第六話:剥がされたメッキと、新たな共犯関係
「なんで2人とも知ってんの!? ていうかアタシが一番ピエロじゃん!!」
廃工場に響き渡るスパイの悲鳴。
すれ違いの答え合わせと、裏生徒会チーム結成の第6話です!
破壊された廃工場に冷たい夜風が吹き込む。
壁にめり込んだチンピラと、首から下を氷漬けにされた元締めリーダーがピクピクと痙攣するだけの完全な静寂。
の中央で、セナのポケットから落ちた黒革の手帳が、夕暮れの光を反射して金色の紋章――『魔法省・監査局』の刻印を鈍く光らせている。
セナはへたり込んだまま、額から冷や汗を滝のように流して完全に硬直している。
一方私とリサはというとさっきまでの「過保護な先輩」の気遣いは跡形もなく消え失せている。
私は無言で歩み寄り、爪先で器用に手帳を跳ね上げてキャッチ。パラパラとページをめくり、セナの顔写真と『見習い潜入調査官』の文字を確認する。
「……ねえ、なんでただの小遣い稼ぎの不良ギャルが、国家最高機関の身分証持ち歩いてんの?」
リサは眼鏡をクイと押し上げ、氷の結晶を指先でチリチリと遊ばせながらセナの正面へ立つ。
「説明を求めます。万が一、公文書偽造や他人の身分証の窃盗なら……生徒指導部と警察の前に、魔法省の正規治安部隊へその身柄を突き出すことになりますが?」
セナは引きつった笑顔を浮かべ、両手をブンブンと振って必死の言い訳を試みる。
「え、あ、あはは〜! な、なんのことかな〜!? それはあれ! ほら、次の文化祭の演劇用の小道具! アタシってば役作り熱心だからさ〜!」
私は無詠唱で手帳にほんの微弱な魔力を通すと、魔法省の正規偽造防止術式が青く反応して本物であることを証明している。
「本物の登録術式が生きてるよ」
「ええ。言い逃れは不可能です。……セナ、3秒以内に本当のことを吐きなさい。さもないと、あの男たちと同じように首から下を氷漬けにして生徒会室へ連行します」
リサの絶対零度の瞳と、私の底知れない威圧感に挟まれ、セナのプライドとメッキが完全に音を立てて崩壊した。
「わ、分かりましたぁぁぁ!! 吐く! 全部吐くから凍らせないでぇぇ!!」
セナは正座して両手を床につき、涙目で完全降伏した。なんて情けないんだ……
私ととリサは生徒会の冷徹な上司のようなオーラを放ちながら見下ろす。
ひび割れたコンクリートの上で、セナが絵に描いたような正座をして涙目で両手を合わせている。
私は手帳をパタンと閉じ、リサは腕を組んだまま、冷徹な上司のようにセナを見下ろす。
「ほんっとすみませんでした! 嘘ついてました! アタシ、魔法省・監査局の潜入調査官……の、見習いです……!」
「アタシ監査局の適性試験……変装・ハッキング・情報収集とかはは首席レベルで突破したんすけど、戦闘実技、魔力出力の成績がま〜じで壊滅的でぇ……次の任務で結果を出さないとクビって言われてたんっす……」
「そこで学内で流通してた違法魔力エナドリの情報を掴んで、手柄を得て正式採用目指して単独で運び屋やってたんっす……」
「でもさぁ! 途中でエナドリの魔力が暴走しかけたり、配電盤の異常が起きたりして、アタシの魔力じゃどうにもならなくて詰みかけてたの!」
「そしたらアイラちゃんが無詠唱で超高等中和術式をサラッと使ってるのを見ちゃって……」
「この生徒会長、バケモノ級に強いじゃん! うまく口車に乗せて味方に引き込めば、アタシは戦わずに手柄だけ総取りできる!って閃いたんっす……」
セナの自分勝手すぎる思惑を聞き終え、私とリサの周囲の空気がマイナス数十度まで冷え込む。
「……要するに、私はお前のクビ回避と手柄のために、タダ働きの用心棒としていいように使われてたわけだね?」
「そして私は、何も知らない無力な一般人役として、あなたの茶番に付き合わされていたと」
私は拳をパキパキと瞬間凝固させ、リサの足元からは霜が広がる。
「ヒッ……! いや、あの、会長の圧倒的な実力に惚れ込んで頼りにしたというか、リサ副会長の美貌と統率力に配慮したというか……!」
セナは弁明すればするほど墓穴を掘っていく。
ついには借りてきた猫のように丸くなってしまった。
しかしセナもあまりの状況の理不尽さに脳の処理が追いつかなくなり、正座のままバンッと床を叩いて立ち上がる。
「ていうかさぁ!! 怒られる筋合い半分くらいなくない!? そもそもおかしいでしょこの状況!!」
涙目で鼻をすすりながら、私とリサを交互に指差す。
「なんで名門校の生徒会長と副会長が、揃いも揃って特級クラスの戦闘魔導士なわけ!?」
「しかも何その阿吽の呼吸!? 『伏せてろセナ!』からの氷壁と音速パンチって何!? 一言も打ち合わせしてないのに完全にプロの特殊部隊の動きだったじゃん!!」
「リサ副会長なんてさっきまで『校則に従いなさい』みたいな顔してたくせに、無詠唱で軍用火炎術式を粉砕するとか詐欺でしょ!!」
荒れ狂うセナに対し、私とリサは冷めた目で顔を見合わせる。
「いや、私たちは最初からお互いが魔法使いだって知ってるし」
「ええ。入学当初から互いの術式適性と実力は把握済みです。生徒会の職務と並行して、学内の魔力トラブルを隠密処理するのは私たちの日常業務ですから」
2人の「何を今さら当たり前のことを言っているのか」というトーンに、セナの動きがピタリと止まる。
「……え、じゃあアタシが裏で『副会長には内緒ね!』とか目配せしてたの、全部……?」
「ああ。『この馬鹿、自分が一般人だと思って必死に俺たちを守ろうとしてるのか?』ってリサと心配してた」
「身の程知らずな一般人生徒が死なないよう、極限まで過保護にガードプランを組んであげていました」
「アタシが一番のピエロじゃんんんんん!!!」
廃工場にセナの絶叫が木霊する。
エリート(自称)スパイのプライドが完全に塵となった瞬間だった。
セナが頭を抱えて悶絶している中、氷漬けにされた元締めリーダーの胸ポケットから「ピピッ、ピピッ」と無機質な電子音が鳴り響く。
リサが眉をひそめ、氷を一部だけ解凍して端末(魔法省規格の暗号通信機)を回収した。
「解析術式展開します」
すると通信がスピーカーモードで強制展開される。
「状況はどうだ。高校生を使った『魔力賦活薬』の臨床データは回収できたか?」
「監査局の小娘が紛れ込んでいるようだが、証拠隠滅を優先しろ。学園の結界炉を使った次段階の実験へ移行する」
通信は一方的に遮断された。
「……音声コードと発信元を特定する」
私も術式を展開して、分析を始める。
その音声コードと発信元の認証キーを浮かび上がらせた瞬間、セナの顔から血の気が引く。
「これ……監査局の回線じゃない。魔法省の『研究開発局』のトップシークレット回線だ……」
つまり……この違法エナドリ騒動は単なる裏社会のシノギではなく、魔法省の腐敗派閥による大規模な人体実験だったということになる。
はぁ……とひとつため息をつく。
「平穏な高校生活を守るために裏で火消ししてきたけど……大元が学校そのものを実験場にする気なら、話は別だね」
「ええ。生徒たちに害をなすなら、相手が魔法省の上層部だろうと生徒会として徹底的に排除します」
2人の圧倒的な覚悟と規格外の強さを前に、セナは(この2人に切り捨てられたらアタシ確実に消される……!)と本能で察知する。
セナは涙目を拭い、地面に手をついて必死に食らいつく。
「頼む! アタシを置いてかないで!! アタシ、戦闘は無理だけど監査局のハッキングと内部データの抜き出しなら誰にも負けないから! 2人の手足になって何でもするからぁぁ!!」
2人は視線を交わし、呆れ半分、納得半分で口元を緩める。
「いいってことにしよっか、その代わり……タダ働き用心棒のツケは高くつくからね」
「月曜から生徒会室へ来なさい。まずは雑用と、書類整理100枚から始めてもらいます」
「へーい……喜んでぇ……(涙声)」
こうして【最強の生徒会コンビ】×【ポンコツ情報屋(専属パシリ)】の歪で最強の裏チームが正式に結成された。
「さて、残りの生徒会メンバー(ノア、セリア、タクト)にも状況を共有して、大掃除の準備を始めますか」
これでひとまず第1章?閉幕です。
セナは書き始めた当時はこんなポンコツキャラじゃなかったんですけど、こいつ動かしてくうちに愛着が湧いて、この設定に至りました。
これからメキメキ働いてもらいましょう。
ところでこの3人マジでどこかでくっつかないんですか?




