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もしかしなくても、間違いなくブラック

 「うっえぇぇん!! お仕事、クビになっちゃいましたぁ!! なんでぇ!? テンションめちゃ萎えテンショックですぅ〜!!」


 こちらの世界でいう携帯電話のようなものだろう、“魔晶通話玉”での通話が終わった直後。

 ナビィは地べたに座り込み、盛大に泣き始めた。


 鼻をすすりながら、目元をごしごし――いや、“こする”を通り越して“擦り倒して”いた。


 俺はその様子を遠巻きに見ながら、静かに一言。


 「……うん、それはまあ、なるよね」


 ろくに素性も調べずに適当に職業を斡旋し、その責任をすべて他人に押しつける。

 しかも、聞いた話ではナビィが虹色卵とやらを買ったお金は、本来会社に提出しなければいけないものだったらしい。

 完全に自業自得だけど、ここまで分かりやすく撃沈されると、もう何も言えない。


 「うぇーん! なにもクビにすることないじゃないですかぁ〜! この前だって、“俺なら世界救える”って言ってたニートを勇者にして、“純粋(こども)なまま三十歳になっちゃった”って言ってたおじさんを魔法使いとしてギルドに紹介するという活躍をしたのにぃ!」


 ……ああ、こういう奴がいるから異世界に転生したり転移するのはニートとかおっさんみたいに冴えない人ばっかなんだろうな。


 「これじゃあ、妹ちゃんからの尊敬度も下がっちゃいますぅ〜」


 ……安心しろ、きっと絶対にその妹とやらもはなからお前のことなんて尊敬してないから。


 泣き叫ぶナビィを冷めた目で見続けていたそのとき。

 ふいに、ワリナが彼女に優しく声をかけた。


 「ねぇナビィちゃん。もしよかったら――ここで、働いてみない?」


 ナビィは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。


 「え……?」


 「紹介業務はちょっと向いてなかったかもしれないけど、あなたの“人を笑顔にしようとする力”はきっと本物だと思うの。うちの局、今ちょうど人手不足だし。そういう前向きな気持ちって、すごく大事なのよ?」


 ワリナはにっこりと微笑んだ。


 「お仕事の内容はね――企画、取材、構成、撮影、編集、出演、ナレーション、お茶くみ、深夜見張り当番……あと、たまにあられちゃんの氷像運搬。まあ、ちょっとだけ忙しいけど!」


 「すごいです……! いろんな経験ができる職場なんですね!!」


 ナビィは再び目に涙を浮かべ、キラキラとワリナを見つめた。


 「私、ここで生まれ変わった気で……がんばりますっ!! テンション頑張りテンショックですぅ!」


 ……おいおい。


 俺はそのやり取りを静かに見ながら、心の中でそっと思った。


 ――生まれ変わるっていうか、それ、本当に死ぬ可能性あるだろ。


 「それじゃ、まあとりあえず仮採用ね」


 「うん、うん……ありがとうございますぅ……!!」


 にっこりと頭を下げるナビィに、ワリナはさらっと続けた。


 「――まあ、返してもらう紹介料の件もあるし。少なくとも半年間はタダ働きかな」


 ――っ!?


 その一言を俺は聞き逃さなかった。

 驚いて視線を送ると、ワリナはふとこちらを振り返った。


 「――で、アサヒ?」


 「ひっ」


 「あなたの扱いも、そろそろ決めなきゃね?」


 静かな声。けどそれはもう、“命の審判”のトーンだった。


 え……俺のターンに続くの!?


 「どうやらこっちの勘違いだったけど……この際、素人でもいいから人手が欲しいんだよねー」


 「いやぁ、できたらこのまま帰らせてもらおうかなぁ……なんて」


 「……そっか」


 ワリナは悪そうな顔をした。

 そして――


 「それならそれで私はいいんだ〜。ニュースのネタができるし。“自身の身分を偽装してテレビ局に侵入しようとした輩を局長自ら確保”って――結構話題になりそうじゃない?」


 「ちょっと待って!! 俺はただの巻き込まれ被害者であって、騙す気なんて微塵もなかったですから!?」


 「ふっふっふ。真実なんて、たった数枚のニュース原稿と、可愛いキャスターのひと言でいくらでも変えられるのよ?」


 ワリナは悪く笑う。


 「それテレビ局の人が一番言っちゃいけないやつぅ!!」


 「真実なんてどうでもいいの! 大事なのは、視聴者が“面白い”と思うかどうかよ!!」


 正論のようで、ぜんっぜん正しくないことをワリナは堂々と言い放った。


 思いっきしフェイクニュースじゃねーか!!


 ……違う! 絶対に違う!! 根本的に間違ってるぅ!! 元の世界なら完全アウトだぞこんなの! ……あっ!


 「そうだ! 俺、元の世界に帰ればいいだけじゃん!!」


 そうすれば、こっちの地獄も全部リセット――


 「あ、それはできませんよぉ?」


 ナビィの声が被ってきた。


 「え? どういう意味だよ?」


 「異世界間のテレポートって、色々と制限があるんです〜。アサヒのいたとこでしたら一人につき、半年に一回くらいしか許可が降りないんですよ」


 「はあああ!? そんな重要なこと、なんで今言う!?」


 「だって聞かれなかったですし……」


 ナビィはまったく悪びれず、涼しい顔で言い放った。


 そんな俺たちのやり取りをポカンと見ていたワリナは、ふと笑顔を向ける。


 「で? どうする?」


 あらやだ……素敵な笑顔だこと。


 ……どうする、俺。


 ここで断ったら“身分偽装の容疑者”としてニュースになり、

 受け入れたら“死なない程度に多忙な日々”が待っている。


 ……どっちにしろ、地獄しかないじゃん。


 「どうしたの? 一緒に働いてくれないの?」


 ワリナの声は優しく、けれど背中に氷柱を感じるほどの圧を含んでいた。


 俺は言った。


 「ヨロシクオネガイシマス……タノシク、トモニハタラキマショウ」


 ――こうして、俺の優雅で苦のないニート人生にピリオドが打たれたのだった。


 「わーい、ありがとう!! 笑顔の絶えない職場にしようねぇ!」


 ワリナは満面の笑顔で抱きついてくる。

 再び訪れる、温かく柔らかな感触――


 精神操作能力、マジであなどれない。


 ――働くのも、いいかもなぁ……。


 一瞬でそんな甘い錯覚に包まれかけたそのとき。

 ワリナが耳元でそっと囁いた。


 「アサヒも当面は試用期間ってことで、タダ働きだけど……いいよね?」


 その一言に、いろんな意味でゾクッとさせられた。

 そんな俺たちを見て、ナビィがドヤ顔でひと言。


 「ふふん。これから私たちは同僚兼ライバルですね! ともに面白い番組を作りましょう、アサヒ!!」


 差し出された右手。

 その自信がありふれる、やってやるぞ感満開の顔を見て……俺は強く、本当に強く心に誓った。


 ――この女、いつかシバく。

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