4-5.解き明かされる過去
シリウスの独断で契約者であることを暴露された三人のうち、唯一このホールにいたルークは叔父の暴走に若干顔を引き攣らせていた。
隣にいたルイーザは信じられない顔を自分に向けてくるが、それはどちらかというと自分に対してというよりセリーナへの驚きの方が比重が大きかっただろう。
ユグネル子爵だけは「やはりセリーナもそうだったか……」と目に涙を浮かべていた。
「……あ、すまん。ルークもまだ公表前か。」
「……卒業と共に公表する予定でしたので、もう構いません。」
「そうか! 少し早まったな!」
まあ手間が省けたろ!と笑っているシリウスに、ファベルク伯爵家の面々は相変わらずのこの男に何とも言えない顔をむけている。
「……まあそういうことで。騎士団が調査中ということだが、おそらく競技場と観客席を仕切っていた結界に何らかの細工を施していたんだろう。競技場内にどうやってディカエが現れたか……、そこはまだ調査中のようですね?」
「……ああ、そうだ。」
不本意ながらな、とガルクス公爵が応える。うんうん、と頷きながらシリウスが手を自分の前に突き出した。そのまま詠唱もなしに結界のようなものが展開されたのが全員の目にもわかった。
「正体はこれです。」
「……?」
「わかりませんか、私の横にいる精霊が皆さんには見えないでしょう?」
確かに、横にいたシリウスの精霊が見えなくなったことに全員が気付く。そして精霊がシリウスの元から少し距離を取った場所に移動すると全員の目にも視認できるようになった。騎士団長をはじめとした魔法に精通した者たちにも解明できなかったことを難なく披露するシリウスに国王が思わず声をかける。
「……これは、一体……」
「もうしばらく調査を続けていればきっとわかったでしょう。私はたまたま魔法研究が進んでいる隣国にいたので、この話を聞いてすぐにわかりました。」
「それならばすぐにこちらにもその情報を……」
「そうしたかったんですが、この魔法を教えてもらったり、この件の首謀者にどう伝わっていったのかを探るのに時間がかかってしまいまして。
この魔法は、隣国プリムラで今流行しているあるもののために少し前に作られた魔法です。」
「流行……?」
「ええ、マジックショーが流行しているんです。魔法が使えない枷をつけながらする、マジックショーです。」
全員の頭に?が浮かぶ。誰もピンときていない様子にシリウスもどう説明すればいいか、うーんと唸りながら言葉を紡ぐ。
「……魔法研究があれほど発展しているプリムラ国で、魔法を使わずに、マジックをするんです。結局この結界魔法の話をするとなると、そのマジックの一つの種明かしになってしまうので渋られたんですがね。事情を説明したら理解してくれました。」
「……お前が説明?」
「まあ細かいことはいいんですよ、ゲイルさん。」
十中八九、相手を脅しただろうと推測したガルクス公爵だが、シリウスがヘラヘラしているところを見るとあながち間違っていないだろうと思う。
「こちらにも巡業に来たかったみたいなのでね、詳細は省きます。とりあえずそのマジックショーでは、この結界を使って精霊ではなく動物などの【その時見えたら都合が悪いもの】を視認できなくする魔法です。
おそらく競技場に使われたのもこの応用版でしょう。確認してみなければわかりませんが。」
シリウスの説明に、ナイクル侯爵がギリリと歯を食いしばるのが見える。国王たちもナイクル侯爵の反応から、シリウスの推論が正しいと判断した。
「観客席で私たちが見えなかった理由はわかった。だが、ディカエを出現させたのは?」
「ああ、それは簡単ですよ。」
シリウスがスッとある人物を指差した。その人物は周囲の目が自分に向くとビクッとして震え出した。
「……彼女が?」
「ええ。決勝戦の際、ディカエが出現した場所は、彼女が準決勝で立っていた場所と同じ付近のはずです。
……そうだろ、ルーク?」
「……確かに、そうですね。」
「……つまり彼女が仕向けた……」
「いや、そう判断するのは早そうですね。」
精霊王によって依然話せないままとなっているナイクル侯爵令嬢は、自分が仕向けたと言われた瞬間から、とんでもない勢いで首を振って否定していた。今までの彼女からは考えられないほど、涙目になりながらどうにか否定の意思を伝えようとしていた。
その様子に、シリウスが精霊王にチラッと視線を向けると、意図を汲んだ精霊王が何も言わずに彼女にかかった魔法を解いた。
「あっ……、あ、私はそんなことしていません!」
「君の言うことを素直に信じる方が難しいな、今日のことがバレていないと思っているのかい?」
先程までのシリウスと打って変わって、何の感情も抱いていないような瞳でナイクル侯爵令嬢を見つめる。そんなシリウスからの視線に、堪えきれずにナイクル侯爵令嬢もついに涙をこぼした。




