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劇場版 ブルーストーム 火の翼の台頭  作者: Fawole Oluwaseyi


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第38章

「ジン……ジン!」涙を流しながら、美空の声が震えた。


彼女は足元の深く暗い奈落を見つめ、ジンが消えたその場所へと、震える手を伸ばしたまま立ち尽くしていた。


「嘘でしょ……」膝から力が抜けそうになる。「そんなの、ありえない……」


雷禅はゆっくりと崖の縁から身を翻し、冷ややかな笑いを漏らした。


「ついに……」満足げに深紅の瞳を輝かせ、彼は背後の者たちを振り返った。「月代(つきしろ)の最後の継承者は消えた」


「お前……」満(みつる)の拳が震えた。


雷禅を睨みつける彼の目に、涙が浮かぶ。


「この人殺しが!!」


彼は長い階段を駆け上がり、流れるような動作で二振りの小太刀を抜いた。


「満、やめろ!!」和樹が叫び、彼を止めようと手を伸ばす。


だが、満は止まらなかった。


「その報いを受けさせてやる!!」


雷禅はただ肩越しに視線を向けただけだった。その深紅の瞳が怪しく光る。


突如、彼の体から凄まじい衝撃波が放たれた。


「ぐあっ!!」満は激しく後方へと吹き飛ばされた。


手から小太刀がこぼれ落ち、彼は階段を転がり落ちる。幾度も転がった末、仲間の近くの地面に背中から叩きつけられた。


「満!」芽衣が駆け寄り、彼の傍らに膝をつく。「大丈夫!?」


満はうめき声を上げながら、雷禅の方を振り返り、必死に身を起こそうとした。


涙に濡れた瞳には、激しい怒りの炎が宿っていた。


「俺は……」拳を強く握りしめる。「あいつに、必ず報いを受けさせてやる……」


雷禅は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべ、腰に差した「火の翼」を鞘に収めた。


広大な空間に、再び猛烈な突風が吹き荒れた。


「うわっ!」強烈な風が床をなでるように吹き抜け、全員が後方へと押し流されそうになりながらよろめく。


「ぐっ!」葵は必死に足を踏ん張り、体勢を保とうとした。


だが、その力はあまりにも強大だった。


「あっ!」彼女は後ろへと押しやられ、ライトに激突した。


「大丈夫か!?」彼は素早く彼女の肩を支え、吹き荒れる風の中で彼女の体を安定させた。


「うん!」葵は答え、猛威を振るう風から顔をかばうように片腕を掲げた。


頭上では、ライゼンが両腕を大きく広げていた。彼の高笑いが空間に響き渡る。


「終わりだ!」吹きすさぶ風の音を切り裂くように、彼の声が響く。「すべてが完璧に整った!」


彼は仰け反るようにして笑った。


「『火の翼』は俺のものだ。月代の跡取りは消え去った。月森は俺の前に屈したのだ!」


彼の深紅の瞳が、眼下で傷ついた戦士たちを見下ろした。


「そして今……」彼の笑みが邪悪なものへと歪む。「月森を完全に滅ぼし、俺が絶対的な支配者となる!」


彼の周囲で風が唸りを上げる。


「だが、それはほんの始まりに過ぎない!」ライゼンは頭上の遥か高い場所にある出口を指差した。「月森を手に入れたら、この哀れな村を捨て……」


その深紅の瞳が野心に燃えて輝く。「……外の世界を征服してやる!」


彼は再び両腕を広げた。「俺の前にひれ伏す世界を築き上げてやる!」


彼の笑い声が広間に響き渡る。「俺はこの世界で最も偉大な指導者となるのだ!」


眼下の者たちは皆、歯ぎしりをした。拳を握りしめ、その瞳には怒りが宿る。


ライゼンはゆっくりと腕を下ろし、彼らを完全な侮蔑の眼差しで見下ろした。


「ふん」笑みは消え失せ、冷酷無慈悲な表情へと変わる。「お前たちの中に、俺を止める力を持つ者など一人もいない」


…………..


ジンの体は闇の中へと沈み続けていた。果てしない落下の中、背を向けたまま力なく身を委ね、半開きの瞳で霞んでいく視界を見つめる。


全身を激痛が駆け巡る。


ひどく寒い……。震える指先が弱々しく丸まる。「……体が、麻痺していくようだ」


意識が遠のく中、次々と記憶が蘇ってきた。


月森への帰還。友人であるアヤカやヒロ、そして祖父と共に過ごした日々。


彼らと分かち合った数々の瞬間。


そして、ミソラ。


初めてのキス。彼女の笑顔の温もり。自分に向けられたあの眼差し。


記憶は加速し、消えゆく意識の中を駆け巡る。まるで心が、そのかけがえのない瞬間の一つひとつに必死にしがみつこうとしているかのように。


ミソラ……。瞳が揺れる。祖父さん……みんな……。


目尻に涙が浮かぶ。「ごめん……」


かすかな輝きが、彼の目を引いた。


ジンの視線が下へと向く。シャツの下にあったロケットが外れ出ていた。チェーンは首に緩くかかったままだが、小さなペンダントは顔から数メートル下の位置に浮かんでいた。


母がくれたロケット。彼にとって何よりも大切な宝物。


失った両親を偲ぶ、最後のよすが。


ジンは薄れゆく視界の中で、それを見つめた。


母さん……。彼の瞳が優しくなる。父さん……。唇が震える。二人を失望させてしまった……。


まぶたがゆっくりと降りていく。周囲の闇が、より深まっていくように感じられた。


ごめん……。ついに、彼の目は閉じられた。


そして、記憶は彼を過去へと誘(いざな)う……。


「覚えておきなさい、ジン……」母の柔らかな声が心に響く。「誰かを想う心……愛する人たちへの想い……その光こそが、あなたの最大の強さなのよ」


ジンの脳裏に、あの夜の光景が蘇る。両親に抱かれながら、お気に入りの子守唄を歌ってもらっていた、あの夜の記憶だ。


「ジン……我らの一族はかつて、無辜(むこ)の民を守る存在だった。お前の刃もまた、そうあるべきだ」


父の声もまた、心の中に響き渡る。


やがて、薄れゆく意識の深淵で、ジンは幼い頃の自分と向き合っていた。


鏡に映したかのように目の前に立つ少年。その深紅の瞳は、ジンがとうの昔に失ってしまった無垢な輝きを湛えていた。


「本当に、厄介な奴だな」幼い頃の自分が、茶化すように悪戯っぽく笑う。


ジンの表情が厳粛なものになる。彼は視線を落とし、ゆっくりと拳を握りしめた。


「わかってる……」恥じ入るような、静かな声だった。「俺は、しくじったんだ」


幼い頃の自分は首を横に振り、その表情を温かな笑みへと和らげた。


「いや……」彼は一歩近づく。「俺のせいでもあるんだ」


その笑みは、どこか切なさを帯びていた。「俺たちは最初から、自分自身に正直に生きてきたわけじゃないからな」


彼は少し首を傾げる。「だって……ずっと、里に対する務めから逃げてきたんだから」


ジンは小さく笑った。「まったく……」 「最初から、というわけじゃなかったんだが……」


若き日の自分は片方の眉を上げ、納得がいかないといった表情を浮かべた。


ジンはため息をつき、首の後ろをさすりながら言った。「わかったよ……認めよう」


若き日の自分は微笑み、首をかしげた。「それで……これからどうするんだ?」


彼の表情が和らいだ。「諦めるのか?」


ジンはゆっくりと両手を持ち上げ、震える掌を見つめた。


「ライゼンの言う通りだった……」彼の視線が揺れる。「俺は『火の翼』に頼りすぎていたんだ」


指がゆっくりと内側に丸まっていく。「それが奴の手に渡ってしまった今となっては……」


声が消え入る。罪悪感に押しつぶされそうになりながら、彼は震える拳を強く握りしめた。


その時、二つの小さな手が、彼の震える手を優しく包み込んだ。


ジンは目を見開いた。ゆっくりと顔を上げる。


そこには、温かな笑みを浮かべた幼い頃の自分が立っていた。その深紅の瞳には、紛れもない優しさが宿っている。


「まだ間に合うよ」幼い自分が、茶目っ気たっぷりに笑いかける。「自分で言ってたじゃないか。お前を特別にするのは、剣なんかじゃないって」


その笑みがさらに優しくなる。「お前自身なんだ」彼はジンの手を優しく握りしめた。「僕たちは……ずっと前から特別だったんだよ」


ジンは息を呑んだ。その言葉に込められた温もりと確信に圧倒され、目を見開いたまま幼い自分を見つめる。


すると、さらに別の手が、重なり合った彼らの手の上にそっと添えられた。


ジンはさらに大きく目を見開いた。ゆっくりと視線を上げる。


目の前には両親が立っていた。見慣れた顔には温かな笑みが浮かび、彼を優しく見下ろしている。


「母さん……」ジンの声が震える。「父さん……」


父・ダイスケが温かく微笑み、力強く頷いた。「お前ならできる、ジン」


「お前の心こそが、誰よりも優しく燃えているから……」母・ホタルが言葉を添える。「……お前こそが『火の翼』にふさわしいのよ」


…………..


意識を失ったまま果てしない虚空を沈み続けるジンの、閉じられた瞼の上で、ロケットが闇の中で淡く輝いていた。


……………


一方、上層の広間では、ライゼンの傍らにあった「火の翼」が、突如として強大なエネルギーの奔流を脈動させた。


ライゼンが素早くそちらを振り返る。「ん?」眉間に皺が寄る。


……………


「その炎は、お前に託されたものだ、我が息子よ」ダイスケが微笑む。その表情には、揺るぎない決意が宿っていた。


ホタルが歩み寄る。その瞳は温かさに満ちていた。そして、それは何よりも強いのです。


「闇に対してだけ、その炎を灯すんだ……」幼い頃のジンは微笑んだ。「……みんなのために燃えるんだよ」


彼の深紅の瞳が、決意を宿して輝く。「絆を紡いだ人々のために……」笑みが深まる。「……彼らのために戦うんだ!」


……………


「火の翼」が再び脈動した。今度のうねりは、先ほどとは比べものにならないほど強烈だった。


聖なる剣が、雷禅(ライゼン)の腰で激しく震える。


「な、なんだ……!?」剣が突如として鞘から抜け出し、雷禅はよろめいた。


「うわっ!」横へとふらつき、辛うじて体勢を立て直す。


眼下にいた者たちは、驚愕の表情でそれを見つめていた。


「火の翼」は眩い光に包まれ、空中に浮かんでいた。


しばしの間、それは静止していた。やがて、剣先がゆっくりと下を向く。


雷禅は目を見開いた。「まさか……」


「火の翼」は突如として、暗いトンネルの奥底へと向かって急降下した。


闇の深淵へ、ジンが落ちていったその場所へと真っ直ぐに。


…………….


「大義のために、その剣を使うのよ」ダイスケの声は穏やかでありながら、確固たる信念に満ちていた。「自分の中にある炎を解き放つのよ、ジン……」


笑みが深まる。「……そして、灯すのよ!」


…………….


胸に突然の温もりが広がり、ジンの心臓が一度大きく高鳴った。


「火の翼」は闇の中を急降下し、彼に近づくにつれてその輝きを増していく。


…………….


「灯すのよ!!」母の声が、彼の意識の中に響き渡った。


……………


ジンの心臓が、再び大きく鼓動する。


…………..


幼い頃の彼は目を閉じた。小さな手が固く拳を握りしめ、その表情には揺るぎない決意が浮かんでいた。


「灯すんだ!!!」


…………..


ジンの深紅の瞳が、カッと見開かれた。その瞳の奥で、猛々しい炎が燃え盛っていた。


その瞬間、「火の翼」が彼のもとへ到達した。


ジンが手を突き出すと、その指がしっかりと柄を掴んだ。


柄を握った瞬間、彼の全身から深紅の炎が噴き上がった。


ジンは空中で身をひねり、その勢いを利用してバックフリップを決めると、一気に上方へと突き進んだ。


――ヒュオォォッ!


猛烈な勢いで炎を纏い、深紅の光の尾を引く流星となって、彼は水面(みなも)へと急上昇した。


そして、燃え盛る彗星のごとく闇を突き破って飛び出した。


――ドォォォン!


激しい爆炎と共にジンが戦場へと躍り出る。その上昇の勢いは、ライゼンの荒れ狂う暴風と正面から激突した。


生じた衝撃波が広間を駆け抜けた。


猛威を振るっていた暴風は、瞬時にかき消された。


「うわっ!」その衝撃で、誰もが後方へと吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」ライゼンは石の台座の上を数メートル滑り、ブーツを地面に激しく擦りつけながら、ようやく停止した。


炎が徐々に収まり、ジンが空中から舞い降りてくる。


――ドスン!


数メートル先の台座に重々しく着地する。土煙と煤煙が彼を取り巻く中、その手には剣がしっかりと握られていた。


やがて、誰もが態勢を立て直した。


ゆっくりと顔を上げ、彼らは驚愕に目を見開いたまま、上方の台座を見つめた。


土煙が静まり始め、霞の向こうから一人の人影が姿を現した。


ジンだった。


彼は一瞬、うつむいたまま微動だにせず佇んでいた。周囲にはまだ、名残の土煙が漂っている。


やがて、彼はゆっくりと身を起こした。その立ち姿は、先ほどとは明らかに違っていた。


より強く、より毅然と。そして、その姿も変わっていた。


かつては濃紺だった「小夜鳴(サヨナキ)」のジャケットは、今や深みのある真紅に染まり、左胸には銀色の鳥の紋章が誇らしげに輝いている。


右胸には「月守(ツキモリ)」のエンブレム――小さな炎を抱く赤い三日月――が、変わらず生地に刻まれていた。


インナーやズボンは暗い色調のままだったが、そこにも微かな真紅のアクセントが走り、その変貌ぶりを引き立てていた。


だが、人々の視線を釘付けにしたのは、その服装ではなかった。


彼が手にしていた剣。


「火の翼(ヒノツバサ)」だ。


その刀身は新たな真紅の輝きを放ち、刃に沿って炎が穏やかに揺らめいていた。


「ジン先輩!」安堵のあまり、ミツルの声が震えた。


「生きてる……」ミソラが呟く。安堵の波が押し寄せ、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。


アヤネはただ呆然と口を開け、ジンの変貌した姿を見つめるしかなかった。


「うわっ……」安堵の表情は、やがて驚愕へと変わっていった。


アオイの淡いラベンダー色の瞳が、ジンを見つめて揺らめく。


彼には何か、これまでとは違うものがあった。言葉にはできない、何か特別なものが。


彼女の視線は「火の翼」へと移り、その表情には静かな感嘆の色が浮かんだ。


アヤカとヒロもまた、呆気にとられた様子で幼馴染を見つめていた。


シンジも同様だった。薄い紅色の瞳が、涙で潤んでいる。


「ジン……」感情に震える声だった。


プラットフォームの向こう側で、ライゼンがゆっくりと立ち上がった。


彼の目が見開かれる。ジンを見つめるその表情に、初めて信じられないという色が浮かんだ。


真紅のジャケット。新たな炎。そして何より、「火の翼」そのものに。


「ありえない……」彼は拳を強く握りしめた。「どうして……?」


信じられないという思いが怒りへと変わり、ライゼンは歯ぎしりをした。


「殺したはずだ!」その声が空間に響き渡る。「死んだはずだったんだ!」


深紅の瞳を怒りに燃やし、彼は聖剣を指差した。「一体どうして、『火の翼』がお前の手にあるんだ!?」


その表情は、独占欲に満ちた激しい怒りで歪んだ。「あの剣は俺のものだ!!」


ジンはゆっくりと『火の翼』を掲げた。その瞳は、自らの手の中で静かに脈動する聖剣に向けられていた。


刃に沿って深紅の炎が揺らめく。やがて、彼の視線はライゼンへと向けられた。


「お前の心には、あれを振るうほどの純粋さなどなかった……」深紅の瞳が細められる。「ましてや、あれがお前のものだと主張するなど、論外だ」


ライゼンの表情が険しくなった。


「お前は『火の翼』を汚し、託された本来の使命からその力を逸脱させた」ジンは柄を握りしめた。


「だから、俺が浄化したんだ」彼の声は落ち着いていた。「村を守るという決意と共に……」


一瞬、その瞳から険しさが消え、柔らかな色が宿った。「……そして、愛し、大切に思う人々のために」


剣を包む深紅の炎が、より一層激しく燃え上がった。


「だからこそ、『火の翼』は俺の元へ戻ってきた」ジンは剣を正面に掲げた。「俺に託された炎は、未来を守るために使うものだからだ」


「黙れ!!」ライゼンが咆哮した。


その手の周囲に闇の力が奔流し、瞬く間に不規則な形状の黒い刃へと姿を変えていく。


「お前を……」彼は突進した。「……そのくだらない決意ごと、叩き潰してやる!」


ガィィィン!


二振りの剣が激突した。


ライゼンの目が見開かれる。ジンは微動だにしなかった。


彼はその場に踏みとどまり、ライゼンの力に真正面から対抗した。


「何だと……?」


ジンが踏み込む。刃と刃が擦れ合い、その衝突から深紅と紫黒の炎が噴き上がると、火の粉が燃える残り火のように宙に散った。


ライゼンは唸り声を上げ、再び剣を振るった。ジンもそれに応じる。


――ガキンッ!


また一撃。また激突。互いに一歩も引かない。


「俺を倒すことなどできん!」ライゼンは叫びながら、ジンの剣に自らの刃を叩きつけた。「俺こそが最強なのだ!!」


ジンはわずかに身を引く。吐き出した息が薄い白煙となって消える中、「火の翼(ヒノツバサ)」の刃に沿って深紅の炎が踊った。


その瞳は、まっすぐにライゼンを捉えていた。


「月白炎剣流……」


ジンを包む深紅の炎が突如として激しさを増し、「火の翼」の刀身を伝って駆け上がり、剣全体を炎で覆い尽くした。


「奥義・第十四型――『炎の抱擁(フレイムズ・エンブレイス)』!」


ジンが剣を振るう。ライゼンは目を見開き、衝撃に備えて頭上に剣を掲げた。


「ぐっ!」


剣が激突した瞬間、二人の間で深紅の炎が爆発的に噴き上がった。


圧倒的な力に、ライゼンの腕がたわむ。「なっ……!?」


その衝撃で彼は足場の上を後方へと吹き飛ばされ、ブーツが石の床を激しく削った。


ジンは彼に立て直す隙を与えない。猛然と踏み込んだ。


再び刃が交錯する。


――ガキンッ!


ライゼンが防ぐ。


次の一撃。


受け流す。


さらに一撃。


逸らす。だが、一撃ごとに重みが増していく。


「なんだ、これは……?」


ライゼンは歯を食いしばりながら、またしても強烈な一撃を阻んだ。


「ありえない!」


ジンは容赦なく攻め立てる。


「ありえない!!」ライゼンは信じられないものを見るように目を見開いた。「どういうことだ!?」


ジンは答えず、ただ攻撃を続けた。


その動きはより速く、一撃はより重くなっていく。


そして、攻防を重ねるごとに「火の翼」の深紅の炎は激しさを増していった。


「第十二の型――火焔踏(かえんぶみ)!」


ジンの足元で炎が爆ぜ、空中に炎の足場が一つ形成された。


さらに一つ、また一つと足場が現れる。


ジンは燃え盛る足場を次々と蹴り、その勢いを利用して、より高く、より雷禅(ライゼン)の近くへと身を躍らせた。


雷禅は見上げた。「くそっ!」


ジンは最後の足場から身を投げ出した。


「第九の型――日輪砕(にちりんさい)!」


「火の翼」が上空から叩きつけられる。


雷禅は即座に刃を掲げ、それを受け止めた。


「ぐっ!!」


ドォォォン!


激突の衝撃波が足場を駆け抜けた。


雷禅は衝撃に耐えようと踏ん張るが、足元で石畳がひび割れ、その体は後方へと押し流されていく。


そして、踵(かかと)が足場の縁から滑り落ちた。


雷禅の目が見開かれる。「なっ……!?」


雷禅が足場から落下する。ジンも即座に追った。


二人は眼下の空間へと落下しながら、幾度となく刃を交える。


カキン! カキン! カキン!


激突のたびに深紅と紫黒の炎が弾け飛び、周囲を舞う瓦礫や煙を照らし出した。


「ぬっ!」


上空での激突から、再び猛烈な衝撃波が放たれた。


その力が広間を駆け抜け、空気を激しい突風へと変えたため、一同は身を寄せ合うようにして踏みとどまった。


ミソラはよろめきながらも、すぐに態勢を立て直した。「彼を助けなきゃ」


彼女は身を起こし、頭上で繰り広げられる激闘へと不安げに視線を向けた。


「えっ!?」サヤカが目を丸くする。「どうやって!?」


「無理だ!」ルナはきっぱりと首を振った。


ミツルは拳を強く握りしめた。「今のジン先輩なら、ずっと強くなってる。きっと一人でライゼンを倒せるはずだ!」


「いや」ヒロは険しい表情で首を振った。「見た目は強くなっているかもしれないが、さっき負った傷が、今も彼の体に深刻な負担をかけているんだ」


彼は戦いの行方へと視線を走らせた。「このまま戦い続けるのは、そう長くは持たないだろう」


「その通りね」アヤカが頷く。「特に、第十形態を超える力を使えばなおさらよ」


彼女の表情に懸念の色が浮かぶ。「いくら月城(つきしろ)の人間だといっても、負傷した体であれほどの力を維持し続けるなんて、ジンにだって無理よ」


「じゃあ、どうするんだ?」ヒカルがなす術もないといった様子で両手を広げた。


「今の彼に比べたら、俺たちなんて足元にも及ばない!」カズキが言葉を継ぐ。「あんな相手に、どうやって太刀打ちしろって言うんだ!?」


彼に応えるかのように、頭上から耳をつんざくような激突音が響き渡った。


ガキンッ!


全員が顔を上げた。


ジンが「火の翼(ヒノツバサ)」をライゼンの刃へと叩きつけたのだ。


その衝撃で、深紅と紫黒の火花が再び足場に飛び散った。


疲労の色がその顔に深く刻まれているにもかかわらず、ジンの瞳には依然として強い決意が宿っていた。


シンジがゆっくりと、よろめきながら立ち上がった。「私が彼を助けよう」


ヒロは即座に彼の方を向いた。「だめです、シンジ長老」


彼は決意を込めた表情で一歩前に出た。「さっきの攻撃で、お前はまだひどい怪我を負っている」


「もしまたライゼンと戦えば……」と、アヤカが心配そうな声で付け加えた。「……死んでしまうかもしれない」


シンジは眉を寄せた。「だが、ただここに座っているわけにはいかない……」彼の視線がジンの方へ向く。「……孫が命を懸けて戦っているというのに。俺たちのために」


突然、彼が顔をしかめた。足の力が抜け、片膝をついて崩れ落ちそうになる。


「長老!」アヤカとルナがすぐに駆け寄り、彼が完全に倒れ込む前に支えた。


シンジは荒い息をつきながら、負傷した脇腹を片手で押さえた。


「俺は……」息を整えようと苦しげに言う。「……彼を助けなければ……」


イズミの茶色い瞳が揺れた。彼女の視線は、頭上で繰り広げられている激しい戦いへと向けられた。


ジンはライゼンの攻撃を間一髪でかわし、即座に反撃に出た。


ライゼンがそれを防ぐ。再び刃と刃が激突した。


イズミはその一挙手一投足を見つめていた。


頼むから……考えて。彼女の思考が高速で回転する。アヤカ、ヒロ、ミソラは、もう戦える状態じゃないはず。


彼女は目を細めた。あの二人の動きについていける誰かが必要だ。


彼女は仲間の顔を見渡した。あのレベルで戦える誰か……。


その時、彼女は目を見開き、視線を素早くアオイに向けた。


アオイは数メートル離れた場所に立ち、静かに戦いを見守っていた。


彼女の淡いラベンダー色の瞳は、ジンとライゼンの動きをすべて追っていた――足さばき、剣の角度、そして攻撃や反撃のタイミングまで。


イズミは一瞬、彼女を見つめた。そして、理解した。


「アオイが行くべきよ」


全員が彼女の方を向いた。


「彼女が?」ミソラが眉を上げた。


「アオイが!?」他の者たちも一斉に声を上げた。


アオイはまばたきをし、自分を指さした。「私?」


イズミは彼女の方へ歩み寄りながら頷いた。「ええ」


彼女はアオイの目の前で立ち止まった。「今の私たちの中で、あなたが一番の剣の使い手かもしれないわね」


彼女は戦いの様子をちらりと見た。「あなたの剣さばきは、次元が違うわ」


そして、彼女は小さく微笑んだ。「ジンと互角よ」


アオイは驚いて眉を上げた。「でも……どうして?」


「昨日の朝のこと、覚えてる?」イズミは彼女を指し示した。「ゲストハウスで、あなたたちが稽古していた時のことよ」


他の者たちも耳をそばだてた。


「あなたの戦いぶりを見ていたの」彼女は思案深げな表情を浮かべた。「ただ正確なだけじゃなかった。動きは本能的でありながら、鍛え上げられてもいて……まるで侍の道を修めた人のようだったわ」


イズミの視線が一瞬、戦いの場へと移った。「それに、闘志も感じられた」


彼女は再びアオイを見た。「本物の侍を彷彿とさせるものがあったわ」


それからイズミはミソラの方を向いた。「だから、彼女が侍の家系の出身なのかどうか尋ねたのよ」


ミソラは瞬きをした。その時の記憶がすぐに蘇ってきたのだ。


イズミは再びアオイに視線を戻した。「あなたには凄まじい強さがあるわ、アオイ」


彼女の表情がより真剣なものになった。「ここにいる誰よりも強い……」


彼女の瞳が確信を込めて細められた。「……ジンと同じようにね」


その言葉に、アオイの瞳が揺れた。


「その通りだ」ライトがイズミの隣へと歩み出た。「アオイ、君は本当に信じられないほど強いよ。あの『黒月(くろつき)』の戦士……ライガと戦った時にそう思ったんだ」


彼の表情が引き締まった。「君の強さは、自分の刀を文字通り粉々に砕いてしまうほどだった」


アオイは呆気にとられたように彼を見つめた。「ちょっと、それはライガの体が異常に硬かったからでしょ」


「いや、違う、違う」ライトは無表情のまま、手で否定するように振った。「あれはただヒビが入っただけじゃない。まるでガラスみたいに砕け散ったんだ」


彼は指を広げて見せた。「欠片(かけら)ひとつ残らず、すべてね」


「柄(つか)だけが残ったの」と、アオイは肩をすくめた。


ライトは彼女を見つめた。「アオイ……」


メイは思案するように首を傾げた。「もしかしたら、彼女の力に剣が耐えられなかっただけなのかもしれないわね」


アヤネの目が輝いた。「じゃあ、その力に耐えられる剣が必要なんだね!」


隣でリクヤが頷いた。「その通りだ」


ヒロは腰の剣に視線を落とした。その中でも特に一本の剣――兄サトルの剣に、彼の目は留まった。


ダイゴに奪われ、そしてついに彼の手元へと戻ってきたあの剣。


ヒロはゆっくりと手を伸ばした。「アオイ……」彼は一歩前に出た。「俺のを使ってくれ」


全員が彼の方を向いた。


アオイは瞬きをした。「あなたのを?」


ヒロは頷いた。「ああ」


彼は頭上で激しく繰り広げられている戦いへと視線を向けた。「本来なら、親友と共に戦うために俺がそこへ向かうはずだったんだ」


彼の顔に、かすかな笑みが浮かんだ。「何しろ、俺はあいつの右腕だからな」


そして彼は、傷だらけの自分の体を見下ろした。「でも……」彼は少し照れくさそうな表情を浮かべた。「体中ボロボロで、もう指一本動かせない状態なんだ」


アヤカがくすりと笑った。「正直だね」彼女は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。「でも、顔つきはそうは言ってないみたいだけど」


「アヤカ……」ヒロは頬を赤らめながら声を漏らした。


彼はため息をつくと、腰から鞘(さや)に収まった剣を引き抜いた。


そして、それをアオイの方へと差し出した。「ほら」


葵はまばたきをしてから、慎重にその剣を受け取った。


彼女の視線は、鞘に刻まれた精緻な模様をなぞるように動いた。


「うわっ……」と彼女は呟き、磨き上げられた表面を指先で軽く撫でてから、柄(つか)へと視線を移した。


「いいなぁ……」と、光希は誇らしげに微笑んだ。


「月森の防衛部隊隊長の剣を振るえるなんて……」如月は感心したように頷いた。「ものすごい名誉だよ」


沙耶香は腕を組み、呆れたように目を回した。「一日中女の子とイチャイチャしてないで、たまには戦闘の腕を磨いたらどうなの?」


その鋭い言葉に、男子たちは即座に黙り込んだ。彼らは顔を赤らめ、気まずそうに身を縮めた。


葵は思わずくすりと笑い、ヒロの方を向いた。


「ありがとう、ヒロ先輩」


ヒロの頬がさらに赤く染まった。彼は小さく頷くと、鼻を鳴らして素早く視線を逸らした。


葵は視線を正面に戻し、ゆっくりと鞘から刀身を引き抜いた。


シャキーン!


完全に抜き放たれた瞬間、刀身がふわりと青紫色の光を放ち始めた。


その不思議な光が、周囲の空間を照らし出した。


「見て……」和樹が感嘆の声を漏らした。


「一体、何なの……?」光が強まるのを見つめながら、美空は目を見開いた。


葵の視線は、即座にその剣へと注がれた。


青紫色のエネルギーが刀身の上で揺らめき、光の流れとなって茎(なかご)から柄の方へと伝っていく。


そして、彼女の視線はある一点で止まった。柄の部分だ。その表面に、ある一文字が刻まれていた。


「S」


葵はその文字を見つめた。すると、エネルギーが突如として激しく波打った。


青紫色のオーラが外へと広がるにつれ、激しい突風が彼女の体を渦巻き、髪や衣服を激しくなびかせた。


「何が起きているんだ!?」陸也(りくや)は顔をかばうように腕を上げながら叫んだ。


葵(あおい)は目を見開き、刃の周囲で渦巻くエネルギーを見つめた。


彼女は握る手に力を込めた。剣が手の中で小さく唸りを上げる。


その時、ある記憶が蘇った。


前日にシンジが口にした言葉が、ふいに脳裏に響く。


…………


「雪(シュエ)の一族は、『聖華(せいか)』と呼ばれる霊的な修練を極めたことで知られていた」


「聖華は単なる武術ではない。それは蓮(リアン)様がもたらした正式な修練であり、精神と肉体、そして自然の調和を図るためのものだ」


…………


聖華は、ただの儀式や伝統というだけではない……。記憶が薄れゆく中、葵は目を見開いたままだった。


そして突然、すべての断片が一つに繋がった。


シンジの説明。聖華の儀式。「火の翼(ひのつばさ)」。剣に秘められた奇妙な力。


すべてが結びついた。


……剣だったんだ。葵の口元に、ゆっくりと笑みが広がった。


ずっと……。彼女の指が柄(つか)を強く握りしめる。「火の翼」と対をなすもう一つのもの……それは剣だったのだ。


葵は腰を落とし、構えをとった。そして、背後にいる仲間たちを振り返る。


彼らの表情には、彼女を励ます思いが満ちていた。


「いけるよ、葵!」彩音(あやね)が拳を握りしめて言った。


「信じてるよ」その隣で、陸也が力強く頷く。


「あの化け物を、きっちり倒してこいよ」光(ひかる)がニヤリと笑った。


「気をつけてね」静香(しずか)の表情が和らぐ。


葵の視線がシンジへと移った。老人は、静かな希望を込めた眼差しで彼女を見つめていた。


「頼む……」彼の声が震えていた。「私の孫を、守ってくれ」


葵は力強く頷いた。「やるわ」


彼女の視線がライトに向けられる。ライトもそれに応え、決意を込めて頷き返した。


葵は不敵な笑みを浮かべ、同じように頷き返す。


そして、彼女は戦いの場へと向き直った。


両手で剣の柄を強く握りしめ、全速力で飛び出す彼女の表情は、鋭い闘志に引き締まっていた。


……………


「ぐっ!」雷禅が剣を振り下ろし、ジンの『火の翼』に叩きつけた。


ジンは踏みとどまる。攻撃は防いだものの、負傷した脇腹を鋭い痛みが走り、思わず顔を歪めた。


反射的に、一瞬だけ目をつぶってしまう。


雷禅はその隙を見逃さなかった。彼の笑みがさらに深まる。


「ハハハ!」追撃の一撃が放たれる。


ジンはそれを防いだ。


互いの刃が擦れ合い、甲高い音を立てる。


「感じているんだろ!?」雷禅がさらに圧力をかける。「お前も俺も分かっているはずだ。お前はまだ弱いってことをな!」


その深紅の瞳に、残酷な満足感が宿る。「立っているのがやっとじゃないか!」


彼はさらに一撃をジンの刃に叩きつけた。「もう長くは持たないぞ!!」


激しい攻防が体に蓄積する疲労となり、ジンは歯を食いしばった。


負荷に耐える腕は震え、刃を交わすたびに呼吸が荒くなっていく。


雷禅がさらに攻め立てる。


その時、突如として『火の翼』が脈動した。


刀身がより強く輝き始め、刃の周囲に深紅の炎が集まっていく。


雷禅の笑みが消え、彼は歯ぎしりしながらジンを力任せに押し戻そうとした。


「くそっ!」彼は剣を振り上げ、突進する。


「炎刃流奥義――」


背後から、不意に声が響いた。


「第六の型――炎糸(えんし)!」


雷禅の目が見開かれる。振り返る間もほとんどなかった。


彼の背後には、剣を掲げた葵の姿があった。


彼女が素早く剣を振り下ろすと、刃から青紫色の炎を纏った、剃刀のように鋭い糸が放たれた。


シュラァッ!


その攻撃が雷禅を直撃する。


「ぐあぁっ!!」


反射的に剣を頭上に掲げたが、技の威力が彼の防御を圧倒した。


ドォォン!


雷禅は石の床を突き破り、その衝撃で階下へと次々に叩き落とされていった。


ドォォォン!


ドォォォン!


ドォォォン!


彼の体が足場の下へと消え去るのと同時に、各階層から土煙と瓦礫が激しく噴き上がった。


「やった!」ミツルが歓喜の声を上げ、力強く拳を突き上げた。


他のメンバーも満面の笑みを浮かべ、その表情には新たな希望の光が宿った。


ジンはゆっくりと身を起こし、深紅の瞳を大きく見開いた。「アオイ!?」


アオイは軽やかに足場へと着地し、剣を下ろした。


彼女はジンのもとへ駆け寄る。「ジン先輩……」安堵のあまり、彼女の表情が和らぐ。「……無事だったんですね」


「あ、ああ……」ジンは彼女が手にしている剣に視線を走らせた。


彼の目がわずかに見開かれる。「その剣は……」視線を彼女の顔へと戻す。「どこで『炎刃(えんじん)』の技を覚えたんだ?」


信じられないといった様子で、彼は彼女を見つめた。「それがどれほど難しいことか、分かっているのか?」


彼の視線が、下の破壊された床へと向けられる。「それなのに、完璧に使いこなしてみせた」


アオイは瞬きをした。「覚えたんです」


ジンは呆然と彼女を見つめた。


「昨日、アヤカがミソラ先輩との手合わせで使っているのを見て」彼女は何気ない様子で手元の剣に目を落とした。「意外と簡単でしたよ」


ジンは硬直した。たった一度見ただけで覚えたというのか……? 信じられないという思いで、彼の表情が険しくなる。たった一つの『炎刃』の技を習得するだけでも、何ヶ月もの修練が必要だというのに!


彼の視線は、ゆっくりと彼女が持つ剣へと移った。その刀身には、青紫色の輝きが揺らめき続けている。


……それに、あの色は……。彼はその奇妙な輝きを見つめた。一体、これはどんな剣なんだ?


安堵の時間は、長くは続かなかった。


二人の数メートル手前で、突如として地面が爆発した。


ドォォォン!


砕け散った床を突き破り、一人の男が空中に躍り出た。紫黒の炎の渦が、激しくその身を包み込んでいる。


「くそっ! まだ生きてやがったのか!?」ヒカルは悔しげに顔を歪め、歯ぎしりをした。


他のメンバーも同様に苛立ちを露わにし、ライゼンが舞い上がる姿を険しい表情で見つめていた。


ライゼンがゆっくりと顔を上げた。その深紅の瞳が、葵を射抜くように捉える。


葵とジンは即座に戦闘態勢をとった。


「貴様ら……」ライゼンの声が怒りに震え、その瞳の輝きを増していく。「よくも俺にこんな真似を……!」


拳が強く握りしめられる。「ただの無価値な部外者のくせに!」


彼を包む紫黒の炎が、激しく逆巻いた。


「殺してやる!!」


再び、爆風が吹き荒れる。


葵は踏ん張ってその衝撃に耐え、髪を激しくなびかせた。


「さて……」彼女は青紫色の刃を指先で軽やかに回すと、柄を掴み直し、身構えた。


「せっかくの小休止も、長くは続かなかったみたいね」


彼女はライゼンを鋭い目つきで見据える。「こいつを倒すしかないわ」


「葵……」ジンが彼女に視線を向ける。


葵は即座に彼を見返した。「下がれなんて言うつもり、やめてよね。ジン先輩」


その毅然とした口調に、ジンは不意を突かれた。


彼女は剣を握る手に力を込める。「もう、力はほとんど残ってないんでしょ?」


淡いラベンダー色の瞳が、彼をじっと見つめる。「先輩だって、分かってるはずよ」


ジンは沈黙した。葵の表情が、わずかに和らぐ。


「それに……」彼女は背後にいる仲間たちに目を向けた。「前にも言ったでしょ」


視線をジンに戻す。「一人で戦うんじゃないって」静かな決意を宿した瞳で、彼女は続けた。「みんな一緒よ」


葵は小さく微笑んだ。「私たちがついてる……」彼女は剣を掲げた。「……最後まで、ずっとね」


ジンの胸が高鳴った。彼女の言葉は、予想以上に深く心に響いた。


彼は一瞬、彼女越しに、数メートル先に立つ仲間たちへと視線を移した。


葵の言う通りだった。彼らは皆、ジンを見つめていた。


その表情には、安堵、希望、決意……様々な感情が浮かんでいる。


だが、誰一人として恐怖の色は見せていなかった。彼らはジンを信じていたのだ。


ジンはゆっくりと息を吸い込み、再び葵の方を向いた。


その唇に、かすかな笑みが浮かぶ。


「ああ」


葵は決意を瞳に宿し、微笑み返した。


ジンは彼女の隣に並ぶまで歩み寄り、「緋の翼(ひのつばさ)」を握る手に力を込めた。


聖なる刃が、淡い深紅の輝きを放って呼応する。


「もう一度、力を貸してくれるか、葵?」ジンは彼女に左手を差し出した。


葵はその手を一瞬見つめ、頷いた。


「ええ」彼女は手を伸ばし、左手で彼の手をしっかりと握りしめた。


二人の手が重なった瞬間、低い唸りのような音が空気に響き渡った。


雷禅(ライゼン)が目を細める。「何だと?」


ジンの体から深紅のエネルギーが溢れ出した。


それは炎のリボンのように彼から流れ出し、葵の体を包み込みながら、次第にその色を変えていく。


深紅の輝きは、鮮やかな青紫へと変化した。


葵の「小夜鳴(さよなき)」のジャケットは濃紺のままだったが、その生地の表面には青紫色の光が揺らめいていた。


同じ光が彼女の濃紺の髪を照らし出し、その一筋一筋が幻想的な色合いを帯びて輝く。


手にしていた刃さえも呼応し、その切っ先には青紫色の炎が揺らめき始めた。


「うわっ……」葵は驚きの表情で、自分の姿を見下ろした。


彼女はゆっくりとジンの手を離し、彼の方を向いた。


ジンが力強い笑みを浮かべると、葵もまた微笑み返した。


彼女は剣を握る手に力を込めた。


二人は、砕け散った足場の上空に留まる雷禅の方を向いた。


彼らの視線が雷禅と交差する。


その瞳に恐れはない。あるのは力強さと、揺るぎない決意だけだ。


葵は剣をわずかに掲げ、柄をしっかりと握りしめた。ラベンダー色の瞳が、同じ青紫色の光を帯びて輝き始める。


「行くぞ!」


「はい!」


二人は前方へと駆け出した。


その体は深紅と青紫の光の筋となり、凄まじい速度で雷禅のもとへと突き進んでいった。


ライゼンはこめかみに青筋を浮かべ、歯ぎしりをした。


「俺を止められるわけがねえ……」 彼の全身から紫黒の炎が噴き上がる。「……この取るに足らねえ害虫どもが!!」


彼が両手を突き出すと、紫黒の炎の奔流が空を切り裂き、二人に向かって放たれた。


「散れ!」


ジンとアオイは左右に分かれて回避する。


ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン!


炎が二人の間の空間を激しく貫いた。


「何をしたって……」 ライゼンは次々と炎の弾丸を撃ち放つ。「……貴様ら二人を灰にしてやる!!」


ジンは身をひねって攻撃をかわし、アオイは身を屈めて別の攻撃をやり過ごす。


二人はそれぞれ独自に動きながらも完璧な連携を見せ、着実にライゼンとの距離を詰めていった。


「一撃で二人とも消し飛ばしてやる!!」 ライゼンが咆哮する。


再び、巨大な紫黒の炎の波が二人に向かって押し寄せた。


だが、その攻撃が届くより早く、深紅の炎の連撃が空を切り裂き、ライゼンの攻撃を正面から迎撃した。


「お前らには指一本触れさせない!」 ヒロが突進しながら深紅の炎を放ち、アヤカや他の仲間たちもそれに続いた。


彼らの炎が合わさり、ライゼンの紫黒の業火と激突する。


ドォォォン!


深紅と紫黒の残り火が、広間の中を乱舞した。


ライゼンが唸り声を上げる。「鬱陶しい連中め!!」


濃い煙と炎の向こうから、不意に人影が現れた。


ジンだ。


彼は「火の翼」を鮮烈に燃え上がらせながら、前方へと躍り出た。


「炎刃流奥義――」


深紅の炎が刃を伝って奔流する。


「第七の型――閃光の業火(フラッシング・インフェルノ)!」


ジンが剣を振るう。「火の翼」から轟音と共に業火が噴き出し、炎の波となってライゼンへと押し寄せた。


ライゼンが目を見開く。


彼は即座に、紫黒の炎の猛烈な球体で自らの身を包み込んだ。


二つの力が激突する。


ドォォォン!


深紅の業火が防御を打ち据える中、ライゼンは唸り声を上げた。


「これで終わりだ!!!」 怒りが爆発する。


彼を包んでいた紫黒の炎が、突如として全方位へと炸裂した。


猛烈な衝撃波が広間を駆け抜ける。


地面から石塊や瓦礫が剥ぎ取られ、戦場には土煙と黒煙が立ち込めた。


バキッ!


その威力に、石の床がひび割れる。


「うわっ!」 強烈な突風が足場を吹き抜け、全員が後方へと押し流されそうになりながらよろめいた。


「っ!」 ミソラは足元をすくわれて後方へと転がったが、激しい風からシンジを庇うように、しっかりと彼を抱きしめていた。


シンジが呻く。「ミソラ……」


彼女の腕の中で態勢を立て直すと、彼は顔を上げ、煙の中で繰り広げられる激闘を見つめた。


渦巻く煙の向こうから、ジンが姿を現す。


彼は凄まじい速度で砕けた足場を駆け抜け、ライゼンの荒れ狂う攻撃を縫うようにかわしていく。


紫黒の炎の巨大な奔流が、彼に向かって襲いかかった。


「ぐっ!」 ジンが「火の翼」を振るう。


シュバッ!


深紅の刃が迫りくる攻撃を真っ向から切り裂き、炎を鮮やかに二つへと分断した。


その間、葵は戦場を駆け抜け、雷禅の荒れ狂う炎の間を軽やかにすり抜けていった。


彼女の瞳に再び薄紫色の輪が浮かび上がり、そのラベンダー色の瞳は決意に燃えていた。


「炎刃流奥義――」


彼女が剣を滑らかな弧を描くように振るうと、青紫色の炎がリボンのように剣身に絡みつき、渦を巻いた。


「壱ノ型――紅蓮華(ぐれんげ)!」


剣から青紫色の炎の斬撃が大きく弧を描いて放たれた。


それは雷禅の放った攻撃を次々と迎撃し、彼女に届く前に切り裂いて炎を消し去った。


葵は即座に前進し、瞬く間にジンの元へとたどり着いた。


二人は並んで疾走する。


その動きは互いを映し出すかのように重なり合い、足運び、旋回、方向転換に至るまで、ほぼ完璧に同調していた。


下からその様子を見守るシンジの淡い紅色の瞳が、感極まったように輝いた。


目の前の光景には、何か特別なものがあった。


孫と葵が、共に走り、共に戦っている。


戦場を突き進む二人の剣――紅と青紫の刃が、鮮烈な輝きを放っていた。


シンジは小さく微笑んだ。ジン……


雷禅が突如として咆哮し、両手を天へと突き上げた。


紫黒色のエネルギーが頭上に集まり、激しく渦巻きながら巨大な闇の球体へと膨れ上がっていく。


その圧倒的な気配に、周囲の空気が震えた。


「俺の行く手を阻むものは、すべて滅ぼしてやる!!!」雷禅が両手を振り下ろした。


巨大な球体が、凄まじい勢いで落下してくる。


圧縮された闇の炎の爆発が、ジンと葵に向かって炸裂した。


二人は即座に足を止めた。


しっかりと踏みとどまり、二人とも剣を掲げた。


二人はそれぞれの柄を強く握りしめた。


ジンの目が細められる。――力は受け継いでいた。だが、それを振るう意志までは……。彼は「火の翼」を握る手に力を込めた。


アオイの眼差しが鋭さを帯びる。――私はずっと、自分をただの嵐だと思っていた……。


彼女の指が、青紫色の刃を強く握りしめる。――自分の力さえも恐れる、嵐だと。


二人は互いに視線を交わし、その表情に決意を宿した。


だが今は――ジンの深紅の瞳が輝きを放ち始める。――その恐れを振り払える。


アオイの淡いラベンダー色の瞳もまた、力強く輝いた。――そして、立ちはだかるすべてを乗り越えられる。


二人の刃が、ゆっくりと互いに近づいていく。


皆を守るために。


剣の切っ先が触れ合った。


触れ合った瞬間、深紅と青紫の炎が絡み合う。


二つの力が融合し、刃の周囲に鮮烈な炎の螺旋を形作った。


炎の勢いが増していく。


ジンが前を見据える。アオイも同じように。


「必要なのは……」ジンが声を張り上げる。「……内に秘めた炎を注ぎ込み……」


アオイが言葉を継ぐ。「……それを燃え上がらせること!」


二人の炎が新たな勢いで爆発的に燃え上がるのと同時に、ライゼンの破壊的な攻撃が彼らに向かって叩きつけられた。


「炎刃流奥義――!」アオイとジンが声を揃える。「第十五の型!」


二人が剣を前方へ突き出すと、深紅と青紫の炎が螺旋を描きながら融合し、一つの猛烈なエネルギーの奔流となった。


「天炎断(てんえんだん)!!」二人の声が重なり合って響き渡る。


合わさった攻撃が前方へと突き進んだ。


ドォォォォン!!


二人の炎が、ライゼンの放った圧縮された闇の炎の球体と正面から激突した。


「ぐっ……!」ライゼンが唸り声を上げ、両手を突き出して、必死の力で自らの攻撃を相手の炎へと押し付けた。


二つの力が激しくぶつかり合った。


深紅と青紫の炎が、紫黒の業火と激突し、熱波と突風が広間を駆け巡る。


アオイとジンは歯を食いしばった。


「うおおおおっ!!」二人は声を合わせ、力を込めて押し出す。


合わさった攻撃の威力は増し、戦場を切り裂くほどの猛烈な暴風を生み出した。


ライゼンの深紅の瞳が揺れる。彼は歯を食いしばり、さらに力を攻撃へと注ぎ込んだ。


「ぐああああっ!!」


だが、アオイとジンは決して引かなかった。


二人はさらに圧力を強める。炎はより一層激しく燃え上がり、二人の剣は寸分の狂いもなく重なり合っていた。


やがて、ライゼンの放つ闇の炎に亀裂が走り始める。


「ありえない……」彼の声が震えた。


二人の炎が合わさった奔流が、ついに彼の攻撃を圧倒する。


紫黒の業火が砕け散り、その闇は深紅と青紫の炎に飲み込まれていった。


「嘘だ……」ライゼンの目が見開かれる。「嘘だっ!!」


攻撃が完全に消し去られ、彼は悔しさを露わに叫んだ。


アオイとジンは彼の頭上に浮遊し、剣に炎を纏わせたまま、急降下の構えをとる。


「アオイッ!!」アヤネとリクヤが声を揃えて叫ぶ。


「とどめだ、ジン先輩っ!!」ヒカル、ミツル、カズキが声を合わせた。


「行け、二人ともっ!!」サヤカ、シズカ、そしてキヨツキの五人組が声を重ねる。


「あいつを倒してっ!!」アヤカとヒロが同時に叫んだ。


ミソラは息を呑み、固く手を組んで目を閉じた。


「あなたたちならできるっ!!」彼女の声がシンジの声と重なる。


「信じてるっ!!」ライトは決意を込めて両の拳を握りしめ、強く目を閉じた。「ジン先輩! アオイっ!!」


アオイのラベンダー色の瞳の中で、追加のリングが鮮烈に輝く。ジンの深紅の瞳もまた、同じほどの激しさで燃え上がっていた。


二人は力強い雄叫びを上げた。


「うおおおおっ!!」


剣の周囲で深紅と青紫の炎が爆発的に燃え上がる。


二人は急降下した。


ライゼンは恐怖に顔を歪め、見上げた。「ありえないっ!!」


二本の剣が振り下ろされた。


合わさった炎が、圧倒的な軌跡を描いてクロツキのリーダーを切り裂く。


「ありえないっ!!!」雷禅の体は、入り混じる炎に包み込まれた。


燃え盛る深紅と青紫の業火の中、最後の瞬間まで、彼の輪郭がそこに浮かび上がっていた。


その瞬間――


ドォォォォォン!


爆発が外へと炸裂した。


その衝撃が広間を駆け抜け、壁に亀裂を走らせると、石造りの壁の一部が崩れ落ちた。


砕け散った開口部の向こうには、広々とした空の下、「荒野(デザート・ランド)」の光景が広がっていた。


舞い上がる土煙と瓦礫から身を守るように、シンジは腕を掲げた。


やがて、爆風は静まっていった。


彼は腕を下ろし、空を見上げた。


アオイとジンは戦場の上空に留まっていた。二人は剣を構えたままで、その周囲には、二人の力を合わせた炎の残滓が揺らめいていた。


シンジは目を凝らした。開けた空を背に、二人のシルエットが輝いて見えた。


すると、二人の背後に、淡い光を纏った三つの人影が現れた。


シンジは目を見開いた。それが誰であるか、瞬時に理解した。


亡き息子、ダイスケ。亡き義理の娘、ホタル。そして、愛する亡き妻、リュウ。


彼らはジンとアオイの背後に穏やかな様子で立ち、温かく、誇らしげな表情を浮かべていた。


シンジは息を呑んだ。薄い紅色の瞳が、涙で潤んで揺れた。


「ダイスケ……」かろうじて声が漏れた。「ホタル……」


彼の視線が震える。「リュウ……」


三つの人影は、優しく微笑んだ。


そして、炎の残滓が消え去るにつれて、彼らの姿もまた、光の中に溶け込むようにして消えていった。


戦場の上空には、ジンとアオイの姿だけが残された。


シンジは視線を落とし、頬を伝う涙を流した。


周囲では、ヒロたちが呆然とした様子で、破壊された広間を見つめていた。


その破壊の規模は凄まじいものだった。


だが、それ以上に強烈だったのは、ある「実感」だった。


彼らは生き残ったのだ。勝利したのだ。


「やったんだ……」ルナが息を漏らすように言った。


「あいつに勝ったんだ……」ミツキの笑みがゆっくりと広がっていく。「あの悪党を倒したんだ……」


彼の声は喜びに震えていた。「……そして、僕ら全員を救ってくれたんだ!」


広間が沸き立った。歓声と勝利の叫びが、荒廃した要塞に響き渡る。


アヤネはすぐにリクヤに抱きついた。「やったね!」


リクヤは彼女を強く抱きしめながら笑った。「本当にやったんだ!」


イズミも彼らと共に歓声を上げ、その隣ではボルトが興奮して遠吠えを上げた。


イズミが二人をきつく抱きしめると、ギズモは勝利を祝うように甲高い鳴き声を上げた。


アストは頭上で翼を羽ばたかせながら、鋭く鳴き声を上げた。


「勝った!勝ったぞ!」ヒカル、ミツル、カズキは互いに抱き合い、涙を流しながら笑い、泣いた。


「よしっ!よくやった!!」サヤカは満面の笑みで拳を突き上げた。


その隣では、メイとシズカが温かい笑みを浮かべていた。


ライトは、ずっと止めていた息をようやく吐き出した。


頭上の二人の姿を見つめながら、彼は安堵の混じった笑みを浮かべた。


「お疲れ様……」その眼差しは優しくなっていた。「ジン先輩」


そして彼は微笑んだ。「アオイもね」


ヒロは長く息を吐き出し、握りしめていた拳の力がゆっくりと抜けていくとともに、全身から緊張が消えていった。


その隣で、アヤカは涙を浮かべながら微笑んだ。


「勝ったんだね……」安堵に震える声だった。


「ああ」ヒロは彼女の方を向き、微笑んだ。


アヤカは彼の視線を受け止めた。


一瞬、二人は何も言わなかった。やがて、予期せぬタイミングでアヤカが一歩前に出て、彼の首に腕を回した。


ヒロは目を見開いた。彼が反応する間もなく、彼女は身を寄せ、情熱的なキスをした。


彼の顔は真っ赤に染まった。「んっ――?!」


すぐにアヤカは身を離し、狼狽した表情で後ずさった。


ヒロはただ彼女を見つめていた。目は見開かれたままで、顔の熱さは刻一刻と増していく。


「……」


アヤカは両手で顔を覆った。彼女の頬も同じように赤く染まっていた。


ミソラは涙に滲む瞳で、その光景を見つめていた。


彼女は涙を流しながらうつむき、肩を小さく震わせて嗚咽を漏らした。


その隣で、シンジが静かに息を吐き出す。


「『黒月』が滅びる日を、この目で見ることになるとは思わなかったよ」


ミソラが彼の方を向く。シンジの視線は戦場に向けられたままだった。


「それも、月守(つきもり)の人間だけじゃなく……」


彼は彼女の方を向き、温かな笑みを浮かべた。「……外の世界の人間のおかげでもあったんだ」


ミソラは一瞬、彼を見つめた。やがて、涙の合間に小さな笑みがこぼれる。


彼女は視線を頭上の台座へと向けた。


アオイとジンが、ゆっくりと石の台座へと降り立つ。二人の足が地面に着いた。


二人ともすぐに前かがみになり、荒い息を吐き出した。身を包んでいた力が消え始めていたからだ。


アオイの瞳に浮かんでいた追加の輪が、一つ、また一つと消えていく。


髪や「小夜鳴(さよなき)」のジャケットから青紫色の輝きが消え、元の色へと戻っていく。


彼女の刃を包んでいた炎も、次第に消え失せた。


ジンの深紅のジャケットも、ゆっくりと元の濃紺色へと戻っていく。深紅の瞳の輝きも薄れ、やがて通常の色へと戻った。


「火の翼」を包んでいた炎が弱々しく揺らめき、やがて静まった。


ジンはしばらく立ち尽くしていた。荒い息遣いは収まらない。


ゆっくりと、彼は手にした聖剣へと視線を落とした。


「火の翼」を見つめる。


視界がぼやけ始める。呼吸がさらに重くなる。


やがて、意識が遠のいていく。


体は立ったままだったが、意識は戦場からゆっくりと離れ、深層心理へと沈んでいった。


..................


ジンの目が見開かれた。彼は立ち尽くし、見知らぬ光景を凝視した。


戦場は消え失せていた。


その代わりに広がっていたのは、穏やかな静寂だった。


数歩先には、家族の姿があった。


父・大輔。母・蛍。そして、悟。


その背後には、かつて命を落とした月守(つきもり)の戦士たちが何人も立っており、誰もが優しく、彼を迎え入れるような笑みを浮かべていた。


ジンは息を呑んだ。深紅の瞳が見開かれる。


「父さん……母さん……」声が震えた。


やがて彼の視線は、彼らの傍らに立つ懐かしい人物へと移った。


「悟兄さん……」涙で視界が滲む中、彼は必死に彼らの方へと手を伸ばした。


「俺は……」一歩踏み出そうとする。


だが、体は動かなかった。ジンの手は空中に差し出されたままだった。


「頑張ったんだ!」涙を溜めながら、声が裏返る。「逃げ出して……本当の自分から背を向けて、みんなを失望させたことは分かってる。でも――!」


言葉が途切れた。うなだれると、前髪が目元を覆い、頬を涙が伝い落ちた。


「ごめん……」唇が震える。「……本当に、ごめんよ、みんな」


一瞬、静寂が訪れた。


やがて、足音が近づいてきた。


ジンはゆっくりと顔を上げた。両親と悟が、彼の方へ歩み寄ってきていた。


誰も怒ってはいなかった。失望した様子もなかった。


彼らは微笑んでいた。


温かく、慈しむような笑みで。


蛍が彼の前で立ち止まった。「あなたは私たちを失望させたりなんてしていないわ、ジン」


ジンの瞳が揺れた。


「お前は俺たちの息子だ……」ダイスケが歩み寄る。その表情には、静かな誇りが満ちていた。「……お前を誇りに思わなかった瞬間なんて、一度だってなかった」


ジンは口を開きかけたが、言葉にならず、ただ涙を流し続けた。


サトルが横から近づき、優しくジンの肩に手を置いた。


「俺もお前を誇りに思うよ、ジン」いつもの茶目っ気のある笑みが戻る。「俺の想像をはるかに超えるほど、強く成長したな」


ジンは圧倒された様子で彼を見つめた。「サトル……」


それ以上言葉を紡ぐ前に、もう片方の肩にも優しい手が置かれた。


ジンが振り返ると、見慣れた淡い紫色の瞳と目が合い、彼は目を見開いた。


「おばあちゃん……」


リュウは温かな笑みを向けた。その表情には、ジンが幼い頃に記憶していたのと同じ優しさが宿っていた。


「あなたは本当に戦士ね、ジン」彼女はさらに柔らかな笑みを浮かべた。「そして何よりも……」


彼女はジンの瞳をまっすぐに見つめた。「……あなたは英雄よ」


家族がジンの周りに集まった。彼は一瞬、耳にした言葉の数々に圧倒され、ただそこに立ち尽くしていた。


やがて、彼は一歩前に踏み出し、家族を力いっぱい抱きしめた。


ダイスケ、ホタル、サトル、そしてリュウもまた、彼を抱きしめ返した。


ジンの心は温かさで満たされた。頬を伝う涙をそのままに、彼は家族の胸に顔を埋め、まるで彼らがどこかへ行ってしまわないようにと願うかのように、強くしがみついた。


何年もの間、心に抱え続けてきた重荷が、ついに消え去ったように感じられた。


長い時を経て、二人はゆっくりと身を離した。蛍は優しく仁の頬に手を添え、親指で涙を拭った。


彼女は彼に微笑みかけると、後ろへと下がり、他の者たちの列に加わった。


仁はとっさに彼らに向かって手を伸ばした。


「待って……」その声は、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。


だが、彼らは歩みを止めなかった。


仁は手を下ろした。彼らの姿を目で追っていたが、やがて別の何かに視線を奪われた。


遠くの丘の上に、二人の人影が立っていた。


深紅の混じった黒髪と、鋭い深紅の瞳を持つ男。


その傍らには、銀色の髪をなびかせ、右目を青、左目を紫にした女が立っていた。


仁は目を見開いた。すぐに彼らだと分かった。


間違いない……。彼の眼差しが和らぐ。彼らだ。


唇がわずかに開く。月守の里の創始者たち……そして、幾世代にもわたって里を導いてきた伝統そのもの。


蓮夜様……。彼の視線が女へと移る。……そして、蓮華様。


二人は彼に温かな笑みを向けた。そして、寸分の狂いもなく息を合わせ、恭しく頭を下げた。


仁は瞬きをした。


穏やかな笑みが彼の口元に浮かぶ。彼もまた、頭を下げて応えた。


再び顔を上げたときには、蓮夜と蓮華はすでに背を向けていた。


二人は地平線に向かって歩き出し、他の者たちもその後に続いた。


仁は黙ってそれを見つめていた。


大輔が息子を振り返った。「もう行かなければならない時間だ、仁」


ジンの表情が曇った。彼が何か言うより先に、サトルが歩み寄り、優しくその頭を撫でた。


ジンは目を見開いた。その慈しむような仕草に、幼い頃の数え切れないほどの記憶が蘇る。


サトルはいつものように、温かな笑みを浮かべていた。


リュウが他の者たちと共に歩き出す。「俺たちはいつだって、お前を見守っているからな、ジン」


ジンの瞳が潤んだ。


「今はこれでお別れだけど……」ホタルも彼の方を振り返りながら加わった。「私たちがずっとあなたを愛していること、忘れないでね」


彼女はふふっと小さく笑った。「それから、もちろん……」茶目っ気のある笑みを浮かべる。「あなたが愛するあの子とのことも、私たち、応援しているわよ」


ジンの頬がたちまち赤く染まった。「母さん……」


彼は照れくさそうに視線を落としてから、微笑んだ。「ありがとう……父さん、母さん」


ダイスケが誇らしげに微笑んだ。


サトルは頷くと、他の者たちを追って駆け出した。数歩進んだところで、彼は肩越しに振り返った。


「ああ、それともう一つ!」


ジンが顔を上げた。


サトルの笑みがさらに深まった。「俺の弟、ヒロのことを頼むぞ」


彼は茶目っ気たっぷりの表情でジンを指差した。「アヤカやイズミ、それにみんなのこともな。いいか?」


ジンは涙を浮かべながら微笑んだ。「うん」その眼差しは力強さを帯びていた。「約束するよ」


サトルは頷いた。「さすが俺の弟だ」


彼は向き直り、他の者たちを追って駆け去っていった。


ジンはその場に立ち尽くし、家族の姿が遠ざかっていくのを見つめていた。


一人、また一人と、彼らの姿が眩いばかりの白い光に飲み込まれていく。


やがて、彼らの姿は消え失せた。


..................


ジンの頬からこぼれ落ちた一筋の涙が、「火の翼」の刃に静かに落ちた。


彼はその聖剣をしばらく見つめ、静かな感慨をその表情に浮かべていた。


やがて、彼の唇に小さな笑みが浮かぶ。指先が、優しく柄(つか)を握りしめた。


ジンが葵の方を向くと、彼女はすでに彼を見つめていた。


二人の視線が交わる。一瞬、どちらも言葉を発しなかった。


やがてジンの唇が、見慣れた不敵な笑みを形作った。


葵もまた、同じように笑みを浮かべる。


それ以上何も言わず、二人は拳を突き出し、軽く合わせ合った。


コツン。


「よくやったな、葵」ジンがにやりと笑う。


葵の笑みがさらに深まった。「ありがとう」彼女はおどけた様子で頷く。「ジン先輩も、お疲れ様でした」

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