5-2.彼女の行方
クーデンに支えられながら、レイオール侯爵令息は静かに事の成り行きを話し出した。
「……放課後、ゴルドー伯爵令嬢と話す機会をもらうために隣のクラスへ立ち寄りました。そこにはゴルドー伯爵令嬢の他に、ゼファル公爵令息、ファベルク伯爵令息、ユグネル子爵令嬢がいらっしゃいました。
これまでのことを謝罪したいと言った時、ゴルドー伯爵令嬢は固辞されましたが、ファベルク伯爵令息がとりなしてくださったおかげでその機会をいただけることになりました。そして、ゼファル公爵令息とはその場で別れ、その他の四人で裏庭に続くドアの前まで向かい、裏庭の東屋でゴルドー伯爵令嬢と二人で話をしました。」
レイオール侯爵令息はここで一息つく。そして、本当にこの続きを話していいのか、確認の意味を込めて視線を向ける。レイオール侯爵令息は、セリーナに秘密にすると約束したことを違えてしまうことに罪悪感を抱いていた。
だがシリウスは全く気にした素振りもなくレイオール侯爵令息の話の続きを待っているように見えた。
「……あの、……」
「なんだ?」
「……本当にいいんですか、彼女に、僕は秘密にすると約束を……」
「今はそんなことを言っていられる状況じゃない。あったことを正確に話してくれ。彼女には……、……機会があれば私が弁明しよう。」
シリウスはチラッと精霊王を見る。シリウスが登場してから、精霊王は楽しそうに事の成り行きを見守っている。
「……わかりました。」
レイオール侯爵令息は罰が悪そうにしながらも続きを話しだした。
「謝罪をした後も、彼女としばらく東屋で話を続けていました。すると突然彼女が立ち上がり、私の手を引いて校舎を避けて学院の森に向かうように走り出しました。その時彼女が言ったのは、ディカエの気配がする、校舎内からも感じるから校舎には近寄れない、と。」
その決定的な言葉に全員がゴルドー伯爵令嬢も契約者であると否応なしに信じることとなった。そして校舎内からディカエの気配がした、という言葉に全員が学院関係者の関与を疑い出す。
「そのまま走って逃げて森に入る少し手前で、黒ずくめの男に襲撃されました。人数は一人でしたが、確実にゴルドー伯爵令嬢を狙っていました。それならば私が足止めをして、彼女に助けを呼んでもらおうと……彼女に森へ逃げてもらうように言いました。最初は渋っていましたが、一緒にいた精霊にも説得されたようでしばらくして走り出しました。
残った私は、勿論帯剣していなかったので魔法で剣を作り出して応戦しましたが、相手も手練れで魔法で作る剣にも限界があり……もう無理だと思ったところで、シリウス様が現れ助けていただきました。シリウス様は男を手早く拘束するとブリジット様に私を託して森の中へ向かわれました。しばらくして戻ってきた時には、シリウス様お一人でした。
……ゴルドー伯爵令嬢が依然行方知れずと聞き、私が……会いに行っていなければこんなことにはならなかったのでは、と……後悔してもしきれません。」
そのままレイオール侯爵令息はシリウスに向かって頭を下げた。それに対してシリウスは「お前は悪くない。」と伝えると、難しい顔をして下を向いている。
そして依然ゴルドー伯爵令嬢が行方知れずと聞いた他の貴族たちも、まさか今日の主役がこの場にいないのが襲撃されていたからだという事実に顔を青くしていた。その中には、国王たちも含まれていた。
「……シリウス、お前にもゴルドー伯爵令嬢の行方はわからないのか?」
「……わかりません。痕跡がないので。」
「……まさか、」
「いえ、生きてはいます。万が一のことがあれば指輪が壊れますので。」
シリウスは悲しそうに指輪を見つめている。どちらにしてもこの事を公にするしか今は道がないと気を取り直して前へ向き直った。
「……たった今、レイオール侯爵令息が証言した通り、学院で襲撃があったことは事実です。そして、ゴルドー伯爵令嬢が契約者だということもご理解いただけたでしょう。」
そう言うと、シリウスはガルクス公爵の精霊であるフクロウに目を向ける。何も言わないところからして、事実であることは明白だった。競技大会から学院内での襲撃といった、これまででは考えられない事件の連続に話を聞いていた貴族はそれぞれに顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべている。
「皆さんが懸念していることの一つに、ゴルドー伯爵令嬢が言ったという言葉があるでしょう。
“ 校舎内からディカエの気配がする ”、と。これに関しては至ってシンプルです。競技大会と同じような手段ですから。……ねえ、ナイクル侯爵令嬢。」
母親の話を聞いてからずっと泣き続けていたナイクル侯爵令嬢は、再び自分が呼ばれたことに体をビクッとさせながら真っ赤に泣き腫らした目でシリウスを見つめ返した。大好きだった母親が、まさか自分の父親によって殺されたのだと聞いた時には絶望したが、こうしてシリウスを見た彼女は、自分がとんでもない事をしたのだと今になって気付く。
私が母親を大好きだったように、彼もまたゴルドー伯爵令嬢のことが大事なのだと。
そんな相手を私怨で危害を加えようなどと、父親が母親を手にかけた理由は分からずとも自分も同じことをしてしまったのだと後悔が渦巻く。そして横にいる父親を見ると、いつも自分を叱る時と同じ顔でこちらを見つめていた。
“ ああ……また私に罪を被れと言っているんだわ。でも……もうたくさん。 ”
そんな父親からの訴えに気付かなかったフリをして、ナイクル侯爵令嬢はシリウスを見つめ直す。
そしてーー……
「……はい、父であるナイクル侯爵からの指示で、校舎からゴルドー伯爵令嬢を襲う手助けをしました。」
娘の初めての反抗に、ナイクル侯爵は目を見開いて見つめるしかなかった。




