルなワンピースのようなもの。こちらは薄い水色と白のグラデーションで明る目の服だ。首もとには可愛らしいリボンも付いており、純真なユーフィにはぴったりだ。
他の服も一通り見て回ったが、サイズ的にもデザイン的にも先の二つが一番良かった。値段も手頃だったので、これを提案しようとユーフィを探す。すると反対側からユーフィが何かを持ってやってきた。
「カナメ、これ買う!」
ユーフィがちょっと興奮しながら持っていた物を要に見せる。それは猫耳が付いたフード帽だった。
「な・ぜ・そ・ん・な・も・の・が・あ・る・!」
「カナメとお揃い!」
異世界にそんなものがあるとは思ってなかった要は、鋭い突っ込みを入れる。しかしユーフィは珍しく興奮し、そんな突っ込みをもろともせずにこれが欲しいとせがんでくる。よっぽど要とお揃いになるのが嬉しいようだ。
「お揃いっていったって。本当に欲しいのか?」
「欲しい!」
かつてユーフィがここまで主張した事があっただろうか。そんなユーフィに結局折れてしまった要は買う事になった。ちなみに黒と白二種類あり、丁度要が買おうとした服と合っているのである意味よかったのかもしれない。
要がチョイスした服もユーフィは喜び、服二着帽子二着、計四着のご購入となった。待ちきれないユーフィは早速ゴシック調の服と黒色の猫耳フード帽をかぶりご満悦だ。その愛らしい姿を見た女性店員の目が少し危険で、息も荒くなっていたので慌てて店を後にした。
色々と忙しくなってしまったため、この章から少し更新速度を落とします。
申し訳ありません……。




