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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
襲撃編

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2-2.期待と困惑



先に正気に戻ったのはエオルだった。



「……ルーク、ゴルドー伯爵令嬢は先生に何と伝えたか知っているか?」


「二人が相談したいことがあって連絡を取りたがっている、ということをそのまま伝えたと言っていましたよ。叔父に手紙を書いたのは競技大会より前なので、それ以上でもそれ以下でもないかと。」


「そうだよな。つまり、僕らの動向を先生が気付いているということだ。流石すぎて怖いね。」


「お手紙には何と書かれていたんです?」



ガルクス公爵令嬢が声をかけると、エオルはつい苦笑いをかえす。隣に視線を向けると、ようやく正気に戻ったウィリアムが代わりに答える。



「余計なことはするな、俺が帰るまで待て、と書いてあった。」


「あらまあ……」



ウィリアムの言葉に全員が苦笑いをする中、ルークだけはこの言葉の理由を正しく理解していた。



" クーデン先生が詳細を伝えているようだから、それらの情報から判断したんだろうな……。確かにガルクス公爵閣下方からしたらエオルたちまで動いたら面倒だろう……。 "



ガルクス公爵もクーデンも、ルークに犯人が誰かを明確に伝えることはなかったが、話の節々からルークも予想できる人物がいた。

その人物が当たっていた場合、確かに一筋縄でいかないだろうということも理解できるため、叔父がこうして手紙を寄越してまで止めることも頷ける。この一言を書くだけでも珍しすぎるほどにあの叔父は連絡不精である。



「……エオル、どうする?」


「……どうするも、先生にそう言われるとなあ。」


「俺たちを関わらせないようにしてるんだろうが、それほどまで……?」


「お父様も、あまり詳しくは話してくださらなかったから、大人たちは頑なにこの件から若者を排除してるわね。」


「尚更気になるな、こうなったら父上に……」


「私は叔父の言葉の通りにすべきだと思います。」



これまでエオルたちの気持ちを最優先に動いてきたルークからの言葉に、婚約者のルイーザまで驚いてルークを見つめる。



「……君が止めるなんて相当だろう。理由を聞いても?」


「病室でたまたま耳にしました。相手は一筋縄ではいかないだろうと。陛下やガルクス公爵閣下まで手こずるような相手に、我々学生の出る幕ではないと思ったまでです。」


「私たちだからこそできることも……」


「殿下、貴方は第一に身の安全を考えるべきです。ガルクス公爵令嬢のことも然り。相手の目的がわからない以上、何が起こるか分かりません。

勿論、私もこの件を早急に解決したいと思っています。ですが今私ができることは、殿下やガルクス公爵令嬢、そして婚約者であるルイーザが犯人の毒牙にかかることをなんとか防ぐことです。

私たちは今、下手に動いて誰かもわからない犯人を刺激してしまうより、自分たちが今できることを全力で行うべきです。」


「……そうか。それが君の意見なんだね。」


エオルとルークが無言で見つめ合う中、休憩室はシンと静まりかえっていた。その重苦しい沈黙は何十分もの長さに感じられたが、しばらくしてエオルの目が鋭さを増してルークに問いかけた。



「……ルーク、僕に隠していることがないか?」


「いえ、何もありません。」


「……そうか。」



表情を全く変えずに言い切ったルークにエオルも自分の読みが外れたのかと複雑な気持ちになる。置かれていた環境から、幼少期より人の機微に敏感なエオルは、普段とは少し違うルークの言動に違和感を覚えたからこその問いかけだった。

子供の頃から知っているルークが自分たちを裏切っているなどと一ミリも考えていないが、少し自分とは離れた場所からこの一件を見ているような感覚がした。



「……ルークのことは全面的に信じている。万が一、僕たちに何か言えないことがあったとしても、それはそれが最善だからだと君が判断したからだろう。今回の件は先生とルークの言う通り、何かわかるまで僕たちが動くのはやめよう。ウィル、情報収集も程々にしよう。」


「……二人がそう言うなら、わかった。」


「それから殿下、ガルクス公爵令嬢も、今後はあまり一人で行動なさらないようにしてください。学院内でも同様です。」


「僕とミファは、王家の影もついているし、学院内はルークたちもいてくれるから問題ないだろう。ウィル、君や叔父上が王位に興味がなさすぎるあまり自覚がないようだが、君だって狙われる理由は十分ある。気をつけろよ。」


「ああ、わかってる。」


「……それからルーク、君は後で婚約者のケアもしてあげてくれ。予告なくとんでもない話を聞かせてしまったからね。」



全員が視線を向けると、襲撃の件や王太子の婚約者など、現時点で公表されていない情報をさらりと聞かされたことで青白い顔をしたルイーザがいた。横にいるガルクス公爵令嬢が苦笑いしながら背中をさすってあげているものの、それにも気付かない程に困惑と動揺がルイーザの感情を占めていた。

ルークも苦笑いしながらルイーザに近付き、「後で話すから」と小声で伝えるとルイーザも静かに首肯した。



「気を取り直して、お昼にしようか。」



各々が複雑な心境を抱きつつも、エオルの一言でようやく全員が昼食をとり始めることとなった。



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