1-2.波乱の幕開け
時は戻り、現在。
ミファはどうにか支度を終え、一足早く家を出た父親を追うように母親と共に王宮へ着いた時、先んじて父親から事情を聞いていた王太子からの一言は僅かな期待を裏切った。
「……まだ、見つかっていない。」
聞いた途端に座り込みそうになるのをどうにか王太子が支える。胸を押さえ、「私が一緒に行っていれば…」と後悔ばかりが襲ってくる。王太子が別室に彼女を案内した頃には、年末祭まで一時間を切っており、続々と貴族たちが王宮に集まりだしていた。
そんな中、王太子の控室にガルクス公爵が訪ねてきた。顔色が悪い娘の肩をポンと叩くと、静かに言葉を紡ぐ。
「ファベルク伯爵令息が到着し、至急こちらに向かわせています。お二人は同席されますか?」
王太子の控室にいる娘を王族の婚約者として接するガルクス公爵に、勿論です、と二人がすぐに返事をかえす。移動したのは王族の簡易的な謁見室のような部屋で、そこには国王と王妃、ゼファル公爵とウィリアムがいた。
「……ご夫人の具合は?」
「意識は戻りましたが、意気消沈しております。ガルクス公爵夫人が付き添ってくださっていますので、私はこちらに。」
ゼファル公爵夫人は、セリーナが行方不明だと聞いた途端にショックのあまり意識を失った。すぐに別室に運ばれ、意識は戻ったものの過去の事件を思い出してしまい、どうにも動けそうになかった。
「失礼致します。ファベルク伯爵令息、並びにご婚約者のルイーザ・ユグネル子爵令嬢をお連れいたしました。」
「通せ。」
国王からの呼び出しに緊張の面持ちでやってきた二人だが、礼をした後に室内にいる面々を見ると一瞬眉間に皺を寄せた。ルイーザは普段顔を合わせることもない王族や上位貴族たちに顔色が悪くなっている。
「……喜ばしい席の前に申し訳ないが。単刀直入に伝えよう。ゴルドー伯爵令嬢が行方不明だ。」
「「 !?!? 」」
ルークは目を見開き、ルイーザは声にならない悲鳴をあげる。みるみるうちに泣きそうになるルイーザに、ガルクス公爵令嬢が慌てて近寄って慰める。
「……今、捜索をしているところだが、学院からは出ていないようだ。最後に彼女といたと確認できたのが君たちでね、話を聞きたい。」
「……私から申し上げます。」
ルークは、教室であったことから中庭の手前で別れたところまで全てを正確に話した。その説明に眉間に皺を寄せたのはガルクス公爵だった。
「……以上です。なので、中庭から先のことは自分にも分かりません。」
「……ユグネル子爵令嬢も、同じかな?」
「は、はい。間違いありません。」
「……そうか。」
「……陛下、私からよろしいでしょうか。」
「ああ、構わん。」
国王に許可をとったガルクス公爵がルークに向かい合う。
「中庭の手前で別れたと言ったね。レイオール侯爵令息は、ゴルドー伯爵令嬢と一緒に中庭に?」
「はい、そうです。」
「……しかし、私の部下の捜索では、レイオール侯爵令息もゴルドー伯爵令嬢も中庭にいた痕跡は見つかっていない。レイオール侯爵令息のことは、ここにいる人間も初めて聞いた情報だ。」
「えっ……」
「レイオール侯爵令息は彼女に何の用があったんだ?」
「……これまでの謝罪をしたいと。ゴルドー伯爵令嬢は固辞していましたが、……自分が、聞いてやってほしいと頼みました。」
ルークが後悔に顔を下に向けた。最後まで一緒にいてやるべきだった、と後悔してもしきれない。ウィリアムが近付いて、しっかりしろと言うように背中を軽く叩いた。
「……至急、レイオール侯爵……いや、侯爵夫人と嫡男のダンバスを呼んでくれ。レイオール侯爵当主には気付かれないように。」
「承知いたしました。」
侍従が急いで部屋を後にする。室内には重い沈黙が続いたが、ちょうど到着したばかりであったレイオール侯爵夫人たちが入室すると、二人も室内の面々に驚きを隠せない。慇懃に礼をしようとする二人をとめ、挨拶もそこそこにすぐに国王が話し始める。
「年末祭の前にすまないが、至急確認したい。ジョージ・レイオールは、お二人が家を出る前に帰宅されたかな?」
「い、いいえ、陛下。息子は戻ってきませんでした。元々、年末際には出席させないことにしていたので……。」
「……これは参ったな。」
「……あの、愚弟が何か?」
「……隠しても仕方ないから単刀直入に言おう。レイオール侯爵令息とゴルドー伯爵令嬢が行方不明だ。」
「えっ……」
レイオール侯爵夫人も嫡男のダンバスも一気に顔色が悪くなる。ジョージ・レイオールが狙われる理由などないと二人とも思うが、それと同時に考えられる可能性に息ができなくなりそうになる。そんな二人を構うこともなく、ガルクス公爵が説明を始める。
「……ファベルク伯爵令息の話では、レイオール侯爵令息とゴルドー伯爵令嬢は中庭に行ったのが最後だそうだ。しかし、中庭に二人の痕跡は残っていない。二人揃って何かに巻き込まれたか、あるいは……」
「ち、違います!! 息子は……そんなことは…!」
「母上、落ち着いて。」
「本当に反省していたんです、ゴルドー伯爵令嬢にも謝らなければいけないと……自宅でも私たちの前で何度も言っていたんです、あの子が犯罪まがいのことをするはずが……!」
「母上、陛下の前だよ。落ち着いて。」
「……申し訳ありません、侯爵夫人。もう結構です。」
膝をついてまで息子の潔白を伝える侯爵夫人にガルクス公爵が手を出し椅子へと案内する。困惑した顔のまま、案内されるがままに椅子へと座ると、その横にレイオール侯爵令息が付き添った。




