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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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6-6.父親の罪


ルークとルイーザは、もう朧げになってしまった記憶の中のセリーナの母親を思い出していた。とても優しく、一緒にいると全てを包み込んでくれるような優しさを持っている人だったと思う。そして、シリウスの記憶の中を見て知った事実に、二人は言葉を交わさずとも込み上げてくる涙を抑えられなかった。



「……セリーナは、シャロンと同じだな。二人もそう思うだろう?」


「……はい。」

「……はいっ!」



シリウスと王女の婚約の話自体知らなかったユグネル子爵は、シャロンが二人の仲を取り持ったことなど知る由もなかった。その子供であるセリーナのおかげで、ルークとルイーザの婚約はまとまったと言っていい。親子揃って幼馴染たちの恋の橋渡しをしていたことに、ユグネル子爵も涙が止まらない。

他人のことを思いやれる心優しい二人が、なぜこんな仕打ちを受けなければいけないんだと怒りが込み上げ、呆然と佇んでいる義弟を睨みつける。



「……それで。何か言うことは?」



シリウスも鼻をすすりながらどうにか涙を堪えていた。そして目の前で涙を流しながらピクリとも動かない男に向かって声をかけた。その呼びかけも聞こえてはいるが、自分のしでかしたことを到底受け入れられないその男は、ただただ立ちすくんでいる。



「……う、うそだ。」


「嘘じゃない。」


「……いや、そんな、ありえない!……わた、わたしは……」


「嘘じゃない。今使ったのは【転送魔法】だから改ざんも何もできません。俺の、大事な記憶です。」


「……嘘、嘘だ……私は……なんてことを……」



ダリオ・ゴルドーは今自分が周りからどう見られているかと考える余裕は全くなかった。


シャロンは自分を裏切っていなかった。

私を最後まで信じてくれていた。

そんな彼女に、死にゆくことがわかっていた彼女に、私は何をした?


そして、セリーナは私の子供だった。

お父様、と駆け寄ってくれていた娘が、自分には能面のように笑顔を見せなくなってしまったのはいつからだったか。

貴重な我が子の成長を、見守ることなく、私は何をした?





……全て、私のせいだ。






父親から、幼少期から言われ続けた言葉の重みが今になってのしかかってくる。

「自分の見たものが全て正しいとは限らない。」

まさにそうだった。一言確認すればよかった、親子鑑定の方法なんていくらでもあった。シャロンが契約者だったのであれば、それを私が知らなかったとしても彼女は偽れるはずがなかった。

ただ、自分が現実を見るのが怖かっただけ。


……私は、とんでもない過ちを犯してしまった。




「傷心のお前に、もっと辛い事実を教えてやろう。」



シリウスが感情のこもっていない声で話しかけてくるが、ダリオはもう限界だった。もうやめてくれ、と心が叫ぶが、涙だけが溢れて声にならない。



「彼女が城での襲撃で重傷を負った。ディカエといえども元は精霊、私たちが扱える治癒魔法で彼らの攻撃で負った傷は癒せない。つまり、精霊力による治癒でしか治せない。

そして彼女の守護精霊もディカエとの対戦で重傷を負い、私が駆けつけた後、当時の精霊王の判断ですぐに精霊界に戻すことになった。あのままでは、襲撃を受けた彼女たちの守護精霊はどちらも命が危なかったから当然の判断だった。あの状態では、自分の契約者の治癒をしても助けられないし、自分も助からない。

シャロンは、精霊だけでも助かるなら、と精霊王の判断を支持したが、シャロンのためにと力を振り絞ってそばに居続けた守護精霊は頑として離れようとしなかった。ただ体力の限界だったんだろう、襲撃から数日後には意識が途絶えた。……その時、彼女と守護精霊は今生の別れとなった。」



ここまでは、国王たちも知らされていたことだった。ゴルドー伯爵夫人でも助かればと願ったが、彼女の守護精霊の状態からもう難しいと言わざるを得なかった当時の虚しさを思い出すと、自然と手に力が入る。



「ただ、シャロンも助かる方法が一つ残っていた。さっきの私の記憶にあったように、精霊界に行くこと。そうすれば守護精霊の状態に関係なく、彼女なら治る見込みが十分にあった。」



その言葉にダリオは恨みがましい目をシリウスに向ける。その目は「それならなぜ連れて行かなかったんだ」と訴えかけていた。

そんな男に向かってシリウスは辛い真実を告げる。



「……なぜ連れて行かなかったんだと言いたいんだろ? 私だって無理矢理にでも連れて行きたかった。まず人間を守護精霊の判断だけで精霊界に連れて行くのは無理だ。精霊の力の問題もあるが、精霊王の許可が不可欠。もし精霊界に行けたとしても、こっちに帰ってくるには守護精霊がいなければならない。そして、守護精霊なしにこちらに戻って来れる方法は一つ。


お互いを愛し、愛された人間が人間界に待っていること。もしくは迎えに行くことだ。


……この意味がわかるか?

お前が、お前さえシャロンのことを信じていれば、彼女は諦めずに精霊界に行ってくれたんだ!時間はかかっても彼女ならきっとセリーナが大人になるまでには戻って来れた。なのにお前が、シャロンを信じきれなかったから!だから……理由はわからなくてもそれに気付いていた彼女は諦めたんだ。そのまま娘に会えなくなるなら精霊界に行って治療しても仕方がないと……わかるか!?

お前が、彼女を諦めさせたんだ、彼女自身に自分の未来を、命を、セリーナとの思い出を!!! セリーナから母親を奪ったんだ!!!!

ナイクル侯爵、そして旦那であるお前に、シャロンは二回殺されたんだよ!!!!!!!」



シリウスが感情が昂るあまり涙を流しながらダリオを糾弾する。そしてその言葉を聞いたダリオも、もう限界だった。頭を抱えながら、人間の言葉とも思えない叫び声をあげながら地面にひれ伏すように倒れ込んだ。



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