6-5.父親の罪
場面は変わり、どこかの家の寝室。
先程まで幸せな光景の中にいた美しい女性が、青白い顔をしながらベッドに横たわっていた。
「……シャロン、頼むから精霊界に……」
「……嫌よ。」
「頼むよ、エリザが死んで……このままだと君まで……。エリザが死ぬ間際にシャロンを助けてって言ってきたんだ、頼むから……」
「……エナがあんな状態になって、まだ目を覚まさないのでしょう?……そうなると、あっちに行ったら……私はいつ戻って来れるの? 万が一、エナがずっと目を覚まさなければ……セリーナにもう会えないじゃない。」
「死んでも会えなくなるのは同じじゃないか!!
今行けば、もしかしたらセリーナには大人になってから……」
「それじゃ、駄目なのよ。子供の……成長を見られないで、大人になってからなんて……」
「でも、ダリオが……あいつがいればこっちに戻ってこれる!!! 愛し合う二人なら……!」
「……無理だと思うわ。彼、少し前から冷たいのよ。もう私のことは嫌いになったのかもしれない。こんな状態になっても、少なくとも私の意識がある時には来てくれてないもの。」
「そんなこと……」
「……ねえ、シリウス。こんなことを言って貴方を縛り付けてしまうかもしれないけど、お願いがあるの。」
「……なんだい?」
「……どうか、セリーナをお願い。ダリオは何かを勘違いしてる気がするけど、でもきっとセリーナのことは愛してくれる。貴方には、貴方の全てを彼女に授けてあげてほしい。」
「……。」
「どうか見守ってあげてほしいの、あの子はきっと精霊と契約する。……貴方にしか、頼めないわ。」
「……それが、君の、シャロンの望みなら。あの子を守るよ、何があっても。」
「……ありがとう。ごめんね、シリウス。エリザを守れなくて。貴方の言うことを聞かずにここに残る私を許して。最後までセリーナといてあげたいの。」
「……君は何も悪くない、俺が……遅くなってごめん。こんなことに……本当にごめん。」
シャロンの手を握りながら、男は大粒の涙を流しながら謝り続けた。それを見て「泣き虫ね」と力なく笑う女性は、今にも消えてしまいそうな儚さをまとっていた。
ふっと魔法圧が解けたことを感じ、全員が現実に意識を引き戻される。彼しか知らない、彼の思い出を見たこの場にいる者たちは、誰も言葉を発することができない。
美しくも切ない思い出に、全員胸が張り裂ける想いだった。
シリウスとシャロンを知る人間たちこそ、彼らの友情を疑う者などおらず、全員が涙を流していた。
そして記憶の持ち主であるシリウスは、魔法圧を解いたと同時に静かに目を開けた。目の前にいる男は、衝撃に目を見開いたまま、涙を流して立ちすくんでいた。
転送魔法と呼ばれるこの魔法は、本来魔法を使う相手の体の一部に触れている必要がある。そして【元のまま】の状態のものを送るこの魔法は、送り主の都合のいいように変化させたりすることは不可能なものであった。
シリウスはこのホール全員に見せるために魔法圧を展開させて転送魔法を行使したが、この魔法を使った時点で、この記憶は彼が都合よく書き換えたものなどではない本当の記憶であることが証明されていた。




