第三話:包囲網と、共犯者の密約
お読みいただきありがとうございます!
最強の生徒会長・アイラを「無料の用心棒」として仲間に引き入れ、完全に自分が黒幕気分でホクホク顔のセナ。
一方でアイラは「一般人の後輩が危ないことに巻き込まれてる…絶対に守らなきゃ!」と超・過保護モード全開に。
お互いに「相手を守ってあげている」と思い込んでいる、重症なすれ違いの行方は……!?
哀れなチンピラたちへの容赦ない無自覚蹂躙をお楽しみください!
「その言い訳を聞く前に……どうしてあなたの制服から、私が今追っている『運び屋』と同じ匂いがするのか、論理的に説明してもらえますか?」
リサは机の上のエナドリ缶から指を離さず、メガネの奥から冷徹な観察眼でアイラの微小な表情変化、呼吸の乱れ、視線の泳ぎを完全に逃すまいと見つめてくる。
(……まずい、ここでバレたら)
私は小さく息を吐いて呆れたような「優等生らしい困惑」の表情を作る。
「……リサ、推理小説の読み過ぎだよ」
これで軽く空気は緩んだ……か?
「進路指導室へ行く途中の西棟渡り廊下で、スマホを見ながら歩いていたチャラい女子生徒とド派手に正面衝突しちゃったの」
「その子がまさにその香水をつけてたみたい。ぶつかった拍子に書類をぶちまけちゃってね。拾い集めるのを手伝わせるのに手間がかかったから時間がかかっちゃったの」
うん、大丈夫、これなら何もおかしくない。
「遅れた理由も、匂いが移った理由も、すべてそれで筋が通るはずだけど……何かおかしいかな?」
リサは眉をわずかに寄せ、アイラの目元をじっと見据えたまま沈黙する。
立ち上がったリサがアイラに歩み寄り、至近距離で制服の袖口の匂いを再度確かめる。正直内心冷や汗が止まらない。
リサは小さく息を吐いた。
「……なるほど。確かにあなたの制服の袖口、何かと強く擦れたようなシワがありますね」
「疑うような真似をしてごめんなさい、会長。あなたに限って、そんな怪しい生徒と個人的な繋がりがあるはずないですよね」
……はぁぁぁぁ……なんとか回避した。
本当に人生で一番緊張した瞬間かもしれない。
「でも、これで確定しました。そのぶつかった女子生徒――その香水をつけている生徒こそが、学内に毒エナドリをばら撒いていた『運び屋』本人です」
「『運び屋』?」
「黙っててすみません。あれからずっと調査してて…フィオナ自身は配ってなかったと言っていたので」
「そうなんだ……てっきりフィオナが配ってて事件解決かと」
「あの子の性格的にも多数の生徒に接触するのはありえないと思って聞いてみたんです」
……そう言われてみれば確かに。
セナはフィオナと顔を合わせずに取引してたのか。
「西棟の渡り廊下周辺を出入り口にしている可能性が高いです。明日から生徒会総出で、西棟周辺の抜き打ち持ち物検査と、不審物の徹底捜索を実施します」
!?
そんなことをしてセナが捕まれば『実は会長に魔力で助けてもらった』とかバラされかねないぞ……!?
止めるべきか、いやでもこうなったリサは経験上止められないんだよね……
そうして明日、生徒会の包囲網が敷かれることが確定し、私の胃痛は止まることを知らないのであった……
昼休みのチャイム。
生徒会室での「今日の放課後、西棟の一斉捜索を行う」というリサの決定がどうしても頭を離れない。
もしセナが捕まって余計な口を滑らせれば、自分の魔力適性のことも共犯関係も全て露呈してしまう。
ああもうどうしたらいいんだ……
どうしようもなくなって購買へ行くフリをして教室を出る。
微弱な魔力感知を働かせ、校内でセナの雰囲気を探すことにした。
あの子だったら誰も寄りつかないようなところにいるだろうな……
そう思って探してみたところ、行き着いたのは一般生徒があまり立ち寄らない場所。体育館裏の非常階段の踊り場だった。
そこで一人、焼きそばパンを頬張ってるセナを見つけた。
周囲に誰もいないことを確認し、早足でセナに詰め寄る。
「おっ!アイラちゃんじゃ〜ん!わざわざ会いにきてくれたの〜?」
こっちの気も知らずに……調子のいい笑顔で手を振ってくる。
「呑気にパン食ってる場合?アンタ完全に副会長に目つけられてるよ」
「ふぇ?」
「昨日一緒にいた時にうつった香水の匂い、あれで西棟にいた女子生徒イコール運び屋って断定されてるの」
「ふ〜ん、それで?」
「それでって……今日の放課後、西棟を中心に生徒会総出で持ち物検査と一斉捜索が行われるの、だから今日の放課後は一切動かないこと、おとなしく帰宅して」
と、明確にセナに警告した。
……が、焦るどころかセナは
「え〜!アタシのために副会長に嘘ついて庇ってくれたんだ〜!アイラちゃんマジで良い奴〜!!」
と目を輝かせて距離を詰めてくる、何故!?
「だから近いって!アンタのためじゃない、私が巻き込まれたくないだけなの!」
必死に距離を置くが、セナは気にしないで続ける。
「でもさ〜今日帰るわけにはいかないんだよねぇ」
と、急に困ったように後頭部を掻く。
一体どうしたというのか。
「実はさ、フィオナが君たちに捕まる前に預かった『特製・濃縮版のエナドリ』の在庫がまだ西棟の旧配管スペースに隠してあってさ」
「……は?」
「フィオナが実験的に魔力を過剰充填した危険物で、放置すれば時間経過で高濃度の魔力暴走を起こすシロモノでさ」
「はぁぁぁぁ!?」
「見つかったらアタシ確実に退学だし、最悪爆発して西棟が吹き飛ぶかも〜!」
な〜んてヘラヘラ笑うセナを見ていると私の怒りと胃痛は頂点に達した。もう無理。
放課後の一斉捜索までに生徒会の目を盗んでその危険な在庫を先に回収して無力化しなくてはならない。
なんて極限ミッションなんだ……
ヘラヘラと笑うセナに別れを告げてトボトボと教室へ戻った。
放課後のチャイム。
生徒会室へ集合した役員たちへ、リサがテキパキと捜索ルートを指示していく。
リサは「西棟のの渡り廊下から部室棟周辺を重点的に調べます。怪しい生徒や放置された荷物は全て報告してください」
と、完璧な包囲網を敷く。
そこで私は生徒会長権限を使うことにした。
「私は死角になりやすい西棟の奥、旧配管・倉庫エリアを一人で確認してくるね」
と、なんとか単独行動の許可を取り付けた。
「さすが会長、目の付け所がいいですね。気をつけて」
リサは快く送り出してくれた、ひとまず安心だ。
だが問題はここからだ。
薄暗く埃っぽい西棟の旧配管スペースに滑り込む。普段は施錠されてるが、セナがピッキングして隠し場所にしていたようだ。
セナから教えられた鉄パイプの裏の木箱を開けると、そこには黒紫色に脈打つような光を放つ「特製・濃縮版エナドリ」が数缶あった。これか……
缶の表面にはすでに亀裂が入り、魔力の過負荷によって今にも破裂・暴走寸前の状態だった。
(アイツ、こんな危険なものを持ち込んでたのか……!)
正直殺意に近い苛立ちを覚えつつ、このブツから放置すれば西棟が吹き飛ぶレベルのエネルギーを感知する。
遠くの廊下から生徒会役員たちの足音と、リサの「そっちのロッカーの中も確認して」という指示の声が近づいてくる、時間がない。
両手をかざし、最小限の光と音に抑えた高精度の『多重干渉中和結界』を瞬時に展開。
荒れ狂う魔力の波長を指先でミリ単位で調律し、暴走しかけているエネルギーの核を内側から凍結・無力化していく。
汗が額を伝う極度の緊張の中、カチリと術式が噛み合い、缶の不穏な発光と魔力反応を完全にゼロにして普通の冷えたジュース缶状態へ封じ込める。
流石にこのレベルの魔法試行は身体への負荷が大きい。汗が止まらない。
「はぁっ、はぁっ……これで、なんとか……」
無力化した缶を手早く鞄の奥底へ押し込んだ瞬間、ギイィ……と旧配管スペースの錆びた扉が開く。
「会長?そっちに何かありました?」
扉の隙間から、懐中電灯を持ったリサがぬっと現れる。
心臓が跳ね上がるかと思った。が、ギリギリで「埃っぽい場所で服を払っている優等生」のポーズを作り、冷静な声で「ううん、ここはただの古いゴミがあるだけ」
と振り返る。
ギリギリで証拠隠滅に成功したかに見えたその瞬間――背後の物陰から
「ぷはーっ、ホコリやば!」と呑気なクシャミが響く。
暗闇から現れたのは、セナ。
「大人しく帰れと言ったはずでしょ!?」と内心で絶叫するアイラをよそに、セナは
「いや〜隠れて様子見ようと思ったんだけどさ、アイラちゃんの手際マジ鮮やかすぎ!」
とヘラヘラ笑いながら出てきてしまう。
リサの持っていた懐中電灯の光が、セナの金髪と着崩した制服を真正面から捉える。
狭い配管スペースに漂う、あの独特の香水の匂い。
「……立ち入り禁止の旧配管スペースに無断侵入。さらに、その制服の乱れと、漂うコロンの匂い……」
「あなたが、学内に例の違法エナジードリンクを流通させていた『運び屋』ですね」
(ここでセナが口を割れば、さっきの魔力封印も、昨日の共犯関係もすべて芋づる式に暴かれる……!)
と、胃が焼き切れるような絶望感を覚える。本当にやばい。
しかし、追い詰められたはずのセナは怯えるどころか、ニヤリと不敵に口角を吊り上げる。
セナは両手を軽く上げて降参のポーズを取りつつ、視線をリサからアイラへと滑らせる。
「あーあ、見つかっちゃった〜。さすがリサ副会長、耳も鼻も良いねぇ」
そして、リサの耳元へ囁くように、しかしアイラにもはっきり聞こえる声で『爆弾』を投下する。
「……でもさ副会長。アタシを処分する前に、そこの生徒会長サマがたった今『何をしてたか』……知りたくない?」
私は息が止まり、リサの眉がピクリと跳ね上がる。
一話で9000文字書いたらそれ以降力尽きた感。
これくらいのペースで進めていけたらなと思います。




