第八話:偽りの予行演習と、黒幕への宣戦布告
青空の下で響く歓声とピストルの号砲。
その地下数メートルで繰り広げられる、誰にも知られない3秒間の蹂躙劇――。
第8話、生徒会フルメンバーによる隠密オペレーション開幕です!
生徒会室のドアが「ダンッ!」と激しい音を立てて開き、汗だくで息を切らしたセナが倒れ込むように滑り込んでくる。
腕に抱えたビニール袋から、プレミアム焼きそばパンとジュース類が中央テーブルの上に乱雑に放り出された。
「はぁ……っ、はぁ……っ! 買ってきた! 頼まれたパン全部買ってきたから、それどころじゃない話を聞いてぇぇ!!」
息も絶え絶えに叫ぶセナの横で、タクトが「あ、俺のいちごオレあざっす〜」とストローを刺し、セリアが「ありがとう、セナちゃん」と優雅にフルーツサンドを受け取る。
セナは肩で息をしながら、中庭の旧校舎通路で目撃した一部始終を身振り手振りで吐き出す。
「化学の黒縁メガネの教師が! 学外のヤバい奴と密会してた!」
「あと、相手の男子生徒、目が紫色に光ってて血管浮き出てて……魔力レーダーが振り切れるレベルのバケモノだった!」
「明日の『体育祭の予行演習』のどさくさに紛れて、地下の結界炉を破壊する気だよ!!」
はぁ、はぁと息を切らしながら説明し終える。
「はい、これですね」
ノアが淡々と黒革のノートを叩くと、空中に魔導ホログラムが浮かび上がり、セナが目撃した現場の映像が再生される。
「セナ先輩の端末のGPSから座標逆算して、過去10分の中庭の残留魔力を遠隔視で再現しました」
「仕事が早すぎて怖いんだけど!?」
映像に映る男子生徒の魔力波形を見て、セリアが眉をひそめる。
「間違いないわね。うちで解析した違法エナドリの原液を、何十倍にも濃縮して静脈投与された『生体強化被験体』よ。痛覚も恐怖も麻痺していて、純粋な破壊力だけなら正規の軍用魔導士並みね」
リサも続ける。
「そして、内通者はやはり化学の加藤教諭でしたか。彼が持つマスターキーがあれば、地下の結界炉への侵入は容易です」
明日の体育祭予行演習……グラウンドに全校生徒が集まる時間帯か。
「生徒たちを人質に取られる形になる前に、裏で片付けるよ」
役員全員の表情から日常の緩さが消え、一瞬で「裏の防衛部隊」の精悍な顔つきへ切り替わる。
「作戦目標は2つ。一般生徒に魔法の存在を一切悟らせないこと。そして、予行演習の終了までに内通者と刺客を完全制圧すること」
私はそう宣言する。
リサがセナの方を向いて、告げる。
「セナ。あなたには最も重要な『管制塔』を担当してもらいます」
「えっ、アタシが……!?」
「明日の予行演習中、放送室の音響・防犯システムをあなたのハッキングで掌握しなさい。私たち全員のインカムに敵の位置情報とカメラ映像をリアルタイムで流すのです。……できますね?」
パシリ扱いから一転、初めて自分の本領を頼りにされたセナは、ゴクリと唾を飲んで瞳に火を灯す。
「……任せといて!監査局首席ハッカーの腕前見せてやろうじゃないの!」
生徒会5人+スパイ1人による、体育祭の裏での迎撃作戦が完全に決定した瞬間だった。
雲ひとつない青空の下、グラウンドには体操着姿の全校生徒が集まり、メガホンの声や入場行進の音楽が響き渡る。
私は体操着に腕章を巻いて、全体を統率する。
「白組!列を整えて!器具係はライン引きの準備!」
リサは本部テントでクリップボードを手に、進行プログラムのタイムスケジュールを冷徹に管理している。
セリアとタクトは、救護テントと用具倉庫前で、一般生徒の誘導を完璧にこなしている。
ここまでは至って普通の体育祭の準備だ。
校舎3階の放送室。鍵が内側からかけられた室内で、セナがヘッドセットを装着し、持ち込んだ端末を放送卓のメインフレームに直結。
目の前に並ぶ複数のモニターには、校内全域の監視カメラ映像、魔力探知レーダー、そして生徒会全員のバイタルと位置情報がリアルタイムで展開される。
「ふーっ……よし、全校の監視カメラと魔力センサーのハッキング完了。全回線、クリア」
インカムのマイクを指先でトントンと叩く。
「みんな、聞こえる?こちら管制塔のセナ様!これより『害虫駆除作戦』のナビゲートを開始する!!」
普段のポンコツぶりは完全に消え去り、監査局トップクラスのハッカーとしての鋭い目つきに切り替わった。
「感度良好、一般生徒の目は私たちが引きつけてるよ」
私がマイクを隠して応答する。
「校内の魔力通信トラフィク、監視下に置きました。いつでもジャミング可能です」
ノアの声がインカムから聞こえる。
その瞬間、セナのコンソールに真っ赤な警告が点滅。
「来た!ターゲットA(加藤教諭)、グラウンドの用具回収を装って旧校舎地下通路へ単身移動中。ターゲットB(強化刺客)も後者裏の死角から合流ポイントへ接近してる!」
グラウンドでは放送部員のアナウンスが響く。
『続きまして、1年生男子による100メートル走の予行を行います――!』
ピストルの号砲「パンッ!」という音が鳴り響くと同時に、リサが本部テントの陰からスッと気配を消してインカム越しに伝える。
「会長、持ち場を離脱しました。タクト、セリア先輩、地下通路の遮断ポイントへ」
私はその合図を聞いて答える。
「了解。……セナ、最短ルートを案内して」
「オッケー、旧校舎西階段から地下へ直行して! ターゲット接触まであと30秒!」
表の体育祭の歓声が最高潮に達する中、地下への潜入・迎撃カウントダウンが始まった。
旧校舎の薄暗い地下通路。加藤教諭が震える手でマスターキーを回し、結界炉の重厚な鉄扉を開けようとする。
その背後で、タクトが指をパチンと鳴らす。
「展開――『認識迷彩・虚飾の無音空間』」
通路全体に淡い光の膜が広がり、一般生徒やグラウンドからの視覚・聴覚・魔力探知が完全に遮断される。どんな大爆発が起きても表には「埃っぽい空き部屋」にしか見えない完璧な密室が完成。
加藤教諭が懐から魔力干渉起爆装置を取り出し、結界炉の制御パネルへ押し付けようとした瞬間、スッと背後に現れたセリアがその装置に指先を触れる。
「なっ……生徒会の……!?」
「先生、学校の備品は大切に扱わないとダメですよ?」
セリアの魔力が通った瞬間、金属と魔導回路でできた起爆装置がボトボトと「ただの粘土と泥水」に変質して床に崩れ落ちる。
「ひっ……ぶ、物質変化……!? なぜ生徒が特級錬金術を……!」
泡を食って逃げ出そうと懐の通信機に手を伸ばす加藤教諭の頭上に、ノアの淡々とした声が降る。
「無駄ですよ。先生の端末から魔法省上層部への通信回線、俺の記録魔法でループパケット噛ませてあります。『結界炉の破壊に成功した』って偽の完了ログを送っておきましたんで」
「貴様ら……一体何者なんだ……!?」
そこへ、頭上の通気ダクトを粉々に破壊して「ターゲットB(強化刺客)」が天井からドスンと着地する。
紫色に濁った瞳から禍々しい魔力を放ち、全身の筋肉を異常膨張させた刺客が、重金属の破片を握り潰しながら咆哮を上げる。
「障害ハ……スベテ……ミンチニ……スル……ッ!!」
地面を蹴っただけで地下のコンクリート床がクレーター状に陥没し、超質量の一撃がセリアとタクトへ向けて放たれる。
インカム越しにセナの悲鳴が響く。
「危ないッ!! 逃げてぇぇぇ!!」
その超音速の突進の正面に、空間を突き抜けてアイラとリサが音もなく割り込む。
暴走した強化刺客が地下通路の空気を爆ぜさせながら放った必殺の拳。
その目前にスッと立ち塞がったリサが、眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせて手をかざす。
「展開――『六重凍結絶対結界』」
刺客の拳が接触した瞬間、空間そのものが凍りつくような硬度の氷結結界が六重に展開され、轟音とともに突進の運動エネルギーを完全吸収・相殺される。
刺客の両腕から胴体にかけて一瞬で青白い永久凍土の氷が走り、完全にその場へ縫い止められる。
「ガ……ッ!? 動カ……ナ……ッ!?」
チャンス!
拘束された刺客の頭上、空間を蹴って私が音もなく跳躍する。
右拳に限界まで魔力を圧縮し、大気中の分子を一点に固定する。
「――『瞬間凝固・破砕撃』」
空気が圧縮されて炸裂する衝撃波とともに、刺客の鳩尾へ完璧な一撃が突き刺さる。
強化人間の巨体がくの字に折れ曲がり、背後のコンクリート壁に大穴を開けてめり込み、白目を剥いて一瞬で完全沈黙した。
戦闘開始からわずか「3秒」での完全制圧。
タクトの認識阻害結界のおかげで、地下の激突音は外へ一切漏れていない。
通信越しに息を呑んでいたセナの耳に、グラウンドからの呑気なアナウンスが響く。
『続きまして〜、2年生女子による綱引きの準備をお願いします〜』
「……うそでしょ。あんな軍用クラスのバケモノを3秒で片付けたの……? うちの生徒会、マジで何なの……?」
私は拳の埃を払いながら
「セナ、ナイスナビ!タイミング完璧だったよ」
「えっ……あ、えへへ、まあアタシにかかれば当然というか〜!」
……相変わらずちょろいというか何というか……
倒れた刺客の首元から、セリアが錬金術でピンセットを生成し、埋め込まれていた極小の「魔法省特務回線チップ」を摘出。
アが手元の端末でチップをスキャンし、即座に大元の通信元を特定する。
「発信元の暗号ID出ました。……魔法省・研究開発局長『バルトロメウス』直属のプライベートラインっす」
リサが通信を強制接続し、スピーカーをオンにする。
スピーカーから黒幕の焦った声が漏れる。
『……おい、どうした!? 結界炉の爆破は完了したのか!?』
私は冷たい笑みを浮かべ。通信機へと言い放つ。
「残念だったね、お前のモルモットも内通者も、全員うちの生徒会が片付けたよ」
「生徒たちの日常を実験場にする気なら……次はこっちから、魔法省の執務室まで殴り込みに行ってやる。首洗って待ってな」
通信をブチッと握り潰し、生徒会全員が不敵な笑みを浮かべる。
こいつら本当に何者なんでしょうね(真顔)
セナの反応が一番正しいと思います。




