1-4.波乱の幕開け
ウィリアムの言葉に全員が沈黙する。この一件がなければ、ウィリアムに執着……彼を慕う令嬢のいつもの話だと思うだろう。
「辞退なされたなら、か……。」
「いつものことだと思ったのですが、この一件を考えれば……偶然とは思えず。」
「ここで聞いておいて助かった。皆、ナイクル侯爵家の人間から目を離すな。」
「「 承知しました。 」」
「せっかくの年末祭の日になんてことをしたんだ……、精霊への祈りの時に何かあったらどうしたらいいんだ。」
国王のボヤキに全員が苦笑いを返すしかない。
そろそろお時間です、という侍従からの声に国王が退室していく。
「……ウィリアム。」
「はい、父上。」
「年末祭なのに悪いが、お前は兄上たちが入場してくる直前に別の扉から入ってこい。ナイクル侯爵令嬢に捕まったら面倒だし、ゴルドー伯爵令嬢が一緒じゃないと大々的に見せない方がいい。」
「勿論です、そのようにします。」
「あの……自分もウィリアムと一緒に……」
「いや、せっかく婚約者と一緒なんだ。状況的にも一緒にいてあげなさい。こう言ってはなんだが、君たちは逆に目立ってくれる方がカモフラージュにもなる。……そんな気分ではないのはわかるが。」
「……分かりました。」
ゼファル公爵の言葉は何も間違っていないと理解はしていても、後悔ばかりが押し寄せる。浮かない顔のままのルークにウィリアムもかける言葉が見つからない。その時、王太子がルークの元にやってきた。
「いつまでそんな顔してる、今できることをやると言ったのはお前だろ。」
「……殿下。」
「あれはハッタリだったのか? 今、捜索に加わることはできないし、お前は今日の主役の一人でもある。令嬢が見つかって参加できるとなった時に君がいないと彼女も心細いだろう。
いい加減しっかりしろ!!」
「……はい、すみません。」
「……今回ばかりは、年末祭が終わったら私たちも競技大会からの一件を含めて一連の出来事の解明に参加させてもらうように父上に直談判します。……いいですよね、叔父上?」
「……はあ。私からは何も言わん。」
もうこうなっては王弟であっても止めるのは無理だと腹を括る。息子を見れば彼も覚悟を決めた目をしており、もうどうにでもなれとさえ思う。年末祭の後に兄である国王は更に頭を抱える話が増えるなと気の毒に思いながらも、自分はお手上げだとウィリアムにはその場で「国王陛下に委ねる、好きにしろ。」と伝える。
その投げやりな態度に横にいたガルクス公爵も流石に「いいのか、それ」とでも言うように目を見張るが、ゼファル公爵はその視線には気付かないフリをする。
「……まあ、その件はいい。そろそろ時間だ。若いのは女性たちを迎えに行ってやれ。」
「母上は……」
「大丈夫だろう、彼女は強い。また後で声をかけてやってくれ。」
「……分かりました。」
王太子の退室にガルクス公爵が一礼して見送る。付き従うようにウィリアムやルークも退室すると、部屋にはゼファル公爵とガルクス公爵のみとなった。
「……ゲイル、何か仕掛けただろ?」
「なんの話だ?」
「とぼけるな、奴の証拠が固まる前に捕まえる算段でもしてたんだろう。」
「……捕まえるなんて向こう見ずなことは考えていなかった。が、奴のほうから仕掛けてくるように動くつもりではあった。」
「クーデンは囮か?」
「……ああ。ただ、新年祭以降の予定で、今は計画段階だった。まさかここまで早く仕掛けてくるとは。」
「向こうの理由がわからない以上、全てが不可解だな。本当に今日の件も奴の仕業なら、二人が狙われたのも謎だ。」
「国家の転覆でも企んでいるのかと思ったが……それにしては回りくどすぎる。」
「いっそそのくらいわかりやすく動いてくれれば今頃牢屋に入れられてたのにな。」
「……とにかく、今は小さな証拠でも捜索隊が見つけてくれることを祈るしかあるまい。」
「……そうだな。」
年末祭の開始まで残り僅かとなり、公爵家の二人もいよいよ部屋を後にした。未だに消息が途絶えたままの令嬢たちの無事を祈りながら……。
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「……連絡が途絶えた、だと?」
「は、はい。」
「……まさか失敗したのではないだろうな。」
ナイクル侯爵家の執務室、覆面の男が膝をついて報告をしているのはナイクル侯爵家当主である。
学院の結界を突破させられたのは一人だけであったが、たかが令嬢一人には十分だろうと思っていた。校舎内からの援護もある。その分、あの教師に仕向けた。
それなのに、令嬢に仕向けた精鋭からの連絡が途絶えた。
あの令嬢が、未だに利き腕の怪我が完治していないことは調査済みだった。だからこそ、年末祭というリスクが高い日に仕掛けたのである。魔法の扱いに長けていたとしても、たかだか女一人になんてザマだと怒りのあまり手を握りしめる。
「……やはり早計だったか。」
「もう一人のターゲットについては、馬車ごと乗っ取り崖から落としました。年末祭の間に見つかることはないかと。」
「……まあよしとするか。令嬢のほうはいくらでもタイミングはあるだろう。どちらにしても、今日公の場に立たせることは防げた。」
失敗していたとしてもどうせ痕跡は残らない、と嫌な笑みを浮かべる。
あの令嬢が注目を浴びるとこちらの計画に支障が出る可能性があり、万が一のために消すつもりだったが、もし今回失敗していても利き腕だけは痛めつけるように命令してあった。
「……契約者、かつ実力者であっても、魔法が使えなくなれば王太子の婚約者候補になることもあるまい。」
まさかナイクル侯爵の狙いが、当初の理由からこじれて本当に国家の乗っ取りが目的になっているとは、誰も想像していなかった。




