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独り言 聞かれていると 恥ずかしい

 「……で、どういうことなのか、ちゃんと説明してもらえるかな?」


 頭に被った虹色に輝く卵を拭きながら、ワリナはジトッとした視線を俺たちに向けて言った。

 その目は笑ってない……。目とともに声も曇ってるように感じる。

 声は完全に“後で職員室に来なさい”のトーンだ。


 「――全部この男、アサヒが悪いんですぅ!!」


 「はぁっ!? ちょっ、おまっ!?」


 まじかこの女!? 裏切り速すぎるだろ!!


 さっきまで「朝日さん」って呼んでたナビィが、いきなり“この男”と呼び捨てで責任全押しつけ……。

 思わず俺は彼女を振り返る。

 そこにはさっきまでの明るい笑顔など跡形もなく、顔面蒼白で冷や汗をだらだらと流すナビィの姿があった。


 「へえ?」


 ワリナはナビィの言葉を受けて、今度は俺に視線を向けてくる。


 「ねぇアサヒ――どういうことなのか、ちゃんと教えてくれる?」


 ワリナはにっこり笑っていた。

 ……笑ってはいる……だがしかしその笑顔は――“目が笑ってない”の最上級。


 「えっ……あ、ど、どのあたりから……?」


 「最初から最後まで全部かな」


 オフィスの椅子に腰を下ろし、虹色卵まみれの髪をハンカチで拭きながら、ワリナはじっと俺を見ていた。

 さっきまでの朗らかさは消え、今の彼女からは“人事査定”みたいな圧しか感じない。

 働いたことないから知らんけど……って言ってる場合じゃねぇ!


 「え、えぇと……つまりですね……俺は……あの、勇者って聞いて……俺を求めてる人がいるって……それで、人生変えるチャンスかなって……」


 心中の強気なツッコミとは裏腹に、口から出るのはしどろもどろなセリフばかり。


 「うんうん?」


 「で、ナビィさんが“君の力を必要としてる人がいる”とか言ってきて……気づいたらここにいて……」


 俺はもう一度土下座した。

 今日だけで地面に顔を擦りつける回数、自己最高記録更新中である。


 ワリナは無言で立ち上がる。

 足音が、静かに、重く響いた。


 「いや、ほんとすみませんでしたぁぁぁ!!」


 「――なーんか、話を聞く限り……ナビィちゃんにわりと大きな責任あるような?」


 俺の土下座を遠巻きに眺めていたナビィの肩が、ワリナの一言でビクリと跳ねた。


 「え!? い、いや違うんです!! 私だってアサヒに騙されて……! だってこの人、“並のプロデューサーの百万倍面白い番組が作れる”って言ってたし……」


 「いや、あれはただの独り言ぉぉぉ!!」


 言わせんな恥ずかしい!!


 「っていうかなんで一人の部屋でそんな強がりみたいなこと言ってるんですぅ!? 友達いないんですか!? 独り言でしか会話できないんですかぁ!?」


 「あーそーだよ! それの何が悪い!? あんたみたいに会話のキャッチボールで暴投デッドボール投げてくるような人間に言われたくねぇよ!!」


 「なんですってぇ!?」


 「んだよ!?」


 「――ちょっと静かにしてくれるかな?」


 「「はいっ!!」」


 声を揃えて返事するあたり、俺たち意外と息合ってんじゃねぇか……って言ってる場合か!!


 「まあ、どっちが悪いかは置いといて――」


 ワリナはナビィの前に手を差し出した。


 「……え?」


 「とりあえず、ナビィちゃんに払った紹介料。返してくれるかな?」


 その一言でナビィは一気に青ざめ、目を泳がせながらモジモジと答えた。


 「あの〜、その〜、えっと〜……さっき割れた虹色卵を買うのに、全部使っちゃってぇ〜……」


 だが、ワリナはその手を下ろすことはなかった。


 「じゃあ、“魔通石”出してくれるかな?」


 「……えっと、それって……なんのために?」


 ナビィはわざとらしく明るく振る舞いながらごまかそうとするが、その声はどこか震えていた。


 「まさか彼氏に連絡するんですかぁ!? えっ、やだぁ〜ワリナ局長ってば意外と……ぐぇっ!?」


 その言葉が終わる前に、ワリナの手が動いたかと思いきやナビィの顔面がアイアンクローで捕まれた。


 「あなたの上司に連絡するのよ――あなたの将来について、ね」


 ワリナの顔には、これっぽっちの笑いもなかった。


 「ま、ままま待ってください局長さぁ〜ん! ちょっと落ち着きましょう! これはあれです! 一種の誤解! 文化の違いとか、そういう、ね? だから許し、許して!! 誰にだって間違いはありますって」


 「……そっか――そうだよねぇ、だから私がナビィちゃんのお顔を間違って潰しちゃっても許してねぇ」


 「ひぃぎぃゃゃ!!! テンション激萎えテンショックですぅ〜!」


 ……眼前の状況に俺はただ“女ってこえー”っとありきたりな感想しか浮かばなかった。

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