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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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4-4.解き明かされる過去


その言葉に、ホールの後ろの方でバタバタと人がよろめくような音が響く。シリウスはその音の先をジッと見つめるが、一旦見なかったことにして顔が青くなっているガルクス公爵に向き直る。



「……だから詳らかにしないとまずいって言ってるでしょう。」



チラッと精霊王を見ると、今更かとでも言うように表情は全く変わらず欠伸をしている。



「まあ社交界の三華といわれた女性方全員が契約者だったなんて、今となっては衝撃の事実ですかね。」



シリウスの言葉通り、国王も含めた全員が驚愕の眼差しをシリウスに向けている。

社交界の三華とは、美しさから当時注目されていた三人の女性を讃えた言葉である。

王女であったエリザ・ルンベリー。

ユリアナ・ゼファル公爵令嬢。

そして、シャロン・ユグネル子爵令嬢である。

彼女たちは親友であったが、今現在生きているのは現ゼファル公爵夫人である、ユリアナ・ゼファルだけである。そしてそのゼファル公爵夫人だけは驚いた様子を見せていないことから、彼女はこの事実を知っていたことを物語っていた。



「まあ話を戻しましょう。

襲撃を受け、彼女たちの精霊が足止めをしている間に二人は逃げ出した。防御魔法は彼らには通用しないとわかってはいても、強固な防御結界をはりながら城に逃げようとした。

しかし精霊たちが防ぎきれなかったディカエが彼女たちを襲った。咄嗟にエリザ王女を守ったゴルドー伯爵夫人が重傷を負い、倒れた彼女を見捨てられなかった王女が続けてディカエの攻撃を受けた。」



当時の知られていない事件の真相に、我慢しきれずに嗚咽を溢す声が所々から聞こえてくる。



「……既に彼女と婚約をしていた私は、彼女に危険が迫った時にすぐわかるようにネックレスを渡していた。その反応を感じて現場に着いた時にもディカエは残っていた。

そして、ボロボロになりながらも、倒れた人間の前に立ち守り続ける精霊たちがいた。ディカエを一掃し、王女の元に駆け寄った時にはもう手遅れだった。その時、王女から今話した記憶を託された。」


「「「 ……。 」」」


「かろうじて一命をとりとめたゴルドー伯爵夫人だったが、王女を庇った時に負った背中の傷は治療が不可能だった。精霊からの攻撃に対する治療は人間の力ではどうにもならない。襲撃で彼女の守護精霊も重傷を負っていたため、彼女を治すことは難しかった。

王女と違ってその場で息を引き取らずにすんだのは、契約していた精霊の精霊力の違いであったと考えられる。」



シリウスはここでフッと息を吐いた。



「……この時に使われた薬は、人間の守護についてない精霊を強制的にディカエにするものだった。当時相対した二人の精霊と、私の守護精霊で全ての精霊が元に戻っている。

そしてこの薬は近くで使わなければ二人を襲撃させることは不可能だ。プライベートといっても王女の茶会に護衛がいないというのはあり得ない。当時、茶会に同席していた王女の侍女が、その時の護衛騎士が騎士団の者ではなく、ナイクル侯爵家の私兵だったことを突き止めている。そしてその証拠を見つけた王女の侍女を、犯人は亡き者にしようと狙った。」



そうですよね?と依然シリウスを睨み続けているナイクル侯爵に声をかける。自分で喋れないようにしておきながら挑発するかのように声をかけるシリウスに、ナイクル侯爵も全く怒りを隠そうとしない。



「その王女の侍女は不審な騎士に気付き、王女の側を少し離れた隙の出来事だった。当時離れた場所で気を失っているのを発見されている。

そしてその彼女こそ、国王陛下より任ぜられた極秘任務の守るべき女性です。今日は一緒に帰国しています。

残念でしたね、ナイクル侯爵。最後まで見つけることができなくて。」



面白いくらいにナイクル侯爵の神経を逆撫でするシリウスに、ガルクス公爵も思わず笑いが溢れる。



「……まあ、流石にまずいと思ったんでしょう。その薬はその後使われることはなかった。現に自然発生したディカエ以外で件の事件以降襲撃された者はいない。……先月までは。」



シリウスがチラッとガルクス公爵家の面々に目を向ける。彼なりの気遣いであったが、ガルクス公爵令嬢が真っ先に頷く。その様子を見たガルクス公爵と夫人も、シリウスに目を向け静かに頷いた。



「私は現場にはいませんでしたし、皆さんもご存知ないでしょう。これは諸々の事情から公表されないこととなっていた話です。

先月の王立学院での決勝戦時、競技場内にディカエが現れていました。」



この衝撃の発言にホールがざわめきに包まれた。

競技場には結界がはられていたはずでは、と至る所から困惑の声が聞こえ、何ならシリウスの発言を間違いだと思う人間すらいるほどであった。



「まあ俄には信じられないでしょう。実際、視認できていたのは競技場内にいた()()()()です。」


「……五人?」

「五人だと?」

「公爵家の二人だけが契約者だろう?」


「……あの場にいたのは、審判を務めた教師。そして出場した生徒四人。その計五人ですよ。」



立て続けにおきる爆弾発言であるものの、またしても隠れた契約者の発表に全員の表情が固まる。

ロベルト・クーデン。

ルーク・ファベルク。

セリーナ・ゴルドー。

今までおくびにも出さなかった彼らが、王国中の貴族が集まる年末祭で、契約者であることを発表されるというカオスな状況に、精霊王は初めて愉快そうにニヤリと笑った。しかも、シリウスの独断である。


やはりりこの人間は面白い、とケラケラ笑い出したくなるのを抑えつつ、人間の表情が抜け落ちていくのを面白そうに見物していた。


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