5-4.彼女の行方
「罪状はこれで十分でしょう?
エリザの件も含めて、詳細は取調べ後に再度公表するなりしてください。」
「おい、急に投げやり……」
「ゲイルさん、セリーナは私にも居場所がわかっていないんですよ。この状況わかります?」
「……。」
エリザのことも後回しにするほどゴルドー伯爵令嬢を気にかけ、珍しく焦っているようにも見えるシリウスがガルクス公爵は不思議であった。隠しているだけかと思ったが、生きていることはわかっていても本当に彼女の所在がシリウスにもわからないらしい。どんな時でも飄々としているシリウスが焦りを隠そうとしないことにも、単純に彼女が見つかっていないこと以外にも訳があるのではと思ってしまう。
「……わかった。だが、ここで罪状を明かしたんだ。本人への確認もこの場でするのが筋だ。」
「……わかりました。」
ガルクス公爵に諭され、シリウスも反論せずにナイクル侯爵にかけた魔法を解く。喋れるようになったナイクル侯爵は、「あ、あ、」と声を出して確認している。
「……では代表して私から問おう。ナイクル侯爵、何か申し開きはあるか。」
ガルクス公爵が努めて冷静にナイクル侯爵へと問いかける。自分が口を封じられている間に、様々なことが露呈され、かつ自分の知らなかった事実を知ったこと、更に精霊がいるせいで娘を盾にすることもできなくなったために、虚な目で何も答えない。
「……後日個別に取り調べをすることにはなるが、ここで申し開きがなければ今までの話は全て事実であると認めることになるが、いいな。」
「……な……お………だ…」
「……何?」
「……な…ぜ、お前……なんだ……」
虚な目をしたまま顔を上げてそっとシリウスを見やる。その問いかけが、エリザ王女に関することだとこの場にいる全員が理解し、彼の執着とも言える言動にホールにいる女性たちを筆頭に全員が怪訝な顔を隠さない。
だが、ナイクル侯爵が問いかけたことは誰しもが思った疑問であったことも事実だった。
「……なぜ私かって……エリザとのことか?」
「……そうだ、他に何がある。」
「なぜも何も、お互い惹かれあって奇跡的に両想いになれた。相手の精霊との相性も悪くなかった。そういうことだな。」
「……そんな、奇跡的に両想いになったと言っても、国王が……! なぜお前は許されるんだ! いくら契約者だからって、この国ならば他にもいただろう!!
なぜ伯爵位も継がないお前が許され、契約者でないというだけで私が除外されるんだ! そんな、そんなの、納得できるわけがないだろう!!!!」
「……何か根本的に誤解があるようだ。」
「……なんだって?」
「お前が、【契約者でなかったこと】が問題だったんじゃない。【精霊を信じず、蔑ろにする思考を持っていたこと】が問題だったんだ。」
シリウスからの言葉にナイクル侯爵は固まる。分かっていたようで分かっていない、矛盾をついた指摘だった。
「契約者自体が稀だ。そこは先代国王陛下も、勿論陛下も、考慮はしても必須ではなかったはずだ。加点にはなったろうが。」
そう言って国王に確認を取るように視線を向けると、肯定の意味で静かに頷いた。
「エリザは一際精霊への愛が強かったからな。精霊に否定的なあんたのことはあまりよく思っていなかったのは事実だ。ただそれは、あんたの人間性云々の話ではない。」
「……。」
ナイクル侯爵は、幼少期からサーシャ国の王女であった祖母の影響を強く受けてきた。精霊の存在自体否定的な考えを持つサーシャ国は、周辺諸国との小競り合いが多い国でもあった。精霊に守れられている、と言われるルンベリー王国のことも今まで顕著に下に見ていたような国である。
それでも、ナイクル侯爵の祖父と惹かれあった王女は、精霊信仰の厚い国へ嫁ぐことを決めた。しかし、精霊の存在自体信じていない彼女には、ルンベリー王国は思っていた以上に異端であった。
年末祭・新年祭は余程のことがない限り欠席できないが、必ず精霊への祈りを捧げなければならない。信じていない彼女にとって、それは苦行でしかなかった。「精霊に頼る国は軟弱だ。」と子供の頃から言われ続けた彼女は、その根底の価値観を覆すことは難しかった。
自分に懐いた孫に、母国の素晴らしさや精霊信仰の危うさを洗脳のように伝え続けた。それに気付いた母親によって距離を取った時にはもう遅く。
慣例通り精霊の間に行ったことにより、当時のナイクル侯爵も精霊の存在を疑うことはなかった。しかし、精霊の力に頼らず存続し続けるサーシャ国の力強さに心打たれていた。
それでもどうにか母親が軌道修正したことにより少しはマシになったものの、子供の頃から聞かされ続けた現ナイクル侯爵であるユーレン・ナイクルは危うい思考を持つこととなったのである。
「……母親の気持ちを無視した結果だな。自業自得だ。」
「……なにを、」
「前ナイクル侯爵夫人は、あんたのためを思ってどうにかしようとしていただろう。それを遠ざけたところからもうあんたは自分の運命を狭めていたんだ。」




