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劇場版 ブルーストーム 火の翼の台頭  作者: Fawole Oluwaseyi


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第33章

紅(くれない)は、武器を握りしめ、反撃の構えをとる彩花(あやか)と美空(みそら)を見つめた。


やがて、彼女の口元に不敵な笑みが浮かぶ。その急激な表情の変化に、二人は即座に警戒を強めた。


「ふん」紅は扇を掲げた。「まだ私を終わった気でいるのかい、負け犬ども」


その瞬間、彼女の武器の周囲から深紅と漆黒が混ざり合う炎が噴き上がり、猛烈な勢いで外へと波打つように広がった。


彩花と美空はとっさに腕を掲げ、その強烈な熱気から顔をかばった。


「くそっ!」彩花が呻く。「まだ力が残ってたっての!?」


「大丈夫よ!」美空は腕を下ろし、剣を握る手に力を込めた。「まだ勝てる!」


二人は同時に踏み込んだ。


紅は目を細め、扇を振るった。


ガキンッ!


彼女の武器が二人の攻撃を同時に受け止め、その動きを止めた。


紅は笑った。「本気で私に勝てると思ってたのかい!?」


彩花と美空は、一瞬だけ視線を交わした。


二人は同時に目を細めると、揃って後方へと跳び退いた。


彩花は即座に再び前へと飛び出した。一方、美空はその背後に残り、落ち着いた様子で指先で剣をくるりと回すと、それを脇に構え、しっかりと足を踏ん張った。


「いいえ」彼女の声は静かだったが、確信に満ちていた。


彼女は紅を真っ直ぐに見据えた。「私たちがあなたを倒すって、分かってるから」


………………


雷牙(らいが)は、葵(あおい)と雷人(ライト)を睨みつけながら唸り声を上げた。あれほど容赦なく猛攻を浴びせたにもかかわらず、二人のどちらも重傷を負ってはいなかったからだ。


「くそっ……」雷人は剣を握りしめながら呟いた。「こいつ、攻撃を放ち始めた時は、本当に冗談抜きで本気だったんだな」


「ライト」葵の声に、彼は即座に反応した。


視線を向けると、彼女は雷牙から目を離していなかった。


「策があるの」


ライトは瞬きをした。


「でも、あなたの協力が必要よ」


彼の目がわずかに見開かれ、拳に力がこもる。「どうすればいい?」


葵が眉を寄せた。


雷牙が不意に腰を落とす。足元の地面に亀裂が走った。


そして、彼は猛然と踏み込んだ。


「避けろ!」ライトは即座に横へと跳んだ。


雷牙の炎を纏った刀が、葵めがけて振り下ろされる。


ガキンッ!


葵は自身の剣でその一撃を受け止めた。


二本の刃が拮抗する。雷牙が唸り声を上げて押し込むと、刃の間から火花が散った。


「葵!」ライトが不安げに叫ぶ。


「大丈夫よ!」葵は雷牙から視線を外さない。「とにかく自分の剣を拾って!」


「俺の剣!?」ライトは瞬きをし、慌てて周囲を見回した。「でも、どこに……!?」


ふと、数メートル先にあるものに目が留まる。瓦礫の山に半分埋もれるようにして、彼の剣が転がっていた。


「あ!」彼は即座にそこへ駆け出した。「あった!」


ライトは瓦礫を飛び越え、剣を掴み取った。


「このクソガキが!」雷牙は怒号を上げ、炎の刀を葵の刃に叩きつけた。「何が何でも、てめえらみたいな小枝同然の連中をぶっ潰してやる!!」


葵は重心を移動させた。上体を後ろに反らして敵の刃をかわすと同時に、雷牙の脇腹に強烈な蹴りを叩き込む。


ドォン!


「ぐっ!」雷牙は後方へと吹き飛ばされた。


彼は崩れた壁を突き破り、周囲に石片を撒き散らしながら激突した。


アオイがライトの隣に着地した。彼は剣を握る手に力を込めた。


「いい?」アオイの視線は、砕け散った壁に向けられたままだ。「よく聞いて」


ライトは彼女の方をちらりと見た。


「奴の弱点を見つけたわ」


ライトは二度瞬きをした。「弱点?」


アオイは頷いた。「胴体の左側よ」彼女のラベンダー色の瞳が細められる。「戦っている最中、奴は左に動くときだけ、少し動きが鈍くなることに気づいたの」


彼女は剣を少し下げた。「それに、さっきそこを攻撃したとき……」彼女の表情が険しくなった。「かすかな傷跡があるのに気づいたわ」


ライトの視線が瓦礫の方へ移った。「それで、どうするんだ?」


彼は彼女を振り返った。「またそこを突くつもりか?」


「できるだけ何度も」


ライトは一瞬、彼女を見つめた。これほど率直な答えが返ってくるとは思っていなかったからだ。


「まさか、そんな作戦に乗るとは思わなかったよ……」と彼は呟いた。


アオイは彼の方を向いた。「そこで、あなたの出番よ」


ライトは彼女を見た。


「奴の気を引いてほしいの」彼女は剣を握る手に力を込めた。「そして、私と一緒に戦って」


ライトは小さく息を呑んだ。「でも、俺は……」柄を握る指先が震えていた。


アオイはそれに気づいた。彼女は手を伸ばし、そっと彼の手の上に自分の手を重ねた。


ライトは彼女を見た。


「あなたならできるわ、ライト」彼女の声は穏やかだった。「信じてる」


ライトは彼女の瞳を見つめた。淡いラベンダー色の虹彩に浮かぶ幾重もの輪が、かすかに光を放っているように見えた。その奇妙な弧の形に、彼は意図したよりも長く目を奪われてしまった。


彼はすぐに視線を逸らした。ゆっくりと、決意を込めて息を吸い込み、剣を握り直した。


「わかった」


アオイは頷くと、前方へと駆け出した。


ライトもすぐに彼女の後に続いた。


「ガキどもが俺に勝てるわけがねえ!」ライガが咆哮し、紅黒い炎を纏った刀を振るって突進してきた。


アオイは叫び声を上げ、正面からその攻撃を受け止めた。


ガキンッ!


二人の刃が再び交錯した。


ライトは隙をうかがいながら、横から回り込んだ。彼の視線は、葵と雷牙の間を行き来した。


考えろ……。思考が激しく巡る中、故郷・蒼京市(そうきょうし)での修練の記憶が蘇った。


葵(あおい)の声が脳裏に響く。「敵がどこから来るか、予測なんてできない」


彼女の言葉が再び響き、彼は刀の柄を握り直した。


「重みを感じろ。予期するんだ」


猛々しい雄叫びと共に、ライトは前へと踏み込んだ。葵が雷牙(らいが)から一歩退き、攻撃の好機が生まれたその瞬間だった。


彼は黒月(くろつき)の戦士に向かって刀を振るう。雷牙は辛うじて刀を掲げ、その一撃を受け止めた。


――カィン!


即座に葵も攻勢に加わる。二人は並んで前進し、雷牙の刀と激しく打ち合った。


――カィン! カィン!


刃がぶつかるたびに火花が散り、広間に飛び散る。葵とライトの攻撃は、完璧な連携を見せていた。


「相手の武器ばかり見るんじゃない、ライト。その体を見るのよ」


ライトは仁(じん)の言葉も思い出していた。彼の瞳が鋭さを増す。


「構えのわずかな変化で、実際に動く前に相手の動きが読める」


彼は柄を強く握りしめた。


あの言葉は……


「うおおっ!」と叫びながら踏み込み、雷牙に連続攻撃を浴びせる。


……まさにその通りだ!


雷牙は唸り声を上げ、攻撃を弾きながらも後方へと押しやられていく。新たな決意を宿した瞳で、ライトはさらに攻め立てた。


葵や仁先輩ほど強くはないけれど……。指先が刀の柄に食い込む。


でも……


彼は再び踏み込み、雷牙に息つく暇も与えない。


ただ指をくわえて見ているだけなんて、ごめんだ!


その茶色の瞳に、突如として淡い光が宿った。虹彩の周囲に明るい琥珀色の輪が浮かび上がり、新たな決意に揺らめきながらゆっくりと回転し始める。


雷牙の目が見開かれた。彼は一歩踏み出した姿勢のまま、動きを止める。


こいつもか!? 彼の表情が困惑に歪む。一体どうなってるんだ、こいつらは!?


意識がほんの一瞬、ライトの方へと逸れた。


それだけで十分だった。


葵が彼の左側に現れた。


雷牙は目を見開いた。いつの間に――!?


ドスッ!


葵の刃が、彼の左脇腹に突き刺さった。


「ぐっ――!」雷牙はよろめきながら後ずさりし、即座に打たれた箇所を押さえた。


彼の呼吸が荒くなる。


葵の視線は彼に釘付けだった。彼女は気づいていたのだ。


「まだね」と、彼女は独りごちた。


……………


「しつこいね」勇(いさむ)は剣を構えた。「でも、しつこいだけじゃ強くはなれないよ」


彼女は踏み込んだ。


満(みつる)は待ち構えていた。そして、ギリギリのタイミングで横へと身をかわす。


勇の剣は空を切った。彼女は目を見開く。


「なっ――!?」


満は再び彼女の横に現れ、小太刀を閃かせて彼女へと振り下ろした。


「くっ――!」勇は間一髪で身をよじって攻撃を避けたが、刃は彼女の顎の横をかすめた。


細い切り傷ができ、一筋の血が肌を伝い落ちる。


勇は即座に満を睨みつけた。だが、次の瞬間、彼女は目を見開いた。


彼の鮮烈な深紅の瞳の中に、新たに二重の淡い琥珀色の輪が浮かび上がり、新たな意志を宿してほのかに輝いていたからだ。


勇は硬直した。な、何なのよ、こいつ……急に……?


彼女は歯を食いしばり、その思考を無理やり追い払った。


そんなことはどうでもいい――彼女の剣が突如、黒紅色の炎を纏う。一撃で仕留める!


「うっ!」イサムが突進した。


二人の刃が再び激突する。


ガキンッ!


ミツルは一撃ごとに身をかわし、炎を纏った刃を紙一重で避けながら、隙ができるや否や即座に反撃を繰り出した。


イサムが再び剣を振るう。ミツルはそれをすり抜けるようにかわした。今度は反対側からの一撃。


彼は身を屈めてそれをやり過ごすと、素早い斬撃で応戦した。


イサムはそれを防ぐ。彼女の攻撃をかわし、生じた隙を突いて反撃するミツルとの間で、武器の激しいぶつかり合いが続いた。


そして、彼は彼女の手首を掴んだ。


「なっ……!?」


「捕まえた」


彼は彼女の腕を捻り、その勢いを利用して自身の肩を彼女の胸元に叩きつけた。


「ぐっ!」イサムは後ずさり、よろめく。


ミツルは即座に追撃し、彼女の足元を払った。


イサムが態勢を立て直す間もなく、ミツルの小太刀が下から彼女の剣を打ち上げた。


ガキンッ!


彼女の手から武器が弾き飛ばされる。


「ああっ――!」


その言葉を言い終えるか終えないかのうちに、ミツルの蹴りが彼女の胴体を捉えた。


「ぐっ……!」


凄まじい衝撃が彼女を後方へと吹き飛ばした。


イサムは壁に激しく叩きつけられ、その拍子に部屋中に土煙が舞い上がった。


一瞬、あたりは静まり返った。


やがて土煙が晴れていく中、意識を失ったイサムの体が傷ついた壁を伝って滑り落ち、瓦礫の散らばる床へと崩れ落ちた。


ミツルはゆっくりと身を起こした。荒い息を整えながら、手の甲で唇の血を拭う。


その深紅の瞳に浮かんでいた追加の輪が、徐々に消えていった。


彼はイサムの方を一瞥し、鼻で笑った。「『か弱いお姫様』って言ったのは、冗談じゃなかったんだな」


疲労の混じった笑みが口元に浮かぶ。「見ろよ、このざまを。一撃でダウンか」


…………


ゲンシロウは唸り声を上げると、拳を合わせ、頭上高くに掲げた。


「アースバインド・クラッシュ!」彼は両の拳を地面へと叩きつけた。


ドォォォン!


強烈な衝撃波が床を伝って広がり、石の破片が四方八方に飛び散った。


だがヒカルはすでに空へと跳躍しており、その爆風を軽々と回避していた。


地面の揺れが収まると、ヒカルは軽やかに着地した。彼は手の中でトンファーを鮮やかに回転させ、滑らかな動きで構えをとると――


そのまま突進した。


その鮮やかな琥珀色の瞳の中に、決意を宿した二重の光の輪が浮かび上がった。


源四郎の目がわずかに見開かれた。「何だと……!?」


反応する間もなく、ヒカルのトンファーが猛烈な勢いで迫ってきた。


「笑わせるな!」源四郎が拳を振るう。


ヒカルはそれを身を屈めてかわした。


「お前は本当に口数が多いな」そう言い捨て、ヒカルは源四郎の腹部に拳を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


源四郎は苦悶の表情で身を折り曲げた。


ヒカルはトンファーの端を地面にしっかりと突き立て、それを支点に体を跳ね上げると、鋭い蹴りを源四郎の顎(あご)へと放った。


「ぐっ……!」激しい衝撃で頭をのけぞらせた源四郎の口から、血飛沫が散った。


態勢を立て直す暇もなく、ヒカルの姿がふっと視界から消えた。次の瞬間、彼は源四郎の頭上に現れていた。


体を回転させ、強烈な蹴りを胸板に叩き込む。その衝撃で、源四郎の巨体は部屋の向こう側へと吹き飛ばされた。


彼は木製の障壁を突き破り、瓦礫(がれき)の中に倒れ込んだ。


ヒカルは荒い息を吐きながら、重々しく着地した。


口元の血を拭い、「俺が本当に気絶したかどうか、ちゃんと確認しておくべきだったな」と告げる。


源四郎の巨体が起き上がろうとする。その腕は小刻みに震えていた。


だが、ヒカルはすでに彼の真上に立っていた。


「黒月(くろつき)」の闘士は、ついに力尽きたようにその場へ崩れ落ちた。


ヒカルは息を吐き出した。「ああ……」そして、にやりと笑う。「やっぱりな」


意識を失ったゲンシロウの姿を見下ろしながら、彼は言葉を続けた。「強さを誇るべきもののように語っておきながら、お前はその力で他人を傷つけている」


琥珀色の瞳が、静かな確信を宿して細められる。「だが俺は、その力を大切な人々を守るために使う。よそ者だろうと、地元民だろうと関係なくな」


…………


カイトは鎖付きの刃をくるくると回し続けた。「動きが鈍くなってるぞ」


カズキは彼をじっと見つめた。「そうかもな」


青い瞳を鋭く細め、彼は手を伸ばしてヘッドホンを耳にしっかりと装着した。「だが、お前の動きは読めるようになってきた」


カイトの不敵な笑みが消えた。


彼が振り抜く。鎖付きの刃が空気を切り裂いた。


カズキはその下をくぐり抜ける。


カイトは即座に鎖を引き戻し、再び振りかざした。


カズキはその武器を飛び越え、鎖分銅を手に回るように動く。


カイトが視線を向けると、ちょうどカズキの青い瞳の中に、さらに二重の淡い青い輪が浮かび上がり、新たな強さを帯びてほのかに輝き出しているのが見えた。


カイトの深紅の瞳がわずかに細められる。なんだ……?


地面に足が着いた瞬間、カズキは鎖分銅を放った。


「タイダル・ウェーブ――!」カイトは辛うじて鎖付きの刃を繰り出した。


分銅のついた端が、彼の腕に巻き付く。


「なっ――!?」


カズキが強く引く。


カイトは前によろめき、彼の方へと引き寄せられた。


カズキは懐に踏み込み、その踵(かかと)を相手の胸に叩き込んだ。


「ぐっ!」カイトは武器を取り落とした。鎖付きの刃が床に音を立てて転がる。


カズキは鎖をピンと張り詰めると、それをカイトに向けて勢いよく放った。鎖はカイトの体に巻き付き、その腕と胴体を拘束する。


カズキが鋭く手繰り寄せると、


カイトの体は地面から引き剥がされ、空中でなす術もなく身をよじりながら、鎖にきつく縛られたまま上方へと回転させられた。


カズキは素早く鎖の一部を腕に巻き付けると、跳躍してカイトの横をすり抜けた。


「りゃあッ!」空中で交錯する瞬間、彼は立て続けに拳を繰り出し、そのすべてをカイトに叩き込んだ。


そして、体を一回転させるようにして脚を振り抜き、カイトの脇腹に蹴りを叩き込んだ。


それと同時に、彼は鎖分銅の重りを鞭のように走らせた。


「ぐっ……!」重りがカイトの右脇腹をかすめ、衣服を浅く切り裂く。


その複合的な衝撃を受け、カイトは後方へと吹き飛ばされた。


ドォン!


壁に激突してずり落ちたカイトの体は力を失い、そのまま意識を失って床に倒れ伏した。


数秒後、カズキは着地し、靴底を地面に擦らせながら姿勢を整えた。


荒い息を吐く。彼の青い瞳に浮かんでいた光の輪が、ゆっくりと消えていった。


「手間取ったな……」彼は腕から鎖を解き、一歩前に出た。「……だが、お前の負けだ」


カズキは垂れ下がった鎖を手にまとめると、一歩後ずさった。前髪をかき上げ、意識を失ったカイトの姿を見下ろす。


「次は、疲れているからといって相手を侮るなよ」


………………


砕け散った石礫の中、シグレは静かに立っていた。彼女の周囲には、炎を纏った刃が浮遊している。


「あんな情けない小細工、二度も通用しないわよ」


サヤカとシズカは互いに視線を交わした。


シズカが頷く。「準備はいい?」


サヤカは微笑んだ。「いつでも」


時雨は刃を前方へと放った。


双子は左右に分かれ、刃はその間をすり抜けていく。


時雨は目を細め、「鬱陶しい!」と吐き捨てて刃の軌道を変えた。


だが、その隙に沙耶香が急接近する。


時雨が武器を振るう。


沙耶香は身を屈めてそれをかわした。同じ瞬間、背後から静が襲いかかる。


「今よ!」


沙耶香は左へフェイントを入れ、薙刀を時雨へと薙ぎ払った。


時雨は軽やかに身をかわす。「はっ! そんなもので私に触れられるわけが……」


「どうかしら」静の冷静な声が、その傲慢な言葉を遮った。


時雨が反応するより早く、静は合気道の体捌きで回転し、その勢いを利用して踵(かかと)を時雨の顎(あご)へと叩き込んだ。


「ぐっ……!」時雨は吹き飛ばされ、ひび割れた石柱に激しく叩きつけられた。


周囲に土煙が舞い上がる。


煙が晴れる中、彼女は身を起こし、双子を睨みつけた。


「驚いた?」静は落ち着いた表情のまま、軽やかに着地した。「やっぱりね」


彼女の濃い紫色の瞳が細められる。「あなたは、距離を保っている時が一番強い」


時雨の体が強張る。沙耶香が薙刀を肩に担ぎ、一歩前に出た。


「近接戦を避けるのは、それが苦手だからでしょ」彼女は自信ありげに口元を歪めた。「だから、さっきからその場をほとんど動いていないのよ」


彼女は首を傾げた。「その武器に頼りすぎなのよ」


静は静かに息を吐いた。「そうだろうとは思っていたけど」彼女は構えを整える。「なら、素手で相手をするのが一番ね」


紫色の瞳が輝く。「だって……」彼女は沙耶香に視線を向けた。「それが私たちの得意分野だもの」


沙耶香がにやりと笑う。「自分の得意な戦い方をするのが一番でしょ?」


時雨は一歩後ずさった。背後に浮かぶ炎の刃が回転を速める中、彼女は奥歯を噛み締めた。


「拳と蹴りで叩きのめしてあげる……」沙耶香が指の関節を鳴らした。 「何度だって、繰り返すだけよ」


彼女はさらに口元を歪めて笑った。「だって……」薙刀を握る手に力を込める。「それが私たちの『得意技』なんだから」


「うるさい!」時雨の表情が怒りで歪んだ。「うるさい! うるさい! うるさいッ!!」


彼女の背後で、炎を纏った刃が激しく唸りを上げた。


「二人とも、本当にうっとうしい!」紅蓮の瞳が、突如として真っ白に染まる。「吐き気がするわ!」


刃が急激に前方へと放たれた。


「死になさい!」


双子は即座に薙刀を背後の地面に突き立て、横へと跳躍した。炎の刃は、彼女たちが先ほどまで立っていた空間を切り裂いていく。


「さやか」静かの声は、あくまで冷静だった。


さやかはにやりと笑う。「任せて、お姉ちゃん!」


ピンク色の髪の少女が、前へと躍り出た。迫りくる刃の合間を縫うように身をよじり、炎の武器が空しく通り過ぎる中、その狭い隙間をすり抜けていく。


時雨(しぐれ)は目を見開いた。――私に真っ直ぐ向かってくる気!?


さやかが、突如として彼女の横に現れた。


「生意気な小娘が!」時雨は刃を大きく振り回した。「近寄るな!」


さらなる炎の刃がさやかへと向けられる。だが、少女は軽々とその間をすり抜けていった。


彼女の顔に、茶目っ気のある笑みが浮かぶ。


時雨はそれに気づいた。「なっ……!?」


背後に、紫色の影が突如として現れた。


――またフェイント!? 時雨は辛うじて身を翻した。間一髪で刃を掲げ、静かの攻撃を防ぐ。


だが、その衝撃で後方へと押しやられ、そこへ静かの強烈なカポエイラの蹴り――アルマーダが叩き込まれた。


ドォン!


かかとが時雨の胴体を直撃する。


「ぐっ……!」血の混じった唾液の糸を引きながら、時雨は後方へと吹き飛ばされた。


彼女はなんとか踏みとどまった――かろうじて。


ふらつきながら横へよろめき、姿勢を立て直そうとする。


その時――


ドスッ!


新たな一撃が彼女を襲った。時雨の体は、横へと弾き飛ばされた。


「ぐっ……!」態勢を立て直す間もなく、空中に放り出された彼女の傍らに静香が現れた。


彼女は上体をひねり、コルクスクリューのような軌道で時雨に肘打ちを叩き込むと、間髪入れずに強烈な膝蹴りを繰り出した。


「ぐああっ!」時雨の体が宙へと弾き飛ばされる。無防備なまま、空中でなす術もなく回転させられた。


その時、彼女の頭上に影が差した。


さやかだ。


ピンク色の髪の少女が螺旋を描くように急降下し、テコンドーの回し蹴りの要領で力強く脚を薙ぎ払った。


「はあっ!」


ドォンッ!


彼女の踵(かかと)が時雨の胴体を直撃する。その衝撃で、時雨は地面へと叩きつけられた。


ガシャァァンッ!


時雨が床に激突すると同時に石片が四散し、その下には大きなクレーターが形成された。


しばしの間、静寂が支配した。


やがて、時雨の指先がピクリと動いた。彼女はゆっくりとクレーターから這い出した。


荒い息を吐きながらふらりと立ち上がると、こめかみから血が伝い落ちていた。焦点の定まらない深紅の瞳が、数メートル先に立つ二人の姿を捉える。


さやかと静香は並んで立ち、それぞれ薙刀を握りしめていた。


時雨は信じられないものを見るような目で彼女たちを見つめた。「ありえない……」


その声は震えていた。彼女は必死に立ち続けようとする。


どうして……? 彼女は目を細めた。どうしてあんな動きができるんだ……?


双子の少女たちは、あくまで冷静な佇まいを崩さない。


時雨は武器を握る手に力を込めた。「ありえない……!」


さやかは右に少し体重を預け、左手を自信ありげに腰に当て、薙刀を右肩に担ぐようにして立っていた。琥珀色の瞳が激しく輝き、その虹彩の中では二重のピンク色の輪がゆっくりと渦巻いている。


その隣で、静香は左に少し体を傾け、左手で薙刀を軽く持っていた。彼女の紫色の瞳もまた不気味なほどの輝きを放ち、その中では二重の薄紫色の輪が回転していた。


時雨は双子を見つめながら、その瞳を大きく揺らした。


彼女たちの雰囲気が変わっていた。さっきまで見せていた、遊び心のある自信に満ちた態度は消え失せていた。


そこには、獲物を狙う獣のような、不気味なほどに静謐な空気が漂っていた。


その瞳は彼女を射抜くように見据え、背筋が凍るほどの鋭さを宿していた。


この二人の少女は……。時雨(しぐれ)の視線は、琥珀色と紫色の輝きを放つ瞳の間を行き来する。……ただの少女じゃない。


苛立ちと恐怖が入り混じり、彼女の唇が震える。


まるで、殺すために生まれてきたかのような……!


彼女は奥歯を噛み締めた。目を細め、その表情から恐怖が消え、代わりに怒りが込み上げてくる。


「ただのガキのくせにッ!!」時雨が叫び、両手を突き出す。背後に浮かんでいた炎の刃が、即座に双子めがけて殺到した。


サヤカとシズカは、寸分の狂いもなく同時に動いた。


二人は左右に分かれ、迫りくる刃の間を軽やかにすり抜ける。炎の武器が、彼女たちがいた空間を切り裂いていった。


…………。


アヤカは腰を落とし、紅蓮の瞳でクレナイとミソラの動きを追った。二人の武器が激しくぶつかり合い、火花を散らしている。


彼女は目を閉じた。


炎刃流奥義……。


呼吸を整える。紅蓮の輝きが、徐々に彼女の短刀へと広がっていく。


第九の型……ッ!


足元の地面に亀裂が走る。全身から紅蓮の炎が噴き出し、激しく渦巻く中、彼女は前方へと踏み出した。


一瞬にして、二人の戦いの場へと到達する。


ミソラが彼女の気配を察知した。迷うことなく、クレナイから離れるように跳躍する。


「なっ……!?」クレナイが反応する間もなく、頭上に気配を感じ取った。


彼女の目が見開かれる。


サンブレイク・ドロップ!


アヤカが上空から舞い降りる。その両手の短刀は、凝縮された炎を纏い、激しく燃え盛っていた。


彼女はそれを猛烈な勢いで振り下ろした。


紅(くれない)は素早く扇を脇へ退け、刀を抜くと、頭上に掲げてその攻撃を受け止めた。


――ガキンッ!


「ぐっ……!」衝撃に押され、紅は後ずさりする。石の床を靴底で擦りながら、必死に体勢を立て直そうとした。


だが、態勢を整える間もなく、すぐ傍らに別の気配が現れた。


『点火の型(イグニッション・スタイル)……』


美空(みそら)の灰青色の瞳が激しく輝き、彼女は紅に向かって刀を薙ぎ払った。


『第五の翼――火燕螺旋牙(かえんらせんが)!』


刀身から炎が噴き上がる。攻撃は螺旋を描く炎の奔流へと変わり、紅に襲いかかった。


「くっ……!」彼女は辛うじて間に合わせ、刀を掲げた。


――ドォォォン!


その衝撃で、彼女は後方へと吹き飛ばされた。


紅は巨大な岩に激突し、周囲に土煙と破片が舞い上がった。


数秒間の静寂。やがて、土煙が晴れ始めた。


紅はゆっくりと顔を上げた。深紅の瞳を細め、二人の少女を睨みつける。


彩花(あやか)は短刀を脇に構え、揺るぎない決意を宿した深紅の瞳でしっかりと立っていた。


その隣では、美空が刀を少し下げた状態で立っており、灰青色の瞳の奥では、新たに二つの水色の輪がゆっくりと渦巻いていた。


二人の少女は、真っ直ぐに紅を見つめていた。


彼女はたじろいだ。(なんなの、あの子たちは……?)指が刀の柄を強く握りしめる。(あの佇まい……)


視線が美空へと移る。そして、彼女の目はわずかに見開かれた。


(それだけじゃない……)頬を一筋の汗が伝い落ちる。(いつの間に、あの部外者が『炎刃(えんじん)』の技を覚えたのよ!?)


瞳が揺れる。いや……彼女は美空の刀を包む炎が消えゆく様を見つめた。あれは、月守(つきもり)の戦士たちが使う通常の『炎刃の型』などではなかった。


彼女の表情に動揺が広がっていく。(全くの別物だ!)呼吸が荒くなる。(だが、どうやって……!?)


彼女は剣を握る手に力を込めた。部外者が、どうしてあんな技を知っているの!?


ミソラは目を細めた。「決着をつけるわよ」


クレナイは唸るように言った。「そうはさせない!」


深紅と漆黒が混じり合う炎が瞬時に剣を包み込み、彼女は二人に向かって突進した。


猛々しい叫びと共に、彼女は炎を纏った刃を二人へと振り下ろす。


アヤカとミソラは同時に踏み込み、クレナイの攻撃を正面から受け止めた。


ガキンッ!


二人の武器がクレナイの剣と交錯し、その防御の力が合わさって、クレナイの一撃をその場で食い止めた。


クレナイの体が強張る。二人の少女による渾身の防御に抗いながら、彼女は深紅の瞳を細めた。


やがて、二人の力が合わさった圧力に押され、彼女の体は後方へと押し戻された。


「ぐっ……!」アヤカは即座に前進し、クレナイと間合いを詰めて再び剣を激突させた。


ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!


彼女は容赦ない連撃を繰り出す。クレナイは必死にそれらを受け流し、防戦一方となりながら一歩、また一歩と後退していく。


アヤカの背後で、ミソラは剣を握る手に力を込めた。


彼女は目を閉じる。呼吸を整え、ゆっくりと落ち着かせていく。


吸って……構えを固める。吐いて……


…………。


ライトは目を細め、ライガの攻撃を再び受け止めた。


ガキンッ!


彼は即座に剣を捻り、ライガの剣の軌道を逸らして体勢を崩させた。


「ぐっ……!」その衝撃でライガは後方へと弾き飛ばされ、足元が危うく崩れそうになる。


ライトの頬を汗の粒が伝い落ちる。彼の視線が、ふと上方へと向けられた。


「今だ、アオイ!」


ライガは目を見開いた。反射的に天井の方を見上げる。


アオイは、すでにそこにいた。


彼女は岩肌の天井に身を潜めるようにして張り付き、右手をしっかりと岩に押し当て、左手で剣の柄を握りしめていた。


「いつの間に……!?」ライガは信じられないといった様子で目を見開いた。


葵は深く息を吸い込んだ。全身に力が漲るのを感じ、そのすべてを脚に込める。


彼女の瞳が大きく見開かれた。ラベンダー色の虹彩に浮かぶ輪が、より一層強く輝きを放つ。


そして、葵は地面を蹴った。


――ドォンッ!


天井から急加速し、まるで落下する矢のように雷牙(ライガ)めがけて舞い降りる。


剣の柄を両手でしっかりと握りしめ、切っ先を下方へと向けた。


……………


炎の刃が、絶え間なく双子へと降り注ぐ。


だが、サヤカとシズカの動きは完璧に同調していた。二人の薙刀が右から左へ、そして左から右へと薙ぎ払われる。


――シュッ! シュッ!


迫りくる刃を、正確かつ息の合った動きで次々と弾き飛ばしていく。


双子は指先で武器を鮮やかに回すと、二人同時に同じ構えをとった。


そして、再び前へと突進する。


「このクソガキどもがッ!!」時雨(シグレ)が金切り声を上げた。「地獄へ落ちろ!」


炎の刃の猛攻が激しさを増し、まるで豪雨のように頭上から降り注ぐ。


だが、サヤカとシズカはすでに動いていた。


戦場をジグザグに駆け抜け、ピンクと紫の残像を揺らしながら、驚異的な速さで攻撃の合間を縫うように進む。


時雨の視線が、激しく左右に揺れ動く。


どこだ!? 荒くなる息遣い。次はどこから来る!?


その瞬間、静寂が訪れた。


時雨がゆっくりと顔を上げ、目を見開く。


双子は、彼女の頭上に浮かんでいた。


右側に浮かぶサヤカは、薙刀を後ろに引き、右側から刃を薙ぎ払う構えをとっている。左側のシズカも同様に、姉と鏡合わせのような動きで、左側から薙刀を振るう体勢をとっていた。


………….


「うおおおおっ!」葵の雄叫びが、空間に響き渡る。


彼女は凄まじい勢いで急降下し、剣先を下方へと向けた。


――斬撃!


彼女の刃が、雷牙(ライガ)に強烈な一撃を叩き込んだ。


「ぐっ……!」 衝撃で体がのけぞり、雷牙の左脇腹から血が噴き出した。


葵(アオイ)は低い姿勢で着地し、目を閉じて呼吸を整えた。


その時――


――パキッ!


突如、彼女の剣に亀裂が走った。刃はいくつもの破片となって砕け散り、地面に飛び散った。


葵は手元に残ったものを見つめた。そこには、ただ柄(つか)だけが残されていた。


………………


「はぁっ!」 双子が声を合わせた。


二人が斬りかかる。


彼女たちの薙刀(なぎなた)が完璧な呼吸で交差し、ピンクと紫のエネルギーが巨大な「X」の字を描く斬撃となって放たれた。


――斬撃!


その攻撃が時雨(シグレ)の体を切り裂いた。直後、双子は彼女の背後、左右に分かれた位置へと着地した。


右側では静(シズカ)が薙刀を強く握りしめ、左側では小夜香(サヤカ)が武器を脇にしっかりと構えたまま、それぞれ身を低くしていた。


彼女たちの背後で、時雨の体がふらりと前によろめき、そのまま崩れ落ちていった。


……………


葵はゆっくりと身を起こした。荒い息をつく中、ラベンダー色の瞳に浮かんでいた幾重もの輪が、次第に消えていく。


直後、どっと疲労が押し寄せてきた。


ライトもまた荒い息を吐きながら、茶色い瞳に浮かんでいた琥珀色の輪を消し、彼女のもとへと駆け寄ってきた。


「大丈夫か?」 彼は彼女の目の前で立ち止まり、そう尋ねた。


「うん」葵は彼の方を向いたが、その視線は折れた剣の柄に留まったままだった。


ライトも彼女の視線を追った。「その剣……」と彼は呟く。


葵はようやく顔を上げ、小さく微笑んだ。


ライトは瞬きをした。今の表情は一体何だったのだろう? 彼の視線は折れた柄へと移る。どうしてあんな風に、突然刃が砕け散ったのか……。


思考は、雷牙の方へ視線が向いたことで遮られた。「黒月(くろつき)」の戦士は、石の床にうつ伏せのまま意識を失っていた。


葵も彼の視線を追った。彼女の唇から、小さな息が漏れる。


「やったね」ライトは彼女を振り返りながら呟いた。


葵は首を横に振った。「ううん……」彼女は彼の方を向き、柔らかな笑みを浮かべる。「私たちが、やったのよ」


ライトは一瞬彼女を見つめ、それから同じように微笑み返した。そして、力強く頷いた。


…………….


双子は荒い息をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、戦場の方へと向き直る。


数メートル先で時雨が意識を失って倒れていた。彼女の周囲を囲んでいた炎の刃が次々と消えていく中、その体は微動だにしない。


サヤカの琥珀色の瞳とシズカの紫色の瞳に浮かんでいた追加の輪が、同時に消えていった。


二人は立ち尽くしていたが、その体にのしかかる疲労は隠しようもなかった。


「私たちが……やったんだね……」サヤカが息を切らしながら言う。荒い呼吸のまま、彼女は続けた。「ついに、彼女を……」


その隣で、シズカは時雨を見つめたまま、ゆっくりと息を吐き出した。


そして、何も言わずに右手を握りしめ、サヤカの方へと向けた。


サヤカは瞬きをした。驚きに目を見開いた後、彼女の顔に満面の笑みが広がる。


彼女は息を大きく吸い込み、左の拳を突き出してその仕草に応えた。


二人の拳が優しく触れ合う。その動きを止めずに手のひらを開き――シズカは上向きに、サヤカは下向きに――胸の高さで軽く打ち合わせた。


流れるような動作で、さやかが手のひらを上に、しずかが下に向けると、二人の手は再び軽く打ち合わされた。


離れた手が、今度は拳となって再び合わさる。


コツン。


拳と拳を合わせる挨拶。


二人はその姿勢のまま、しばし時を止めた。しずかは目を閉じ、柔らかな笑みを浮かべ、一方のさやかは満面の笑みを崩さない。


「助かったよ、妹分」しずかは目を閉じたまま言った。


「いつだって、これからもずっとね、姉貴」さやかは笑みをさらに深めて応じた。


…………..


「くっ!」紅(くれない)が彩花(あやか)に向かって飛びかかった。


彩花は即座に刃を掲げ、上体を反らしながらその攻撃を受け止めると、手首をひねって紅へと武器を薙ぎ払った。


「ちっ!」紅は辛うじてそれを防いだ。


彩花が攻勢に出る。


次の一撃。そして、また一撃。


ガキン! ガキン!


「お前なんて大したことないんだよ!」刃が激突する中、紅が怒号を上げた。「わかってんのか!?」


突然の敵意に、彩花はわずかに目を見開いた。


紅(クレナイ)の深紅の瞳が、侮蔑の念に燃えた。「一族の期待に応えられなかった、ただの落伍者のくせに!」


彼女の唇が、残酷な笑みを形作る。「何一つ、まともにできないくせに!」


彩華(アヤカ)の瞳が揺れた。一瞬、紅の言葉はどんな刃よりも深く彼女の心に突き刺さった。


だが、彩華の表情はすぐに引き締まった。彼女は握る手に力を込める。


「私は、あんたが言うような人間じゃない」


その簡潔な言葉に、紅の笑みが揺らいだ。


彩華が刃を突き出す。


――ガキンッ!


その衝撃に、紅は後方へと押しやられた。数歩よろめく紅に対し、彩華はあくまで冷静だった。


「それに……」彩華の深紅の瞳が細められる。「私には、共に戦ってくれる仲間がいる」


紅の目が見開かれる。彼女が何かを言い返すよりも早く――


「点火式(イグニッション・スタイル)……」


空間に、美空(ミソラ)の声が響いた。


穏やかだった。不気味なほどに。彼女は目を閉じたままだ。


「第十三の光(サーティーンス・ライト)……」


紅の表情が変わる。何だ……?


何かを感じ取った。気配を。だが、反応する暇などなかった。


美空はすでに動いていた。


紅の唇から、小さく息が漏れる。彼女の目が見開かれた。


突如、その脇腹から血が噴き出した。


「静かなる残り火(サイレント・エンバー)」


空間に静寂が訪れた。


紅は呆然と立ち尽くしたまま、傷口から血を流し続けた。


やがて、彼女の膝から力が抜ける。


その場に膝をつき、ゆっくりと横向きに倒れ込む。彼女の体の下には、血の海が広がり始めていた。


美空は冷静に刃の血を振り払うと、それを腰の鞘に収めた。


その直後、彩華が彼女の隣に着地し、短刀を鞘へと戻した。


「いい一撃だったね」彼女は微笑んだ。


「……ふぅ」と、ミソラは疲れたように息を吐きながら言った。彼女は視線を紅(クレナイ)の倒れた体へと向ける。「時間はかかったけど、ようやく片付いたわね」


彼女は首を振った。「本当に、厄介な相手だった」


アヤカも同じ方を見つめ、穏やかに微笑んだ。「ええ」


ミソラが彼女に視線を向ける。「あなたも、よく戦ったわ」


アヤカが彼女の方を向く。


ミソラが小さく微笑むと、アヤカもそれに応えて微笑み返した。


その時――


ぐっ……


微かな呻き声が、二人の耳に届いた。


二人の少女は動きを止め、ゆっくりと振り返った。


紅が立っていた――かろうじて、だが。


傷口から血を流しながら、彼女は前屈みになり、うなだれたまま体を震わせていた。


アヤカは目を見開いた。ミソラは即座に刀を握り直す。


「あれを受けて、まだ立ってるの……!?」アヤカは表情を険しくし、再び戦闘の構えをとった。


ミソラは目を細め、頬に一筋の汗が伝う。


紅はふらつきながら、ゆっくりと二人の方へ歩み寄った。「私を倒したかもしれないけれど……」


その声は弱々しかった。不意に、彼女の口から血が溢れ出す。


彼女はよろめき、地面を見つめながら荒い息を吐きつつ、その場に膝をついた。


「でも……」彼女はゆっくりと顔を上げた。「雷禅(ライゼン)様を倒すことなんて、決してできないわ……」


アヤカは歯ぎしりをした。一歩踏み出しかけて足を止め、片方の刃を紅に向けて突きつける。


「大人しくしてなさい」紅い瞳が細められる。「あと一分も持たないことは分かってるはずよ。だから、黙ってて」


紅の口から、低く、息混じりの笑い声が漏れた。


「へっ……」彼女はゆっくりと顔を上げる。「私が正しいって、分かってるくせに」


彼女の霞んだ深紅の瞳が、二人の少女を捉えた。「雷禅様が『火の翼』を完全に掌握なされば……」唇がかすかな笑みを形作る。「完全に練り上げられた暁には……」


荒くなる息。「誰にも止められなくなるわ」


不穏な笑みがゆっくりと顔に広がる。「そして、彼と共に編み出した術があれば……」


言葉を切る。「月守の里は滅びる」


彩花の眉間に皺が寄る。「何の話?」


握る手に力がこもる。「『彼』って誰?」


美空が歩み寄り、彩花の隣で足を止める。「つまり、あの親玉以外にも、裏で糸を引いている奴がいるってわけね?」


灰青色の瞳を細める。「誰なの?」


紅(くれない)は、哀れみさえ滲むような薄い笑みを浮かべた。「この世界は、本当に歪んでいるわね」


視線を彩花に向ける。「たとえ最も親しい間柄であっても、無限の力を得るためなら裏切ることだってある」


笑みがわずかに深まる。「同じ一族の仲間なら、なおさらね」


彩花は目を見開き、息を呑んだ。


その言葉は、まるで物理的な打撃のように彼女を打ち据えた。


鋭く息を吸い込むと、彼女は突然背を向け、走り出した。


「彩花!」美空は驚いてその背中を見つめた。


紅を振り返り、険しい表情を浮かべると、すぐに彩花の後を追った。


紅は二人の姿が見えなくなるまで見送った。やがてゆっくりと瞳を上に向け、残された力も尽き果てた。


その体は床に崩れ落ち、彼女は意識を失った。


……………


手首から血を流しながら、メイはレンマの周囲を回り続けた。


レンマがにやりと笑う。「動きが鈍ってるぞ」


メイは傷口に視線を落とし、再び彼を見た。


「いいえ」瞳に鋭い光が宿る。「あなたの動きを見極めていただけよ」


レンマの笑みが消える。「何だと?」


彼は勢いよく飛びかかった。


メイが身をかわすと、彼の刃は空を切った。


彼が再び振るうと、彼女は身を屈めて避けた。


またしても。


彼女は巧みにその攻撃をすり抜けた。


レンマの苛立ちは頂点に達した。「避けてばかりいるな!」彼は炎を纏った双剣を荒々しく振り回した。「いい加減、まともな武器で戦え!」


彼が両の剣を振り下ろしながら踏み込んだその瞬間、メイは不意に彼の懐へと踏み込んだ。


シュッ!


鋭い斬撃音が室内に響き渡った。


そして、静寂が訪れた。


「ぐっ……!」レンマの口から血が噴き出した。彼は目を見開き、よろめきながら前へ出ると、即座に脇腹を押さえた。


「なっ……!?」息を呑み、どうにか振り返る。彼の目はさらに大きく見開かれた。


メイは彼に背を向けたまま立っており、その銀髪が背後で優雅に揺れていた。


彼女の両手には、鉄扇が握られていた。金、深紅、紫の色調で精緻な花模様が描かれた、美しい細工の施された武器だった。


まさか……レンマはそれらを見つめた。……扇?


見慣れぬ武器を凝視し、彼は目を細めた。あの意匠……古の時代のもののように見える……。


彼の視線はゆっくりとメイへと移った。銀髪が背後で優雅に揺れ続ける中、彼女の身からは得体の知れない気配が放たれていた。


彼女の纏う気配……彼の表情が揺らぐ。あまりにも……


「私の武器が見たかったのでしょう?」メイの声が、彼を現実へと引き戻した。


「え?」レンマは瞬きをした。


メイがわずかに顔を向ける。その紫色の瞳が彼の視線と交差した。瞳の奥では、薄紫色の二重の輪がゆっくりと渦巻いていた。


レンマは身を硬くした。炎を纏った剣を握る手に力がこもる。


メイは完全に彼の方を向き、両手の扇を掲げた。鉄扇が優雅に開かれ、彼女は洗練された構えをとった。


「これは聖なる武器よ」彼女の表情は穏やかなままだった。「だから、気をつけて」


彼女は片方の扇をわずかに傾けた。「その体に、これ以上傷を刻まれたくはないでしょう?」


レンマの頬が恥ずかしさで紅潮する。だが次の瞬間、その表情は狂気を帯びた笑みへと歪んだ。


「ついに来たか!」彼は両腕を広げて笑った。「これでようやく、お前とまともに戦える!」


二人の戦士が同時に動いた。


ガキンッ!


レンマの炎を纏った双剣が、メイの鉄扇と激突する。


「いいぞ!」彼は笑みを浮かべた。「実にいい!」


再び武器がぶつかり合う。


「これだよ、これ!」レンマは炎の連撃を繰り出しながら、猛然と攻め立てた。


メイは正確かつ巧みな動きで、次々とその攻撃を扇で受け流していく。


一撃を阻み、もう一撃を逸らす。そして、扇を素早く薙ぎ払って反撃に転じた。


鋼と炎、そして金属がぶつかり合う中、二人の動きは残像となって溶け合っていく。


一瞬、すべてがスローモーションになったかのように思えた。


雪(シュエ)一族の鉄扇術……。


メイは紫色の瞳を鋭く据えたまま、戦い続けた。


それは、一族の中でただ一人、紫の瞳を持って生まれた女性――私――に受け継がれた武器だった。


彼女はまたしてもその一撃をかわした。


そして私は、異色の瞳を持って生まれた最初の「雪(シュエ)」の女性――蓮火炎雪芳(リアン・フオイェン・シュエファン)様と同じ色合いの紫の瞳を宿している。


レンマが再び剣を振るう。メイは身をひねってそれをかわし、刃が通り過ぎる瞬間に扇で受け止めた。


雪一族では、古来より男女を問わず青い瞳を持って生まれるのが常だった。


彼女の扇が、レンマの刃を受け止めて鋭く閉じる。


本家の蓮(リアン)様だけが、唯一の例外だった。


メイは彼の剣を押し返した。


彼女は右目に青い瞳を、そして左目に紫の瞳を持っていたのだ。


「ぐっ!」レンマは横によろめいたが、すぐにまた彼女に向かって突進した。


メイの表情はあくまで冷静だった。


一族は、彼女が呪われていると信じていた。


彼女は相手の攻撃を身を低くしてかわす。


そして蓮様が日本の武家へと嫁いだ際、一族は彼女が雪一族を裏切ったと断じた。


メイは片方の扇を振るい、レンマの脇腹を打った。


そのせいで――


「うっ!」衝撃で仰け反るようにして、レンマは後ずさった。


彼らは、かつて彼女が振るった鉄扇術の扇を、紫の瞳を持って生まれた者にのみ継承させるよう定めたのだ。


メイは一歩前に踏み出した。


また、紫の瞳を持って生まれた者は誰であれ、蓮様と同じ呪いを背負っていると信じられるようにもなった。


レンマが再び剣を振るった。


メイは片手で彼の腕を掴んだ。指に力がこもる。


素早い身のこなしで彼の勢いを利用し、彼女は彼を背後へと投げ飛ばした。


ここ四百年もの間……私の一族で、紫の瞳を持って生まれた者はいなかった。


メイの投げ技でよろめきながら後退し、レンマは身を強張らせた。


……私を除いては。


彼は必死に足場を立て直そうとした。


私は紫の瞳を持って生まれた。それは一族にとって、かつて追放された最初の「異端者」を想起させる瞳だった。


「ぐっ!」レンマは再び猛烈な連撃を繰り出した。だがメイは冷静にそれらを受け流していく。鉄扇を操り、炎を纏った刃の軌道を、いとも容易く、かつ正確に逸らしてみせたのだ。


中には、私がリアン様の生まれ変わりだと信じる者さえいた……。


メイの紫の瞳の奥で、幾重もの輪が輝き始めた。


……だが、自分が何者であるかを他人に決めさせるつもりはない。


彼女は踏み込み、扇を大きく広げた。


彼女を取り巻く空気が一変する。


レンマは目を見開いた。「何だ……?」


扇から突如として柔らかな紫の花びらが弾け飛び、美しくも死を招く残像となって広間を舞った。


メイの姿が彼の視界から消えた。


「なっ……!?」


彼女は彼の背後に現れていた。


「ぐああっ!」無数の浅い切り傷が全身に走り、レンマの体は激しくのけぞった。血が衣服を赤く染めていく。


力尽き、彼は膝をついた。そしてそのまま、石の床に顔から崩れ落ちた。


私はメイ・シュエ――一族最後の生き残り!


部屋に静寂が訪れた。


メイの紫色の瞳に浮かんでいた輪がゆっくりと消えていった。彼女は扇子を下ろし、意識を失ったレンマの体を見つめた。


「こんな武器を使わせる必要なんてなかったのに…」彼女の声は優しくなった。「…でも、あなたのおかげで、またあの記憶を背負って生きていかなければならなくなったわ。」


彼女はレンマを見つめたまま、小さく笑みを浮かべた。


「そうね。」彼女は微笑み、目を閉じた。「あなたが意識を失っていたことをすっかり忘れていたわ。」


…………


ジンと祖父のシンジは並んで走り、黒月一族のアジトの中心部へと続く巨大な扉にたどり着いた。


数人の黒月一族の衛兵が、武器から紅黒の炎を噴き出しながら、一斉に彼らに襲いかかった。


「邪魔するな!」ジンは前に飛び出した。



一振りで刀身から炎が噴き出し、衛兵たちを吹き飛ばして石の床に倒れ込ませた。


「体力を温存しろ、ジン」追いついてきたシンジが忠告した。


「分かってる」ジンは刀を握りしめた。


二度振り下ろした。


ドーン!


巨大な扉が粉々に砕け散り、内側に崩れ落ちた。


扉の向こうには広大な部屋が広がっていた。壁を照らす無数の蝋燭の炎が、石の床に長い影を落としていた。部屋には不気味な静寂が漂っていた。


目の前には長い階段が伸びており、その奥には一段高い台座があった。


ジンとシンジは、ゆっくりと視線を上げた。


台座の上では、深紅と紫が混じり合ったような炎が燃え盛っていた。そして、その前には白いフードを被った男が立っていた。


男は背を向けており、その右手には鞘に収まった剣が握られていた。


「まさか、お前と再会することになるとはな……」男の声には、どこか楽しげな、しかし陰鬱な響きが混じっていた。「……シンジ」


フードの男はゆっくりと振り返った。鞘に収まった「火の翼」は、しっかりと握られたままだ。


それを見た瞬間、ジンの目が細められた。あれだ!


シンジの視線は、その謎めいた人物に釘付けになっていた。「こんな形で再会するとは……」彼の表情が厳粛なものに変わる。「……それに、お前がここまでやるとは思ってもみなかった」


彼は目を細めた。「雷禅(ライゼン)」


一瞬の沈黙。


「だが、本当に本人だとは信じがたいな……」シンジの表情が険しくなる。「……それがお前の本名じゃないとなれば、なおさらだ」


雷禅は不敵な笑みを浮かべた。左手を上げ、ゆっくりとフードを下ろす。


ついにその素顔が露わになった。


「間違いなく俺だ……」深紅の瞳が怪しく光る。「……俺以外の何者でもない」


笑みが深まる。「月城シンジ」


ジンは二人の男を交互に見やり、困惑の表情を浮かべた。


「お、おい、どうなってんだ?」彼は祖父の方を向いた。「じいちゃん、この男を知ってるのか?」


シンジの表情が曇る。その声は低く、悲しげな響きを帯びていた。


「ああ……」彼は目の前の男を見つめた。「ダイゴの言っていたことは、冗談じゃなかったんだな……」


重苦しい沈黙が彼らの間に流れた。


「つまり、ずっとお前だったんだな……」シンジの瞳には、信じられないという思いと悲しみが入り混じっていた。「月見センタロウ」


その名を聞き、雷禅の深紅の瞳が鋭く細められた。先ほどまでの楽しげな表情は消え失せていた。


一瞬、部屋の空気が冷たくなったように感じられた。そして再び、不気味な静寂がその場を支配した。

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