第26章
「これ、どこで見つけたんだ?」ライトの声は低く落ち着いていたが、その奥に潜む緊張感は隠しようもなかった。彼の視線は、ミツルの震える手に握られた壊れた眼鏡に釘付けになっていた。
カズキは唾を飲み込んだ。「ここからそう遠くない場所で、瓦礫の下に埋もれていたんだ」
重苦しい沈黙が流れた。
「彼らの手がかりは?」サヤカが矢継ぎ早に尋ねた。「アヤネは? リクヤは? イズミは?」
シズカはゆっくりと首を横に振った。「何もないわ」彼女の表情が曇る。「あの辺り一帯をくまなく探したけれど」
彼女の視線が地面に落ちた。「足跡もなければ……争った形跡もない……何も」
彼女の声に滲む不安に、誰もが胃のあたりを締め付けられるような思いがした。
「まるで彼らは……」彼女は言葉をためらった。「消えてしまったみたいに」
空気が冷たくなったように感じられた。
「でも、人が何もないところから突然消えたりなんてしないだろ」ヒカルが言ったが、彼自身も納得していない様子だった。
「じゃあ、どこにいるんだよ?」カズキが言い返した。
誰も答えられなかった。その後に続いた沈黙は、どんな言葉よりも恐ろしいものだった。
村の別の場所では……
アヤカは生存者たちの輪の中に立ち、破壊の爪痕が残る中で家族が再会する光景を見つめていた。
子供たちが親の腕の中に駆け込んでいく。涙が溢れ出す。安堵の笑い声と、疲れ切ったすすり泣きが入り混じっていた。
アヤカの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。少なくとも、助かった人たちがいる。
「ジン様!」
「ヒロ様!」
数人の衛兵たちの声が、突然響き渡った。
アヤカが振り返ると、目を見開いた。
ジンとヒロが、ゆっくりと村の中を歩いてきていた。
ジンはヒロの肩に腕を回し、ヒロがその体重の大部分を支えていた。
二人ともボロボロだった。顔には血がこびりつき、服は破れ、一歩進むのさえ辛そうだった。
「ヒロ! ジン!」アヤカはすぐに彼らに向かって駆け出した。
二人の少年はあと数歩進んだところで、ついに足の力が尽き、その場に膝をついた。
「あっ!」アヤカは彼らの前で滑るように止まると、迷うことなく二人を腕の中に包み込み、強く抱きしめた。
突然の動きに、二人は痛みに顔をしかめたが、文句を言う者は誰もいなかった。 「よ、よかった……」彼女の声は震えていた。瞳に涙が浮かぶ。「二人とも生きていて、本当によかった」
一瞬、ヒロもジンも言葉を発しなかった。ただ、その抱擁に身を委ねていた。
温もり。そして、安堵。
ジンの顔に、かすかな笑みが浮かんだ。「ありがとう、アヤカ」
ヒロも頷く。「俺たちも、お前が無事でよかったよ」
やがてアヤカは身を引いた。二人の姿をはっきりと捉えた瞬間、安堵の表情は驚愕と不安へと変わった。
服は血に汚れ、体中には打撲の跡。手当てされていない切り傷もいくつもあった。
「怪我してる……」彼女の声が震える。「何があったの?」
ジンはうつむいた。その表情が陰る。
ヒロは彼をちらりと見てから答えた。「襲撃の首謀者を見つけたんだ」
アヤカは動きを止めた。「リーダーを?」
ヒロは頷く。「少なくとも、黒幕の一人だ」彼は奥歯を噛みしめた。「そいつと戦った」
そして、目を細める。「……負けたんだ」
その言葉が、重苦しく空気に漂った。
ジンはゆっくりと拳を握りしめた。爪が地面の土に食い込む。
「全部、俺のせいだ……」かろうじて聞こえるほどの囁きだった。「俺がもっと強ければ……」
彼の肩が震える。「村をちゃんと守れていれば……」
「ジン――」
「いや」彼はうつむいたまま言った。「『火の翼』を奪われた」
声が裏返る。「人が傷ついた」彼はさらに強く拳を握りしめた。「なのに、俺には何も止められなかった」
「ジン、それは違う――」
ヒロが言い終わる前に、ジンがふらりと揺れた。
彼の瞳から焦点が消える。抑え込んでいた疲労が、ついに彼を襲ったのだ。
「え……?」
彼の体は横に傾き、そのまま崩れ落ちた。
「ジン!」アヤカの悲鳴が村に響き渡る。彼女は、彼の頭が地面に打ちつけられる前にその体を支えた。
「ジン!」瞬時に彼女の目に涙が溢れる。「ジン、起きて!」彼女は優しく彼の肩を揺さぶった。「お願い!」
「お、おい!」ヒロの冷静さも崩れ去った。彼はジンの腕を掴む。
「くそっ、ジン!」彼の顔に動揺が走る。「目を覚ませ!」
反応はない。
「ジン!」
近くにいた数人の警備兵が、すぐに駆け寄ってきた。
「道を開けろ!」
「治癒師を呼べ!」
「急げ!」
その場は再び、瞬く間に混乱に包まれた。
アヤカは涙を流しながら、ジンをしっかりと抱きしめていた。ヒロは拳を震わせながら、意識を失った友人を見つめていた。
…………
ミソラたちは、荒廃した村を隅々まで捜索しつつ、負傷した村人たちの救護を続けた。
「アヤネ!」荒廃した通りに、アオイの叫び声が響いた。
「イズミ! リクヤ!」別の方向から、ライトが奥歯を噛み締めながら叫んだ。
呼びかけに返事がないたび、彼らの胸の奥の不安は重く、きつく締め付けられていった。
「一体、どこへ行ってしまったの?」ミソラが拳を強く握りしめながら呟いた。
ミツルは手の中にある壊れた眼鏡を見つめた。「嫌な予感がする……」
「あ、あの……」
震える声が彼らに届いた。
一行が振り返ると、少し離れた場所に一人の人影が立っていた。
「ルナ?」メイが目を見開いた。
ルナは人混みの中からゆっくりと近づいてきた。肩を落とし、目は赤く腫れ、頬には涙の跡が残っていた。
彼の顔を見た瞬間、全員の胸に重苦しい予感が広がった。
「何があったんだ?」ミツルが即座に尋ねた。リクヤの眼鏡を握る手に力がこもる。「アヤネと一緒にいたんだろ?」
彼の声は険しさを帯びていた。「彼女はどこだ?」
ルナは立ち尽くしたまま、視線を地面に落とし、唇を震わせた。
「どうなの?」サヤカが語気を強めた。「答えてよ!」
ルナは身をすくませた。「ぼ、僕たちは……」声が裏返る。「彼女は……」
彼は唾を飲み込み、ようやく言葉を絞り出した。
「彼女は人質に取られたんだ」
世界が止まったかのように感じられた。
ルナはぎゅっと目を閉じた。「イズミとリクヤも一緒に」
静寂。
誰も動かず、息さえもしなかった。
「何だって……?」カズキの声は、かろうじて漏れ出たものだった。
ルナは話を続けた。その声はうつろに響いた。
「僕たちはみんなにクロツキのことを警告しようとしていたんだ」彼の拳が震えていた。「その時、侵攻が始まった」
その記憶に、彼の肩が震えた。
「リクヤが僕たちを見つけてくれて……」視線がさらに落ちる。「そこにクロツキのメンバーが二人、襲いかかってきたんだ」
彼は歯を食いしばった。「もうイズミは捕まっていたんだ。」声に表れた罪悪感は隠しきれなかった。
拳を固く握りしめた。「僕は残ろうとしたんだ。」声が震えた。「でもアヤネに出て行けと言われたんだ。」
彼は完全に打ちのめされた様子だった。「そして僕は…」
彼が言い終わる前に――
ドスン!
拳が彼の顔面に叩きつけられた。ルナは地面に叩きつけられた。
「ルナ!」兄弟たちの叫び声が響いた。
「この野郎!」サヤカの怒りの叫び声が村中に響き渡った。
彼女は再び飛びかかった。ヒカルはすぐさま背後から彼女を掴んだ。
「サヤカ!」
「お前は彼女を守るはずだっただろう!」彼女はヒカルの腕から激しく身をよじった。「彼女はお前と一緒にいたんだ!」
「落ち着け!」ヒカルは叫んだ。
「嫌よ!」サヤカの目は怒りに燃えていた。「嫌よ、落ち着かないわ!」
司と兄弟たちはルナに向かって駆け寄った。
「よくも彼を殴ったな!」司は叫んだ。
静香はすぐに二人の間に割って入った。「みんな、止まって!」
さやかはルナを指差した。彼女の手は震えていた。
「綾音たちは彼の目の前で連れ去られたのよ!」怒りと恐怖で声が震えた。「なのに彼は何もできなかった!」
抑え込んでいた苛立ちがついに爆発した。
「みんなが連れ去られるのを、彼はただそこに立っていただけだったのよ!」
「さやか――」
「だめ!」彼女の目に涙が浮かんだ。「今、彼らがどんな気持ちでいるか、分かっているの?」
声は低くなった。しかし、なぜかさらに鋭くなった。
「お前は自分を戦士と呼ぶのか?」
ルナはさらにうつむいた。
「お前は彼らを守れなかった。」
一言一句が刃のように突き刺さった。
「あなたは彼らの安全よりも自分の安全を選んだ。」
ルナの肩が震えた。
「男の風上にも置けないわね!」
ルナは反論しなかった。弁解もしなかった。顔を上げることすらしなかった。彼を押しつぶすような罪悪感は、彼女のどんな言葉よりも重く、痛烈なものだったからだ。
「そこまでだ!」如月が一歩前に出た。「言い過ぎだぞ――」
彼の声は途中で途切れた。さやかの激しい視線が彼を射抜いたからだ。彼は即座に、続けようとした言葉を飲み込んだ。
その時――
「その優しいおじさんを怒らないで!」
小さな声が、張り詰めた空気を切り裂いた。全員が動きを止めた。
ケイトが前に出た。ルナをかばうように、両手を広げて。
クイナも急いで彼の隣に並んだ。
「そうだよ!」彼女は力強く頷いた。「この人と茶色い髪のお姉さんが、私たちを助けてくれたの!」
一同は瞬きをした。
「もし助けてくれなかったら……」クイナが呟いた。「私たち、死んでた」
その場の怒りの空気が揺らいだ。
ケイトは視線を落とした。「アヤネお姉ちゃんが、僕たちを連れて逃げてって言ったんだ」小さな手が握りしめられる。「本当は、行きたくなかったんだよ」
一同は沈黙した。
「でも、お姉ちゃんは何度も行ってって言ったの」彼は顔を上げた。「自分のことは気にしないでって」
クイナが頷く。「メガネをかけた男の子と一緒に、あそこに残ったの」
「リクヤ……」メイが呟いた。
「イズミお姉ちゃんを助けようとしてたの」クイナの声が震える。「それから、悪い人たちが3人とも連れて行くのを見たの」
彼女の目に涙が浮かんだ。「だから、お願い……」拳に力がこもる。「彼を責めないで。私たちを助けてくれたんだから」
村は静まり返った。
さやかの怒りは、ゆっくりと消えていった。子供たちの言葉は、どんな理屈よりも深く心に突き刺さったからだ。
彼女の肩から力が抜けた。闘志が消え失せていく。
ヒカルとシズカが安堵の表情で視線を交わした。ようやくヒカルは力を緩め、彼女を解放した。
さやかは抵抗しなかった。ただそこに佇んでいた。
沈黙したまま。
アオイが前に出た。ゆっくりと、慎重に。
彼女は子供たちのそばを通り過ぎ、ルナの前に立ち止まった。その若者は、まだ顔を上げていなかった。
「ルナ……」彼女の声は穏やかだった。「彼らの言ったことは、本当なの?」
数秒間、ルナは身動きひとつしなかった。
やがて、彼は頷いた。
一度だけ。無言で。
次の瞬間、彼は膝をついた。額を地面につけ、両手でしっかりと土を押さえつけた。
肩が震え、押し殺したような嗚咽が漏れた。
「俺は……」ルナの声はかすれ、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。
額を土につけたまま、恥辱の重みに耐えかねるように、全身を震わせていた。
「自分が間違ったことをしたのは分かってる」彼の指が土に食い込んだ。「俺は、彼らを見捨てたんだ」
その告白は、重苦しく空気に漂った。
ルナの肩がさらに激しく震えた。「その通りだ……」彼は途切れ途切れに呟いた。「俺は、失格だ」
声が裏返った。「偽物なんだ」
目から涙がこぼれ落ち、足元の土を黒く濡らしていった。
「『月守の戦士』を名乗っていたのに……一番大事な時に、何もできなかった」
荒い息遣いになった。「アヤネを守れなかった。イズミを救えなかった。リクヤの力にさえなれなかった」
その名前を口にするたび、自ら傷口を再びこじ開けているかのようだった。
「残るべきだったんだ」彼の声は激しく震えていた。「たとえ勝てなくても……残って、彼らと共に戦うべきだった」
両手がさらに強く握りしめられた。
「それなのに……」喉の奥で嗚咽が詰まった。「俺は逃げた」
その言葉は、かろうじて聞き取れるほどだった。
「彼らに背を向け、臆病者のように逃げ出したんだ」涙が次々とこぼれ、土に染み込んでいく。「そして今……俺のせいで、彼らは囚われの身になってしまった」
まるで地面そのものに溶けて消えてしまいたいかのように、彼の体はさらに低く折りたたまれていった。
「ごめん……」
声がひどく震え、言葉が崩れそうだった。
「本当に、ごめん……」
誰も言葉を発しなかった。誰も遮らなかった。ただ、廃墟と化した村に響くルナの静かな嗚咽だけが聞こえていた。
アオイは黙って彼を見つめていた。前髪の影に隠れたその瞳の奥で、どんな感情が渦巻いているのかは読み取れない。
やがて、静かに――
「どうして?」
ルナはびくりと身をすくめた。
アオイの声は厳しくもなければ、責めるような響きもなかった。むしろ、痛いほどに穏やかだった。
「どうして最初から、あの子供たちを助けたって言ってくれなかったの?」
彼女の視線は彼から外れない。「どうして、そこを隠したの?」
ルナの肩が強張る。涙は止まらない。
「俺は……」声が震える。「そんなこと、大したことじゃないと思ってたんだ」
アオイは何も言わない。だから、彼は続けた。
「俺みたいな人間が……」指先が力なく土を掴む。「何人かの子供を助けたところで、他の全員を見捨てたという事実は消えないから」
息を呑む。「自分を良く見せようとしているみたいに、思われたくなかったんだ」
声がさらに低くなる。「まるで、英雄のふりをしているみたいに」自嘲気味な笑いが漏れる。空虚で、惨めな笑いだった。「本当は……俺なんて、そんな人間じゃないのに」
彼は再び、額が地面につくほど深く頭を垂れた。
「ごめん……」
その謝罪は、先ほどよりも静かだった。か細く、まるでそれ以上何かを言う気力さえ残っていないかのように。
その場に再び沈黙が降りた。
メイは視線を落とした。ミツルの顎は固く結ばれたままだが、その表情から怒りは消え、代わりに複雑な葛藤の色が浮かんでいた。
サヤカでさえ何も言わなかった。ルナの崩れ落ちるような姿を前にしては、議論の余地など残されていなかったからだ。
ただ、罪悪感だけがそこに残っていた。
アオイは小さく息を吐くと、何も言わずに一歩踏み出し、ルナの目の前で立ち止まった。
「ルナ」その声は優しかった。
それでも、ルナは顔を上げない。罪悪感という押しつぶされそうな重圧の下で、彼の肩は震え続けていた。
アオイは彼の前で片膝をつき、慎重にその肩に手を置いた。
その感触に、ルナは身をすくめた。
アオイの表情が和らいだ。 「大丈夫よ」と彼女は静かに言った。「あんなことになったからといって、あなたを責めたりはしないわ」
ルナは弾かれたように顔を上げた。涙に濡れた瞳が、信じられないといった様子で見開かれた。
アオイは彼に小さく微笑みかけた。「あなたはちゃんと助けになったわ」と彼女は続けた。「あの子供たちを危険から救い出したんだもの」
彼女の手は、彼の肩にしっかりと置かれたままだった。「それに、あの子たちの話だと、あなただって残って戦うつもりだったんでしょう? 立ち去るように言ったのはアヤネの方だった」
ルナは唇を開いたが、言葉は出てこなかった。
アオイの笑みはさらに優しくなった。「それは大事なことよ、ルナ」
彼は呆然とした様子で彼女を見つめた。
「でも……僕は……」と彼は呟いた。
アオイは軽く首を横に振った。「ううん」
彼女の声は穏やかだった。「アヤネのことだから、どう転んでも同じ選択をしたはずよ」
彼女の視線は、そこに立つ友人の姿を思い浮かべるように、ふと宙を彷徨った。「あの子はいつも、自分より他人のことを優先するから」
かすかな、そして少し切ない笑みが彼女の唇に浮かんだ。「リクヤも同じね」
ルナの瞳が揺れた。再び、涙が頬を伝い落ちた。
「だから、いつまでも自分を責めないで」とアオイは優しく言った。「あの時、あなたにできることはやったんだから」
彼女は彼の肩をそっと握りしめた。「それで十分だったのよ」
ルナは、耳にした言葉が信じられないといった様子で彼女を見つめた。
するとアオイは片目をつぶり、茶目っ気のある小さな笑みを浮かべてみせた。
「あとは私たちに任せて。いい?」
一瞬、ルナは動きを止めた。やがて、彼の顔が歪んだ。
肩から力が抜け、張り詰めていた糸が切れたように、押し殺していた嗚咽が漏れ出した。
彼は再びうなだれたが、今度は単なる自責の念からではなかった――
それは、安堵だった。
アオイは最後に一度だけ彼の肩をポンと叩くと、立ち上がった。
「とりあえず、一件落着ね」ポケットに手を突っ込んだミソラが、彼女の隣に歩み寄りながら言った。
いつもの気楽な口調に戻ったものの、彼女の目は依然として真剣だった。「さあ、本題に集中しましょう。」
ライトは頷いた。「そうだな。」顎をきつく引き締めた。「綾音、泉、陸也がどこに連れて行かれたのか突き止めて…連れ戻さなきゃ。」
静香は腕を組み、眉をひそめた。「でも、まだ腑に落ちないことがあるわ。」
皆が彼女の方を向いた。
「泉を連れて行った理由は理解できるわ。」と彼女は言った。「彼女はこの村の出身だから、何か用事があるのかもしれない。」
彼女の表情が曇った。「でも、綾音と陸也は?」彼女は首を横に振った。「納得がいかないわ。彼らの言い分からすると、黒月は出会ったよそ者は全員殺すつもりだったらしい。」
「綾音と陸也だけじゃない。」と和樹は険しい表情で付け加えた。「泉も戦闘員じゃないのに、彼女も生け捕りにされた。」
彼は腰に手を当てた。 「つまり、彼らにどんな理由があったにせよ…偶然じゃなかったんだ。」
「じゃあ、彼らに共通点は何なんだ?」ヒカルが呟いた。
一同に沈黙が訪れた。
ルナは鼻をすすり、浴衣の袖で顔を拭ってから立ち上がった。兄弟たちは彼のそばに寄り添い、じっと見守っていた。
すると突然、ルナの目が大きく見開かれた。
「思い出した。」
一同が一斉にルナの方を向いた。
「どうしたの?」メイが尋ねた。
ルナは唾を飲み込んだ。「襲ってきた黒月家の二人…そのうちの一人が何か言っていた。」
ルナは眉をひそめ、正確な言葉を思い出そうとした。「…奇妙な装置について言っていた。」
一同は緊張した。
「奇妙な装置?」ヒカルが繰り返した。
ルナは頷いた。「うん。彼らの装置は…興味深いと言っていた。」
一瞬の沈黙が流れた。
そしてアオイの目が大きく見開かれた。「携帯電話のことね。」
皆が彼女を見た。
ライトは瞬時に顎を食いしばった。「ちくしょう…」
ようやく理解した。
ミツルは鋭く息を吐き、表情を曇らせた。「だからジン先輩は、今回の旅行中はスマホを持ち歩くなとわざわざ注意したのか。」
「見慣れないものを見られたらどうなるか、先輩はもう分かっていたからだ」とカズキは呟いた。「それが部外者だろうとなかろうと関係ない。」
ミソラはため息をつきながら顔を手で覆った。「もう、勘弁してくれよ…」
彼女は苛立ちで肩を落とした。「こんな時にアヤネとリクヤは一体何をやらかしてスマホを人目につくところに置いていたんだ?」
ルナは視線を地面に落とした。「アヤネが写真を撮っていたんだ」と彼は静かに言った。「メイの演武の、直前と直後にね」
彼の指が、袖の布地を強く握りしめた。「侵攻が始まる前、その写真の一枚に彼らが写り込んでいたんだ」
彼は唾を飲み込んだ。「『黒月』の連中が……村人に変装して」
重苦しい沈黙が流れた。
サヤカが拳を握りしめる。「じゃあ、その時に始まったのね……」
メイが少しルナの方を向いた。「村人に変装していたって言ったわよね?」と彼女は尋ねた。
彼女は考え込むように首を傾げた。「どうして彼らがこの村の人間じゃないってわかったの?」
ルナは言葉をためらった。「アヤネがその写真を見せてくれた時……誰の顔も見覚えがなかったんだ」
彼の手の力がさらに強まる。「だから、月森の人間じゃないってすぐにわかった」
一瞬の沈黙。
「でも、アヤネが最初に気づいたんだ」
全員が顔を上げた。
「彼女が俺に指摘したんだ」とルナは続けた。「彼らの動きがおかしいって」
「歩き方ね……」シズカが目を細めて呟いた。「まるで統率が取れているような」
彼女はゆっくりと頷いた。「陣形を組んだ動き。一般市民には不自然なものよ」
「賢い子ね」ミソラが鼻から息を吐き出しながら、小声で言った。「すぐに気づいたのね」
彼女の声には、疲労を滲ませつつも、かすかな誇らしさが混じっていた。「さすが私の妹だわ」やがて彼女の表情が曇った。「でも、みんなに知らせる前に『黒月』が動いてしまった」
再び沈黙が降りた。
「それで、村は今……」カズキが呟き、周囲の破壊された光景へと視線を彷徨わせた。
やがて彼は眉をひそめた。「そういえば……ヒロ先輩とジン先輩は――」
彼は突然言葉を切った。足音が近づいてくる。
「みんな!」
一同は鋭く振り返った。二人の侍の警備兵が、荒廃した通りを走ってこちらへ向かってくる。
彼らは集団の目の前で急停止し、荒い息をついた。
「何があったの?」アオイが即座に尋ねた。
そのうちの一人が顔を上げた。切迫した表情で、目を見開いている。「すぐに来てください。今すぐに」
もう一人の警備兵の声がわずかに震えていた。「ジン様が……倒れられたんです!」
一瞬の沈黙が流れた。その言葉は、すぐには理解できなかった。
やがて――
「えっ?」と、ミツルが呟いた。
サヤカの表情が強張る。ライトでさえ、動きを止めた。
だが、何よりも激しく反応したのはミソラだった。
彼女は息を呑み、わずかに目を見開く。
一瞬、その落ち着きが崩れ去った。
「……ジン?」と、彼女は囁いた。




