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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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4-6.解き明かされる過去


急に自分へ憎悪のこもった視線を向けられた理由がわからないナイクル侯爵令嬢は、泣きながら否定の言葉を繰り返す。



「……本当です、本当に私は、そんなこと知らなくて……」


『知らないのは事実のようです。』


「……まあゲイルさんの精霊が言うなら事実なんでしょう。では利用されたということですね、実の父親に。」


「……え?」



泣きながら隣にいる父親に目を向けるが、自分には目もくれずにひたすら目の前の男を睨みつけている。



「競技大会の前に、父親から何か渡されたのでは?」


「……は、い。いい結果が出せるようにと母の形見のネックレスをその日だけつけていいと言われました。普段は持ち出さずに保管されているので、私は喜んで身につけました。」


「……だ、そうです。家宅捜索の際によろしくお願いします、騎士団長。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。シリウス、私たちにもわかるように……」


「ですから、ナイクル侯爵は自分の妻のネックレスにディカエを呼ぶ、もしくは精霊をディカエにさせる仕組みを組み込んでいたんですよ。ナイクル侯爵夫人が早く亡くなったのもそのせいですし、競技大会の決勝戦でディカエがタイミングよく現れたのも何かしらの細工を施して娘に託したんでしょう。

ガルクス公爵令嬢がいなくなれば、年齢や爵位からして次の王太子の婚約者の筆頭候補はナイクル侯爵令嬢でしたでしょうから。」



ナイクル侯爵は何かを叫んでいるが、シリウスの魔法がかけられたままで声にならない。しかし、シリウスの話を全員が静かに反芻していた。

ナイクル侯爵夫人は、数年前に原因不明の病で亡くなったとされていた。亡くなる数年前から異変はあったものの、本人が言い出せずに悪化して気付いた時には手の施しようがなかったと言われていた。ある意味、それは事実だったのだろうが、夫の手によって殺されたも同然の話である。

そして母親が突然亡くなり、当時はかなり塞ぎ込んでいたナイクル侯爵令嬢もこの話に泣いて赤くなった目を見開いていた。段々と顔色が悪くなり、何かに怯えるように過ごしていた母親の記憶が蘇る。



「だが、シリウス。仕込んでいたというのが事実だとして、ディカエが現れたんだとしたら時が経ってから亡くなるというのは些か話が合わないのではないか?」


「いえ、国王陛下。彼が作り出したこれらは、徐々に精霊の力を失わせるという力もあったようです。ですから、何かの掛け合わせでしょう。詳しくはその品を押収して調べないことにはわかりません。」


「……は、……を………」


「なんだ、侯爵令嬢?」


「…………母は、殺されたと、いうことですか。」


「……まあ、そういうことになりますね。色々な意味で。」


「……。」



信じられない事実にナイクル侯爵令嬢は更に涙を流して下を向いてしまった。父親が自分を愛していないこともわかっていたが、大好きだった母親を殺したのが父親だという事実を到底受け入れられない。隣にいる父親を蔑むような気力も残っておらず、ひたすら俯いて泣き続けているナイクル侯爵令嬢の姿に誰もが胸が苦しくなる思いだった。



「……まあナイクル侯爵夫人のことは調べないと詳細はわかりません。被害者が想定より多いかもしれないという話ですので、一旦ここでは割愛させていただきます。」



流石のシリウスも、ナイクル侯爵令嬢の姿を見て思うことがあったらしい。それでもシリウスの言葉に反応を示さないナイクル侯爵令嬢を見て、そのまま話を続ける。



「まあつまり、ナイクル侯爵令嬢がそのネックレスをつけて競技場に入り、何らかの形でそこにディカエが現れるような仕組みを組んだのでしょう。ナイクル侯爵令嬢が立っていた場所と、ガルクス公爵令嬢が襲われた際に立っていた場所はほぼ同じはずです。

そして、その場にいた全員が契約者であったことからディカエを視認できた。勿論、全員がガルクス公爵令嬢を守る動きをとった。……ディカエの攻撃を防いだのは私の弟子のようですが、そのおかげで大怪我を負ったようですね。」


「ガルクス公爵令嬢が襲われたということを証明できるのはその場にいた五人だけでしょう。それだけでナイクル侯爵家を糾弾するのはおかしいのでは?」



突如発せられた疑問の声に、シリウスも睨みつけるようにその声の出所へ目を向ける。



「……これはこれは、レイオール侯爵。まるで王女を殺害したナイクル侯爵の肩を持っているようですね。」


「いやいや、あくまで公平に裁かれるべきだと思ったまでです。その場にいたのは教師一人と生徒四人でしょう? 公爵家の二人はともかく、他の三人が本当に契約者だという証拠は?

しかも生徒四人の証言なんて……ガルクス公爵家が政敵を潰すための嘘だという可能性は?」


「ほう……、レイオール侯爵家も偉くなったものだな。我が家に政敵とは……」


「とんでもないガルクス公爵閣下。それでも、ガルクス公爵家の力が強いのは周知の事実でしょう。自分の娘を間違いなく王太子殿下の婚約者にするためなら……」


「全貴族がいる前で、宣言させてもらおう。」



ガルクス公爵が国王や王妃、王太子に目を向ける。意図を察した三人は全員が頷く。それを確認したガルクス公爵は最後に自分の娘を見つめた。ガルクス公爵令嬢も覚悟を決めたように力強く頷き返した。

それを確認したガルクス公爵は静かに微笑みを返すと、レイオール侯爵に向き直った。



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