4-7.解き明かされる過去
「まず、我が家には明確な政敵などいない。そのような国内を分裂させるようなことはガルクス公爵家は断じて行わない。そして私たちに力があると思っているのなら、それは我々が自分たちの力で手に入れたものだ。誰かを貶めたりして手に入れたものではない。
万が一に政敵がいたとしても、それを潰してまで我が娘を王妃にしようなどとは考えない。考える必要がない。王家とガルクス公爵家はいたって良好な関係だからな。」
「……。」
レイオール侯爵は悔しそうに眉間に皺を寄せて聞いている。
「そして、娘が狙われた理由が王太子殿下の婚約者候補の筆頭だからということだったが、【筆頭】ではない。正式な、王太子殿下の婚約者だ。狙われる理由は明白であり、娘が狙われた理由がこれでも足りないというのであれば、王家への侮辱とも取れるな。」
「「 !?!? 」」
やはり、と思う者もいれば、レイオール侯爵のように初めて知る事実に驚愕する者と貴族は二分した。侯爵家であるにも関わらず、こういった情報が疎いという点がレイオール侯爵の致命的な欠点でもあった。
「ま、まさか、公表は……」
「学院の卒業とともに発表すると取り決めされていた。こうして狙われることもあるだろうとな。」
「……。」
「まさかレイオール侯爵閣下にも叛逆の意思があったなん……」
「い、いえ! ありません! 私はそれを存じ上げなかっただけで!
それに一侯爵当主の立件のための証拠に、生徒だけの証言なんて……。」
「生徒でなければいいのですか?」
「……は?」
ずっと睨みつけるようにレイオール侯爵を見ていたシリウスが、一層怒りを込めて問いかける。ナイクル侯爵と同じように偏見志向のある奴だとは思っていたが、ここまで現実が見れない奴だとは、と呆れも混ざっている。
「証明できるのが、王太子殿下の婚約者で、由緒ある公爵家のご令嬢と、国王陛下の甥である公爵家のご令息。そして王太子殿下の護衛騎士が確定している伯爵令息と、将来の王妃である令嬢を救った、私の愛弟子である伯爵令嬢。彼らの証言が揃ったとしてもそれでは足りないということですね?」
「愛、弟子……え?」
「そうですか。まあこの場にいない者もいますし、子供の言うことが信用できないということであれば、その場に居合わせた学院の教師の証言ならばよろしいですね?
そしてガルクス公爵閣下の守護精霊にその証言を見ていただければ文句はないでしょう?」
「え、あっ……」
「ならば、その者を呼びましょう。」
シリウスが自分の前に転移のための魔法を展開させる。王国一の魔法の使い手であるシリウスの「愛弟子」という言葉に、とんでもない発言をしてしまったのではと今更後悔が押し寄せ青い顔をしているレイオール侯爵の止めようとする声など無視してそのまま魔法を続ける。
その様子に、国王やガルクス公爵たちは焦りを見せる。
「シ、シリウス……待て、クーデンは……」
「大丈夫です。」
「いや、話を聞け……」
「大丈夫です!」
そうでなくても焦っているのにこんな余計な手間を取らせやがって、とレイオール侯爵への怒りでガルクス公爵の話に耳を貸そうともしない。
ガルクス公爵は、クーデンが襲撃され未だに所在不明であることを伝えようとしただけだが、鬼気迫るシリウスの姿に押し黙るしかない。チラッとナイクル侯爵を見ると、先ほどまでの姿とは打って変わり、こちらを挑発するようにニヤッと笑っていた。
その姿を見て、やはり止めなければ……とガルクス公爵がもう一度シリウスに声をかけようとした時、シリウスが展開していた転移の魔法陣が光った。一際眩しく光り、全員がその眩しさに目を瞑った。
そして、目を開けた時には、汚れた服を纏ったロベルト・クーデンが立っていた。
その姿に、各々が様々な理由で驚愕の表情を浮かべるが、ただ一人、ナイクル侯爵だけは顔を真っ赤にしながら何かを叫んでいた。
「……シリウス。話が違うぞ。」
「仕方ないだろ、レイオール侯爵が競技場での襲撃を信じないんだ。お前が話せ。」
「……は? 信じないも何も、国王陛下までご存知で、騎士団長自ら調査している件を信じないってそんな馬鹿な話……」
「早く話せ。」
「いや、まずその件を俺が話すのは……」
「お前が契約者であることはさっき俺が話しておいた。全員知ってるから問題ない。早く話せ。」
「……。」
クーデンは信じられないような顔をレイオール侯爵に向けていたが、まさかの事実にシリウスの方を二度見してしまう。
まさか国王陛下自らの指示で調査が始まっているなど知らないレイオール侯爵は、真っ青な顔をしている。
そして、まさか自分が不在の中、契約者であることを暴露されているとも思わずに親友のとんでもない行動に頭を抱えたくなる。チラリとルークの方を見れば彼も苦笑いしていることから、これは全員が暴露されたのだと理解する。そしてそんなクーデンの様子を、気の毒そうにガルクス公爵たちも見つめていた。
はあ……とため息をつきながら、諦めてクーデンは静かに話し出した。
「……あの日、競技大会の決勝戦、ご覧になっていた方がほとんどだと思いますが、両者拮抗した戦いだったのでどのタイミング、というのを明確に申し上げるのは難しいです。
ただ、ガルクス公爵令嬢が融合魔法を放つタイミングに彼女の後方にディカエが現れました。競技場にいた五人全員が視認できたのは確実にあの時でした。覚えている限りですが、ゼファル公爵令息はすぐにガルクス公爵令嬢の方へ向かい、対角線上にいたファベルク伯爵令息は通常の防御魔法をガルクス公爵令嬢へ展開しました。
私も、事を荒立てずに終わらせるには、どうにか自分の精霊を呼んで対処してもらうしかないと思っていた矢先、ガルクス公爵令嬢の後ろにいたディカエの動きがとまりました。ディカエの攻撃が何かに防がれ、ゼファル公爵令息とガルクス公爵令嬢がしゃがみ込んでいる中、突如ディカエが霧散しました。……それと同時に、ファベルク伯爵令息とゴルドー伯爵令嬢が公爵家二人が放った攻撃魔法が当たり……以降は皆さんがご存じの通りです。」




