第五話:放課後の決戦と、最悪の答え合わせ
第5話です!
廃工場で密輸組織の元締めたちに包囲されてしまった3人。
戦闘力ゼロのセナは、一般人生徒である(と思い込んでいる)リサを庇うため必死に盾になろうとします。
しかし、そこで放たれたのは敵の攻撃ではなく、生徒会トップ2による規格外の超高等魔術で……?
勘違いの答え合わせへと繋がる、爽快な秒殺バトル開幕です!
土曜日の夕暮れ。市外れの工業地帯にある、錆びついた廃クレーンと割れたガラスが散らばる旧資材倉庫。
割れた窓から差し込む夕陽が長い影を落とす中、アイラとリサは倉庫2階の点検用通路の鉄骨陰に身を潜めていた。
2人とも私服ではなく、あえて生徒会としての「現場視察・取り締まり」を口実にするため、制服姿で来ている。
空気に漂う微かな「変質した魔力」の異臭。2人は言葉を交わさずとも、すでにここがただの不良の溜まり場ではないことを感知していた。
軋む重いシャッターを蹴り開け、セナが中央の開けたスペースへ1人で歩み出てくる。
ポケットに両手を突っ込み、ガムを膨らませてパチンと鳴らすなどして、完全に緊張感ゼロである。
「だる〜、ここホコリやばすぎっしょ」
などとぼやきながらスマホを取り出し、自撮りを装って周囲を録画しつつ、時間を潰す。
そんなセナの様子を見て、私とリサの額に同時に青筋が浮かぶ。
「あの問題児、命の危険がある場所だと何度言い聞かせたら理解するのかしら……」
と、メガネを押し上げ、冷たい怒りを滲ませる。
手元の指先にはいつでもセナの周囲へ展開できるよう『高圧縮の局所防御術式』を無詠唱でスタンバイさせている。
「まったく……肝が据わってるのか、ただのアホなのか……」
と、私も胃を押さえながら舌打ちをする。
ポケットの中で『中和・衝撃拡散の魔力パス』をセナの足元の空間にミリ単位で結びつける。
お互いに「隣の相手は一般人生徒」という建前を崩さないよう、魔法の起動光を極限まで不可視化しながら、セナを絶対死なせないための二重の過保護ガードを水面下で完成させる。
簡単に言っているが、正直ここまでできる魔法使いはそうそういない。かなりハイレベルなことを行っているのは事実だ。
ガムを噛むセナが「おーい、約束の5時過ぎてんだけど〜? 出てこないと帰るよ〜?」と呑気に声を張り上げる。
その瞬間、倉庫の最深部、重油タンクの暗がりから「カツ、カツ」と硬い靴音が響く。
一瞬で周囲の気温が急上昇し、セナの足元のコンクリートがチリチリと焦げ始める。
__________来た。
一般人のチンピラではない、明らかに「人を焼き殺すための魔力」を纏った複数の気配が現れる。
暗がりから現れたのは、黒いロングコートを着流した大柄な男と、両腕に魔導刻印を刻んだチンピラ風の魔導士2名。
男たちの足元からは陽炎が立ち上り、周囲のドラム缶の塗装が熱でじりじりと泡立っていく。
リーダー格の男がセナを見下ろし、冷え切った笑みを浮かべる。
「ご苦労だったな、運び屋の小娘。……だが、フィオナが捕まり、学内の生徒会が嗅ぎ回っていると聞いた」
「え〜? アタシはちゃんと指定の場所まで在庫の報告に来たじゃん。次のギャラは?」
しかし男は話を聞く気など毛頭なく、ポケットから魔力触媒を取り出す。
「生徒会ごときに尻尾を掴まれるような間抜けに、次の仕事も口止め料も必要ない。……ここで灰になって、学内の捜査網ごと燃え尽きろ」
男が指を鳴らした瞬間、取り巻き2人の両腕の刻印が禍々しい赤黒い光を放ち、周囲の空気が一気に発火点へと跳ね上がる。
目の前に展開されるのは、直撃すれば骨すら残らない軍用クラスの『高圧炎熱術式』。
セナは内心(うわ〜!ガチの殺しにかかってるじゃん!でも想定内〜!2階にいるアイラちゃん!出番だよ!)と、恐怖を押し殺し、不敵な笑みを浮かべたまま、2階に向けてバシッと大袈裟に「指を鳴らし、親指を突き出す合図」を送る。
……が、2人には通じてなかった、いい意味で。
リサ(あの震える指先……! 死の恐怖でパニックを起こして、生徒会に助けを求めようと必死に手を伸ばしている……!)
そして私(あのアホ、腰が引けて指を痙攣させてる! 一般人生徒がこんな致死魔法の前に立たされたらショック死するよ!)
敵の術式が完全に励起し、巨大な火炎の大蛇となってセナへ牙を剥いた。
その瞬間、生徒会2人の防衛本能と怒りのリミッターも同時に弾け飛んだ。
「「伏せて、セナ!!」」
2階の点検用通路から響いた鋭い怒声とともに、鉄骨を蹴り破る轟音。
私とリサは一切の躊躇なく、夕暮れの空間を裂いて同時に跳躍・急降下する。
着地と同時、リサが眼鏡の奥の瞳を青白く発光させ、床に片手を叩きつける。
無詠唱・ノータイムで展開されるのは、特級指定レベルの氷結防御術式『アイギス・グラキエス』。
ガガガガッ!と地面から幾重にも重なる巨大な氷柱とクリスタルの防壁が隆起し、セナを繭のように包み込む。
敵の放った軍用クラスの火炎大蛇は、セナの髪の毛一本に触れることすら許されず、氷壁に激突した瞬間に「ジュウゥッ!」と蒸発すらできずに凍結・粉砕される。
そこで私が炎が凍りついた一瞬の視界の隙間を縫い、音速を超えるステップで敵の懐へ踏み込んでいく。
両手に不可視の『多重中和術式』を高密度に纏わせる。
取り巻きの魔導士2人が慌てて新たな術式を展開しようとするが、私が振るった手刀が触れた瞬間、男たちの腕の魔導刻印がバチバチとショートして強制破綻した。
「________生徒に手を出そうなんていい度胸だね」
自分でもびっくりするほどの冷え切った低音とともに、魔力を物理衝撃に変換した容赦のない拳を男たちの腹部へめり込ませた。
ドゴォッ!!と空気を破る重低音が響き、取り巻き2人は背後のコンクリート壁まで数十メートル吹き飛び、壁に人型のクレーターを作って白目を剥き失神した。
残されたリーダー格の男は、目の前で起きた悪夢のような光景(名門校の制服を着たガキ2人による超高等魔法の連打)に言葉を失い、恐怖で結晶石を取り落とす。
「な、なんだ貴様ら……化け物か……!?」
男が背中を向けて逃げ出そうとした瞬間、リサの冷徹な声が響く。
「校則違反の薬品を生徒に売り捌き、あまつさえ危害を加えようとするなど……生徒会として断じて看過できません」
パキン、とリサが指を鳴らすと、男の足元から伸びた氷の蔦が瞬時に全身を駆け上がり、首から下を完全に凍結拘束した。
戦闘開始からわずか5秒足らず。
裏社会の凶悪魔法使いは完膚なきまでに蹂躙された。
立ち込める白煙と凍てつく冷気の中、廃工場は完全な沈黙に包まれる。
壁にめり込んだチンピラと、首から下をガチガチに氷漬けにされたリーダー格の男がピクピクと痙攣しているだけの状態だ。
私とリサは何事もなかったかのように制服のシワを伸ばし、氷の防壁が溶けてへたり込んでいるセナの元へ駆け寄る。
「セナ!怪我はない?ごめん、突入が一瞬遅れた」
「怖かったでしょう、もう大丈夫です、私たちが制圧しましたので」
私たちはこんな経験一般人にさせられないと思い、極めて必死に優しく過保護に声をかけた。だってあんな殺人級の魔法見たら腰抜かすよ……あ、それは私たちもか。
その一方セナは開いた口が塞がらない。顎が外れそうなほど目を見開いている。
視線の先には、自分を守るために展開された特級クラスの氷壁と、一瞬でチンピラを吹き飛ばした私の拳。
どうしたんだろう……?と声をかけようとした瞬間だった。
ガタガタと震える指先で、セナは思わずリサを指差して叫ぶ。
「ちょ、ちょ待って!? リサ副会長……あんたも『あっち側《魔法使い》』だったの!? なんで普通に化け物クラスの術式使ってんの!?」
あまりの衝撃とパニックで腰を抜かしたセナが、尻もちをついた拍子にスカートのポケットから革張りの小さな黒い手帳がツルリと滑り落ちる。
パタン、と床に落ちて開いた手帳の表面には、金色の箔押しで刻まれた【魔法省・監査局(見習い潜入調査官)】の公的紋章とセナの顔写真。
その手帳を見下ろした瞬間、私とリサの動きが同時にピタリと止まる。
___________え、ちょっと待って?
2人の瞳から「生徒を心配する優しい先輩」の光が完全に消え失せ、底冷えするような真顔へと変貌した。
「……魔法省、監査局……? 見習い……?」
リサは淡々と読み上げるが驚きは隠せてない。
「ちょっと待ってセナ、アンタ……これどういうこと?アンタ、ただの小遣い稼ぎのヤンキーじゃなかったの……?」
「あ……………」
セナは完全に終わった顔をしている。
セナ的にはこの展開は全く予想しておらず、全て自分の掌の上だと思ってたのだろう。
【お互いの実力を知る生徒会コンビ】×【ただの一般人だと思ったら国家スパイだった問題児】の視線が交錯する。
セナ……ただのギャルじゃないんです……
正直こいつのセリフ書いてる時が一番楽しい。
一番大変なの?リサです。(不在者含めるならタクト)




