カナイローカルテレビへようこそ!
「ちょっ、ちょい、ナビィさん!? ここってテレビ局って書いてるんだけど?」
「えぇ、サービスでこっちの文字や言葉が分かるようにしておきましたから!」
「いやいやいや、そうじゃなくて――なんか間違ってない? 俺、勇者になるんだよねぇ!? なんでテレビ局に来てんの!?」
叫ぶ、叫ぶ、必死に叫ぶ。
こんなにも叫んだのは、小学五年のプール授業で海パンを脱がされ、女子の前に放置されそうになった時以来だ。
だが、俺の魂の絶叫もナビィには届いていないようで、彼女は頭の上に?マークを浮かべていた。
「勇者って何のことです?」
はぁぁぁ!? 何言ってんのこの人!?
「えぇ? だってさっき“異世界の勇者的なやつ?”って聞いた時そうって言ってたじゃん!」
「えぇ、だから朝日さんにはこちらで働いていただき、世界の希望となるようなニュースや番組を作ってほしいんです!!」
にこっ、と満面の笑み。
続けて「それってなんだか世界を救う勇者様みたいでしょ!」――なんてドヤ顔で言ってのけるナビィを見て、俺は自分の顔が徐々に引きつっていくのが分かった。
いや、てゆーかなんでテレビ局っ!?
異世界の勇者って言ったじゃん! 壮大な冒険の果てに魔王倒すとか、スライムと戯れるとか……それら全て建前に美少女たちとイチャイチャするような……そういうやつでしょ!?
「だって朝日さま言っていましたよね。“俺がプロデュースした方が百万倍おもしれー”って――その持ち前のプロデュース力でこのテレビ局の力になってほしいんです」
その一言に、俺の背中を冷や汗がドッと流れた。
まさか、あんなひとり言の戯言を……!? 聴かれてた!? は、恥ずかしい!!
って、いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない!
「……そ、それは……ってゆーか俺働く気なんて――」
「――なんだなんだ、騒がしいな」
俺の声をかき消すように、不意に背後から届いたのは、どこか気だるげで、それでいて妙に耳に残る、澄んだ声だった。
振り返ると、扉の向こうからスッと現れたのは、長い金髪をたなびかせた、抜群のスタイルの美女。
見た目はほぼ人間そのものだけど、ただの人じゃないって本能が告げてくる。
オーラ? カリスマ? なんかそういうやつ? とにかく……一目で惚れそうになるレベルの美貌と雰囲気を持った女性だった。
天使……いや女神か!?
俺が完全に見惚れて固まっているのも気にせず、彼女はナビィに声をかける。
「お疲れさま、ナビィちゃん――彼が例の?」
「えぇ! 私なりに“ワリナ様”のご要望に合う人材を確保させていただきました!」
ナビィの言葉に、“ワリナ”と呼ばれた彼女は、まるで番組冒頭のMCのようなキラキラ笑顔で、両手を大きく広げた。
「カナイローカルテレビへようこそ! 私はここの局長、“ワリナ・タッカー”。よろしくね!」
「……東 朝日です……」
名前を名乗ると、ワリナは本当に嬉しそうに目を輝かせた。
その姿に、ちょっとだけ胸が痛む。こんなキラキラした人に、期待されてるって思うと……なんだか申し訳ない。
だからこそ、俺は意を決して言う。
「えっと……言いにくいんすけど……俺ここで働くとは……」
「――嬉しいよ!! 一緒に頑張ろうねアサヒ!」
――ぎゅむっ!
突然、ワリナが俺に抱きついてきた。
柔らかくて、あったかくて、すべての思考を一瞬で吹き飛ばす。
「な、なっ……!?」
鼓動が跳ねる。心臓がブレイクダンスを始める。
いい匂いがする。そして俺の胸に当たってる……温かくて特大の肉まんのような柔らかい何かが当たってる。
――ヤバい。
……やっぱ異世界、最高かも。
「――よろしくお願いします!!」
気づけば口が勝手に喋っていた。
理性? そんなもんどっかに吹き飛んだ。
なるほどさすがは異世界……。
これが魔法か……精神操作系の強力なやつに違いない。
それだったら仕方ない、うん、仕方ない。
誰に聴かれるわけもない言い訳を頭の中で浮かべながらとりあえず俺は至高の感覚を堪能することにした。




