2-3.期待と困惑
「自分はルイーザを教室に送ってきます。」
「では三人で先に戻っているよ。」
「殿下方、本日はありがとうございました。」
「じゃあね、ルイーザ! また今度!」
エオル達に頭を下げるルイーザにガルクス公爵令嬢は笑顔で手を振る。エオルとウィリアムも笑顔で頷くと、三人は自分たちの教室に向かって歩き出した。いつも明るく話しかけてくるルイーザが静かすぎることにルークも複雑な気持ちになりながらも、行こうか、と声をかけた。
無言のまま廊下を歩く中、ルークはどう切り出そうかと悩んでいたが、先に話し出したのはルイーザだった。
「……貴方が話せるようになるまで待ってるわ。」
ルイーザとは思えない静かな落ち着いた声に少々驚くも、彼女は下の方を向きながら歩いていて目が合わない。
「さっきの話だけではわからないことが多すぎて、本当は色々聞きたいことがあるけれど。殿下に対してルークがああいったことを言うなんて、よっぽどのことなのでしょう?」
「……。」
「尚更、私は聞けないわ。」
そう話しながら、ルイーザの肩は少し震えていた。ルークはルイーザの手を握り、廊下の角に連れていく。そして静かに抱きしめると、ルイーザもすぐに抱きしめ返してきた。
「……ごめん。今、僕から話すことはできないんだ。」
「……ええ、わかってるわ。」
「でも、ルイーザは勿論、殿下のことも裏切ってるわけじゃない。ただ、ちょっと難しい状況なんだ。」
「……うん。」
「近いうちにきっと終わる。そうなるように僕も頑張る。だから待っていて。ルイーザのことも守りたいんだ。」
「……ルークも、大丈夫なのよね? 危ないわけじゃないわよね?」
「……それは、わからない。」
ガバッとルイーザが顔を上げる。辛そうな顔をしているルークの表情が目に入るが、ルイーザ自身も涙を堪えたような表情にルークは更に心痛な面持ちになる。
「ルイーザが待ってるのに、簡単に死んだりしないから。君は身の安全を最優先に待っててくれ。」
「……約束よ。私、お父様にルークとしか結婚しないって言ってあるんだから。」
「ああ、僕もルイーザとしかしないよ。皆を守れるように、精一杯僕のできることをやってくるよ。」
「……うん、待ってる。精霊様がいるから大丈夫ね。」
そうしてルイーザはルークを改めてギュッと力一杯抱きしめた。最後の一言が、ルークが精霊と契約していることを気付いているような言い方であったが、そのことも含めて待っているということだと悟ったルークは、同じようにルイーザを抱きしめ返した。
人通りが増えてきたため、二人は教室への道を再度歩き出した。自然と手を繋いで歩き、いつものように他愛ない話をしながら進んでいると、途中で苦笑いを浮かべたクーデン先生と顔面蒼白なセリーナと鉢合わせた。
「え!? セリーナ、どうしたのそんな顔をして……」
「ああ、ルイーザ……ルーク兄様も……。」
「……セリーナも学院長から言われたのか。」
事情を理解したルークも複雑な顔を浮かべながらクーデンを見ると、彼も同情するようにルークとセリーナを見やった。
「……え、何? 何があったの?」
「……競技大会の準優勝者の表彰、延期になっていたでしょ?」
「二人のよね? 私あれ楽しみにしているのよ。いつになったか決まったの?」
「……年末の王宮舞踏会で行うことになったんですって。」
「え!?!?!?」
ルイーザの大きい声に周りを歩いていた生徒達がギョッとした顔を向けてくるが、集まっている面子を見てニコニコしてすぐ歩き去っていく。
「ね、年末の王宮舞踏会なんていったら……」
「……高位貴族どころか王族の皆様も勢揃いね……。」
「ル、ルークはこの事知っていたの……!?」
「前々からそういう話が出ているっていうのは聞いていたけど、正式に決まったのは数日前だよ。僕も昨日知ったんだ……。」
「悪いな。俺ではどうしようもない程にトントン拍子に話が進んでしまったんだ。何せ、王族や高位貴族が乗り気でな……。」
クーデンが悪いとは露ほども思っていないセリーナだが、現実を受け入れる気になれずにどうしても恨みがましく見つめてしまう。
「……仕方ない。正直、君たちと話したいという貴族も多いようだから、時期的にもちょうどいいとなったんだろう。新年祭はともかく、年末祭は学生も参加可能だからな……。」
この国では、一年の締めくくりとして行う年末祭と、一年の始まりを祝う新年祭がある。一年の中で一際盛大に行われるのがこの二つで、二大舞踏会と呼ばれている。
年末祭は、一年でお世話になった相手への感謝を伝えるという意義があるため、学院に在籍している者で、招待や許可があれば未成年でも参加が可能である。対し、新年祭は、新たな一年の幕開けを祝い、王族への謁見や生活・職場関係への挨拶回りも兼ねているため、各家当主や主要な役職に就いている者たちが参加する。学生の参加も可能だが、卒業間近の三学年の学院生が、婚約者と出席したり次期当主としてのお披露目という形での出席が主であった。
何よりこの二大舞踏会は、王宮の大広間で参加者全員が精霊へ祈りを捧げるという重要な場でもあった。一年間の守護を感謝し、また新たな一年での助力を願う。契約者であるかに関わらず、国内に棲まうすべての精霊達に祈り感謝する大事な機会である。
「……私、年末祭に出たことなんてありません……。」
「まあ、君の事情を知っている者達からすれば、表に出た方が一部の人間が信じている君への誤解も解けるだろうという考えもあってだそうだ。君の支度は、ガルクス公爵が全て取り仕切ると言っていたぞ。」
信じられない情報の連続に、セリーナはこのまま気絶してしまいたくなった。




