2-4.期待と困惑
どんどん顔色が悪くなるセリーナを見て、もっと表に出てほしいと思っているルイーザも流石に気の毒そうに背中をさする。
「……まあもう少し良い方向に捉えとけ。お偉方に顔を売っておくのも悪くない。」
「ルイーザには申し訳ないけど、その日だけは僕がセリーナをエスコートす……」
「何言ってるの、ルーク兄様。そんなこと許さないわよ。」
絶望的な表情から一変して黒いオーラを出しながらルークをひと睨みするセリーナは、クーデンですら半歩引くほどの圧を出していた。「ご、ごめん」と慌てて謝るルークに、セリーナもすぐにおさめた。
「ルイーザだって年末祭は出たことないでしょう?
ルーク兄様だって初めてなんだから、婚約者同士で行かないでどうするのよ。二人なんて尚更色んな方にご挨拶をしておくべきだわ。」
「まあそりゃそうだな。」
「クーデン先生まで……。ルークが私をエスコートしてくれるのは嬉しいけど、でもそれだとセリーナが……」
「別に必ずパートナーがいなきゃいけないってわけじゃないから、普通に一人で入るわよ。静かに。」
「静かに入ってくるのは流石に無理があるんじゃ……?」
「注目されてる君の場合は何をどうやっても目立つだろうがね。」
「はあ……」
ついに全身で拒否感を表すように項垂れたセリーナに、ルークが閃いたように話し出す。
「お父上となんてセリーナは論外だろうし、どうせなら、ウィルに頼んでみるかい?」
「……はい?」
「ああ、それはいい考えだな。年末祭なら、変に勘繰る者も少ないだろうし。」
「素敵!! せっかく初めて参加するのに一人で入場するなんて勿体無いもの!」
「いや、ちょっ……」
「ウィルも表彰式の関係で年末祭には出席することになるだろうから、ちょうどいいだろ?」
「いや、何もちょうどよくなっ……」
「まだ未確定だから本来は内密の話なんだが……。年末祭は本来、入場時に家名のアナウンスはないんだ。ただ今回、開会宣言があった直後、君たちだけはアナウンスされた上で入場する案が出ていて、その方向で調整されている。
表彰式が年末祭で行われることが正式に発表されるときに、エスコートについても同時に発表すれば余計な勘繰りは防げる。誰かしらにエスコートを頼まないと、問答無用で父君と入場することになるぞ。」
「……。」
「そういうことなら尚更だ。それに、ウィルと一緒にいてくれる方が何かあった時に僕も安心だ。教室に戻ったら内密にウィルに打診してみるよ。クーデン先生、まだ猶予はありますよね?」
「ああ、大丈夫だ。まだ調整中だしな、公表にももうしばらくかかるだろう。」
「わかりました。いいよね、セリーナ?」
「……わかったわ。ありがとう、ルーク兄様。」
「ああ、任せておいて。じゃあ、また。ルイーザ、帰りは迎えにくる。」
ルイーザが頷くと、ルークは足早に教室に戻って行った。残された二人を促し、クーデンは二人の教室まで付き添う。
「それにしても、いきなり年末祭に出ることになるなんて。何があるかわからないわね!」
「本当にね……。考えなければいけないことがいっぱい……。」
「まあ、あと一ヶ月は残っているから……ドレスもきっとガルクス公爵家が動いてくださると思うぞ。」
「いや、そこまでお世話になるわけには……」
「いやガルクス公爵閣下は年末祭に表彰式を行うことに乗り気だった中の一人だから、そのつもりだと思うぞ。ありがたく頂戴しておきなさい。」
「……は、い…。」
「まあそんなに悪く考えずにいきましょうよ、ね!!」
「そうね……頑張るわ……。」
あまりに予想外の出来事の連続に疲れ切った様子のセリーナを、ルイーザは教室に着くまで励まし続けた。その様子を見守りながら二人を教室まで送り届けたクーデンは、教員室に戻る道すがら先ほどのルークの機転に感心していた。
″ 年末祭という場で仕掛けてくることはないだろうが、万が一ということもある。彼女も狙われる可能性が高いから、彼を一緒にいさせるのはいい防御策だ。 ″
情報収集などもあまり芳しくない状況で、一ヶ月後の年末祭までにこちらの対策が練られる可能性は難しいものがあった。それでも今回の準優勝者はきちんと祝われるべきだと事情を知る貴族こそ思っていたし、ガルクス公爵こそその筆頭であった。
決勝戦での一件が今後公表されるかはわからないが、公表されれば二人は間違いなく今以上に熱狂的に支持されることになるだろう。ファベルク伯爵令息の方はともかく、ゴルドー伯爵令嬢はとてつもなく嫌がるだろうと想像したクーデンは、つい笑みが溢れた。
どうか彼女は幸せになってほしい、と願いながらクーデンは教員室へと戻っていった。




