4-3.解き明かされる過去
「お……お前は!」
「お久しぶりですね。」
「……ファベルク!!!!!」
そこに現れたのは、シリウス・ファベルク。
現ファベルク伯爵の実弟にして、ルークの叔父。
エオルやウィリアムの教師であり、セリーナの師匠、そして……
「ようやくエリザとシャロンの敵討ちができる。」
件の王女、エリザ・ルンベリーの本当の婚約者であり、前ゴルドー伯爵夫人であるセリーナの母親、シャロン・ゴルドーの幼馴染であった。
「あ、この物騒なもんは回収させてもらいますんで。」
ひょいっとナイクル侯爵の右手から小瓶を抜き取ると、詠唱もないままにナイクル侯爵を後ろ手に魔法で縛り上げた。
「おー、実際に見ると本当に禍々し……」
「……おい、シリウス。」
「ゲイルさん、すいません遅くなりました。」
「……陛下の御前だ。」
「あー、失礼しました。国王陛下、ご無沙汰しておりましたが全て解明させて戻ってまいりました!」
「……そうか。早速だが……」
「おー!!! すごい機嫌悪そうじゃん!!」
マイペースであるこの男が王族にも態度が変わらないことは彼を知る人間こそよくわかっていたが、人間たちより高い場所で成り行きを見守っていた精霊王にまで軽く声をかけたときには流石の国王たちも度肝を抜かれた。
ナイクル侯爵は後ろ手を縛られた時に声が出ないように魔法をかけられ、鼻息を荒くしながらシリウスを睨みつけている。
それ以外の人間も、このとんでもない男の動向に目が点になっていた。
「ちょ、お前っ……」
「あ、大丈夫です、知り合いなんで。」
「いや、シリウス……」
『そなた、相変わらずだな。戻ってくるのが遅すぎる。』
「いやー、悪かったね。思ってた以上に複雑で。……僕に免じてもう少し堪えてくれないか。」
『……そこらの人間たちは全てをわかっていないぞ。』
「そうだね、でも僕がわかってる。」
『……。』
「……と、いうことで、ゲイルさん。セリーナはどこです?」
突然話を振られたガルクス公爵は驚きを隠せない。そしてまさか彼女の名前を出されるとは思っていなかった。
「……今、ゴルドー伯爵令嬢の話は……」
「あー、まだ掴めてないんだ。参ったな。……とりあえず彼女の話は無視できません。」
「いくらお前でも……」
「国王陛下、ここで本当に全てを詳らかにしなければそこの精霊は本気でやりますよ。」
シリウスがビシッと白い虎の精霊を指差した。そんなことをされても気にする素振りもなく、ただ否定することもなく面白そうにシリウスを見つめている。
つまり、過去の事件だけでなく先日の競技大会やら今日起きたことも全て、白日の元に晒せということだろう。
「……。」
「私に任せてもらっても?」
「おい、シリウス……」
「ゲイルさん、任せてください。」
「……よい、シリウス。そなたに任せる。」
国王の許可を得たシリウスは、静かに一礼をするとナイクル侯爵に向き直った。そのシリウスの横にはピタリと白い馬の精霊が寄り添っている。
精霊王と同じくらいに気高さを感じるその精霊は、全員が見惚れてしまうほどだった。
「ここには学院生も多くいるようだから私の自己紹介からはじめましょう。
私は、シリウス・ファベルク。現ファベルク伯爵の弟で、今日までの約二年間、とある理由で隣国に行っていました。」
彼を知る年配の者も、名前を聞いてハッ!となった学院生も含めて、シリウスの言葉に全員が耳を傾ける。
「私の意思でもありましたが、建前としては、国王陛下から極秘任務を与えられたため。それは二つ。
一つは、私ととある女性の命を狙っていたナイクル侯爵から隠れ、女性を守ること。
そしてもう一つは、今回の事件の真相、つまりナイクル侯爵が使った所謂【精霊を殺す薬】の解明。」
精霊を殺す薬、という言葉に全員が衝撃で声すら出せない。静寂に包まれる中、先程ナイクル侯爵から取り上げた小瓶を全員に見せるように掲げた。
「まあ私がそう呼んでいるだけですが、精霊の意思を抜き取り、精霊力を奪うことで、強制的にディカエにさせる薬であると判明しました。そしてこの男は、王女を殺したこの薬の改良版を作り出した。
……そうですね? ナイクル侯爵閣下。」
「……。」
「ああ、失礼。喋れないんでした。面倒なのでそのままでいてください。」
危ないのでしまっとこう、とまた小瓶を自分のポケットに戻す。
とんでもない話をしながらマイペースさを崩さない男に、国王や公爵たちはなんとも言えない表情で見つめている。
「どこから話すべきか……、まあ当時の事件のあらましから話しましょう。
エリザ王女が亡くなったのは、まさにこの薬を使ってディカエとなった精霊たちに襲撃されたからです。前ゴルドー伯爵夫人と一緒にお茶をしていたところを突然攻撃され、二人が契約していた精霊が応戦しましたが数十匹にも及ぶディカエの攻撃に彼らも致命傷を負いました。
そして……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、シリウス。」
「なんです?」
「今、二人が契約していた精霊、と言ったな……?」
「……ああ、そうですね。シャロンは生涯公表しなかったんでした。」
ガルクス公爵が珍しく青い顔をしながらシリウスの言葉を遮ったが、シリウスが続けた言葉に先程の精霊王の言葉の重みがよりのしかかってくる。
" 契約者を大事にしない人間たち "
" 前回の時に怪我をした精霊たち、その中の一匹は私の娘だ。 "
つまり、それは……
「シャロン・ゴルドーは契約者でした。」




