6-4.父親の罪
「叔父様……何を言っているんですか……。」
「はっ! ユグネル子爵家も絡んでいるのかと思っていたが、お前らも知らなかったのか? ならば共犯はファベルク伯爵家だけか?」
「お前……これ以上証拠もなしに世迷言を言うのであれば後で名誉毀損で訴えるぞ。」
信じられない話を聞かされルイーザも思わず呟くが、黙っておくようにすぐユグネル子爵夫人が娘に合図を送る。近くにいるファベルク伯爵も同じように怒りに震えているが、その近くでゴルドー伯爵夫人は漸く今までの夫の言動に点と点が繋がったと顔面蒼白になっていた。夫の心痛を思えば、支えてあげられなかった自分を不甲斐なく思う一方、慕っていたシャロンがそんなことをする女性だとは全く思えなかった。
「……子供の頃、僕やルイーザに暴言を吐いたのはその妄想が理由だったんですね……。ファベルク家やユグネル家が共犯だと……だから僕たちのことを穢らわしいとまで言ったんですね……。」
ルークの衝撃の話に、今まで黙っていたユグネル子爵も見る見るうちに顔を赤くして怒りを露わにする。まさか姪に対してそんなことを言っていたとは、と思うが、ある時からルイーザがゴルドー伯爵邸には行きたがらなくなったことを思い出す。
「……ルイーザが急にお前と会いたがらなくなった時があったな、その頃からお前が顰めっ面ばかりでルイーザも怖くなったのだと思っていたが……、子供に向かってそんなことを……まさか、セリーナにまで言ったんじゃないだろうな。」
「あの娘に何を言ったかなんて、ここまできて覚えているわけないだろう。追い出さなかっただけ寛大な処置だ。」
「……お前、全貴族の前でこのような発言をする意味がわかっているのか。証拠はあるんだろうな?」
「証拠も何も、シリウス、お前ならわかっているだろう! 私は聞いたんだ、シャロンが亡くなる少し前、我が家に遊びにきていた時に二人で話していた。お互いに「好きだ」とな。そして、セリーナはお前に似ているとまで。……これを、これを聞いた私の気持ちがわかるか!!!!
最愛の妻が、私を裏切り、愛しい娘まで私の血が流れていないなんて……!」
この話を聞いたシリウスとシャロンの絆を知っているクーデンは、静かにため息を吐いた。男女の友情を信じない人間は一定数存在するが、彼らの友情という名の愛は本物だった。間近に見てきたクーデンは、二人が間違った距離感でいたこともないと断言できる上に、ゴルドー伯爵の話が真実ではないとわかるが、この発言を聞いた二人を何も知らない人間は勘違いをするだろう。だが、シャロンの夫であるゴルドー伯爵がそのことを理解できていなかったことに、やるせなさを感じていた。
「……どうせ私が何か言っても信じないのだろう、なら私の記憶をこの場でお見せしましょうか。僕の、大事な思い出を。」
そう言って、シリウスは魔法圧をホール全体に展開すると、全員に一斉に自分の記憶を共有する。脳内に急に流れ出したシリウスの記憶に、驚く者、懐かしむ者、怪訝そうな顔をしている者、様々だったが久しぶりに見るシャロンの姿にユグネル子爵をはじめとした一部の人間たちは懐かしさに自然と涙が溢れた。
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それはシャロン・ゴルドーが城で襲撃される少し前、ゴルドー伯爵邸にルークやルイーザたちを連れたファベルク家やユグネル家が遊びに来ていた時だ。庭で遊ぶ子供たちを見ながら、ほんの僅かシリウスとシャロンで二人きりになった時だった。
「……セリーナも、契約者になる気がするのよ。」
「どうしてそう思うんだ?」
「……何となく。あの子の近くに時々いる精霊、とんでもない気配してるのよ?」
「ハハハハ! それはローゼンよりもか?」
「そうなの、たまにエナが居心地悪そうにしてるのよ……でも、契約者になれれば私たちのようにあの子も力強い相棒ができる。そうなれたら、こんなに恵まれたことはないわ。」
「……シャロン、本当に最後まで秘密にしておくのか?」
「ええ、そのつもりよ。ダリオを信用していないとかじゃないの。でも……私が契約者であることを話して、彼との距離が広がるのは嫌なの。」
「気にしなさそうだけど、まあ繊細そうだもんな。俺は君の考えを尊重するよ。」
「ありがとう。」
二人の前ではルークの兄を含めた子供四人が転げ回っていた。その姿を懐かしむように見つめている。
「……私たちにもあんな時があったわね。」
「懐かしいな。子供の頃から君のお兄さんに警戒されてたよ、シャロンを取られるって。」
「家でもずっと言ってたわ。まさか王女と結婚するなんて聞いたらきっと驚いて腰抜かすわよ。」
「それは楽しみだ。」
「……エリザをよろしくね。二人が結ばれて、本当に嬉しい。」
「……ありがとう、シャロンのおかげだな。君がいてくれてよかったよ。」
「どうしたの突然。」
「エリザとは結ばれないと諦めていたから。それは彼女もそうだった。けど、君が背中を押してくれたから俺たちは素直になれたし、国王陛下も結婚をゆるしてくれた。ローゼンのことだって、話すつもりは一切なかった。けど、言葉にしたからこそ今の幸せはあるんだ。……ありがとう、シャロン。全て君のおかげだよ、子供の頃から。」
「改まって言われちゃうと恥ずかしくなってくるけど、私もシリウスには感謝してる。こうして平穏な幸せを感じていられるのも貴方の協力なしではあり得なかった。」
「……これからも君に何かあればエリザの次に駆けつけるよ。」
「あら本当? ありがとう。でもきっとダリオが助けてくれるわ。」
「それはちゃんと見張っとかないとな!」
「……ありがとう、シリウス。幸せになってね。エリザのことも、勿論貴方のことも、大好きなんだから。」
「ああ、俺たちはずっと絆で繋がってる。何かあったらすぐに言えよ。」
「相変わらず私を子供扱いして。もう平気よ!……でも、セリーナのこと、何かあったらお願い。あの子も魔力が高いから……貴方に教えてもらえるのが一番いいと思うの。」
「俺に? それは……」
「平気よ。あの子なんだか貴方と似てるところがあるの。多分魔法の才があるんじゃないかしら……。私も教えるけど、貴方の魔法を教えてあげるほうがあの子のためになりそうな気がするのよ。」
「君の勘はいつも当たるからな……分かったよ、今度セリーナとも話してみて決めようか。」
「ありがとう。ああ、楽しみね……あの子たちも、私たちのように真の友情で繋がってくれるといいわね。」
「……きっと大丈夫さ。」
そこでふと脳内に流れてきた映像が止まる。物語に出てくるかのような温かい光景に、見た者すべてが心が洗われるかのようだった。そしてガルクス公爵夫人をはじめとしたシャロンと交流があった人々は、久しぶりに見るその姿に涙をこぼさずにはいられなかった。




