1-3.波乱の幕開け
「公にしていませんが、私の精霊は嘘を見抜けるのですよ。失礼ながらお二人の反応を精霊に見てもらいました。彼らは嘘は言っていません。」
できればこの事はご内密に、と付け加えながらガルクス公爵が説明すると、レイオール家の二人はほっと胸を撫で下ろした。
精霊自体が嘘や真実を見抜くことは難しいことではないが、ガルクス公爵の守護精霊であるフクロウはより簡単に見極めることができた。かの精霊曰く、『話している時の気でわかるよ』ということだが、人間では理解が及ばない領域であることは、子供の頃に尋ねたガルクス公爵自身も理解した。
レイオール侯爵夫人の訴えと、それを聞いていたレイオール侯爵令息の反応を見て、ガルクス公爵の精霊はただ一言『問題ない』と答えた。その反応に室内にいる契約者全員が安堵した。
ガルクス公爵自身も、毒気が抜けたように騎士団で鍛錬を積んでいたジョージ・レイオールを度々見かけている。騎士団長も更生したことを純粋に喜んでいるようであったし、娘のミファも学院での様子を見る限りは本当に反省しているようだと安堵していた。
「私自身、彼が共犯だとは思えません。利用されたか、あるいは巻き込まれたかかと。」
「情報が少ないな……、捜索人数を増やそう。因みに、レイオール侯爵夫人とレイオール侯爵令息。差し支えなければ答えてもらいたい、今回の件で重要なことだ。ただ、答えられないのならばそれでも構わない。」
「はい、なんでございましょう。」
「ジョージ・レイオールは精霊との契約者ではないという認識は正しいかな?」
「は、はい。当時残念がっていたので覚えています、契約者ではありません。」
「自分も、同じ認識です。」
「……そうか。ありがとう。」
国王からの突然の質問に二人は不思議に思うが、ガルクス公爵の精霊が反応しないのを見るに、二人は嘘を言っていないのだと国王も理解した。
「……これは、巻き込まれたということかな。」
「おそらくは。」
「……皆、この件はこの場にいる者以外に他言無用だ。年末祭だが、一部変更する。ファベルク伯爵令息たちには申し訳ないが、アナウンスでの入場は取りやめとして、表彰式も年末祭の最後にまわす。最悪の場合は、ゴルドー伯爵令嬢は体調不良として発表の上、ファベルク伯爵令息のみ表彰を行う。」
「「「承知いたしました」」」
「……不満そうだね、ファベルク伯爵令息。」
「……いえ、とんでもありません。」
「……ガルクス公爵の精霊は若干嘘が混ざっていると思っているようだぞ。」
契約者である国王の言葉にチラッとルークもフクロウを見ると、こちらをじっと見つめてくる瞳と目が合った。ルイーザを含めて、自分が契約者であることを知らない人間がこの場にいる以上、フクロウが「半分嘘だ。」と言ったことも聞こえないようにしなければならなかった。
自分のことまで言わなくていいのに……と少々複雑な面持ちなルークを見て、王太子は気の毒そうに助け舟を出す。
「仕方のないことだとは理解していても、幼馴染である彼女と一緒に表彰されないのは複雑だよな。」
「……そうですね、全て、彼女のおかげなので。」
その言葉に全員が沈黙の中、同意する。我慢できなくなったユグネル子爵令嬢のすすり泣きが響きはじめると、王妃がガルクス公爵令嬢と共に王妃の控室へと案内する。
レイオール家の二人も同時に退室すると、部屋には国王と王太子、公爵家の当主二人とウィリアムとルークのみになった。
「……さて、困ったことになったな。」
「……申し訳ありません。私が、最後まで一緒にいれば。」
「まさか今日仕掛けてくるとは思わないだろう。」
「ゲイル、そういえばクーデンはどうした。」
「……奴からも音沙汰がない。年末祭に出席する予定だから早めに帰宅したと同僚たちが言っていたそうだ。馬車に乗ったところまでは確認できている。」
「そっちもやられたのか……。」
クーデンはともかく、王太子とウィリアムはセリーナまで契約者だと知らされていないために、狙われた二人の共通点に理解が及んでいない。しかし、ずっと胸に引っかかっていたことを言うべきか考えあぐねていたウィリアムが、意を決したように言葉を発する。
「……申し訳ありません。見当違いなことかもしれませんが……気になることがあります。」
「言ってみよ。」
「……ありがとうございます。王宮に到着した際、父上からの言伝通りにこちらに向かおうとした矢先、待ち伏せするかのようにナイクル侯爵令嬢に話しかけられました。」
ナイクル、という言葉に大人たちの表情が一気に鋭さを増す。
「……何と言われた?」
「それが……」
ウィリアムが話しかけられたのはまさに王宮を入ってすぐの玄関ホールのような場所である。多くの人がいる中で、ウィリアムが入ってきた途端に一目散に駆け寄ってきた。
「ウィリアム様! ご機嫌麗しゅう!
ゴルドー伯爵令嬢をエスコートなさるとのことでしたけど、彼女はどちらにいらっしゃるんです?
もし彼女が辞退なされたのであれば、代わりに私が……!」
「すまないが、父上たちに呼ばれている。急いでいるので、失礼。」
「……このように。すぐに別れたので、それ以上の会話はありませんが……。」




