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オンボロオフィスにこんにちは

「さぁ、早速局内を案内するわ! こっちよ」


 精神操作魔法によって、依然として自分の意思で身体が動かせない俺の手を、ワリナは自然な笑顔で取ったまま、ずんずん進んでいく。


 やはりこの女性、精神操作能力持ちで間違いないっ!


 抱きしめから解放されたとはいえ、ただ手を繋いでるだけでこのドキドキ。

 鼓動はバクバク、呼吸も荒くて、手汗もえっっぐい。

 しかもこの手、柔らかくて、ちっちゃいのに何故か包み込まれているような感覚がする……。


 ――やばい。俺、死ぬほど緊張してる。


 「まずはどこから見てもらおっかなぁ〜」


 ウキウキした声を出すワリナの横で、俺は心ここにあらず状態に突入していた。

 現実と妄想の境界が溶けかけていたそのとき――


 「あの〜、ところで」


 ナビィの、ちょっと控えめな声が耳に届いた。


 「紹介料の方、いただいてもよろしいでしょうか?」


 「あぁ、そうだった、ごめんごめん、うっかりしてたよ〜」


 俺の手を離し、ワリナはスーツの内ポケットから茶色い布袋を取り出す。

 初めて見る袋だったけど、なんか一目で分かった。これ絶対、お金入ってるやつだ。

 ――異世界マネーだ! こういうちょっとした異世界アイテム、テンション上がる!


 「いーち、にーい、さーん……はい、ちょうどですね。ありがとうございます! またのご利用、お待ちしてまーす! ――それじゃ朝日さん、頑張ってくださいね!」


 ナビィは袋の中身を確認すると、満面の笑みを浮かべ、軽やかに走り去っていった。


 「うわーい!! こんな上手く仕事が行くなんてテンション爆上げテンショックです!!」


 もはや豆粒くらいになった彼女の背中からはそんな大声が聞こえてくる。


 「あっ、ちょっ、待って!!」


 俺の叫びは、異世界の風にかき消された。


 「それじゃあ行こっか!」


 あっという間にナビィの背中が消えていくのを見送る間もなく、ワリナが再び俺の手を取った。


 ぬくもりと柔らかさ、そしてふわっと香る匂いに、またしても頭がショートしそうになる。


 ――まぁ、いっか。なんとかなるだろ……。


 ……なんともならなかったから俺はニートだったんだけどな。


 そんなツッコミが脳内をよぎるが、異世界には魔法があるし、もしかしたら俺も……なんとかなる……だろう。


 ――とりあえず今は、綺麗な女性に手を引かれてるこの瞬間だけを心に刻み込むことにした。


■ ■


 ワリナに導かれ、局内の扉をくぐった俺の目に最初に飛び込んできたのは――


 ……狭っ!!


 どう見てもオフィス――のつもりなんだろうけど、俺ん家のリビングと大差ない広さだった。


 事務机が四つ並んでいて、部屋の端には二人がけのソファが向かい合っている。たぶん応接スペース代わり。あと壁にはカレンダーが貼ってあり、この局のマスコットキャラクターだろうか何をモチーフにしたのかよくわからない生物が描かれている。


 ワリナは俺の手を離し、小さな部屋を大きく見せるように両手を広げた。


 「ここが“カナイローカルテレビ”のメインオフィスね! 企画立案、原稿作成、夜食準備、雑用、お茶くみ――あとはお話ししたり、暇つぶしのゲームまで全部やる部署よ!」


 「いや、後半ただのゆるい部活動じゃん!」


 そうツッコミ再度見回すがやはりどう見ても“部署”とは呼べない、なんというか隅っこに追いやられた学生サークルの作業部屋って感じ。


 「ちなみに、ここがあなたのデスクね!」


 嬉々としてワリナが指差したのは、四つあるうちのひとつ――

 ガタガタの鉄製デスク。その表面は所々サビてて、椅子はお尻の部分が破れて中の綿がポンポン飛び出してた。


 「……俺、世界の希望になるニュースや番組を作るために呼ばれたんだよな……? この机からは絶望しか感じないんだけど……」


 「いや〜、カメラとかに予算使いすぎちゃってさ〜。こういう備品、ちょっと後回しになっちゃったんだよね〜」


 「えぇ……」


 「でも大丈夫! どんなにオフィスがボロくても、ここで作るあなたの番組が、視聴者の心を動かして、世界をキラキラするはずだよ」


 ワリナは本気でそう言っているのか目がキラキラしていた。

 ……でも、それにしても部屋はボロい。


 「ちなみにあそこのソファは仮眠スペースにしていいし――調理用の魔道具はあんまりないからご飯を作りたい時は言って、私の炎魔法使うから!」


 「いや、魔法の使い方が雑ぅ!!」

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