第七話:生徒会室の怪物たちと、パシリになったスパイ
廃工場での惨劇(答え合わせ)を乗り越え、週明けの生徒会室へとやってきたセナ。
「会長と副会長以外の3人は普通の一般人生徒でしょ!」と、性懲りも無くマウントを取りにいこうとしますが……?
待ち受けていたのは、神業ハッカー書記、劇薬を紅茶に変える錬金術会計、そして陰湿すぎる幻惑使いの庶務!
「生徒会、全員バケモノじゃん!!」
ポンコツスパイが最下層パシリへと叩き落とされる、哀愁の第7話です!
週末の廃工場での修羅場から明けた月曜日の夕方。
廊下に響く軽快なヒール音とともに、生徒会室の重厚な木製ドアが勢いよくバーンと開け放たれる。
ポケットに片手を突っ込み、もう片方の手で最新型の監査局支給タブレットをくるくる回しながらセナが入室した。
「お疲れ〜っす! 約束通り、監査局の機密データベースから特ダネ引っ張ってきてあげたよ〜!」
金髪を揺らしながらドヤ顔全開で声を張り上げる。
室内にいるのはいつもの会長デスクで頬杖をつく私と隣で優雅に紅茶を入れてるリサだけではない。
分厚い黒革のノートを開きながら複数の空中魔導スクリーンを淡々と拘束フリックしている書記のノア。
白衣を制服の上に羽織り、フラスコに入った紫色の液体をマドラーで静かに撹拌してるセリア。
窓辺でだらけながらスマホをいじりつつ、指先から透明な光の波紋をパチパチと遊ばせてるタクト。
セナはわざとらしく咳払いをし、ツカツカとノアやタクトのいる中央テーブルへ歩み寄る。
「そこの後輩くんたち、アタシは今日から生徒会の特別補佐官(自称)になったセナ様ね! 魔法省直属の極秘任務中だから、一般人のあんたたちには刺激が強すぎるかもだけど〜?」
タブレットの画面に浮かぶ【魔法省・最重要機密・暗号化コード】のド派手なホログラムをちらつかせ、勝ち誇った笑みを浮かべるセナ。
アイツ……また取り返しのつかない地雷を踏みに行ったな……
セナはドヤ顔でタブレットを突き出す。
「これ、魔法省の多重暗号プロトコル『オメガ・コード』でロックされてっから! 一般人には解読どころか画面を見ることも――」
「あ、それ。監査局が3年前に更新サボってる旧式の第4世代プロトコルですね」
ノアが空中に指を走らせる。すると黒革のノートから淡い魔道文字が奔流となって飛び出し、セナのタブレットへ直結した。
カチリ、と音が鳴り、わずか2秒で最高機密データが全解読されて部屋の中央に巨大ホログラムとして展開される。
唖然とするセナ、我に返ったようにツッコミをする。
「は……!? なんで無詠唱で国家レベルの暗号突破してんの!?」
それに対してノアは淡々と答える。
「記録魔法でバックドア常設してるんで。学園の裏サイトのパスワード抜くより簡単ですよ」
泡を吹きかけるセナの鼻先に、フワリと芳醇なアールグレイの香りが漂う。
「セナちゃん、潜入捜査お疲れ様。はい、これどうぞ」
セリアが優雅に差し出したティーカップの中身を見て、セナの目が飛び出る。さっきまでフラスコで怪しい紫色の煙を上げていた「廃工場の違法エナドリ原液」が、完璧な高級紅茶に変化している。
「劇薬指定の成分を錬金術で完全に中和・置換しておいたわ。飲むと魔力循環が良くなって肩こりも治るのよ?」
「猛毒の違法薬物をティータイム感覚で無力化すな!!」
絶叫するセナの背後で、窓の外から「バチッ」と微小な放電音が響く。
今度は何!?と振り返るセナ。
「あー、セナ先輩。さっきから監査局の索敵ドローンが窓の外をうろついてたんで、認識阻害かけておきましたよ〜」
窓の外を見ると、最新型の軍用ステルス偵察機が、タクトの幻覚術式によって「屋根で羽づくろいをするただの鳩」として処理され、クルクル回っている。
「ついでに生徒会室全体を『入るとなぜか無性にトイレに行きたくなる空間』に偽装しといたんで、先生も入ってこれないっす」
「後輩の能力の使いどころが陰湿すぎる!!」
周囲を見渡せば、神業レベルの情報戦、錬金術、幻惑魔法を「放課後の雑談ついで」にこなす生徒会メンバーたちがいる。
「あー……言っておくけどセナ、うちの生徒会で魔法を使えない一般人は……」
「ええ、一人もいません。全員が各分野の特化型実力者です」
「一般人生徒会の裏で暗躍する孤高のスパイっていうアタシの設定どこ行ったのぉぉぉぉ!!?」
セナが頭を抱えて床に転がり、生徒会内での最弱・最下層ポジションが完全に決定づけられた瞬間だった。
生徒会室の隅っこで体育座りをしてぶつぶつと呟くセナ。
「アタシの自尊心が……国家スパイの尊厳が……」
そんなセナを完全に背景扱いし、5人の生徒会役員による極秘会議が始まる。
ノアが空中に展開した魔法省の暗号化ホログラムには、学園の敷地図と魔力流通ルートが克明にマッピングされている。
「セナ先輩が抜いてきたデータ、ガチのやつでしたね。学内の『違法エナドリ流通ルート』……元締めは外部の裏組織ですが、校内に明確な【仲介役】がいます」
「生徒じゃなくて大人の手引きがあるってこと?」
まぁ子供だけじゃあんなことできないしね。
「ええ。学園の大規模結界を内側から一部解除できる権限を持つ者……生徒ではなく、教員側の人間と見るのが妥当です」
リサが冷静に分析する。
セリアがエナドリの解析術式を展開しながら話す。
「エナドリの変質パターンから逆算すると、調合場所はおそらく第2理科準備室ね。私が放課後に薬品庫の在庫ログを物質変化で照合してくるわ」
スクリーンを高速フリックしてたノアも続ける。
「僕は遠隔視で全教員の過去1ヶ月の魔力通信ログを漁ります。不自然な暗号通信があれば一発で特定できます」
ドローン操作していたタクトも会議に参加し、
「じゃあ俺は、各教室の監視カメラの映像に認識阻害のループ映像を噛ませておきます!会長たちが動いても絶対バレないように」
各メンバーの方針が決まった。
「よし。特定でき次第、私とリサで現行犯を押さえて物理的に黙らせるよ」
無駄のない流れるような連携に、セナは開いた口が塞がらない。
完璧な作戦が組み上がる中、ふと私は床のセナを見下ろす。
「セナ」
「は、はいっ!?(ビクッとして背筋を伸ばす)」
「アンタには一番過酷で、一歩間違えれば全滅する極秘任務を頼みたいんだ」
(えっ……!? アタシのハッキングや情報収集の腕を認めて、潜入の要として頼ってくれるの……!?)と一瞬で目を輝かせるセナ。
そんなセナの前にリサがスッと千円札を差し出す。
「購買へ行って、全員分の飲み物と、限定の『プレミアム焼きそばパン』を3つ、あとセリア先輩のフルーツサンドを買ってきなさい。放課後の購買争奪戦は激戦区ですから、失敗は許されませんよ」
相変わらずスクリーンと向き合ってるノアが付け加える。
「あ、僕メロンパンで」
タクトも乗ってきた。
「俺はいちごオレで〜」
即座にツッコミを入れるセナ。
「ただのパシリじゃねーかぁぁぁ!!」
「アンタが一番『怪しまれずに校内をうろつける不良ギャル』なんだよ。ほら、10分で戻ってこないとリサが氷漬けにするよ?」
「3、2……」
と、カウントダウンを始めるリサ。
「カウントダウン早すぎぃぃ!! 買ってくるからぁぁぁ!!」
セナは千円札をひったくり、涙目で生徒会室のドアを蹴破る勢いで飛び出して行った。
放課後の購買部という名の戦場で、セナは持ち前の小柄な体躯とすり抜け技術をフル活用していく。
プレミアム焼きそばパン3つ、フルーツサンド、メロンパン、いちごオレを抱え、ビニール袋を両手に提げて勝ち誇った顔で中庭の渡り廊下を歩く。
「ふんっ、見たか生徒会共め! アタシにかかれば購買のタイムセール争奪戦など赤子の手をひねるようなものよ……って、何でアタシこんな真面目にパシリ完遂してドヤってんの!?」
と、一人ノリツッコミを入れながらため息をつく。
その瞬間、セナのブレザーの内ポケットで監査局支給の小型魔力レーダーが「ビビビッ!」と激しい警告音とともに震える。
慌てて人目のつかない場所で画面を確認すると、計測限界を示す、真っ赤なアラート点滅が映っていた。
『感知魔力値:規格外(クラスAオーバー)』
セナの背筋に冷たい汗がツッと伝う。廃工場のチンピラたちとは比較にならない、明らかに「正規の軍用魔導士」か「人体実験で限界突破した怪物」の異常な魔力反応。
セナはとっさに柱の影に身を隠し、気配を殺して中庭の奥(旧校舎への連絡通路)を覗き込む。
そこには、神経質そうに眼鏡を指で直す化学教師と、制服を着崩した見慣れない男子生徒が立っていた。
男子生徒の瞳は異様な赤紫色に濁り、首筋には血管が青黒く浮き出ている――明らかにエナドリの原液を過剰投与された強化被験体だ。
「……手はず通りだな? 体育祭の予行演習のどさくさに紛れ、地下の結界炉へこの魔力干渉装置を設置しろ。邪魔な生徒会長どもは、お前が排除して構わん」
「了解……。実験の障害は、すべてミンチにする」
男子生徒が軽く握り拳を作っただけで、周囲の敷石にピキピキと亀裂が走り、重力そのものが歪むような威圧感が放たれる。
(ヤバいヤバいヤバい!! あの教師が黒幕の協力者で、あの男は完全にイカれた生体兵器じゃん!!)
戦闘力ゼロのセナは一瞬で戦慄し、息を殺して後ずさりする。
自分が立ち向かえば1秒で肉塊にされると理解したセナは、抱えたパンの袋を両腕でガッチリ抱え直し、生徒会室へ向けて脱兎のごとくダッシュを開始する。
(アイラちゃん! リサ副会長! あと有能すぎる生徒会のバケモノ共ーーーッ!! 今すぐあいつらを物理でボコボコにしてくれぇぇぇ!!)
本当にセナは可哀想で可愛いな……
そうなんですよ可哀想って可愛くて(オタクの謎理論)(日本書紀にも記されてるってフォロワーが言ってた)




