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初恋相手との文通は清らかに紡がれる  作者: 香雪 莉子
年末祭編

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5-1.彼女の行方


これまでの人生で感じたことのない恐怖をナイクル侯爵は今まさに感じていた。シリウスからのとてつもない圧を感じて立ち続けているのもやっとなほどだった。

おかげで、シリウスからかけられていた声が出せなくなる魔法が解かれていることにも気付いていない。



『……おい、シリウス。やり過ぎると話が聞けなくなるぞ。』



シリウスの守護精霊が、そっと声をかける。その言葉にシリウスも我に帰ったように圧を抑えた。



「……それではナイクル侯爵。お話いただきましょうか。」


「……。」


「この期に及んでも話す気はないということですね。ならば反論する機会もいりませんね。こちらで進めましょう。」



そう言ってシリウスは静かにナイクル侯爵の元に近付いた。そして、引き攣った顔をしているナイクル侯爵の耳元で静かに囁く。



「……忠実な部下をなくすことになりそうですが、自分がまいた種ですから仕方ありませんね。」



シリウスの言葉に訳がわからず声をかけようとするが、離れる際に再度声を出せない魔法をかけられる。先程までの様子と変わって真剣な面持ちのシリウスに国王たちも静かに見守ることしかできない。

先程のように自分の前に転移の魔法陣を出現させると、すぐに魔法陣が強く光り二人の人間が現れた。

その姿を見たナイクル侯爵は今日初めて狼狽えはじめ、ある夫人は突然現れた自分の息子の姿に泣き崩れた。


現れたのは、ボロボロの姿のレイオール侯爵令息と、彼に治癒魔法をかけ続けているある女性だった。



「……ご存知ない方のためにも、ご紹介しましょう。今お呼びしたこちらの女性は、エリザ王女の筆頭侍女だった当時のナイクル侯爵令嬢。隣にいるのはレイオール侯爵令息です。」



大人たちは見覚えのある女性の姿に驚き、学院生たちはボロボロの姿のレイオール侯爵令息に小さい悲鳴をあげる者までいた。

止血はされているものの、制服は所々破れており、本人も転移された時点で女性の肩を借りて立っているのがやっとというほどの状態であった。現れてすぐにクーデンが近寄り女性からレイオール侯爵令息を預かった。そして女性はそのまま治癒魔法をかけ続けている。



「先程申し上げた国王陛下からの極秘任務の一つ、守っていた女性というのは彼女のことです。当時のことを覚えている方はご存知でしょう、エリザ王女の筆頭侍女だった彼女は、まさに事件となった茶会に帯同していた侍女です。そしてナイクル侯爵家だったからこそ、紛れ込んでいた私兵に気付くことができた。

彼女の進言だけでもナイクル侯爵の罪を訴えるには十分でしたが、ナイクル侯爵家の中で彼女は迫害といえるほどの扱いを受けてきていたため、国王陛下は彼女の身を第一に考える決断をなさいました。」



シリウスからの言葉に、一度治癒魔法を中断した彼女は国王やゼファル公爵が立っている方へ一礼する。今の見かけだけは平民のような姿をしているが、王女の侍女だった彼女の所作は洗練されており、見る者すべてが無意識に目で追ってしまうほどだった。国王たちも約二年ぶりに見た女性の姿に微笑んで応える。

そこから一転して、実の兄へ向ける視線とは思えないほどの冷え切った表情でナイクル侯爵を見つめた。


行方知れずとなっていた妹が目の前に現れたナイクル侯爵は混乱で魚のように口をパクパクさせることしかできない。彼女に恨みはないが、どうかもう現れないでくれと願っていた妹が、今自分の息の根を止めようとするかのように睨みつけている。

息がヒュッとなるような感覚に襲われるが、シリウスたちはそんなナイクル侯爵の様子を見ても無視して話を続ける。



「……とりあえず過去の事件は後ほど。そして、ここにいるもう一人の……レイオール侯爵令息ですが。」



シリウスは言葉を遮り、件の令息の方へ視線を向ける。気付いたレイオール侯爵令息が頷くと、また向き直って話はじめる。



「……クーデン同様に黒ずくめの男の襲撃にあい、学院内で戦闘中の危ないところをギリギリ救出しました。」



学院で襲われた。

衝撃の事実に学院生以上に大人たちまで騒めき出した。驚いていないのは、国王たちだけである。



「……いくら貴方の言うことでも、有り得ないです!」

「そ、そうです! 学院には結界が張られているはずです!」



王太子が在籍しているということもあるが、学院に結界が張られていることは周知の事実である。建国されてから今まで一度もそのような事は起きていなかったからこそ、シリウスの話でも全員が俄かに信じ難いことであった。



「……まあ信じたくないのはわかりますが、このレイオール侯爵令息の姿を見ても本当に嘘だと思いますか?」


「「「 ……。 」」」


「……まあとにかく、当事者の話を聞きましょう。レイオール侯爵令息、お願いできますか。」


「……も、ちろんです。」



普段のレイオール侯爵令息とは違う力のない声に、襲撃は事実なのかと全員が恐怖に身を縮こめる。

そんな中、いきなり現れた息子にレイオール侯爵は顔を青くしており、少し離れた場所では行方知れずだった息子の姿を見たレイオール侯爵夫人と嫡男が、彼の無事を確認して静かに涙を流していた。



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