6-3.父親の罪
本日、複数話投稿します!
「……わかっただろ? あんたが作っていたお香も一因だ。あの精霊の方が辛かったはずだ。」
シリウスはゴルドー伯爵をゴミを見るような目で見つめてはいるが、精霊との絆が消えてしまった彼の感情を慮ると同じように苦しい気持ちになる。
「……精霊界に戻って体を休めていればまた元に戻れるそうだ。それだけは救いだったな。」
「……。」
「自分の罪を反省して、彼の思いを……」
「罪だと? お前が……お前がそれを言うのか?」
今まで頭を抱えて泣き叫んでいたゴルドー伯爵が「罪」というシリウスの言葉に反応して顔を上げる。シリウスを憎悪のこもった目で見つめる姿に、シリウスは理解できないというように眉間に皺を寄せて睨み返す。
「……あんたにそんな目で見られる謂れはないんだがな。」
「お前こそ、自分の罪を反省したらどうだ?」
「あんたに反省を促されるような罪は犯していない。……この前まで俺のことを探っている奴がいると思ったら……まさかあんたか。」
「……この後に及んでまだ反省していないのか。ならばこの場でお前の罪を暴いてもいいんだな!!!」
「好きにすればいい、言われて困ることは何一つしていない。」
強気でいられるのも今のうちだ、とゴルドー伯爵はシリウスを睨みつけながら立ち上がる。シリウスの罪、という言葉にナイクル侯爵も面白そうに片眉をあげ、国王たちは「あいつに限ってそんなことは、」と信じて疑っていない。少し後方にいるファベルク伯爵に至っては、実弟であるシリウスへの中傷とも取れる発言にゴルドー伯爵を睨みつけていた。
「……私のことを馬鹿にして、何も知らないと思っていたんだろう。だが、とっくの昔から知っていたさ!
言われて困るのはお前だぞ!!」
「……何の話をしている?」
「この後に及んでまだシラを切る気か! 私の……私の娘として育ててきたが、セリーナは……セリーナは!
お前とシャロンの子供だろう!!!!!!!!」
ゴルドー伯爵の発言にホールは一気に氷点下まで温度が下がったように静まり返った。「この男は何を言っているんだ」と思う者が大半の中、王女の婚約者であったという話を忘れ、シリウスの力を削ぎ落としたい一部の者たちは面白そうな話だとほくそ笑んだ。
ゴルドー伯爵は「ついに言ってやった」と思うのも束の間、急に空気が薄くなるような感覚に陥った。違和感を感じたのも束の間、しばらくすると喉を締め付けられるように息ができなくなる。
「……ハッ………!」
「……お前、本気で言ってるのか……?」
シリウスが一気に魔法圧を展開し、ゴルドー伯爵の周りだけ空気が薄くなるように魔法を展開した。苦しそうに喉に手を当てながらどうにか呼吸をしようとするゴルドー伯爵だが、苦しさに何も言葉を発することはできない。
「……お前、まさかセリーナを虐げていたのは、そんなくだらない妄想のせいだと言わないだろうな……?」
今までとは比べ物にならないほどの殺気をまとったシリウスに、周りの人間もその強い力に当てられて意識を保つのも難しいほどだった。ガルクス公爵が止めようとするが、自分の精霊に近付かないように言われてその場に立ち尽くすしかない。
『……シリウス、やりすぎるとこの場にいる全員巻き込むぞ。もうやめておけ。』
「……ローゼン、今のこいつの言葉聞いてなかったのか?」
『聞いてたさ、だがあの精霊のことを思うなら、こいつには真実をわからせるべきだ。それが一番の罰になるだろう。」
「……。」
シリウスの守護精霊である元精霊王・ローゼンの声かけにより、シリウスは静かに魔力を収める。同時に、呼吸ができるようになったゴルドー伯爵が咳き込むように酸素を取り入れる。涙目になりながらシリウスを睨むが、その目はまだ自分の話が真だと疑っていないようだった。
「……お前の元にセリーナを置いておくべきではなかった。そんなくだらない理由で、あの子はこれまで苦しい思いをする羽目になったのか。」
「……育ててやっただけ、感謝するべきだ。」
「育てただと? お前は何もしていないだろう。」
「何っ!?」
「事実だろう、彼女が別邸に住まうようになってからつい先日まで、まともな会話なんてなかっただろう。」
「……。」
「あんたのせいでシャロンは死んだようなもんだ。セリーナもあんたのせいで苦しかっただろう。今すぐにでもあんたを消してしまいたいが、あんたの元守護精霊の最後の望みを叶えるために我慢してやる。」
そういって拳を握りしめ、怒りに震えるシリウスの後ろで、精霊王も怒りのこもった目でゴルドー伯爵を見つめた。その精霊王の視線に気付いたゴルドー伯爵は、今までの怒りを忘れてしまうほどに鳥肌がたった。
“ なぜ、精霊王にまでそんな目で見つめられているんだ……。私は何も間違えていないだろう……! ”
この後に及んでもまだ自分の意思を曲げず、過去を振り返ることすらしないゴルドー伯爵は、しばらく後に自分が絶望のどん底に叩き落とされるとは、一ミリも思っていなかった。




