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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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5-5.彼女の行方


ナイクル侯爵はついにその場で震え出した。



……分かっていた。


自分の大好きな祖母が精霊を毛嫌いしていることは。ただ冒険譚のような子供向けの本が好きだった自分は、祖母が話すサーシャ国はとても魅力的だった。精霊の間に行くまでは精霊は存在しないものだと思っていたし、精霊に頼らずに存続しているサーシャ国は素晴らしいと信じて疑わなかった。


だが、それがルンベリー王国ではあり得ない考え方だということは、母親の反応からすぐにわかった。


父親も、流石に次期侯爵として危険だと判断したようで、祖母との交流はグンと減ってしまった。祖父も早めに隠居して、祖母を連れて領地へ引っ込んでしまった。年に数回会える時は、祖母と二人きりにならないように徹底された。

それでも、精霊を頼らずに国を支えるというのは自分の目標となったことは変わらなかった。いつからか、それが歪んでしまったことも……わかっていた。



「……はは、私が最初から間違っていたというのか、……そうか、そうだな。」



独り言のように呟くナイクル侯爵を、シリウスたちはジッと見つめたままだ。彼が完全に理解することも、ましてや反省することはないと全員がわかっている。それでも契約者である国王たちは、少しでも反省をしなければ彼の行く先が本当の意味で破滅しかなくなるとわかっていたからこそ、シリウスでさえも時を与えていた。


……だが、彼らの期待は見事に打ち砕かれる。



「……いや、だが、理解できん。それでも、なぜ、お前は許されるんだ……」


「今度は何の話だ。」


「国王たちは、王女を任せられるか考えたことは杞憂だったと、そう言った。なぜお前は許されるんだ、たかが伯爵位すら継がない次男の男が……!」


「……あんたはそうやって、人の外面しか見ない。だからダメなんだ。」


「なんだって?」


「人は見えるものが全てではない。立場が変われば見えるものも変わる時がある。爵位や外見、見えるものだけで判断すると大事なものが見えないんだよ。」



そう言ってシリウスは少し後ろに下がっていた自分の守護精霊の方を見て手招きをする。静かに近付いてきた精霊はシリウスの横で寄り添うようにピタッと止まった。

シリウスが何を言わんとしているのか理解した国王たちは、「ついにか……」とある意味で場が荒れることを悟り静かに目を閉じた。



「この際ですから紹介しましょう。私の守護精霊……エリザがお前に殺された当時の精霊王です。」


「「「「 !!! 」」」」



ホール全体がピシリと固まった。今日だけでこの国の歴史書に追加されるような事が多く露呈しているが、その中でもダントツの衝撃的事実であった。

衝撃に涙を流す者、口が開いて塞がらない者、今までシリウスに邪険な態度をとってきたことを後悔する者、実に様々な人間がいた。そしてそんな多様な表情の変化を本人は今にも吹き出しそうになりながら見つめていた。


そしてナイクル侯爵ですら、この事実には目を見開いて固まった。先程からシリウスと隣にいる精霊を見比べることしかできない。ルンベリー王国では、歴史書の限りで精霊王と契約していたのは初代国王のみとされている。それだけ精霊界の中でも精霊王というのは特別で、精霊を嫌うナイクル侯爵でも正しく理解していた。


そしてエリザ王女を溺愛していた先代国王や兄たちが、どうして爵位も継がない男に王女を託すことにしたのか。どうしても拭えなかった疑問がようやく解ける。



シリウス・ファベルクが、ただの契約者ではなく、精霊王と契約していたから。



そして精霊王が選んだ人間の婚約者を殺した、という事実に、ナイクル侯爵は初めて恐怖を感じて血の気が引いていった。



「まあ隣国に行くことになって、精霊王が不在にするのは……ってことで交代することになったんだが。」


『迷惑な話だ。』


「悪かったって、仕方ないだろ?」



現精霊王が本当に嫌そうにシリウスと隣の精霊に文句を言っているが、軽口で返すシリウスにもう誰も驚かない。そして、国王や公爵たちは全く驚いていないことから、シリウスが王女の婚約者として認められたのは、これが決め手だったのだと全員が理解する。



「……ま、そういうことです。婚約発表の際に、あんたみたいな事を言う人間が一定数出てくることはわかりきっていたんで、一緒にこの事も公表することになってました。」


「……。」


「ルンベリー王国だから通じる事だと言われればそれまでですがね。でも、爵位だけが全てじゃないと言うのは事実だったろ?」



シリウスの言葉にナイクル公爵はぐうの音も出ない。そんなことがあり得るなんて想定することすらなかった。何も言い返せずに青くなっているナイクル侯爵を見て、シリウスも「もういいですよね?」とガルクス公爵たちに確認する。

もうこれ以上は無駄だろうと判断したガルクス公爵は、国王にも確認を取ると、静かにシリウスに頷き返した。



「……ということでナイクル侯爵閣下。貴方の問いには答えました。今度はこちらの質問に答えてください。



……ゴルドー伯爵令嬢に何をしたんですか?」



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