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熱暴走雪女

 「ふっふっふ、それじゃあ“とっておき”を見せちゃおっかなぁ〜」


 今度は手を繋ぐこともなく、ワリナはやたらと上機嫌で、まるで自慢のおもちゃを見せる前の少年みたいな顔をして奥の扉へと俺を誘導する。


 ……嫌な予感しかしねぇ。


 「なんだこの部屋?」


 入った先には、よくわからないボタンがやたら大量についた謎の機械群。

 壁の上部にはいくつものモニターが並び、その下のガラス窓の向こうは、真っ暗な部屋が広がっていた。


 「ふふん、ここは“調整室”って言うんだよ!」


 「調整室? 調整って……何を調整すんの?」


 俺の疑問に待ってましたと言わんばかりにワリナがパチンと指を鳴らすと、

 ガラスの向こうの暗闇がふわっと明るく照らされる。


 映し出されたのは――

 テレビでよく見る、例のやつだ。そう、スタジオ。まごうことなきスタジオ!


 「ふふっ、もう分かっちゃったかな? あの向こうの部屋はね、番組の収録ができちゃう“スタジオ”なの! この機械たちは、カメラの調整や照明の制御をするためのものなのよ〜!」


 「おぉ、ちゃんとテレビ局っぽい!!」


 「っていうか、アサヒなら当然これくらい知ってるよね? 説明しちゃってごめ〜ん。わたしったら気を使わせちゃってたかも〜?」


 ――全力のありがたい勘違いが炸裂していた。


 でも、ちょっと待て。この流れはマズい。

 ボロが出るのも時間の問題だ。


 「そういえばアサヒが今まで使ってたスタジオって……」


 「ちょっとスタジオの中、見せてもらっていいかな!?」


 「いいけど……?」


 全力で話題をスライドさせて、俺はスタジオの扉を開けた。

 だがその瞬間――


 「うっひやぁ!?!?!?!?」


 まさかの極寒ブリザードが俺の全身を襲った。


 「さっ、寒ッ!! え、なにこれ!? この部屋、冷凍庫かよ!!」


 「――うるさいですね」


 足元から低めの声が聞こえてきた。


 視線を落とすと、布団から上半身だけをもぞもぞと起こす、

 銀色の髪と透き通るような肌の少女がいた。

 

 まぶたをこすりながら、眠そうにこちらを見るその姿は――

 物語の中から飛び出してきたお姫様かのように思うほど、まごうことなき美少女だった。


 その可憐さは、俺の人生で出会った女性の中では間違いなく一、二を争うほどだ(争っているもう一人は言わずもがなワリナである)


 「ほら立って、あられ。こちら、新人くんだよ」


 ――思わず見惚れていると、いつの間にかワリナがマフラーと耳当てと手袋をフル装備で登場していた。


 もはやツッコミすら間に合わない。


 少女は渋々立ち上がり、大あくびを一つしてから、ぼそりと自己紹介した。


 「あたし、“あられ・こんこ”……よろしく」


 「俺は東 朝日、よろしく」


 彼女はぺこりと一礼する代わりに、ちょこんと一つ頷いた。


 「ちなみにあられちゃんはね、雪女でうちのメインキャスターなの!」


 なるほど、彼女が雪女と言うならその美しさも納得だ。


 「どう、かわいいでしょ?」


 なにそのキラーパス!

 俺みたいな恋愛弱者に投げる質問じゃねーって!


 確かにめっちゃくちゃに可愛いけども! ――なんって答えればいいのか分かんねーよ!

 

 「……えぇ、まぁ……すごくかわいいとは……思います……」


 迷いに迷って出した無難な返答。


 ……これで良かったんだよな……?


 もしも……キモいとか思われたらアサヒくん一生立ち直れないっす……。


 しかし俺の心配とは裏腹にその言葉は彼女にクリティカルヒットしたらしい――。


 彼女は小さく震え出し、耳の先まで真っ赤になった。


 「……かわ……か、かわいいって……!? え、なに? それって……告白……? ……つ、つまひ……こ、こ、こけ、結婚……!?」


 パニックになったあられが、急加速でなんども自爆する。


 「子供はふ、二人……いや、四人……? ってはしたないかな……家族旅行は年に一度は行きたいし……三日に一回はデートして……それで、よ、夜は………………」


 ……頭から、湯気出てるけど!?


 ん、あれっ? なんか……小さくなってない!?

 それ以上にさっきから何言ってんのこの子!?


 「毎年初雪の日は……うふふ……ふふっ……」


 と、溶けてる!?


 あられの身体は徐々にちぢみ、蒸気と一緒に湯気が天井へ。


 「氷結魔法――“アイスフォール”ッ!!」


 ワリナがそう叫ぶとスタジオの床から突如として氷の柱が噴き出し、暴走する雪女を一瞬で凍結包囲しその場にバチィンと白銀の彫刻が完成した。


 スタジオは、一気に静寂へ。


 「全く、暴走しすぎ」


 しばらくして氷の中からかすかに漏れる声。


 「……ごめんね……ありがとワリナちゃん……で、でも“お揃いのマグカップ”、ふたつだけは……備品として買っても……いい?」


 「まだ続けるか!」


 ワリナの怒声が響き渡る。


 それを聞きながら俺はただ立ち尽くして、深くため息をついた。


 スタジオの気温は極寒でも――

 彼女の脳内だけは、ぽかぽかの春満開らしい。


 なんか俺の中でイメージしていた雪女像が一気に崩壊していった気分だ……。

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