3-2.対峙
「……国王陛下。先ほど、貴方様は詳細は未だにわかっていないとおっしゃった。にも関わらず、こうして全貴族の前で私共を犯人として扱っている。流石に横暴がすぎるのではありませんか。」
「そなたをこれまで断罪できなかったのは、物証が出てこなかったからだ。そして、前精霊王が怒る精霊たちを抑え、人間界のルールで裁きを与えるようにとりなしてくださったからにすぎない。そうでなければ、とっくに怒る精霊たちによってそなたの魂は無に帰しておる。」
「……。」
「しかし、精霊王によって今この場にいる人間全てが精霊を視認できるようになった。そうなれば、そなたを犯人だと証明することは実に容易い。」
「……精霊を使ってですか。そんなことをすれば……」
「そう言うと思っていたよ、ナイクル侯爵。」
国王に向かって詫びる様子もなくシラを切ろうとしていたナイクル侯爵であったが、横からガルクス公爵が遮る。
「そなたが祖先に他国の王族の血が流れていることを盾にするのは目に見えていた。実際、国王陛下もそれを全く危惧していなかったわけではない。しかし今回の一件で、お前を必ず捕まえてやると決めた時にこちらも手を回した。」
ニヤリと笑うようにガルクス公爵は懐から紙を取り出した。そのまま開くとナイクル侯爵に見えるように突き出す。
「サーシャ国より、ナイクル侯爵家の処断について一切関与しないとの調印をいただいている。」
その言葉にナイクル侯爵も驚きに目を見開く。あの青二才め、と内心で暴言を吐きながらも、それ以上の弱みは握らせまいと平静を装う。
そんなナイクル侯爵を見透かしたようにガルクス公爵は続ける。
「サーシャ国王は即位したばかりでまだお若いが、精霊信仰の薄い自国を大変憂慮しておられる。この機会に、我が国との交流を深めていきたいそうですよ。
きちんと、王族同士で。数代前の王女が嫁いだ侯爵家をあてにせず。」
ホール内の数ヶ所から、ガルクス公爵の嫌味に同調するように鼻で笑う声が聞こえる。サーシャ国の遠い血縁にあたることをことあるごとに自慢、時には盾としてきたナイクル侯爵にとっては我慢ならないことであった。
顔を赤くしながらもどうにか堪える侯爵を見ながら、ガルクス公爵はフンと笑うにとどめた。
「……今回そなたを必ず断罪すると決めてから、ガルクス公爵が即座に動いてくれてな。とんでもない者を敵に回したな。」
「……敵だなんて、とんでもない。」
「まあ話を戻そうか。」
国王はガルクス公爵に視線を向けると、礼をとり自分の精霊であるフクロウを呼んだ。ガルクス公爵の肩にのったフクロウは、ナイクル侯爵をじっと見つめる。
「精霊王様が精霊を視認できるようにしてくださったおかげで、この場にいる全員が承認となる。ここにいるガルクス公爵の守護精霊は、他の精霊と違って即座に嘘か真実かを判断することができる。」
「……。」
「精霊は、嘘をつかない。私たち契約者だけでなく全員が承認となれば、そなたの罪をでっち上げたなどという反論はできないだろう。」
「……。」
「では、ナイクル侯爵、そなたに問う。
私の妹であるエリザ・ルンベリーの殺害を企て、精霊を使って実行したのはそなただな?」
精霊を使って、という言葉に詳細を知らないほとんどの貴族たちに動揺が広がる。そんなことあるはずがない、と思った者が多い中、国王をはじめ、ゼファル公爵やガルクス公爵、この国の重鎮たちが射殺すような目でナイクル侯爵を見つめているのを見るに、本気であることを悟る。
精霊をそんなことに使役するなど、とナイクル侯爵の返答を待たずにホール内に怒りが満ちていく。
「……そんな、精霊になんて聞くまでもない。」
鼻で笑いながら国王や公爵に向かってフンとあくどい顔を向ける。
「おっしゃる通り。王女に向けて使えない精霊どもを差し向けたのは私だ。」
反論すらなく罪を認めたナイクル侯爵に、何度目かわからない衝撃が襲う。その答えに国王たちは目を細め、怒りを隠しきれずに拳を握りしめている。ガルクス公爵の肩に乗っているフクロウも、特に反応を示さないため嘘をついていないと全員が判断した。
そしてナイクル侯爵の横に同じように立たされていたナイクル侯爵令嬢は、父親の罪を認める発言に口を手で覆いながら衝撃に膝をついた。
「……まさか素直に認めるとはな。」
「臆病な国王陛下がこの場で断罪するなど、それ相応の覚悟と根拠があってのことでしょう。それに応えたまでです。」
「貴様っ………!」
「よい、ガルクス公爵。この者が私をある時から下に見ていたのには気付いていた。……して、あえて問う。王女を狙った理由はなんだ。」
その国王の問いかけに、ナイクル侯爵は下を向く。少しは後悔したのかと思ったその時、肩を震わせながら笑い出した。その様子に全員がギョッとするが、顔を上げたナイクル侯爵の目は、国王と隣のゼファル公爵を怒りのこもった目で睨みつけていた。
「なぜ!? なぜかだと!? おまえ…お前がそれを問うのか!!!」
いつも蛇のように静かなナイクル侯爵の豹変ぶりに全員が驚き、少しずつナイクル侯爵との距離をあけていく。騎士団長も国王の前に出て剣に手をかける。それほどに、血走った目で国王を見つめるナイクル侯爵は気が狂ったようであった。
「あの……あの女は、私との婚約を拒否した!!!!
サーシャ国の王族の血をひく我がナイクル侯爵家へ嫁ぐことを断固拒否した!!!
当然の報いだろう!!!!!」
信じられないナイクル侯爵の発言に、広間がシンと静まりかえった。




