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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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4-2.解き明かされる過去


「……答え合わせなんて……、お前がエリザ王女と婚約していたことは……」


「していない。」


「……な、に?」


「……彼女とは、婚約をしていた事実はない。」



目まぐるしく変わる情報に貴族は驚くことも慣れ、固唾を飲んで見守るしかない。



「……そんな、ことはあり得ないだろう。当時……」


「確かに、そのように()()()()()。恋人同士とは見えなくともな。だが、それはガルクス公爵家と王家で取り決めていたことだった。」


「……。」


「……お前も、元々は彼女に純粋に恋していたんだろう。しかし、当時はお前みたいな者以外にも彼女への婚約の打診はかなり多くなっていた。どこかの国の先王の後妻だとか、はたまた女にだらしない王位すら継がない王子だとかな。失礼な話だよ。」


「……。」


「それでも他国の王族からの要請を断り続けるのも無理がある、建前で私との婚約の話が持ち上がっているということにしたんだ。妹を溺愛する兄たちが国から出したがらないと言ってな。私も留学する予定であったし、すぐに誰かと結婚するだなんて考えていなかったから、ある意味ちょうどよかった。

それに彼女のことは、妹のように思っていたからね。とても大事な子であることには変わりなかったよ。」



ガルクス公爵は過去の記憶を思い出して、静かに微笑んだ。初めて知る事実に、ナイクル侯爵は唖然としている。



「彼女とは小さい頃からの付き合いだ。互いを大事には思っていたが、それは兄妹のような親愛だと心から言える。彼女も私も、それぞれに愛する人を見つけたときには心から祝福した。彼女の幸せな姿を見ることは叶わなかったが。」


「……。」


「……どちらにしても、エリザとお前が婚約することはあり得ないことだった。」


「……それほど嫌われていたと……」


「いや、それ以前の問題だ。ナイクル侯爵家はサーシャ国の王女が嫁いで以来、我が国で初めてと言えるほどに精霊への信仰を蔑ろにしてきただろう。そのような家に、契約者である王女が嫁ぐなんてもってのほかだ。」


「精霊など……!」


「そう考えているのはお前だけだ。お前がかの女性の影響を強く受けていることは周知の事実だった。」



ガルクス公爵の話を俄かに信じ難いのか、ナイクル侯爵はひたすら睨み続けている。そんな様子をじっと見ていた国王が静かに口を開いた。



「……父である先代国王が危惧していたからといって、同世代である私がそなたを諦めるべきではなかった。妹を好いているとわかってからは余計に警戒してしまった。」


「……。」


「……妹の婚約者候補に、そなたの名が上がらなかったわけではない。」


「「「 ……! 」」」



王弟やガルクス公爵も知らなかったのか、ナイクル侯爵を含めた全員が驚きに目を見開き国王を見つめている。



「……エルドは知らないだろうな。父上たちと私で話し合った時にいい青年だと名が上がったんだ。だが、当時の先代侯爵夫人の意向が強く残っていた時期だったからな……契約者であるエリザが嫁ぐのは、お互いに幸せになれないのではと考えた。そして、エリザに意思を聞いた。」


「……。」


「彼女は言ったよ。

自分は王女として生まれた身である。王族としての務めを果たせる婚姻ならどのような相手でも甘んじて受け入れる。ただ、そのような背景がないのであれば、私が好いている人は今もこれからもあの人だけで、彼以外と結婚するつもりはない。

……とね。正直、驚いたよ。妹がそこまで明確な意思を持っているとは。」



国王は思い出しながらうっすら目に涙を浮かべた。



「妹の想い人が誰かわかった時は、正直私たちも戸惑った。妹の幸せを願ってはいたが、果たして彼に妹を任せてもいいのかと。……まあ杞憂だったがな。」


「あんな男……」


「君の考え方ではそうなのだろう。だから、妹とは根本的に考え方が違ったんだよ。君たちを思っての決断でもあったし、それを伝える必要はないと思っていた。王家から婚約を打診したわけでもない。

……しかし、今となっては私に直談判をしてきたあの日、きちんと説明すべきだったと思っている。すまなかった。」


「……。」


「過ぎたことは戻らない。どちらにしても、ナイクル侯爵がしたことは許されることではない。法に則り処罰を与える。そして、ディカエを操った詳細についても話してもらおう。」


「……ふっ、ふははははははは!!!!

本当にどうかしている! なぜ私が素直に話すと思ったんだ? ここで死ぬことになったとしても、話してなるものか。

本当は婚約していなかった? 諦めるべきではなかった?

そんなのは知ったことか! 今となっては、そんなこともうどうでもいい。お前のような人間が国を治めるなどあってはならない!……ならば、ならば私が!!!!」



ナイクル侯爵は叫びながら懐から小瓶を取り出した。中には黒紫色をした煙が入っている。



「今ここで、お前らも、精霊王も、全員がくたばればいい!! 精霊の国など必要ない!!!」



取り出した小瓶を割ろうと右手を頭上に掲げた。

後ろにいた人間たちも訳が分からず悲鳴を上げて逃げようとしている中、騎士団長をはじめとした騎士たちがナイクル侯爵を止めようとしたその時ーーー。



「……いい加減にしてもらおうか、ナイクル侯爵閣下。」



ナイクル侯爵の目の前に突然男性が現れ、小瓶を掲げていた右手をガシッと掴んだ。突然現れた男にナイクル侯爵も含めてその場にいた全員が瞠目するが、そんな周囲の様子を気にする素振りもなく、その男は目の前のナイクル侯爵を鋭い目で睨んでいた。



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