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第19章

星空の下、月守つきもりの空へ小さな光が舞い上がり、まるで束の間の星屑のように散らばっていく――「星華せいかの儀」が始まった。通りには屋台が並び、提灯が柔らかな光を放つ中、浴衣姿の村人たちがゲームを楽しんだり、軽食を頬張ったりしながら行き交っている。儀式の後、夜も更けてから本格的な花火が打ち上げられる予定だ。


広場では子供たちが走り回り、互いを追いかけながら笑い声を響かせている。その手には、色とりどりの紙風車が勢いよく回っていた。


提灯の明かりが祭りの会場を揺らめきながら照らし出し、あたり一帯を温かく活気ある光で包み込んでいた。屋台の一つに近い場所で、ライトたちはその光景を眺めながら佇んでいた。


「すごいな……」ミツルが興奮で拳を握りしめながら、感嘆の声を漏らす。


カズキは腕を組み、ニヤリと笑った。「へえ、これが星華の儀ってやつか」


「飾り付けも見事だね」とライトも周囲を見渡しながら言った。


「それは姉さんのおかげだよ」シズカが隣を指差しながら言う。


サヤカは誇らしげに目を閉じ、腰に手を当てて立っていた。「まあ、少しは手伝ったけどね」と満足げに鼻を鳴らす。「こんな風になってよかったわ」


「おい」


一行はそちらを振り返った。


リクヤがイズミを伴って近づいてくる。足元にはボルトが歩き、イズミの肩にはギズモがくつろいだ様子で乗っていた。


ライトは姿勢を正した。「リクヤ……」


「やっと来たんだね」シズカが言った。


サヤカは腕を組み、すでに不機嫌そうな表情を浮かべている。


リクヤはまばたきをし、彼らの顔を交互に見回した。「……何だよ?」


彼は言葉を切った。


「それより、誰かアヤネを見なかったか? 話したいことがあるんだ」


カズキが眉をひそめる。「あいつ、今はあんたと話したくないと思うけどな」


リクヤが眉間にしわを寄せる。「どうして?」


サヤカが鼻で鋭く笑った。「本気で聞いてるの?」彼女はリクヤを真っ直ぐに指差した。「あんた、あの子に対してひどい態度をとったじゃない」


「姉さん」シズカがなだめるように彼女の肩に手を置いた。


イズミが戸惑ったようにまばたきをする。「……待って、何があったの?」


「そうだよ、リクヤ」ヒカルも腕を組みながら口を挟んだ。 「さっきは、あまり感じが良くなかったよ」


陸也の表情が変わり、そこに戸惑いが混じった。「……どういうこと?」


一樹は小さく息を吐いた。「彼女を泣かせたんだ」


沈黙が流れた。


リクヤは目を見開いた。「……彼女が、何だって?」


「ああ」ヒカルが頷く。「それも、かなりひどい状態で」


「彼女がどこにいるか、誰か知らないか?」リクヤは声を潜め、緊張を滲ませながら尋ねた。


サヤカは呆れたように腕を組んだ。「へえ、今さら彼女を探すの?」彼女は言った。「あんな扱いをしておいて――イズミと過ごすために」


イズミは即座に両手を挙げて首を振った。「ち、違うの!」と早口で言う。「彼に頼まれただけよ――アヤネのための用事で」


ライトは瞬きをした。「……アヤネのために?」


リクヤは息を吐き、首を振った。「それは今はいい」彼は言った。「彼女はどこだ?」


サヤカはふんと鼻を鳴らして顔を背けた。「言ったでしょ、彼女はあなたと話したくないのよ」


「サヤカ……」リクヤは苛立ちを滲ませながら呟いた。


彼女は一瞬言葉を切り、それからため息をついた。「……正直なところ、分からないの」彼女は彼を振り返りながら認めた。「広場での準備を終えた後、彼女はふっと姿を消してしまって」


シズカが頷く。「ゲストハウスに戻ったんだろうと思って、特に気にも留めなかったんだけど」


リクヤは眼鏡の位置を直したが、その手は一瞬そこに留まったままだった。「……彼女を見つけなきゃ」彼は小声で言った。


ミツルは腕を組み、彼を観察するように見つめた。「彼女のために何かやってるって言ってたよな? 武器のプロジェクトだっけ?」


イズミは素早く頷いた。「そう! 本当にそれだけなのよ」


ライトは首を傾げた。「どんな武器?」


「ああ、えっと――」


リクヤは言葉を途中で止めた。彼の視線が、前方の何かを捉えていた。


他の者たちも彼の視線を追った。少し離れた場所に――


「……アヤネ?」ミツルが呟いた。


彼女はそこに立っていた。一人ではなく。


カズキがわずかに眉をひそめる。「彼女、あいつと何してるんだ?」


リクヤは答えなかった。彼は拳を強く握りしめると、歩き出した。


他の者たちは顔を見合わせ、それから彼に続いた。


「アヤネ」彼の声は、彼女に届く程度の大きさで響いた。


彼女が振り返る。隣にいた人物も同じように振り返った。


「あ……陸也りくや」アヤネは小さく、丁寧な笑みを浮かべた。一瞬、心を落ち着かせるように目を閉じてから。だが、その笑みはどこか表情の奥まで届いていないようだった。


「……大丈夫か?」陸也は歩み寄りながら、声を和らげた。「さっき泣いてたって聞いたんだ。俺は……」


彼は言葉を切った。その視線が鋭く変わる。彼女の隣にいる少年に向けられた。


「……こいつ、何してんだ?」口調が瞬時に険しくなる。「……お前に何かしたのか?」


ルナは軽く笑い声を上げ、ラベンダーシルバーの前髪を指でかき上げた。


「まさか、そんなことするわけないだろ?」彼は何気ない様子で言った。


陸也は目を細めた。「お前には『前科』があるからな」と鋭く言い返す。「だから、離れろ――」


「いいえ」


アヤネの声がはっきりと響いた。彼女は一歩前に出て、二人の間に割って入った。


その動きだけで、その場にいた全員が息を呑んだ。


「彼に何かされたわけじゃないわ」と彼女は言った。


そして、さらに声を落として――


「……彼は、私と一緒にいるの」


陸也は瞬きをした。「……は?」


アヤネは一瞬だけ躊躇ちゅうちょした。そして動いた。ルナとの距離を詰め、彼の腕に自分の腕を絡めたのだ。


彼女の手が少しだけ強く握りしめられる。「……彼が一緒にいるのは――」


一呼吸。


彼女は顔を上げた。「……デートしてるからよ」


静寂。周囲では祭りが続いていた――笑い声、音楽、光――だが、それらは彼らには届いていなかった。


「……え?」ミツルが呆然と見つめる。「デ、デート!?」と声を裏返した。


シズカはあんぐりと口を開けた。「嘘でしょ……」


アヤネは微笑んだ。だが、その笑みはどこか不自然だった。


「そうよ」


サヤカがルナを真っ直ぐに指差した。「こいつと!? あいつら兄弟が散々あんなことをしたのに!?」


ルナはアヤネの方へ少し身を寄せ、声を潜めた。「……デートなんて話、聞いてなかったけど――」


彼の言葉は遮られた――


「――痛っ――!」


アヤネが彼の腕を強くつねったのだ。彼女の笑みは崩れないままだった。


「合わせて」彼女は彼にだけ聞こえる声で呟いた。ルナは身を硬くし、痛みに耐えながら無理やり笑みを浮かべた。


「……そ、そうだな」と、彼は息を漏らすように言った。「デートか」


Japanese


アヤネは彼の手を離すと、何事もなかったかのように他のメンバーの方へ向き直った。


「そうよ」彼女は落ち着いた口調で言った。「付き合ってるわ」


「でも……」リクヤは信じられないといった表情を浮かべ、言葉を継いだ。「なんであいつなんだ? アヤネ、本気でそんな奴と……」


アヤネの瞳が即座に鋭さを帯びた。「じゃあ、あなたは本気でイズミとばかり過ごしているわけ?」


その言葉は、彼女の意図以上に重く響いた。


リクヤは動きを止めた。「アヤネ、そういうことじゃなくて……」


「違うの?」彼女は静かに言葉を遮り、ルナの腕を掴む手に少し力を込めた。「一日中、私を遠ざけていたじゃない」彼女は続けた。「約束をキャンセルして、私を避けて、私よりも他の誰かを選び続けていた」


リクヤは激しく首を振った。「俺はただ……」


「それなのに今さら」アヤネは言葉を挟んだ。「私が誰と過ごすか、あなたが勝手に決める権利なんてあるの?」


彼女は自嘲気味に笑った。「笑っちゃうわね」


その笑い声に、リクヤは強張った。


アヤネは一瞬彼から視線を外し、声を低くした。「今日は私にいてほしくないって、はっきり態度で示してたじゃない、リクヤ」


そして再び彼と目を合わせた。「だから……今はそっとしておいて」


その言葉は、どんな怒鳴り声よりも深く突き刺さった。リクヤは唇をわずかに開いたが、何も言葉が出てこなかった。


彼の隣で、仲間たちは沈黙した。


アヤネは向きを変え、ルナを優しく促した。「ほら」彼女は静かに言った。「行きましょう」


ルナは一度瞬きをしてから彼女に続いた。珍しく、何も言わずに。


仲間たちは、二人が祭りの人混みの奥へと消えていくのを見つめていた。提灯の明かりが、少しずつ二人を飲み込んでいくようだった。


「……まあ」長い沈黙の後、ヒカルが呟いた。「急展開だったな」


「……ああ」ライトも眉を少し寄せながら付け加えた。「予想外だった」


美鶴は不安そうに他の二人を見回した。「冗談だよね?」と弱々しく尋ねた。「まさか本当にあの男と付き合ってるわけないだろ?」


和樹は首の後ろをこすった。「…付き合ってるなんて言ってないけど…でも、なんか無理やりだったな」


静香は考え込むように頷いた。「なんか変だったわね」と呟いた。「いつもより警戒してた」


さやかは鼻を鳴らし、腕をきつく組んだ。「そりゃそうよ」


皆が彼女に視線を向けた。


「全部、誰かが正直に話さずに一日中怪しい行動をとったせいでこうなったのよ」


陸也は少し身をすくめた。


泉は申し訳なさそうに視線を落とした。「…こうなるかもしれないって言ったでしょ」と小声で認めた。「サプライズにしようとしたんじゃなくて、ちゃんと説明すればよかったのに」


「それに、きっと仕返ししようとしてるんだろうな」と和樹が付け加えた。「もしくは、嫉妬させようとしてるのかも」


陸也は何も言わなかった。視線は綾音の消えた方向をじっと見つめていた。


片方の手はゆっくりと拳を握りしめ、もう片方の手は習慣で眼鏡を直した。


胸が締め付けられるような感覚。不快だ。何かがおかしい。


…何とかしなければ。早く。


綾音がルナと歩いていく姿が何度も何度も脳裏に焼き付き、その思いが重くのしかかる。


....……


綾香は草の生い茂る展望台に立っていた。遠くには月森の祭りの灯りが柔らかな光を放っている。


提灯が星のように揺らめき、かすかな笑い声が夜空に漂っていた。


「そこにいるのは分かってるわ、ヒロ」と彼女は軽く言った。「もう出てきていいのよ」


少し間を置いて――ヒロが近くの木の陰から姿を現し、近づいてくると樹皮に手を触れた。


「…分かってたのか?」彼は彼女のそばに立ち止まり、尋ねた。


彩香はかすかに笑った。「もちろんよ」と彼女は言った。「あなたは私から隠れるのが下手だから」


ヒロはかすかに微笑み、視線を下の村へと移した。


二人はしばらく沈黙した。そして――


「ところで」彩香は再び口を開き、彼をちらりと見た。「今頃ジンと一緒にいるべきじゃないの?」


ヒロは軽く息を吐き、首の後ろを掻いた。


「…彼は部屋にいないんだ」と彼は認めた。「用事があるって言ってた」


彩香の目は優しくなり、再び視線を前へと向けた。「…そう」


遠くから音楽と祝祭の音が風に乗って聞こえてくる。


「きれいね」と彼女は呟いた。「やっとこの日が来たなんて信じられないわ」


風が二人のそばを吹き抜け、彼女の薄紫色の袖を揺らし、髪の毛をそっと揺らした。 「…ああ」ヒロは静かに答えたが、視線は彼女から逸れなかった。


アヤカは視線をまっすぐ前に向けたまま、「メイがオープニングダンスを踊るって聞いたわ」と言った。「銀髪の子よ」


ヒロは頷いた。「ああ。月城長老が頼んだんだ」


少し間が空いた。


「…確かに、劉様に似ているわね」アヤカは考え深げに付け加えた。「まあ、納得できるわね」


ヒロはすぐには返事をせず、彼女を見つめていた。


何かがおかしい――かすかな、しかし確かに。


「…アヤカ」彼は優しく言った。「大丈夫か?」


彼女は彼の方を向いた。目を閉じ、微笑んでいた。しかし、その微笑みは目元まで届いていなかった。


「ええ…大丈夫」彼女はほとんど早口で答えた。


ヒロの視線は下を向いた。彼女の両手は震えていた。


沈黙。


「…ただ、辛いんです」彩香は声を弱めながら認めた。「人生をかけて準備してきたことが…」


彼女は指を丸め、袖の生地をぎゅっと握りしめた。「…最後の最後で、それが消えてしまったんですから。」


二人の間をそっと風が吹き抜けたが、彼女はほとんど気づいていないようだった。


「…悔しい。」


ヒロは何も言わず、ただ静かに彼女を見つめていた。


「正直…本当に辛かった」彼女は声を震わせながら続けた。「ジンが私ではなく美空を選んだ時…」


かすかな息遣い。


「でも、彼がそうしてくれてよかった。彼は…幸せそうだから。」


ヒロは目を伏せた。


彩香の笑顔が揺らいだ。「…それでも…」彼女は囁いた。「それはつまり…」


彼女の声が震えた。


「…私がどれだけ情けない人間かってことなのね。」


ヒロは鋭く視線を上げた。彼女の頬を涙が静かに、静かに伝った。その儚げな微笑みはそのままだった。


「ジンは…」彼女の声が震えた。手を上げて、まるで涙を止めようとするかのように、指を目の下に押し当てた。「彼は他の人と結婚するの。」


「アヤカ…」ヒロは思わず彼女の肩に手を置いた。


彼の握力は優しかったが、しっかりとしていた。彼女の言葉が彼の胸を締め付けた。


「私は役立たず…」彼女は呟き、声はさらに震えた。「私には何もできなかった…」


彼女は指の関節を強く目の下に押し当てた。「私はなんて情けないの…」


「…ねえ。」ヒロの声が優しくなった。彼は何も言わずに、彼女をそっと抱きしめた。


彼女は一瞬体を硬直させた後、崩れ落ちた。


彼女のすすり泣きは、まるで抑え込んでいるかのように、彼の胸に静かに、途切れ途切れに溢れ出した。


ヒロは彼女をさらに強く抱きしめ、片方の手を彼女の後頭部に、もう片方の手を彼女の肩にそっと添えた。


「大丈夫だよ」と彼は囁いた。


ゆっくりと、優しく。


「僕がそばにいるよ」


アヤカは息を呑んだ。


あの言葉…あの声…彼女は彼の腕の中で、わずかに目を見開いた。


記憶がちらりとよぎった――水と薄れゆく意識によってぼやけ、かすかな記憶。


深紅の瞳。彼女を呼ぶ声。


そんなはずはない…その思いは、不確かで、儚く、心に残った。


ヒロは彼女を見つめるために少しだけ体を動かしたが、完全に手を離すことはなかった。


「君は役立たずなんかじゃない」と彼は静かに言った。


彼の視線は揺るがなかった。 「君は情けないなんかじゃない。」


彼の声には静かな確信が込められていた。「君は僕が知っている中で一番強い…そして一番素晴らしい人だ。」


彼の言葉に、アヤカは息を呑んだ。


「物事が君の思い通りにならなかったからといって」とヒロは優しく言った。「自分の価値を貶める必要はない。自分の価値を証明するのに肩書きなんて必要ないんだ。」


彼は手を伸ばし、彼女の耳の後ろに垂れた髪の毛をそっとかけた。


そのささやかな仕草に、彼女の頬は熱くなった。


「君は宝石だ」と彼は続けた。声は今度はもっと優しくなった。「美しく、強く、誇り高く…そして君が思っている以上に素晴らしい。」


アヤカの瞳は輝き、溢れる涙がこぼれ落ちた。


彼女は再び彼に寄り添い、腕を回した。ヒロはためらうことなく彼女を抱きしめ、しっかりと抱き寄せた。彼の腕は彼女の腰にしっかりと回され、胸の下で心臓の鼓動が速くなった――不安定ながらも、真剣な鼓動だった。


彩香はそれを感じた。


彼は……温かい……。彼女は彼にもたれかかりながら、その思いを胸に抱いた。


ゆっくりと二人は離れた――完全に離れるわけではなく、まだ互いの空間に留まっていた。


ヒロは彼女の視線を受け止め、頬にほんのり赤みが差した。


「……行こう」と、彼は静かに言った。「式が始まる」


彩花は頬をほんのりと赤らめながら頷いた。「……うん」


ヒロは小さく微笑むと、歩き出した。


彩花はその一歩後ろをついていく。彼の背中、そしてその歩みに宿る静かな落ち着きに、彼女の視線は注がれていた。


やがて、彼女の視線は彼の手へと落ちた。


一瞬の躊躇。


彼女は歩調を速め、距離を詰める。指を伸ばし――そっと彼の手を掴んだ。


ヒロは足を止め、彼女を振り返った。彩花は視線を伏せたまま、恥じらうような表情を浮かべ、頬はまだ熱を帯びていた。


しばし、二人の間に言葉はなかった。


やがて――彼の指が動き、彼女の指と絡み合った。


二人の手は自然に重なり合った。互いに顔を見合わせることはなかったが、手を離すこともなかった。


並んで歩き続ける。前方の、式の明かりを目指して。


……………..


ジンは走っていた。


提灯の明かりに照らされた通りを、荒い息遣いで駆け抜ける。サンダルが激しく地面を叩く。日が落ちてから、彼は一度も足を止めていなかった。


濃紺の着物風の装束をまとい、動くたびに深紅の糸が光を弾く。彼は人混みを縫うように進み、自分に気づいた村人たちの驚きの視線も無視した。


急な曲がり角で、あやうく足を取られそうになる。だが、すぐに態勢を立て直し、再び走り出した。


もっと速く。


彼女はどこだ……? ほんの一瞬だけ速度を緩め、光に満ちた通りを見渡すたびに、胸が締め付けられる。


彼女の姿はない。


彼は再び前へと進み、あちこちで足を止めては、短く急いた口調で尋ねて回った。


だが、誰も彼女を見てはいなかった。あるいは……確かな答えをくれる者はいなかった。


祭りの喧騒が遠ざかり、賑わいの外れに差し掛かると、彼の足取りは鈍った。


歩みが遅くなり、やがて止まる。両手を拳にして体の脇に下ろし、荒い息をつく。苛立ちが胸をかきむしる。


くそっ……。彼は一度視線を落とし、再び顔を上げて、静けさの漂う前方の道を見つめた。


今度は歩き出した。


ゆっくりと。迷いを抱えたまま。


気づけば、彼の足は懐かしい場所へと向かっていた。


かすかな水面のさざ波が静寂を破った。


鯉の池。


彼はついに彼女を見つけた。祭りの会場裏手の池のそば、静かで花火が一番明るく輝く場所に立っていた。


彼女は繊細な羽模様の銀白色の浴衣をまとっていた。茶色の髪はゆるくまとめられ、両サイドには二つ編みが垂れ、柔らかな毛束が頬を縁取っていた。


ジンは息を呑んだ。安堵感が一気に押し寄せ、胸が締め付けられ、目が輝いた。


「美空!」彼はためらうことなく彼女のもとへ駆け寄った。


彼女は彼が近づいても振り向かなかったが、確かに彼の声は聞こえていた。


ジンは彼女の数歩後ろで立ち止まり、静かな水面に映る彼女の姿を見つめた。


「…ねえ、ジン。」彼女は優しく声を張り上げ、彼の方を向いた。


ジンは動きを止めた。しばらくの間、言葉が出なかった。


月明かりが彼女を美しく照らしていた。控えめな化粧が彼女の顔立ちを柔らかくし、唇にはかすかな艶が浮かび、髪に編み込まれた繊細な飾りは、彼女が動くたびに優しくきらめいた。


彼女は…いつもと違っていた。そして彼は目を離すことができなかった。


「ねえ。君…すごく綺麗だよ」と彼は言い、すぐに恥ずかしそうに視線を逸らした。


「あ、あの、浴衣が。すごく似合ってるよ」


彼女は軽く息を吐き、もしかしたら笑ったのかもしれない。静かに、しかし滅多に見せない笑い声だった。「ありがとう」


彼女は視線を池に戻し、水面に広がる波紋を見つめた。


「付き添いの人たちがどうしてもって言うの」と彼女は軽く言った。「将来の令嬢になるんだから、それ相応の格好をしなくちゃって…」


ジンは動きを止めた。


美空は小さく息を吐き、肩をすくめるように言った。「言い返さなかったの」と彼女は付け加えた。「放っておいた方が楽だったから」


沈黙が流れた。


それから彼女は彼に目を向けた。「…つまり、式典までは演技を続けるってことよね?」


二人はしばらく黙って立っていた。祭りの喧騒は遠く、かすかに聞こえてくる。紙提灯がゆらゆらと揺れ、水面に映るその姿が踊っている。


ジンが彼女の隣に歩み寄り、サンダルが草の葉をかすめる柔らかな音が響いた。


「美空、僕は…」ジンの声が喉に詰まった。


彼は言葉を絞り出そうと必死に唾を飲み込んだ。美空は少しだけ彼の方に顔を向け、表情を和らげた。


「ジン」と彼女は静かに言った。「謝らなくていいのよ」


そよ風が彼女の髪の毛を揺らした。 「あなたにはここでの責任があるのよ。それに正直言って…」彼女は視線を彼から逸らした。「…別々の道を歩んだ方がいいと思う。」


ジンは一歩近づき、前髪が彼の目を覆った。「でも、君に去ってほしくない。」


言葉は思ったよりも生々しく出てしまった。「もし君が去ったら…」


彼は彼女を見上げたが、その目は震えていた。


美空は視線を逸らした。「…それが一番いいのよ」と彼女は囁いた。


彼女は少し向きを変え、立ち去ろうとしたが、ジンは彼女の肩を掴んだ。


「僕がここに残ることを選んだから、まだ怒ってるの?」彼はかすかに震える声で尋ねた。


美空は目を伏せた。「ううん…そういうことじゃないの。」


沈黙。


そして彼女は彼を見つめ返し、無理やり微笑んだ。その微笑みは彼の胸をさらに締め付けた。


「ただ、本当に寂しくなるわ、ジン。」


彼の息が詰まった。ミソラは一瞬目を閉じ、声を潜めて言った。


「少なくとも……あなたは、手にするはずだったものをすべて手に入れることになるわ」


彼女は弱々しく笑った。「村を率いていくのよ」


また、間が空いた。


「……それに、妻も迎えることになる」


「ミソラ……」


彼女が両手を下ろすと、ジンはそれを優しく受け止め、自分の手で包み込んだ。


彼の手に握られた彼女の指先が、わずかに震えていた。彼を見つめる彼女の瞳に、涙が浮かぶ。


「幸せになってね、ジン」と彼女は囁いた。「本当に」


その声が、かすかに震えた。「サヨナキで過ごした、あの頃の日々……」


記憶の断片が、彼女の脳裏をよぎる。


レイナやリョウと笑い合うジン。言い合い。からかい合い。修練。共にいることの温もり。


胸が痛いほど締め付けられた。


「ミソラ――」


彼が言葉を言い終える前に、彼女は一歩後ずさりし、彼の手から身を引いた。


「……さようなら、ジン」


そして彼女は背を向けた。歩き出す彼女の頬を、涙が音もなく伝い落ちていく。


「ミソラ――待ってくれ!」ジンは反射的に手を伸ばした。彼女が立ち去ろうとするのを見て、その声には焦りが混じる。


彼はぐっと奥歯を噛みしめた。その瞳の奥で、熱い感情が燃え上がる。


……クソッ! その思いが、一気に彼を突き動かした。


彼はためらうことなく彼女の後を追った。彼女の手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。


片腕で彼女の腰を抱き、もう片方の腕でしっかりと手首を握った。美空が反応する間もなく、ジンは彼女にキスをした。


それは突然のキスだった。切実で、温かかった。


彼の唇は彼女の唇に触れ、かすかに震えた。頬を伝う涙、銀色の月光が二人の唇を照らし、そよ風が二人の姿を優しく揺らしていた。


美空は驚きに目を見開いたが、ゆっくりと閉じた。


彼女はキスに身を委ね、無意識のうちに彼に寄り添い、指先を弱々しく彼の指に絡ませた。


彼女の目からも涙が溢れ、二人の間の距離が完全に消え去るにつれ、心臓は激しく鼓動した。


一瞬、周囲の世界が消え去った。


儀式も、村も、義務も何もない。


ただ、月明かりの下、二人だけが存在する。


ゆっくりと、二人はほんの少しだけ離れ、涼しい夜の空気の中で、柔らかな息遣いが混じり合った。


ジンは額を彼女の額に押し付け、彼女の手を胸にしっかりと握りしめたままだった。


彼の頬は真っ赤に染まっていた。「…行かなきゃ」と彼はそっと囁いた。


美空は呆然と、動揺し、言葉を失い、彼を見つめていた。


すると、まるで衝動に駆られたかのように、ジンは身を乗り出し、もう一度彼女にキスをした。


短く、優しく。そして、彼は突然身を引いた。


彼は踵を返し、走り出した。振り返ることもなく、提灯の灯りに照らされた小道を駆け抜けていった。


美空はその場に立ち尽くしたままだった。


沈黙。彼女の心臓は、まだ激しく鼓動していた。


ゆっくりと、彼女の指が唇に触れた。温かい。


まだ温かさが残っていた。


その記憶が瞬時に脳裏に蘇り、彼女の頬は真っ赤に染まった。


「…あれは何だったの…?」彼女は息を切らしながら囁いた。


耳が熱く、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


それでも――目尻に再び涙が溢れそうになるのと同時に、彼女の内側に突然、痛みを伴うほどの温かさが湧き上がった。


震える指が、もう一度そっと唇に触れた。


あのキス…その思いだけで、彼女の心臓は再び激しく鼓動し始めた。



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