第九話:深夜の課外活動と、国家機関の蹂躙
第9話です!
学園をモルモットにしようとした黒幕、魔法省・研究開発局長バルトロメウス。
証拠を掴みケジメをつけさせるため、生徒会メンバーとセナは厳重な警備が敷かれた特務地下タワーへと潜入を開始します。
暴かれる違法プラントの闇と、立ち塞がる異形のキマイラ部隊。
生徒たちの日常を守るための、放課後の総力戦が幕を開けます!
体育祭予行演習の翌日、放課後の生徒会室。
私は生徒会長デスクに両肘をつき、組んだ指の上から極めて平然としたトーンで言い放つ。
「昨日宣戦布告した通り、今夜、魔法省・研究開発局へ直接乗り込んでバルトロメウスのツラを拝みに行く」
隣でリサが優雅に紅茶を注ぎ
「ええ、放課後の課外活動としては妥当なスケジュールですね」
と頷く。
するとソファでくつろぎかけていたセナが、飲んでいたお茶を豪快に吹き出して立ち上がる。
「ちょおおおおっと待ったぁぁぁ!! 課外活動のノリで国家最高機関の中枢にカチコミかけようとすんな!!」
セナは髪を振り乱しながらホワイトボードの前へ走り、鬼気迫る表情で書きなぐる。
『相手は魔法省の正規局長!』
『研究開発局の地下タワーは国家最重要機密指定!』
『防衛結界、自動迎撃ゴーレム、精鋭警備部隊のフルコース!』
一通り描き殴り終えたセナがホワイトボードをバンッと叩き
「制服着た高校生が放課後に殴り込んでいい場所じゃないの! 国家反逆罪でアタシら全員一生地下牢行きだよ!?」
と叫ぶ。
そんなセナのパニックをよそに、役員3人は至って冷静に作戦端末を展開する。
「セナ先輩騒がしいですよ。正面から突入するなんて誰も言ってないじゃないですか」
そう言ってノアが空中に投影したのは、魔法省研究開発局タワーの立体構造図面。
「セナ先輩の監査局IDを偽装プロキシにして外壁の通用口ロックを解除。タクトの認識阻害で監視カメラのログを塗りつぶし、セリア先輩の錬金術で生体認証ドアのシリンダーを泥水化して無力化。これで最下層の実験室まで誰にも見つからずに到達できます」
と、ノアは解説する。
「薬品の保管庫もあるなら、ついでに希少な錬金素材も拝借してこようかしら」
と、セリアも続ける。
「警備兵の視覚も全部『ただの野良猫が歩いてる』ように誤認させとくんで、超余裕ですよ〜」
と、タクトも言う。
淡々と語られる国家機関の攻略計画を聞いて唖然とするセナ。
「えっ、なんで国家機関の鉄壁セキュリティをピクニック感覚で攻略ルート構築できてんの……?」
それを聞いて私は立ち上がり、制服のブレザーを羽織り直す。
「アイツらは私たちの生徒や街の人間をモルモットにした。なら生徒会としてケジメをつけるのは当然でしょ?」
「幸い、セナの所属する監査局には『不正調査のための現場立ち入り権限』があります。あなたを盾……失礼、正当な名目として帯同すれば法的な問題も最小限で済みます」
そう続けるリサにセナが速攻ツッコミを入れる。
「ねえ今アタシのこと完全に『使い捨ての生贄』って言おうとしたよね!?」
呆気にとられるセナの首根っこを掴み上げ作戦会議の席へと無理やり座らせる。
こいつには十二分に働いてもらわないとな。
月明かりに照らされる、魔法省・研究開発局の地下タワー入り口。
黒光りする巨大な外壁と、上空を旋回する重装甲の自律哨戒ゴーレムが見える。
制服姿の生徒会メンバーを引き連れたセナは、物陰でガタガタと震えながら監査局の特務端末を構える
「いい……? ここから先はマジの軍事機密エリアだからね? 指先ひとつでもセキュリティレーザーに触れたら、即座に特級防衛システムが起動して蜂の巣に――」
その警告を聞き終わらないうちに私たちはスタスタと通用口へ歩き出す。
「ちょっとぉ!!!!待ってよぉぉぉぉ!!!」
通用口の生体認証パネルにノアが黒革のノートをかざすと、魔道文字が走って一瞬で認証完了の文字が浮かび上がる。
「監査局長のマスターキーに偽装完了しました。全ゲート顔パスでいけます」
お次は頭上を通過した哨戒ゴーレムがピタリと停止。タクトがパチンと指を鳴らす。
「これでゴーレムのセンサーには生徒会全員が『深夜のゴミ収集カート』として認識されます!」
その通り、ゴーレムは何事も無かったかのように頭上を飛び去っていく。
「国家予算数百億かけた最新防衛網が秒でバグらされてるんだけど!?」
セナはもうツッコミが追いつかないようだ。
地下最下層へ続く特級セキュリティドアの前。厚さ50センチのミスリル合金扉が立ち塞がる。
「ここは物理的な鍵と魔力暗号が二重になってるから、突破には正規の手続きで最低3時間は――」
と、またセナが言い終わる前にセリアがふわりと微笑みながら前に出、白衣の袖から伸ばした指先で扉の中央に触れる。
「ふふ、合金の配合比率が雑ね。……『変質』」
ジュワッと音を立てて鍵穴とシリンダー内部が瞬時に「サラサラの砂」へと変質した。
カチャリと静かに分厚い重力扉が開く。
「物理法則を無視すなーーーッ!!」
止まることを知らないセナのツッコミである。
エレベーターに乗り込み、深層地下プラントへと静かに降下していく一同。
セナは壁際で膝を抱え、遠い目をしながら虚空を見つめる。
(アタシが監査局の潜入訓練で血反吐吐きながら学んだ『ステルス技術』『ピッキング術』『暗号解読理論』って何だったんだろう……この人たち全員、魔法の使いどころが犯罪者すぎる……)
虚ろな目をしてるセナを見て私は声をかける。
「どうしたのセナ?乗り物酔い?」
「あんたらの常識外れっぷりに酔ってんだよ!!」
セナのツッコミが響く中、エレベーターはどんどん下へと降りていく。エレベーターの表示が【最下層:第0実験プラント】に到達し、扉が重々しく開く。
エレベーターの重厚な扉が開くと、そこは巨大なドーム状の地下施設があった。
部屋全体に鈍い紫色の発光が満ちていて、薬品特有の刺激臭がする。
壁一面に並ぶ巨大な培養カプセルの中には、紫色の液体に浸された「生体強化被験体」たちが無数に眠っている。
パイプラインからは、学園で出回っていた違法エナドリの原液がドクドクと高圧で送り込まれている。
それを見たセナが悲鳴をあげ
「うわ……っ、何これ……! 学園どころの規模じゃない、軍隊丸ごと一つ作れるレベルの生産プラントじゃん……!」
と言う。
ノアが無言でメインフレームの端末へ駆け寄り、黒革のノートを開いてコンソールに魔導文字を叩き込む。
「人体実験ログ、被験者の名簿、違法資金のマネールート……全部出ました。上層部のサイン入り承認データも含めて、完全バックアップ完了です」
ノートを閉じ、こちらへ合図をする。
「これで言い逃れはできませんね。魔法省全体の査問会議にかけても一発で失脚させられるレベルの動かぬ証拠です」
と、リサは言う。
(ヤバいヤバいヤバい……!これって正真正銘国家反逆じゃん……!闇深すぎ……)
見てるだけしかできないセナはそう思いながら背筋を凍らせた。
「パチ……パチ……パチ……」
静寂のプラント内に、わざとらしい拍手の音が響き渡る。
中央のキャットウォークから、豪奢な魔法省の正装コートを羽織り、白髪混じりのオールバックに冷徹な笑みを浮かべた男が姿を現す。
「見事だ、監査局のネズミ……いや、そこの高校生諸君と言うべきかな?」
「ヒッ……! 魔法省研究開発局長、バルトロメウス……!!」
バルトロメウスは手すりに手をかけ、見下ろすように嘲笑う。
「我が鉄壁の防衛網をこうも易々と突破するとはな。特にそこの生徒会長……『瞬間凝固』の特異体質か。素晴らしい。実に素晴らしい素材だ」
バルトロメウスが指を鳴らすと、プラントの奥から重い足音が響き、四方から影が躍り出る。
現れたのは、単なる強化人間ではなく、魔獣の肉体と高純度魔力回路を無理やり縫合された4体の異形兵士『キマイラ部隊』。
放たれる魔力圧だけでプラントの床がビキビキとひび割れ、セナは息が詰まりそうになる。
「貴様らの優秀な遺伝子と魔導回路、我が『完全魔導兵士計画』の礎となってもらおう。――生け捕りにしろ」
逃げ場のないプラント中央で包囲され、絶体絶命の構図となった。
四方を囲むキマイラ部隊から放たれる、規格外の魔力圧。
セナは壁際まで後ずさり、監査局の拳銃型魔導具を構える手すら小刻みに震えている。
「ちょ……っ、あれ全部『特務A級指定』の違法魔獣と人間の融合体じゃん! 本物の軍隊でも壊滅するレベルだよ!? 逃げ場ないってば!!」
絶叫するセナの前で、生徒会メンバーは誰一人として眉ひとつ動かしていない。
ノアは黒革のノートをひらひらとさせて
「全データのバックアップ終わったんで、ここ丸ごと吹き飛ばしても証拠保全はバッチリですよ」
と言うし、セリアは
「薬品の配合データも抜いたわ。後で解毒剤も量産できるわね」
とふわりと微笑むし、タクトは
「外の増援用エレベーター、認識阻害で『ずっと満員で乗れない』状態にしておきました〜」
と了解ポーズ。
キャットウォークから見下ろすバルトロメウスが、生徒たちの余裕を「現実逃避」と受け取って鼻で笑う。
「ハハハ! 己の置かれた状況も理解できんとは、やはりガキだな。国家最高峰の研究成果であるこのキマイラたちを前に、無力な高校生が何を守れるというのだ?」
「貴様らの命も、未来も、すべてこの魔法省の実験台として消費されるのだよ!」
私はゆっくりと一歩前に出る。
その足が床を踏みしめた瞬間、床一帯の空気と分子が『瞬間凝固』の余波でギチリと軋む。
「……何を守れるか、だって?」
私は心の底から冷徹な眼差しでバルトロメウスを見上げ、制服のネクタイを緩めながら拳の骨をポキリと鳴らす。
「私たちが守るのは、放課後の平和な時間と、購買の焼きそばパンと、生徒たちの普通の日常だけだ」
リサは眼鏡をクイと押し上げ、掌に絶対零度の氷華を咲かせる。
「ええ。校則第4条『学内外を問わず、生徒の平穏を脅かす害虫は徹底的に駆除すること』――ですね、会長」
「うん、生徒手帳に国家の腐った役人は物理で指導する』って追記しといて」
バルトロメウスの顔から笑みが消え、苛立ちとともに腕を振り下ろす。
「生意気な小娘が……八つ裂きにしろ!!」
咆哮を上げて一斉に飛びかかる4体のキマイラ部隊。
迎え撃つ生徒会メンバーの瞳に、極彩色の魔力の光が点火する。
セナは確信する。
(あ、これ……詰んでるのはアタシたちじゃなくて、あの局長の方だわ……)
アイラ、最初はこんな物理ゴリゴリ系じゃなかったんですけど、リサとの相性が良すぎて物理ゴリラになりました。
絵描きなんでキャラデザも同時に練ってるんですけど、いやあ決まらない決まらない。
ちなみにイメージカラーは
アイラ 赤
リサ 青
セナ 黄色
の信号機トリオです。




