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劇場版 ブルーストーム 火の翼の台頭  作者: Fawole Oluwaseyi


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第10章

「うわぁ…」広大な市場広場に足を踏み入れた途端、一行はほぼ同時に感嘆の声を上げた。


土の道は遠くまで伸び、両側には木造家屋と賑やかな露店が立ち並んでいた。優美な曲線を描く瓦屋根が頭上に広がり、引き戸が客を迎えるように開け放たれている。まるで過去が壁の中に大切に保存されているかのように、この場所全体が時代を超えた魅力を放っていた。


しかし、静寂とは程遠い。通りは活気に満ち溢れていた。


露店商たちは通行人に声をかけ、色鮮やかな商品を並べている。空気は話し声、笑い声、そして日々の生活のリズムで満ち溢れていた。


「すごい…」ヒカルは息を呑み、興奮で拳を握りしめ、目を輝かせた。


カズキも隣に立ち、同じように驚いていた。「想像以上に活気がある…」


「それに、すごくカラフル!」アヤネはにっこり笑った。


「本当に、見てよ~!」さやかは飛び跳ねるように言った。


芽衣と静香は穏やかな微笑みを浮かべ、静かに周囲を見渡していた。美鶴は満面の笑みを浮かべ、陸也は眼鏡をかけ直し、状況を理解しようとしていた。


葵とライトは並んで立ち、二人とも静かに感嘆していた。


「ここは何かの歓楽街かと思うけど」と美空は周囲を見回しながら言った。「昼間でもこんなに賑やかなんて…」


泉は軽く笑いながら先へ進んだ。「夜はもっとすごいことになるわよ」


その言葉に、何人かは気まずそうに咳払いをして顔を赤らめた。


「そ、そうなんですか…?」和樹は頬を掻きながら呟いた。


泉はただニヤリと笑った。「さあ、案内してあげるわ」


彼らは泉の後について行った。焼き魚と新鮮な野菜の香りが漂い、彼らのお腹をくすぐった。質素な着物を着た女性たちが静かに談笑しながら通りを行き交い、子供たちは使い古した革のボールを蹴りながら笑い声をあげて通りを駆け回っていた。


袴姿の男たちは藁や物資の束を担ぎ、時折立ち止まって親しげに挨拶を交わしていた。


村人たちが数人、好奇心に満ちた視線を一行に向けていた。よそ者、ましてやこれほど異様な服装をした者たちは、明らかに珍しい光景だった。


「うわぁ…」美鶴は深く息を吸い込み、顔を輝かせた。「すごくいい匂い…」


泉の目もたちまち輝いた。「あ、あれはきっと和月串焼き屋さんね。」


彼女は煙がゆらゆらと立ち上る、こぢんまりとした屋台を指差した。


「午後から営業してるの。ここの鶏串焼きは絶品よ。」


彼女はためらうことなく屋台へと歩き出した。「行こう。」


一行は熱心に後を追ったが、美空は立ち止まった。


「…え?」


綾音は振り返り、美空の様子に気づいた。「どうしたの、お姉ちゃん?」


他の者たちは歩みを緩め、後ろを振り返った。美空はすぐには答えず、視線を横に逸らし、賑やかな通りの向こうにある何かを見つめていた。


「…何でもないの」美空はついにそう言ったが、視線は動かなかった。「ただ、あの建物が気になっただけ」


泉は美空の隣に立ち、彼女の視線の先を追った。


賑やかな村の端、静かに連なる山々の麓に、神社が建っていた。


大きな神社ではなかったが、静かで、しかし紛れもない威厳を湛えていた。


朱色の鳥居が連なり、村から寺へと続く長い石段を縁取るように、上へと続く道を示していた。


周囲の空気は…静まり返っていた。


神聖な雰囲気が漂っていた。 「ああ」泉は微笑みながら、二人の視線を追った。「あれが聖華寺よ」


彼女の声は少し柔らかくなった。「私たちの伝統行事がすべて行われる場所…そして明日の儀式もここで行われるの」


「ふーん…」葵はショートパンツに手を突っ込み、建物を見つめながら呟いた。


泉は誇らしげな声で続けた。


「先祖の時代に建てられたものなの。中には儀式用の道具や古文書…代々受け継がれてきたものが収められているわ」


「なるほど…」ライトは静かに頷いた。


二人はしばし沈黙し、その光景をじっと見つめた。


それから泉は、ミソラを横目でちらりと見て、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「つまりね」彼女は軽く言った。「ジンが月守の次期当主になったら…」彼女の目は輝いた。 「村の奥様になるんでしょ?」


美空は凍りついた。そして、顔が赤くなった。


メイとサヤカが意味ありげにくすくす笑うと、美空の頬は真っ赤に染まった。


綾音はピクッと身を震わせた。


「…そんなこと言われなくても分かってるわ」と、彼女は小声で呟き、かすかに唸り声を漏らした。「そんなこと、ありえないわ!」


陸也は眼鏡を直し、話題を変えようとした。


「それにしても…すごいな」と、陸也は再び見上げながら言った。「あんな高いところに寺があるのに、村と繋がっているなんて」


「ええ」と泉は頷いた。「その方が安全だし、便利だしね」


彼女は歩き続けようとしたが、ふと立ち止まった。「…まあ、階段は別だけどね。」


彼女は小さく微笑んで振り返った。「あの階段を全部登るなんて…話は別よ。」


「想像できるよ…」ライトは少し汗をかきながら呟いた。


泉は一度手を叩き、元気を取り戻した。「よし!観光はもう十分。串焼きを食べに行こう!」


彼女は待たずに小走りで先へ進んだ。


「ちょっと待って!」ヒカルが呼びかけ、一行は慌てて彼女の後を追った。


…………


泉たちは串焼き屋台の周りに集まり、それぞれが美味しそうに一口ずつ食べ始めた。


「うーん、これすごく美味しい!」サヤカは頬を膨らませながら満面の笑みを浮かべた。


「だろ?!」ヒカルはニヤリと笑った。「これ10本くらい食べられそう!」


泉は満足そうに笑った。「ほら、美味しいって言ったでしょ。」


間もなく、彼女はまた彼らを連れ出した。今度は近くの服屋へ。


女の子たちはすぐにそれぞれ違う着物に身を包み、お互いを褒め合いながら笑い合っていた。一方、男の子たちは袴を試着していたが、中にはぎこちない子もいた。


通りに出た時も、彼らのエネルギーは少しも衰えていなかった。しかし、美空はすでに少し離れていて、屋台のそばに立ち、餃子を美味しそうに食べていた。


「ん~!」と彼女は鼻歌を歌い、明らかに水を得た魚のようだった。


綾音は冷や汗をかきながら彼女を見ていた。「…本当に楽しんでるね?」


一方、他のメンバーは辺りをぶらぶらと歩き回り、周囲の景色を眺めていた。


「あぁ…カメラがあれば完璧だったのに」と光はため息をついた。


和樹は彼の肩を軽く叩いた。「ジン先輩に没収されたんだよ」



陸也はニヤリと笑った。「大丈夫だよ、俺たちにはまだスマホがあるから」そう言って、自分のスマホを取り出した。


泉は瞬きをした。「…スマホ?」


陸也は彼女の方を向いた。「見たことないの?」


彼女は首を横に振った。


彼が近づくと、笑みがさらに深まった。「これは基本的にオールインワンのガジェットだよ。時間を確認したり、電話をかけたり、写真を撮ったり、連絡先を保存したり…何でもできるんだ。」


泉の目はたちまち輝いた。「本当ですか?!じゃあ、これって外の世界の科学ガジェットの一つなんですね?!」


「うん。」


彼女の興奮はまるで放射状に広がっているようだった。「私も使ってみてもいいですか?!」


「もちろん。」陸也はそれを彼女に手渡し、使い方を説明した。「ここを押して…それからここ。」


美鶴はちらりと彼を見て、少し眉をひそめた。「陸也…仁先輩が、こういうのは外に持ち出さないでって言ってなかったっけ?」


陸也は肩をすくめた。「別に悪いことしてるわけじゃないよ。」


「でも…」


泉は二人の間を交互に見つめ、それから少し視線を落とした。


「…お願い。」彼女は小声で言った。 「本当に学びたいんです。ここでできることには限りがあるので…どこかから始められたら…」


一行は顔を見合わせた。そして――


「ええ、問題ないと思うわ」とさやかは微笑みながら言った。


「私も」と芽衣は頷いた。


美空は一口食べながら口を開いた。「気をつけてね。ジンはうっかりミスで何か漏れたら嫌がるから」


泉はすぐに姿勢を正し、力強く頷いた。「わかった!約束する!」


彼女の笑顔が戻った――以前にも増して輝いていた。そこから、見学は単なる見学以上のものへと変わっていった。


陸也は彼女にスマホの使い方を教えた――タップ、スワイプ、そして何よりも大切な…


「…こうやって写真を撮るんだよ」


カシャッ。


泉は息を呑んだ。初めての写真――自撮り。


彼女はピースサインを掲げ、満面の笑みを浮かべていた。その後ろでは、葵、芽衣、ライトがヒカルとカズキと一緒に肉まんをのんびりと食べていた。


泉はまるで魔法を見るかのように、その光景をじっと見つめていた。


「…すごいわ。」


一行が歩き続けると、泉は知り合いの村人たちに彼らを紹介した。


温かい笑顔。好奇心に満ちた挨拶、そして気兼ねなく交わされる笑い。


もう一枚写真。


静香はベンチに静かに座り、スケッチブックを手にしていた。彼女の周りには、子供たちや数人の村人が身を乗り出し、鉛筆が紙の上を軽やかに舞う様子を、畏敬の念を込めて見つめていた。


別の場所で――


「パス!」ヒカルが笑った。


彼とミツルは子供たちとボール遊びをしていた。動きの一つ一つにエネルギーがみなぎっている。近くではライトが少ししゃがみ込み、ボルトを優しく撫でていた。


犬は嬉しそうに尻尾を振っていた。


カチッ。


カズキはいつの間にか幼い子供たちに囲まれていた。


「ほら、これ試してみて」彼はそう言って、小さな女の子の耳にヘッドホンを当てた。


女の子はたちまち目を丸くした。子供たちは順番にヘッドホンを装着し、音楽に驚いていた。


すると、カズキはニヤリと笑った。


「ああ、きっと気に入るよ」


彼は小さなラジカセを取り出し、置いた。


音楽が大音量で鳴り響いた。ヒップホップのビートだ。そして彼はためらうことなく動き出した。


キレのある動き。流れるような動き。自信に満ち溢れている。


あっという間に人だかりができ、拍手と歓声が上がった。カズキは回転し、しゃがみ込み、そして再び立ち上がった。それは滑らかな一連の動作だった。



それから彼は静香に目をやった。静香はすでに口元に微笑みを浮かべながら見ていた。


彼はニヤリと笑い、手招きした。「さあ、行こう」


静香は目を丸くしたが、頬はほんのりピンク色に染まっていた。「…わかったわ」


彼女はスケッチブックを脇に置き、小走りで駆け寄った。


そして、彼らは踊り始めた。完璧なシンクロで。


彼らの動きは流れるように滑らかに繋がり、村人たちの歓声はさらに大きくなった。


葵は笑い、彼らに加わり、リズムに自然に溶け込んだ。


「うわー!」さやかは拳を突き上げ、歓声を上げた。


光も彼女の隣で踊り、陸也、綾音、美鶴は満面の笑みを浮かべて見守っていた。芽衣、美空、ライトは静かに微笑んでいた。


泉はそこに立ち、すべてを見守っていた。


そして――カシャッ。


彼女はそれを捉えた。時が止まった瞬間を。


その後、彼女は皆を静かな場所へと案内した。木陰には三味線奏者たちが座り、子供たちが周りに集まる中、彼らの奏でる音色が優しく響き渡っていた。


葵の目はたちまち輝いた。


泉はそれに気づいた。「…やってみる?」


葵は瞬きをした。「わ、私?」


彼女はためらった。しかし、他の皆が彼女を励ました。


「さあ、やってみて」と芽衣は微笑んだ。


「君ならできるよ」とヒカルが付け加えた。


葵は息を吸い込み、一歩前に出た。


彼女は丁寧に頭を下げた。演奏者の一人が温かく微笑み、三味線を彼女に手渡した。


彼女は座り、試しに数音弾いてみた。


そして、演奏を始めた。


滑らかで、自然で、まるで苦労を感じさせない。まるで彼女の手に馴染んでいるかのようだった。


彼女の歌声もそれに続いた。澄んでいて、優しく、美しい。


観衆は静まり返り、驚きのあまり目を丸くした。


「信じられない…」「あの女の子、本当に上手い!」「それに、歌声も…!」「それに、すごく可愛い!」


泉は驚いて瞬きをした。「…葵がこんなことができるなんて知らなかった。」


芽衣はくすっと笑った。「彼女はギターも弾くのよ。三味線もそう遠くないわ。」


「耳がいいんだ」と、肩に子供を乗せたままの和樹が付け加えた。


「彼女は本当にすごいね」とヒカルは頷いた。


ライトは何も言わず、ただ見守っていた。


アオイが演奏を始めると、ライトの視線は優しくなった。彼女は完全にリラックスし、音楽の流れに合わせて微笑んでいた。


演奏が終わると、拍手が沸き起こった。子供たちは駆け寄り、アオイに抱きつき、笑い声を上げ、歓声を上げた。


アオイも子供たちと一緒に笑い、抱き返した。目を閉じ、純粋な喜びに浸っていた。


ライトの胸が締め付けられ、小さく静かな笑みが浮かんだ。


彼らの後ろで、他の仲間たちも見守っていた。温かい気持ちが彼らの心に広がっていった。


その瞬間、すべてが軽くなったように感じられた。


……


その日の夕方、太陽が低く沈み、空が金色と琥珀色の温かい色に染まる頃、一行は市場の近くの静かな広場に集まった。


村人たちがゆっくりと行き交い、日が暮れゆくにつれて、彼らの声も静かになった。


「あぁ…今日は最高だったな」ヒカルはため息をつきながら、両腕を頭上に伸ばした。


「本当にそうだね」カズキはそう言って、小さな子供を肩から降ろし、ヘッドホンを再び手に取った。「こんなに盛り上がるとは思わなかったよ」


近くでは、小さな子供たちが泉の周りに集まり、彼女が陸也のスマホで写真をめくるたびに目を輝かせていた。


しかし、ライトは横に目をやった。葵は彼の隣に座り、相変わらず子供たちに囲まれていた。二人の子供が後ろからしがみつき、彼女は子供たちと優しく笑っていた。


ライトの視線はしばらくそこに留まった。「…君は子供の扱いが上手だね。」


葵は驚いて彼の方を向いた。「え?本当?」


ライトは頷いた。「前にも気づいたよ。桃おばさんの家に行った時も。」


一人の子供が手を伸ばし、葵の頬を優しく撫でた。葵は彼に優しく微笑みかけた。


他の子供たちも彼らの方を向いた。


「ライトの言う通りね」とさやかはにっこり笑って言った。


「さっき遊んでた時、子供たちをすっかり魅了してたわね」と芽衣が付け加えた。「しかも三味線を吹いたのは初めてだったのに。」


「それに、あなたの笑顔、すごく可愛かったわ」と静香は簡潔に言った。


葵は固まった。「…かわいい?」


美鶴はニヤリと笑った。「また顔が赤くなってるよ。司って奴に褒められた時と同じだ。」


「ああ、俺も気づいてたよ」陸也も付け加えた。


葵は視線を落とし、子供の手をそっと握った。「…男の人に褒められたことなんて、今まで一度もなかったの。」


一同は瞬きをした。


「恋次郎に会う前も?」綾音も尋ねた。


葵は首を横に振り、小さく照れくさそうに笑った。


「みんな、私の気持ち知ってるでしょ…」彼女は静かに言った。「呪われた子ってレッテルを貼られて…『かわいい』とか『綺麗』なんて言われるわけないじゃない。」


「そんなのデタラメだ!」光が言い返した。


「葵、君は本当に綺麗だよ!」美鶴も付け加えた。「あの人たちはただ目が節穴だっただけさ!」


陸也も頷いた。葵は、再び頬が熱くなるのを感じて、思わず瞬きをした。


「…ありがとう」と、彼女は小さく笑った。


泉はスマホを持ったまま、考え込むような表情で彼らのほうを向いた。


「…でも、彼らの言う通りね。」


一行は泉を見た。


泉は写真の一枚に目を落とした。子供たちに囲まれて笑っている葵の姿だ。


「あなたの笑顔…」泉は優しく言った。「…温かみがあるわ。一緒にいるだけで、みんな安心できるような。」


葵の唇がわずかに開いた。


「…うん」とライトが静かに付け加えた。「いい表現だね。」


メイは微笑んだ。「本当にそう。」


横から、串をかじりながら美空が口を開いた。「笑顔って、人が思っている以上に力があるのよ。」


一行は美空の方を向いた。


「私も実際に見てきたの」と美空は続けた。「適切な表情…適切な笑顔…は、人の心を開かせ、安心させるの。」


さやかは首を傾げた。「経験から言えることね。」


美空はジンを思い出し、少し汗をかいた。「…そう言えるかもね」


彼女は葵の方をちらりと見た。「私が言いたいのは、心からの笑顔は、たとえ自分がそう思っていなくても、人に届くってこと」


泉はゆっくりと頷いた。「…そうだね」


彼女の表情が和らいだ。「笑顔というささやかなものでさえ…誰かを救うことができるのよ」


静かな沈黙が流れた。


「あの日のサトルが去る前に…」泉は静かに続けた。「…彼は私たちに微笑んだの。まるで何もかも大丈夫になるみたいに」


葵の目が大きく見開かれた。突然、記憶が蘇ってきた。


あの夜。タイヤのスキール音。京香の手が彼女を道路から押しやった。


ほんの一瞬、二人の視線が交わった。


京香の瞳には、生々しく、ありのままの恐怖が宿っていた…そして、それは和らいだ。


彼女の表情は、優しく溶け込むように穏やかになった。安心した。


彼女の唇に震えるような笑みが浮かび、閉じられた目尻には涙が溜まっていた――まるで「大丈夫だよ」と自分に言い聞かせているかのように。


記憶が薄れていくにつれ、葵は息を呑み、唇を震わせた。彼女は手を伸ばし、首筋にそっと触れ、指先でロケットを優しく握りしめた。


……どうして忘れてしまったんだろう……?


「葵?」綾音の声が彼女を現実へと引き戻した。


彼女は瞬きをした。


「…大丈夫?」


葵はさっと目を拭い、微笑んだ。「大丈夫よ」と彼女は静かに言った。「大丈夫どころじゃないわ」


綾音はしばらく彼女を見つめ、それから微笑み返した。


「…よかった」


美空は小さくため息をついて立ち上がった。「そろそろ宿に戻りましょう」


「えー、もう?」美鶴はうめいた。


「今日は長い一日だったわ」と美空は言った。「休まないとね」


「そうだね」と綾音は言い、ぴょんぴょんと立ち上がった。「さあ、みんな、立ち上がって」


「うんうん」と光は笑い、他の者たちも立ち上がった。


彼らは一緒に歩き始めた。


ライトはしばらくその場に留まった。葵はまだ座っていた。


「…君も来る?」


彼女は顔を上げ、頷いた。 「ああ。」


彼は少し向きを変え、彼女の視線を避けながら手を差し出した。


「急げよ…置いていかれるぞ。」


葵は眉を上げ、小さく笑みを浮かべた。「私が置いていかれたことなんてあった?」


ライトの耳がほんのりピンク色に染まった。「…もう、早く起きろよ。」


葵は小さく笑い、彼の手を握った。「ありがとう。」


「…どういたしまして。」


彼は素早く向きを変え、先へ歩き出した。


葵は微笑みながら彼をしばらく見送ると、彼らを追いかけるように小走りで走り出した。


……


「今日は村を案内してくれてありがとう。」宿屋から少し離れたところで一行が集まると、陸也は微笑んだ。泉が彼らの前に立ち、ボルトが彼女の傍らに、ギズモが彼女の肩に心地よさそうに乗っていた。


「どういたしまして!」泉は明るい笑顔で手を振った。「みんなが楽しんでくれてよかったわ。」美鶴はため息をつき、後頭部を掻いた。「でも…ジン先輩にはちょっと申し訳ない気持ちもある。自分でやりたかったのに。」


泉はくすくす笑った。「ジン先輩のことは気にしなくていいよ。今頃ヒロに小言を言われてるだろうから。」


一行は顔を見合わせ、すぐにその光景を想像した。


ジンは叩かれたり、引きずられたり、叱られたりしているに違いない。


皆、冷や汗をかいた。


「…ああ、そうだろうな」と和樹は呟いた。


「あ!」泉は突然空を見上げ、目を丸くした。「えっ、もう暗くなってるの?!」


彼女は少し慌ててゴーグルを掴んだ。「戻らなきゃ!おじいちゃんにまたサボってたってバレたら、もうおしまい!」


「まだ設計図仕上げ残ってるんでしょ?」美空が念を押した。


泉は軽く微笑んで美空を軽く振った。「大丈夫!心配しないで。」


彼女は何かを差し出した。「はい、携帯。」


「あ、ありがとう。」陸也はそれを受け取った。


泉は数歩後ずさり、振り返って軽くジョギングを始めた。ボルトもすぐ後ろをついていく。


「また明日!」彼女は肩越しに手を振って言った。


皆も手を振り返した。


「じゃあね!」


彼女は少し立ち止まり、優しい笑顔で彼らを振り返った。


「…みんなに会えて本当に嬉しかった!」


そして、彼女は走り去った。彼女の姿は夕霞の中にゆっくりと消えていき、ボルトは彼女の後ろを、ギズモは彼女の肩にしっかりとしがみついていた。


静かな時間が流れた。


「…よし」さやかは伸びをして息を吐いた。「やっとゆっくりできるわね」


静香は頷いた。「同感」


「もちろん」光は肩を回しながら付け加えた。


美空が前に出た。「中に入ろう…」


「すみません」


声が聞こえた。


一行は振り返った。中年の男性が、きちんと着物のシャツと袴を身に着け、丁寧な笑顔を浮かべて近づいてきた。


「本日、ジン様がお連れになったお客様ですね。」


美空は瞬きをしてから頷いた。「あ、はい、そうです。」


男は丁重にお辞儀をした。「お会いできて光栄です。月城屋敷に仕えております。」


一行は会釈を返した。


「ずいぶん長い道のりを、ろくに休まずにいらっしゃったのですね。」男は再び会釈をしながら続けた。「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」


「いえ、いえ、大丈夫です!」美空は軽く手を振った。「あちこち探検していたので…」


「でも…」綾音はため息をつきながら腕を伸ばした。「…少し休んでもいいかな。」


男の笑みが深まった。「では、適切な場所へご案内しましょう。」


男は振り返った。「どうぞ、こちらへ。」


一行は互いに興味深そうに顔を見合わせ、男の後をついて行った。


しばらくして、彼らは目的地に到着し、立ち止まった。


光の目が瞬時に輝いた。


さやかは息を呑んだ。


目の前には、湯気が立ち込める広々とした空間が広がっていた。夕暮れの空に霧が立ち込め、提灯が柔らかな光を放っている。


穏やかな水の流れる音が、静かに周囲に響き渡る。


「こちらが」と男は優雅な身振りで言った。「月森の誇りである、この温泉です。」


一瞬の間。


そして――


「温泉ですって!?」光とさやかは同時に叫んだ。

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