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劇場版 ブルーストーム 火の翼の台頭  作者: Fawole Oluwaseyi


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第34章

「待て……月見(つきみ)?」ジンは驚きに目を見開き、シンジと台座の上に立つ男を交互に見やった。「あの月見一族のことか?」


信じられないといった様子で眉をひそめる。「てっきり、十年前の侵攻で全滅したと思っていたんだが」


視線を再びライゼンに戻す。「それに……その男のことは、今まで一度も見たことがない」


シンジは顎に力を込め、ライゼンを凝視したままだ。「ああ、そうだろうな」


その表情が険しくなる。「お前が生まれるずっと前に、月森(つきもり)から追放された男だからだ」


一呼吸置く。


「名は月見仙太郎(せんたろう)……」シンジが目を細める。「……健太郎(けんたろう)の双子の弟だ」


ジンは瞬きをし、驚愕に口を開けた。


「待てよ……」声が震える。「つまり……亡くなった月見一族の当主の、双子の弟だって言うのか?」


さらに目を見開く。「じゃあ……彩花(あやか)の大叔父(おおおじ)にあたるのか?」ライゼンを凝視する。「それなのに、なぜあんなに若々しいんだ?」


「よくもまあ、まだその名で俺を呼べるな、シンジ」ライゼンの深紅の瞳に怒りの炎が宿る。


彼は台座から一歩を踏み出した。


階段を降りるのではなく、その体はゆっくりと宙を舞い降り、衣を翻しながら二人のほうへと漂うように近づいてくる。


そして、ジンとシンジの数メートル手前に、音もなく滑らかに着地した。


ライゼンの眼差しが鋭さを増す。「その名はとうの昔に捨てた」鞘に収められた「火の翼(ひのつばさ)」を握る指に力がこもる。


「今の俺の名はライゼンだ」冷ややかな怨念を宿した瞳で言い放つ。「月見一族とも……」


一瞬の沈黙。


「……月森とも、何の関係もない」


シンジは剣を握り直した。「分かっている。月森を追放される直前、お前はその新しい名を名乗ったからな」


彼は刃を掲げ、ライゼンに切っ先を向けた。「つまり、黒月(くろつき)一族を創り上げたのはお前だったというわけだ」


事の真相が次々と明らかになるにつれ、ジンの目は細められた。


「なるほど……」彼は剣を握る手に力を込めた。「だからダイゴは、お前のことを『ケンタロウ様』ではなく、ずっと『祖父』と呼んでいたんだな」


彼の表情が険しくなる。「お前が彼を洗脳して、こんなことをさせたんだろう?!」


ライゼンの口元が不敵に歪み、やがて彼は笑い声を上げた。


「洗脳だと?」その深紅の瞳が面白がるように輝く。「あの少年は、自らの意志でツキモリを去ろうとしていたんだよ」


笑みがさらに深まる。「お前は彼の真の可能性を見抜けなかった……」彼はわずかに首を傾げた。「……俺のそれを見抜けなかったのと同じようにな」


ライゼンは胸に手を当て、シンジを射抜くような視線を向けた。「お前はずっとそうだったな、シンジ?!」


言葉を重ねるごとに、彼の声は荒らげられていく。「お前も、あの役立たずでどうしようもない俺の双子の兄貴も!」


シンジは目を細めた。「お前が追放されたのは俺のせいじゃない、センタロウ!」その声には厳しい響きが混じる。「自業自得だ!」


「嘘だ!」ライゼンが吠える。「いつだって、お前のせいだった!」


両脇で拳が固く握りしめられる。「お前と、あの役立たずの兄貴だ!」怒りで肩が震える。「お前らはいつだって、俺より優れていた!」


深紅の瞳が怨念に燃える。「二人ともだ!」表情が歪む。「俺が成し遂げられることなんて、これっぽっちも見ようとしなかったくせに!」


彼の脳裏に、過ぎ去った歳月の記憶が蘇る。


ツキモリの修練場に立つ、幼い双子の姿。


一方は常に称賛され、もう一方は常に顧みられることなく。


「俺はずっと、兄貴の影に隠れて生きてきたんだ!」ライゼンの声には、苦々しい怨念がこもっていた。「兄貴がその強さを称えられる一方で、俺はいつだって『弱い方』と呼ばれていた!」


彼の拳が固く握りしめられた。「あいつは月見(つきみ)一族の長に選ばれた……」目を細める。「……俺は自分の価値を証明しようとあらゆることをしたのに、切り捨てられたんだ!」


別の記憶が蘇る。月森(つきもり)にやってきた若き日のリュウの姿。


雷禅(ライゼン)の表情が陰る。「最愛の女性だって見つけたのに……」声に苦渋が混じる。「だが、お前は……シンジ……」


その視線がシンジを射抜く。「彼女を俺から奪い去った!」怒りで声が震える。「お前が、あの偉大なる月代(つきしろ)一族の人間だったからだ!」


彼はシンジを指さし、糾弾するように言った。「お前が村の長だったからだ!」憎悪に顔が歪む。「そして、『火の翼』は月代一族だけのものと決まっていたからだ!」


狂気を帯びた笑みが、ゆっくりと彼の顔に広がる。「だから、何かをしなきゃならなかった……」


目を見開く。「何でもいいから!」その声が広間に響き渡る。「自分の価値を証明しなきゃならなかったんだ!」


拳を握りしめる。「だから、月代一族の跡取りを暗殺しようとした……」笑みがさらに深まる。「……そして、聖剣を奪おうとしたのさ!」


ジンは信じられない思いで目を見開き、剣を握る手に力を込めた。


「父上を殺そうとしたのか!?」


雷禅は薄く、苦い笑みを浮かべた。「もしリュウが俺と結ばれていれば、あいつは俺の息子になっていたはずだ」


視線が暗く沈む。「だが、実行する前に捕まってしまった」表情が険しくなる。「俺がしでかしたことの報いとして、死は免れなかった……」


言葉を切り、目を細める。「……だが、別の決断が下された」指が拳の形に曲がる。「そして、俺を追放するよう仕向けたのは……」


深紅の瞳がシンジに向けられる。「……俺の愛する兄弟だった」


「お前がそうさせたんだ!」シンジが言い返す。剣を握る手に力がこもる。「お前は月見の名に泥を塗ったんだ!」


「あいつらが俺を見捨てたからだ!」雷禅が吐き捨てるように言う。「俺を身内だなんて一度も思っちゃいなかった!」声が広間に響く。「村だって同じさ!」


彼の表情が怨嗟に歪んだ。「誰もが俺に背を向けた……」その瞳が燃えるように輝く。「俺の真の姿を見ようとする者など、一人もいなかった」


「お前は村の慣習や伝統を汚そうとしたんだ!」ジンが鋭く言い放ち、目を細める。「それを、お前の真価の証明だとでも言うのか!?」


ライゼンは陰鬱な笑い声を漏らした。「ああ、もちろんさ」彼は両腕をわずかに広げる。「月森は常に、その生き方と尊い伝統を誇りとしてきた」


彼の笑みは軽蔑の色を帯びる。「だが、俺には愚かさにしか見えなかった」


彼はゆっくりと腕を下ろした。「追放された後、俺は行く当てもなく山々を彷徨った」


その眼差しが鋭さを増す。「だが、月森への復讐を誓う俺の決意が揺らぐことはなかった」


かすかな笑みが浮かぶ。「そして、奴らを見つけたんだ」瞳が輝く。「過去四世紀にわたり、同じように村を追放された者たちの末裔からなる集団をな」


笑みが深まる。「そこで俺は『黒月』を創り上げた……」両腕を広げる。「月森の、あの『平和』を謳う思想を拒絶する組織をな」


その表情には、誇りさえ滲んでいた。「俺は彼らを鍛え上げた」指を曲げ、力を込める。「共に戦った」


一瞬の沈黙。


「彼らと共に強くなった」深紅の瞳が光る。「闇の術にも手を染め、自らの『炎刃』の技を磨き上げた。いつか月森へ戻る日のために」


面白がるように目を細める。「そして運命の巡り合わせか……」視線がジンへと向く。「……数年後、ダイゴが俺の元へやって来た」


ライゼンの表情が和らぎ、誇らしげな色を帯びる。「彼は俺とそっくりだった」


声を低くする。「月森の一族もまた、彼を真には認めていなかったんだ」ふっと笑う。「だから、俺は彼を迎え入れた」


笑みが広がる。「そして二人で、月森を襲撃することに決めたのさ」


シンジが目を見開く。「ケンタロウの死……」歯を食いしばる。「襲撃があったのは、彼が死んでからわずか数日後のことだった……」


その瞳が怒りに燃える。「……お前たちが、彼を殺したんだ!」


ライゼンは笑った。「いや、違う」彼の笑みが深まる。「俺じゃない」


彼の視線がジンとシンジの間を行き来する。「やったのは、あいつの孫だ」


ジンとシンジは凍りついた。驚愕に目を見開く。


ライゼンは続けた。「十年前、俺たちは月森を襲撃した……」彼の表情が険しくなる。「……だが、月山(つきやま)と月見(つきみ)の一族に押し返された」


彼の視線がゆっくりとジンに向けられる。「お前の両親も、その一員としてな」


ジンは歯を食いしばった。剣を握る手に力が入り、指の関節が白くなる。抑えきれない怒りに瞳が揺れていた。


ライゼンは再び低く笑った。「だから、一度は退いた」深紅の瞳が細められる。「だが、その前に邪魔者を始末しておいた」


彼の表情が陰る。「あいにく俺の力は消耗していた。だから、俺の力が万全で……」


彼はジンに視線を走らせる。「……月森が最も弱っている時を狙うことにしたんだ」視線は、彼の手にある鞘に収まった『火の翼』へと移る。「だが、それには『火の翼』が必要だった」


苦い笑みが彼の顔に浮かぶ。「それなのに、お前の父親であるダイスケは、それをあろうことかお前に託した」


ライゼンはゆっくりと目を閉じた。「そして三年前、俺たちが動く機会さえ掴む前に、お前は月森から逃げ出した」


再び目を開く。「三年間、俺たちは待った」声の調子が冷ややかになる。「監視し続けた」


一瞬の沈黙。


「お前たちのあの哀れでちっぽけな村の動きを、すべて探り続けていたんだ」


ジンの呼吸が荒くなった。


ライゼンは小さく鼻で笑った。「長年の時を経て、我らは再び動くことにしたのだ」


彼は一歩前に出た。「好機を捉え、聖華寺(せいかじ)に潜入してお前をおびき出した」


その視線がジンに向けられる。「お前が『火の翼』を携えて戻ってくることは分かっていた」


笑みが深まる。「なにしろ、お前が十八歳になった今、シンジがついに儀式を行おうとしていたからな」


ライゼンは鞘に収まったままの剣を掲げた。「そして、我らは再び月森(つきもり)を襲撃した……」 彼の指が柄を強く握りしめる。「……今や、この里最強の武器は俺の手にある!」


シンジの表情が険しくなる。「つまり、これらすべては……」 怒りで声が震える。「……復讐のためだったのか!?」


「狂ってる!」 ジンが叫んだ。


ライゼンは不敵な笑みを浮かべただけだった。そして、彼は『火の翼』を抜いた。


――シャキィン!


瞬時にして、どす黒い紫の炎が刀身を包み込み、刃の周りで激しく渦巻いた。


ライゼンは歪んだ勝利の笑みを浮かべ、その武器を見つめた。


「月森はこの剣の真の力を裏切ったのだ」 深紅の瞳が細められる。「『火の翼』は本来、我らこそが手にするべきもの」


彼の瞳が怪しく輝き始めた。「そして今……」 彼は構えを低くする。「……これを使って、お前たち二人を葬り去り……」


彼の全身から黒い炎が噴き上がった。


「……月森の里を完全に滅ぼしてやる!」


彼は猛然と踏み込んだ。


…………….


「ぐあっ!」 ヒロが咆哮し、ダイゴの剣と激しく打ち合った。


ガキン! ガキン!


刃がぶつかり合うたびに、黒と深紅の火花が散り、広間に飛び散った。


「まさかお前がこんな奴だったとはな、ダイゴ!」刃を押し付け合いながら、ヒロは怒りを露わにした。「お前は月見一族の一員だったんだぞ!」


ヒロは目を細めた。「月森の里の住人だったんだ!」


「うるせえ!」ダイゴは吐き捨てるように言った。その顔に邪悪な笑みが浮かぶ。「あの情けない里なんて、元から大嫌いだったんだよ!」


彼はさらに強くヒロの刃を押し込んだ。「月見一族も、あの里の連中も、俺の本当の姿なんて見ちゃいなかった!」


その深紅の瞳が、怨念で燃え上がっていた。「俺こそが次期当主になるはずだったんだ!」その表情が苦々しく歪む。「それだけじゃない……」


ダイゴの笑みがさらに深まる。「……俺の妹、アヤカ――月見一族の至宝ともてはやされたあの女が、あの負け犬のジンと許嫁にされたんだ!」


彼は剣を突き出し、ヒロを後退させた。


「そのせいで……」その声には怨念が滲んでいた。「……『火の翼』の次なる使い手と結ばれる運命にあるというだけで、彼女がその座を継ぐことになったんだ!」


「お前は妹を見捨てたんだ!」額が触れ合うほどの距離で、ヒロはダイゴを押し返しながら叫んだ。「アヤカを置き去りにしたんだ!」


その瞳が怒りで燃える。「十年前にも月森を襲撃し、今夜また同じことをしようとしている。かつて故郷と呼んだ場所を、あわや滅ぼそうとしているんだぞ!」


ダイゴはただニヤリと笑った。そして突然、後方へ身を翻して数メートル離れた場所に着地すると、即座に再び突進してきた。


「ああ、そうさ!」その声には侮蔑が滲んでいた。「じい様の目的のためなら、何度だってやってやるよ!」


「じい様はもう死んだんだ、ダイゴ!」ヒロは突進を受け止め、剣を掲げてその一撃を防いだ。「ケンタロウ様は、十年前の襲撃の数日前に亡くなられたんだ!」


「はっ!」ダイゴの笑みは崩れない。「当然だろ!」


深紅の瞳が怪しく光る。「俺が奴を終わらせたんだからな」


ヒロは目を見開いた。「何……だと?」


その言葉の意味を理解する間もなく、ダイゴが踏み込み、再び二人の剣が激しくぶつかり合った。


「爺さんは俺の真価を認めなかった!」憎悪に顔を歪める。「両親が死んだ後、俺は自分の手で動くしかないと悟ったんだ」


ヒロの剣を力任せに押し込む。「だから、殺してやった……」笑みがさらに深まる。「……月見一族の長として君臨していたあの男の命をな」


「この野郎!」ヒロは怒りに震えた。


ダイゴが鋭く剣を振り、ヒロを後退させる。


「それに、里の監視部隊の隊長職を拒絶された時も……」


再び踏み込む。「……俺を裏切った奴を殺そうと決めたんだ!」剣が激突する。「他の誰かにその座を与えたことにな!」


「ぐあっ――!」ヒロは後方へと押しやられ、石の床の上で足が滑る。


辛うじて体勢を立て直した瞬間、ダイゴが再び襲いかかってきた。


ガキンッ!


ダイゴの剣が上から叩きつけられ、ヒロは仰向けに倒れ込んだ。


「うっ!」背中を石の床に強く押し付けられながら、ヒロは必死に相手の剣を押し返そうと踏ん張る。


その時、慌ただしい足音が広間に響いた。入り口からアヤカとミソラが駆け込んでくる。


二人は即座に立ち尽くした。数メートル先で繰り広げられている光景を目の当たりにし、目を見開く。


ダイゴはヒロを見下ろすように立ち、その剣をヒロの剣に押し付けていた。


「まさか……」アヤカは震える瞳でその姿を見つめた。


「あ、あの人は……?」ミソラは衝撃と困惑の入り混じった表情で呟いた。


アヤカの唇が動く。「お兄ちゃん……」その声は、かろうじて聞き取れるほどのものだった。


ヒロはダイゴの圧力に耐えながらうめき声を上げ、互いの剣を噛み合わせたまま踏みとどまった。


「隊長の座を与えられなかった、ただそれだけの理由で怒っていたのか!?」ダイゴは目を細めた。「あの座は、俺の兄貴に与えられたものだ!」


「ああ、そうさ!」ダイゴは再び笑みを浮かべた。「サトルだ」その深紅の瞳が怪しく光る。「お前の大事な兄貴だよ」


彼は首を傾げた。「『月守(つきもり)』の完璧な戦士」笑みがさらに深まる。「あの村で、彼を慕わない者など一人もいなかった!」


「それは彼が、俺たちの中で誰よりも優しかったからだ!」ヒロは感情を込めて言い返した。「彼はいつも、村のことを第一に考えていた!」


ヒロの表情が引き締まる。「彼は何をやらせても優秀で……」その瞳には確信の炎が宿っていた。「……俺たち全員を合わせたよりも強かった」


ヒロはダイゴの剣を押し返した。「そして、月守が彼を最も必要としていた時に……」悲しみを帯びた声でヒロは続けた。「彼は愛する村を守り、英雄として死んだんだ!」


「ハッ! 当然だろ!」ダイゴは笑みを広げた。「村中の誰からも愛されていた男なんだからな!」


彼の表情が残忍なものへと歪む。「だからこそ、俺は彼を殺した後……」ダイゴはゆっくりと剣の柄をヒロの方へ向け、わざとヒロの視界に入るように動かした。「……その剣を自分のものにしたのさ」


アヤカが小さく息を呑んだ。ミソラの口元に即座に手が伸び、その瞳は恐怖に大きく見開かれた。


ヒロは息を詰まらせ、ダイゴが握る剣の柄へと視線を落とした。


そこに刻まれた「S」の文字が、彼を射抜くように見つめ返していた。


ヒロの目が見開かれる。「嘘だろ……」その事実は、まるで物理的な衝撃となって彼を打ちのめした。


サトルの記憶が奔流のように蘇る――あの笑顔、その声、そして共に過ごした数え切れないほどの時間。


ヒロの胸が締め付けられ、呼吸が乱れる。


「お前がやったんじゃないって言ってくれ……」低く、震える声だった。「お前じゃないんだろ!」


ダイゴは陰鬱な笑い声を漏らした。「俺が今、嘘をついているように見えるか!?」


その笑みがさらに深まる。「最高に興奮するな!」彼は首を傾げた。「悲しみのあまり、耳にしたことが真実かどうかも分からなくなっているんだな!」


その深紅の瞳には、嘲笑と侮蔑だけが宿っていた。「なら、思い出させてやろう」


その笑みが凶悪なものへと変わる。「俺がお前の兄貴、サトルを殺したんだ!」彼は剣を握る手に力を込めた。「その心臓を、真っ直ぐに貫いてやったのさ!」


「やめろ――ッ!!」ヒロが咆哮した。


渾身の力で、彼はダイゴを突き飛ばした。


ダイゴはよろめきながら後退したが、すぐに体勢を立て直した。その顔から笑みが消えることはなかった。


ヒロは即座に彼へと飛びかかった。怒りに染まった彼の瞳は、真っ白に輝いていた。


「この化け物め――ッ!!」


ガキンッ!


二人の剣が激しくぶつかり合う。


「人殺し――ッ!!」


ガキンッ! ガキンッ!


ヒロは容赦なく攻め立てた。その一撃一撃に、悲しみと怒りが込められている。ダイゴはすべての攻撃を防ぎ、剣を交える合間に反撃を繰り出した。


「いいぞ!」彼は笑った。「もっと来い!」


ダイゴはヒロの瞳を真っ直ぐに見つめた。そこには怒りしかなかった。


「殺してやる!」ヒロは激昂した。


その刀身に深紅の炎が噴き上がる。


「炎刃流奥義……第十一の型……」


炎がさらに高く燃え上がる。


「火蓮華(かれんげ)!」


ヒロの剣から深紅の炎の奔流が放たれ、轟音と共にダイゴへと迫った。


ダイゴの笑みが深まる。空間が炎に飲み込まれた。だが、突如として一つの影が上空へと躍り出た。


ダイゴは業火の中から跳躍し、炎をかわして数メートル先に着地した。


態勢を立て直す暇などほとんどなかった。


ヒロはすでに目の前にいた。


「第十三の型――!」


ダイゴの目が見開かれる。ヒロが視界から消えた。


「何――!?」


「紅蓮の虚撃(クリムゾン・フェイント)!」


「ぐっ――!」


ヒロの剣が凄まじい威力でダイゴを捉えた。


「がはっ――!」後方へと吹き飛ばされながら、ダイゴの口から一筋の血がこぼれ落ちる。


だが、ヒロは即座に追撃を仕掛けた。


「第十二の型――業火の歩法(パイア・ステップ)!」


足元に炎が湧き上がり、次々と炎の足場を形成する。ヒロはその上を跳躍し、その勢いを利用してダイゴへと肉薄した。剣が振り下ろされるが、ダイゴは素早く自身の剣を掲げてそれを受け止めた。


「ぐっ!」衝撃でダイゴは後退させられ、石の床を滑りながら壁へと叩きつけられた。周囲には土煙と硝煙が立ち込めた。


ヒロはしっかりと着地し、荒い息をつきながら霞の向こうを睨みつけた。怒りを瞳に宿したまま、彼は剣を強く握りしめ、前進を始めた。


不意に、煙の中から低く笑う声が響いた。


ヒロは足を止め、目を細めた。


「素晴らしい……実に素晴らしい」ダイゴの声が霞の中から漂ってきた。その言葉の端々には、愉悦の色が滲んでいる。


ヒロが反応するより早く、ダイゴの姿が煙を切り裂いて飛び出し、その刃がヒロめがけて閃いた。


カィィィン!


ヒロは辛うじて間に合わせ、剣を掲げた。


二つの刃が目にも留まらぬ速さで、幾度となく激突する。ダイゴが容赦なく攻め立てる中、ヒロは一歩も引かずに踏みとどまり、その一撃一撃を受け流していった。


「美しい! 見事だ! 実に素晴らしい!」ダイゴは笑い声を上げ、刃を交えるたびにその狂気じみた笑みを深めていく。「まさか、第十の型を超えた技を極めているとはな!」


「ぐっ……! ぬぅっ……!」ヒロは唸り声を上げた。ダイゴの攻撃が重さを増すたび、その衝撃が腕を激しく揺さぶる。それでも彼は防御と反撃を続け、決して後退しなかった。


「不公平だ! あまりに不公平だ!」ダイゴは甲高い声で笑った。「お前は月山(ツキヤマ)家の人間だ! そうだろう! お前の家系は常に他より優遇されていた! 月代(ツキシロ)家のお気に入り同然だったんだ!」


次の一撃がヒロの剣に叩きつけられ、彼を後方へと押し戻す。ダイゴの剣からは、深紅と漆黒が混ざり合った炎が噴き上がった。


「それに、驚きもしないさ!」ダイゴはそう叫びながら、さらに踏み込んだ。「お前はあの月代のガキの右腕なんだろ?! あいつがお前にその型を教えたんだ!」


カィィィン!


ヒロはまたしてもその一撃を防いだ。


「それとも、あのジジイのシンジか?!」ダイゴは笑みをさらに歪めながら叫んだ。「あいつがお前に教えたんだろ?!」


再び強烈な一撃がヒロの剣に打ち下ろされ、彼はさらに一歩後退を余儀なくされた。


「第十一から第十五の型を知っていたのは、月代家の人間だけだったはずだ!」ダイゴは吐き捨てるように言った。「俺だって、第十四の型を一度見ただけで覚えるのがやっとだった……それを完璧に使いこなせるようになるまで、クソ長い十年の歳月を費やしたんだぞ!」


「ぐっ!」新たな一撃を受け、ヒロは後方へと押し戻された。


「だが、お前は……!」ダイゴの瞳が、狂気じみた歓喜に輝く。「第十一、第十二、そして第十三の型まで極めていたのか!?」


その笑みは、まるで獣のように歪んだ。「第十四と第十五も知っているんだろう!!」


彼の剣を包む深紅の黒炎が激しくうねり、刻一刻とその勢いを増していく。


ダイゴは剣を頭上へと掲げた。


「腹立たしくてたまらねえ……!」怒りに声を震わせながら、彼は唸る。


炎が剣の周囲に凝縮され、渦巻く巨大な深紅の黒炎の球体へと収束していく。


「……我慢ならねえ!!」


迫りくる攻撃を前にヒロが目を見開く中、ダイゴの顔には不敵な笑みが広がった。猛々しい咆哮と共に剣を振り下ろすと、圧縮された黒炎の球体が放たれ、圧倒的な威力で前方へと炸裂した。


「黒き太陽の崩落(ブラック・サン・コラプス)!!」


その一撃がヒロへと殺到する。ヒロは即座に剣を回転させ、深紅の炎を刃の周囲に螺旋状に纏わせた。


「第五の型――提灯の守り(ランタン・ガード)!」


剣から炎の弧が大きく弾け飛び、迫りくる爆炎を迎え撃つ。だが、ダイゴの放った技の威力はあまりにも凄まじかった。


ドォォォン!


激しい突風が広間を駆け抜け、ヒロの足元を石床の上で後方へと滑らせる。


「きゃっ!」アヤカとミソラが悲鳴を上げ、吹き荒れる風から顔を庇うように腕を掲げた。足元の地面が揺れ、天井からは砂埃や砕けた石片が降り注ぐ。


「ぐっ……!」ヒロは歯を食いしばり、地面に踏ん張った。


だが、その衝撃に耐えきれず足元をすくわれ、周囲で瓦礫が舞い上がる中、彼は後方へと吹き飛ばされた。瞬く間に、戦場は濃い砂埃と煙に包まれて視界を奪われた。


「アヤカ!」ミソラは咳き込みながら、煙る視界の中で瓦礫をかき分け進んだ。やがて二人は瓦礫の中から姿を現し、不安げな眼差しを戦場へと向けた。


煙の向こうから、低く笑う声が響く。ダイゴが霞の中から現れ、ゆっくりとヒロの方へと歩み寄ってきた。


ヒロは痛む脇腹を片手で押さえながら、片膝をついて何とか立ち上がろうとしていた。顔を伝う血が滴り落ち、荒い息遣いが次第に重くなっていく。もう一方の手はしっかりと剣の柄を握ったままで、その切っ先は地面に触れていた。


ダイゴはヒロの目の前で立ち止まり、残忍な笑みを浮かべた。


「ざまァないな……」彼は嘲笑い、剣を振り下ろした。


ガキンッ!


ヒロは辛うじて剣を掲げて受け止めたが、その衝撃で床を激しく滑らされた。


「俺の足元にひれ伏してやがる!」ダイゴは再び打ち込んだ。


ガキンッ!


ヒロは地面に叩きつけられ、力なく握っていた剣は手から滑り落ち、数メートル先へと転がっていった。


ダイゴは落ちた剣を気にも留めず通り過ぎ、ヒロから数メートルの位置で足を止めた。


「見ての通り……」彼は両腕を広げ、笑みをさらに深めた。「……俺の技は、お前のものより遥かに優れている!」


その深紅の瞳が誇らしげに輝く。「あれは俺の祖父――黒月雷禅(くろつき らいぜん)様から授かったものだ!」


彼は腕を下ろし、狂信的とも言える表情でヒロを見下ろした。「あの方は究極の戦士であり、誰よりも優れたお方だ! そして俺はその右腕として、お前を……そして他の連中全員を滅ぼしてやる!」


ミソラはアヤカの方に視線を向けた。銀色がかったラベンダー色の髪の少女は、前髪の影に顔を隠してうつむいたまま微動だにせず、体の脇で拳を固く握りしめていた。


「そして『火の翼』があれば……」ダイゴは続けた。「……俺たちはさらなる高みへ行ける」


彼の笑みがさらに広がる。「月森(つきもり)を滅ぼし……やがては世界をも征服してやる!」


ヒロは奥歯を噛み締め、瞳を揺らした。疲労の底から、激しい怒りが燃え上がっていた。


ダイゴはゆっくりと、再び頭上に剣を掲げた。深紅と黒が混じり合う炎が刃に絡みつき、その顔を照らし出しながら激しさを増していく。


「実の兄弟の剣で死ぬってのが、どんな気分か味わってみろ」深紅の瞳がヒロを射抜く。「さらばだ、月山ヒロ」


彼の口元に再び笑みが浮かんだ。「兄貴と再会できることを喜ぶんだな……あっちへ行けば会えるんだからよ!!」


鋭い斬撃が静寂を切り裂いた――だが、それはヒロが放ったものではなかった。


ダイゴの炎が瞬時に消え失せる。


口から血を吐き出しながら、彼の瞳が揺れた。掲げていた腕が力なく垂れ下がり、手から滑り落ちた剣が石の床に音を立てて転がる。


彼は弱々しく視線を背後へと向けた。


そこにはアヤカが立っていた。彼女はうつむいたまま、ヒロの剣をダイゴの胴体深くに突き刺していた。


「アヤカ……」ダイゴは掠れた声で呟いた。「妹……よ……」


アヤカは剣の柄を握りしめる手に力を込めた。「あなたは、私のお兄ちゃんじゃない」


その声は震えていた。言葉の端々に、深い悲しみが滲んでいる。彼女はゆっくりと刃をさらに深く押し込んだ。鋼の刃先がダイゴの体の前面へと突き抜け、刃を伝う血が床へと滴り落ちていく。


「私のお兄ちゃんは、十年前にもう死んだの」


鋭い動作で、彼女は剣を引き抜いた。傷口から血が噴き出し、ダイゴはよろめきながら前へ進むと、その場に膝をついた。


やがて、彼の体は石の床にうつ伏せに倒れ込んだ。


広間に静寂が訪れる。


聞こえるのは、アヤカが握りしめたままのヒロの剣を伝い、血が静かに流れ落ちる音だけだった。


彼女はうつむいたまま、動かなくなったダイゴの亡骸を見つめていた。


長い沈黙の間、彼女はただそこに立ち尽くしていた。やがて、ゆっくりと顔を上げた。


彼女の視線が、ヒロの姿を捉えた。


彼は少し離れた場所に跪いたまま、うつむき、前髪の影にその表情を隠していた。


ミソラはようやく、止めていた息を吐き出した。動揺を抱えたままゆっくりと立ち上がり、アヤカとヒロの間で視線を彷徨わせる。


二人は何も言わなかった。


「……信じられない」ヒロがようやく沈黙を破った。


その声は静かで、どこか虚ろだった。「笑い話だよ……」低く、息混じりの自嘲めいた笑い声が漏れる。


アヤカは無言で彼を見つめていた。


ヒロの肩が震え、涙がゆっくりと頬を伝い落ちる。彼は徐々に顔を上げたが、その視線は床に釘付けのままだった。


「まさか……」声が震える。「……兄を殺したのが、かつての里の仲間だったなんて」


紅い瞳を揺らしながら、涙が溢れて頬を伝う。「あんなに近くにいたのに……」声が裏返る。「……殺せなかった……」


彼は地面に拳を強く握りしめた。「俺には力が足りなかったんだ!」と叫ぶ。「笑い話だ……十年間、復讐を果たすその日を夢見てきたのに!」


唇が震える。「……いざその日が来ても、できなかった! あいつを倒すだけの力が、俺にはなかったんだ!」


声を荒らげながら、彼は額が冷たい石の床につくほど深くうなだれた。


「兄貴はいつも俺を鍛えてくれていたのに……教わったことを使う機会すらなかった! 自分の手で仇を討つことさえできなかったんだ!」彼の肩が激しく震える。「俺は……役立たずだ!」


彼の頬を、とめどなく涙が伝い落ちていった。


「兄さんの仇を討てなかった……一族の仇も討てなかったんだ!」


彼の叫びは次第に途切れがちな嗚咽へと変わり、恐ろしいほどの静寂に包まれた広間にその音が響いた。


アヤカはゆっくりと彼の方へ歩み寄った。石の床に響く草履の音が、彼の嗚咽を遮るように聞こえる。彼女は彼の前で立ち止まった。


数秒間、彼女はただそこに佇んでいた。やがて両膝をつき、ヒロの刀を丁寧に傍らに置いた。


彼女は視線を落とし、太ももの上に両手を置いた。


「ヒロ……」


彼の肩は震え続けていた。


アヤカは静かに息を吸い込んだ。「これから話すことが、何の慰めにもならないのは分かっているけれど……」彼女の声は穏やかだった。「それでも、聞いてほしいの」


ヒロの嗚咽は次第に静まっていった。


アヤカは言葉を続けた。「小さい頃からずっと……」彼女の声には、古い記憶の重みが宿っていた。「私は兄のダイゴに憧れていたの。父が亡くなった後、兄が次期当主になるものだと信じて疑わなかった」


ヒロは握りしめていた拳をゆっくりと緩め、彼女の方へ顔を上げた。アヤカは視線を落としたままだった。


「でも……私はジンとの婚約を決められたの」彼女の唇に、かすかな、ほろ苦い笑みが浮かんだ。「それを聞いて嬉しかった。だって……彼に想いを寄せていたから。その気持ちに夢中になるあまり、子供の頃にあの滝から私を助けてくれた少年のことさえ、気に留めなくなっていたの」


ヒロは息を呑み、目を見開いた。アヤカはようやく彼に視線を向け、弱々しく微笑んだ。


「それからというもの、私は妹なのに、ダイゴ兄さんはずっと私を遠ざけるようになったの。冷たくあしらわれて……自分が何をしたのか、なぜそんな扱いを受けるのか、私には分からなかった」


彼女の笑みが消えた。「それでも、私は兄を慕い続けていた。どれだけ距離を縮めようとしても……私が何かをするたびに、兄はますます私を疎ましく思うようになっていったみたいだった」


彼女は悲しげに視線を落とした。「でも、そこにあなたの兄さんが現れたの」その表情が和らぐ。「優しくて、強くて……いつも陽気な人だった」


穏やかな笑みが彼女の顔に戻る。「彼は私の人生に光をくれた。ダイゴが残した心の穴を埋め、私がずっと憧れていた『兄』になってくれたの」


その笑みが揺らぐ。「それでも……私はどうしても、ダイゴを憎むことはできなかった」


彼女の指が、太ももの上でわずかに丸まる。「彼は私の血を分けた家族だった。私の一族の一員だったから」


彼女は息を呑み、声を潜めた。「そして十年前、侵攻が起きて、ダイゴとサトルの二人が死んだと聞いたとき……」


彼女の瞳が揺れる。「……同じ日に、二人の兄を失ったんだと思った」


言葉を切り、彼女は地面に視線を落とす。「私の一族と共に……あなたの一族も、そしてジンの家も」


十年間背負い続けてきた重みに声を震わせながら、アヤカは言葉を続けた。その目尻に涙が浮かぶ。


「十年間……私は彼らの死を悼んでいた……」彼女は大きく息を呑み込む。「ダイゴがずっと生きていたことも、最初からこの事態の渦中にいたことも、何も知らずに」


ヒロは彼女を見つめながら、唇を震わせた。


アヤカはゆっくりと地面に身を屈め、額が冷たい石の床につくまで頭を下げた。両手は体の前に置かれている。


その仕草に、ヒロは驚きに目を見開いた。


「……ごめんなさい」涙がこぼれ落ち、床を濡らす。「月見(つきみ)一族の最後の生き残りとして、ダイゴが犯したすべての罪の責任を私が負います。十年前の反逆から……この瞬間に至るまで」


彼女は声を詰まらせながら続けた。「あなたが私にふさわしいと思う罰を……与えてください。終身刑でも構いません。私は何も言いません」


彼女の肩が震える。「あなたの心がそれで満たされるなら……私は覚悟できています」


「違う!」ヒロは即座に首を振り、彼女の方へ歩み寄った。優しく彼女の肩を掴み、視線が合うようにその体を起こす。


「君にそんなことをするはずがないだろう」彼はきっぱりと言った。「村を裏切ったのは彼だ。君じゃない」


彼の表情が和らぐ。「君は騙されていたんだ……俺たち全員が騙されていた。それに、結局のところ、彼を止めたのは君だった」


彼は首を振った。「俺の代わりに君が彼を殺したことなんて、怒ってない」


視線を落とす。「ただ、もっと早くそうできるだけの強さが自分になかったことに、腹が立っているだけだ」


ヒロは彼女を見つめ返し、ゆっくりと片手を上げた。そして指の関節を使って、彼女の左目の下にある涙を優しく拭った。もう片方の手もそれに続き、反対側の頬を伝う涙を拭う。


「それに、彼の妹だというだけで、彼がしでかしたことの責任を君に負わせて苦しませるなんて、絶対にさせない」


声が優しくなる。「そんなこと、できないよ……」彼の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。「……だって、俺は君を愛しているから、アヤカ」


アヤカは息を呑み、目を見開いた。


「子供の頃からずっと、君が好きだったんだ」ヒロの声が感情に震える。「君を俺の視界から離したりはしない……だって、君こそが俺を支え続けてくれた人だから」


過去の記憶が脳裏をよぎり、彼の視線が落ちる。


「兄貴が死んだとき、君は俺のそばにいてくれた。兄貴がいなくなって心に空いた穴を、君が埋めてくれたんだ」


彼はかすかに微笑んだ。「当時の君の心はジンに向いていたけれど、俺は自分自身に誓ったんだ。生きている限り、ずっと君のそばにいようって」


彼の笑みが和らいだ。「それに、君が自分の手でダイゴに引導を渡したことを怒ってなんかない。むしろ……」彼は静かに息を吸い込んだ。「兄を殺した相手への報復は、俺の手じゃなくて、愛する女性の手でなされる方がよかったんだ」


彼の瞳が真剣な色を帯びる。「俺が求めていたのは、正義なんかじゃなかったから」


一瞬の沈黙。


「復讐だったんだ」


ヒロは優しくアヤカの頬を包み込み、その表情には温かさが満ちていた。


「だから、ありがとう、アヤカ……」彼は親指で、彼女の目の下を伝う涙を拭った。「……ようやく兄の魂を安らかに眠らせてくれて」


アヤカは息を呑み、新たな涙が頬を伝い落ちた。


押し殺していた嗚咽が漏れ、彼女は身を乗り出すようにして彼の胸に崩れ込んだ。


ヒロはすぐに彼女を抱きしめ返し、自分も涙を流しながら、強く彼女を抱きしめた。


「私も愛してる、ヒロ!」アヤカは泣きじゃくった。「ごめんね! 本当にごめん!」


ヒロは彼女の肩に顔を埋めながら、涙混じりの柔らかな笑い声を漏らし、抱擁を深めるように腕に力を込めた。


静かな嗚咽が部屋に響く中、ミソラはその二人を見守りながら、安堵してゆっくりと息を吐き出し、腰に手を下ろした。

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