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異世界、フリーダムすぎでしょ!?

 「それじゃあ、局の紹介も終わったことだし――アサヒには早速、取材に行ってきてもらおうかな!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが“ピロン”と音を立てて崩れた気がした。


 ついに来てしまった。“働く”という現実が。

 嘘の世界が暴かれる時間が……。


 「えっ、いや、待って? その前にさ。他のスタッフとか、仲間とか紹介してもらってないんだけど……?」


 「え? 他の人なんていないわよ」


 ワリナは満面の笑みでそう言った。


 「……ん?」


 「だから、カナイローカルテレビのメンバーは――今のところ、私と、あられと、アサヒの三人だけ!」


 「……えぇぇぇぇ!?!?!?」


 思わず裏返った叫びがスタジオに響き渡る。


 「ちょっ、ちょっと待って!? え、人員三人で回すの!? ニュースもグルメも特番も!? どうやって!?」


 「ん〜……気合?」


 「き、気合いって……」


 異世界なんだしそこは魔法やら特殊スキルやらでなんとかしてほしかった……。


 呆れて力が抜けていく俺をよそに、ワリナは笑顔のままポンと手を打った。


 「実はね私たちがテレビ局のお仕事始めたのは……ほんの最近なんだ〜」


 「は?」


 「あられと“テレビ局ごっこしたいね〜”って話してたら、いつの間にか本当に始まっちゃって!」


 「それ始めるまでのハードル軽すぎだろ!?」


 俺がツッコむ横で、ふと視界に入った机やイスが目に入る。

 どれもこれもボロボロ。机の脚はガムテで補強され、イスの背もたれは半分取れかけてる。見れば見るほど年季がすごい。


 どう見ても十年以上は使ってそうだ。


 「……でも、備品の古さだけは筋金入りですよね。始めたばかりにしては、色々年季入ってるような……?」


 「あっ、それはね〜、ここ元々“カナイイナーカテレビ”って名前で、何十年か前に作られた会社らしいんだ〜」


 ワリナは、昔話でもするように楽しそうに語る。


 「でも、後継者不足で十数年前に潰れちゃって……。だけど設備とか建物とか残ってたから、村長さんに“ねぇ、テレビ局やらせて〜”ってお願いしたら、『ええよ』って!」


 「“ええよ”で始まるテレビ局って何!?」


 ここ、公共の電波扱ってる場所なんだよな!? セキュリティどうなってんだよ村!!


 ――いや待て、今の流れ、冷静に考えてやばくないか?


 つまり今――

 元・廃局だった場所に、村の承認だけで二人が再起動して、

 そこに素人の俺が投入された。


 組織図、スカスカどころかほぼ白紙じゃねぇか!!


 思わず天を仰いぐ。


 ……異世界、思ってたよりずっとフリーダムだった。


 「でも、アサヒってすごいよねぇ〜、私も自分で依頼しておきながらだけどさアサヒみたいな人材が見つかるとは、ましてうちみたいな小さな田舎のローカル局で働いてくれるなんて思いもしなかったよ」


 ワリナは机の上に置かれていた紙を見ながら嬉々として話している。


 「ちょっと見せてください!」


 俺はその紙を引ったくるように彼女の手から奪い取ると、それを確認する。

 そこに書かれていたのは。


 【急募人材】

田舎町のローカル局の知名度を上げるような超人気番組を作れる手腕を持った人。

 普段のニュースや取材でも十二分以上の力を発揮し、他局と一線を画す魅力を作れる人。

 また魔物の観察、魔界への偵察取材、覇界からの中継も可能な“ある程度戦闘ができる”勇者”のような力を持つ人。


 ――なにひとつ一致してねぇぇぇぇええ!!!


 「いやぁ、番組やニュースが作れるだけじゃなく、戦闘までできるなんて、人は見た目によらないな――そうだ! さっそくだけど、最近隣の隣の町に魔獣・ゲルボロスが出没してるらしいから、ちょいと取材に行ってきてよ」


 ワリナは満面の笑みで言うが、俺はなんとか……本当にやっとの思いで作り笑いを浮かべることしかできない。


 魔獣・ゲルボロスぅ!?

 なんだその名前、ぜってぇ強いじゃん、怖いじゃん、無理じゃん無理じゃん!!


 「どうしたの? あっ、もしかして――」


 ワリナが意味深にこちらを見る。


 俺の身体がピクリと反応する。

 嫌な予感が……来る、来るぞ……!


 「魔獣の暴れっぷりに巻き込まれてカメラが壊れちゃうのが怖いのかい?」


 「……そ、そうそう! そっち! カメラ! ほら、俺なんかが壊しちゃったら、何年タダ働きすればいいかわかんないし!」


 「大丈夫大丈夫〜。私の知り合いに“壊れたものを直す魔法”使える子がいるから、心配ゼーロー!!」


 ワリナは頭の上で両腕で輪っかを作り“ゼーロー”ポーズを決めた。


 俺の逃げ道もゼーローだよ!!!


 「そう言うことで、心配ご無用! 行ってらっしゃ〜い!」


 「――すみませんでしたぁぁああ!!!」


 ……もう限界だった。

 俺はその場に崩れ落ち、地面に額を擦りつける。


 ワンテンポ遅れて頭上からは「え……?」「ちょっ……」という困惑した声が聞こえてきたが、それすら遮るように、俺は叫び続けた。


 「すみませんでしたぁ!! 俺ニュースや番組を作る以前にろくにカメラすら触ったことのない素人なんです!! ――ただ騙す気はなくって、あのナビィとか言う人の勘違いで連れてこられただけなんですって!!!」


 俺の必死の謝罪に対し、帰ってくるのは――静寂。

 ワリナは何も言ってこない。


  ……あれ? 返事が……ない? うわ、逆に怖ぇ……!!


 そんないたたまれない空気を破ったのは、局の扉が開く音と続けて聞こえる元気な声。


 「――見てください見てください! さっきのお礼でもらったお金で、ずっとほしかった伝説の虹色卵買っちゃいました! ぜひ取材して――」

 

 頭を下げているため、顔は見れないが、その声の主がナビィだと理解した。


 「――きゃんっ!?」


 「うおっ!?」


  タイミング最悪。

 一つ文句を言ってやろうとちょうど立ち上がろうとした俺に、ナビィの全力ダッシュがクリーンヒット。

 二人で綺麗に吹っ飛んだ。


 その瞬間だった。

 彼女が大事そうに抱えていた“虹色卵”が、手からふわりと宙に舞い――


 ゆっくりと回転しながら、落ちる、落ちる、落ち――


 ――ぐしゃっ。


 その真下にいたのは、よりによって、ワリナだった。


  恐る恐る顔を上げると――

 そこには、虹色卵の中身で頭をべっちょりに染めた、無言のワリナが立っていた。


 ……その瞳は、笑ってなかった。


 「わ……ワリナさん……?」


 虹色の卵が割れたのに、今この場の空気は……俺の視界と思考は――完全にモノクロだった。

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