泰午―16
結局、やったのは他の奴らだ。なんで同じ組織にいるのにニュースで後から知ることになるんだ?
やってらんね……
実際にやったのはどいつらなんだ。少なくとも一人はわかったんだが……俺より後に入ってきた奴で、フリーターらしい。他のヤツらにも言えることだが、顔付きがのほほんとしてない。愛想笑いくらいはするが、少なくとも俺らと一緒にいる時は一度もマジで笑ったことが無い。他のヤツらから見たら、俺もそう見えてるのかもな。
どうだったのか様子を教えてもらおうとおもったら、一応仲間なのに冷たい態度をとりやがった。なんだあの感じ悪いのは。
おかげで、一人で現場見に来ることになっちまった。
さすがにまだポリが張り付いてるみたいだな。社員の出入りがあるから、入り口は黄色いテープで塞いでたりとかはないな。でも中には入れるわけねえか。
はあ……
しかしこのまま帰るのも嫌だな。せっかくここまで来たのに。
在がいる。あの女もだ。やけに団体で来たな。なんで在がこんなところに。あの女に連れてこられたのか?
俺に気付いた。え? 俺もいいの? サンキュー、在。うわ、中にもサツが立ってる。こりゃ、普段のノリで軽く喋ったりできんな。でもなんで在が? さすがというか……タイムカード? なんだ、バイトってここでやってたのか。だからこの女も一緒なのか。ふうん……
この会社は何をやってる会社なんだ? 俺達に狙われたからには、言語業界の会社なのは間違いないが。
ちょっと見ない間に在も変わったな。なんか、あの女との間の空気が変だ。妙な一体感のようなものを感じる。まさかな。
誰だっけ、隣りのクラスの女にちょっかいかけるのは止めたのかな、在は。自殺しようとして失敗したとかいう女。在はせっかくの能力を無駄にしている。他人のことを気にかけてるヒマがあったら、自分のためだけのことをしろよ。もっとワガママを言え。
思ったより数が少ない。社員はそれなりにいる感じだが、バイトらしき影があまりないな。そりゃ、サツがまだ出入りしてるくらいだから、バイトは一時休みにさせてんのかもな。で、現場は屋上? 実際に屋上に行けんのか? いくらこの女が会社の人間とはいえ……この団体さんのおかげなのか。
すっきりした屋上だな。爆発であったものが吹っ飛ばされたのか? 黒く煤けてる。たぶんあそこ辺りで爆発したんだな。この屋上、手すりとかないんだ。なんか……油じみた臭いがする。
はあ……マジつまんね。こんな、終わった後に来たって意味ないじゃん。なにやってんだ、俺は。在は熱心だな。あの女と一緒に、まだ爆発のあったあたりを見てる。もういいや、俺は。
そういえば……ここは図書館とか政府関係の書庫とかそんなんじゃないな。出版社でもない。帰ってから聞くかな。具体的に何があるんだ? ここには。たしか、下にバイトが一人二人残ってたな。話し聞いてくか。ちょっとスパイみたいだな。
――ほんとにバイトか? バイトに関係無さそうな絵を書いてる。趣味なのか。そこらの使ってないあり合わせの紙じゃなくて、ちゃんとしたでかいスケッチブックを広げてんじゃん。美大生? 思いつくままに断片的な絵を描き散らしてる感じだ。全部同じ人間……ってこれ、俺より後に焚書テロの組織に入ってきたあいつじゃねえか。やばいじゃん、これ。コイツが今回の焚書に加わってたってことじゃん。姿見られてるじゃん。どうすんだこれ。
しかし、あらゆる角度から色んなポーズで描かれてあるな。そんなにジロジロ見られていたのか? いやそうじゃないだろ。あいつが犯人だと後から気付いて、おそらくチラ見したあいつの姿を記憶から描き起こしてるんだ。でも、こんなもんサツに見られたら一発であいつが犯人だってバレるぞ。
どうする。
「在が呼んでるよ。ちょっと来てくれる?」
とりあえず連れ出して、それからどうする?
「どうしたもんかな。――なあ?」
あちこちに警官いるのに、これはマジでやばい。
なに? 妙な手の動きをする。テンパってんのか? また紙に描こうとする。
「……在って、どう? どう思う?」
在の絵か。すげえ。こんな簡単に描けるもんなんだな。目の前にいない人間を。饒舌に喋るようにすらすらと描く。
「さっき描いてた男は誰? あ、想像でいい」
……バイト? わざわざバイトとして入り込んで下調べしてたのか? でも普通、下調べは別働隊のはず。あいつが実行部隊の人間じゃなかったにしても、実行時にまでその場にいるなんてことはないはずだろ。いや、実行時にあいつが関わってなかったなら、なんでこの女はあいつに注目してるんだ? ああわかんね。頭が混乱してきた。
まだ描くのか。別の男だな。おっさん? 髪が薄い。外見に気をつかってない感じ。腹が出てる。スーツの上着を手に持っている。デカ?
「あいつがこのおっさんと顔見知り? ぽかった? マジ? え? このおっさん、警察?」
マジで?
在らだ。降りてくる。ああくそ、どうしたらいいかわかんね。とりあえず、コイツの絵は在とかサツには見せらんねえs。このまま連れ出すしかない。くそ、嫌がるなウゼー。どやって仲間のトコまでひっぱってくんだよ、こんなの。車持ってる人を呼び出すしかない。
やっと大人しくなってくれたか。でなきゃメールも打てない。
……10分もすれば来てくれるか。車はいいな。早く免許取りてえ。
また絵を描いてる。
「強引に連れ出して悪かったよ。でも、あんな死人が出てもおかしくないようなことなんておかしいだろ。な? ほっとけないだろ。だから詳しく話しを……」
ああ……さっきのは手話か。喋れないのか。でも関係ないな。この絵で十分だ。
来た。後は組織に任せよう。この女をどうしようが、俺の知ったこっちゃない。
「見てくれ。コレってあいつだろ。蘇京やる時に見られてる。現場にゃまだサツいるし、バレたらやばいと思って――俺も乗るの?」
なんで俺まで。なんか久しぶりに在に会った感じだったのに。しゃあねえか。
ほら、乗れって。そっち詰めろ。
「いたっ! 殴んなくても」
確かに、勝手に拉致ったのは先走りすぎだったかもしんないけど、殴るこたねえだろ。
女はさすがに怯えてるか。恐怖を我慢してる顔だ。男二人の間に挟まれて、これからどこへ連れて行かれるか、何をされるかも分からず、自分は女の子――ときたら、びびんない方がどうかしてる。スケッチブックでも見させてもらうか。
「ちょっと見るだけ。すぐ返すから」
……これは在だな。あの女の絵もある。よく特徴を捉えている。
「な、試しに俺の絵も描いてみてくれね?」
デッサンみたいに俺の顔を見ながら描くのかと思ったら、最初ちらちら見ただけで、後は見ずに描いてる。多少悪意を込めて描いてる。目つきとかツノ付いてたりとか。でも、嫌な気はしない。




